遊戯王のユウヤになりました   作:サルガシラン

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壁|_-)<よし誰も見てねーな……。
壁|_-)ノシ<ポイ     |さらにもう一話|
壁|ミ
壁|<フッ完璧な秘密のパーティだ……。


JOINさんの迷言MADと思わぬ高評価に味を占めて再投稿。

またも遊戯王パワーワードの乱用と
特にバックボーンが語られないキャラ=捏造し放題!

というリスペクトを忘れた精神で書きましたので、そういうのは嫌だなと言う方には不快な思いさせますのでお戻りください。

まぁいいよと言う方は、気づいたら前の話の二倍の長さになってた今回をご覧ください。




それは未来の貴方自身なのですと幻が言った。

 

 

はるか彼方の宇宙の世界、ネオスペース。

極彩色の空の下にあるリゾートを彷彿とさせる海岸が静かに波打つ。

ネオスぺーシアンやコクーンたちが一人の高校生くらいの少年と超バカンスをしている。

 

しかし、それは十代ではなく俺こと築根ユウヤであった。

 

キモイルカさんことアクア・ドルフィンとデュエルマッスルを駆使したクロールによる水泳勝負をしたり、鬼畜モグラことグラン・モールが掘り出した土を使って、コクーンたちと一緒に超大作のプラシド究極体像を築いた。

 

気のいいグロー・モスを的にしてフレア・スカラベからネオスチョップを教わったりもする。

モスに打ち出し、直線上にあったはるか先のプラシドを真っ二つにした所でお墨付きをもらった。

モスさんはティンクル・モスに分裂しながら、そろっておめでとうと喜んでくれた。

彼が付き合ってくれたおかげである。初対面より好印象だ。

 

切れ味に小踊りしているとブラック・パンサーが俺の服の裾を噛んで引いてきた。

どうしたのかと聞くとこう提案してきた

 

―――自分の能力なら君をヒーローに変えてやれるぞ。

 

二つ返事でやってくれと言うと、パンサーが溶けるように変化して俺の身体を包んだ。

頭ごと黒く覆ってきたので、どう変身するのかは終わってからのお楽しみだ。

ブラック・ネオスかな?

 

「見つけたぞ!」

 

視界が塞がれたまま誰かが声をかけてきた。顔は見えないがその声はとても上機嫌である。

変身が完了したのか顔にまとわりつく黒い液体のようなものが取れたので、自分の姿を確認するより先に声の主を見た。

 

 

そこには魔界の警邏課デスポリスのコスプレをする、立派に成長したアンナがいた。

しかも、フライングランチャーに搭乗している。

 

 

「お前を逮捕しに来た!大人しくオレに捕まれ!」

 

アンナは張り出す胸元から取り出した「たいほじょー」と書かれた紙をこちらに突き付けた。

何故か二人分の名前明記欄と印鑑を押す場所があるように見えるのだが逮捕状らしい。

バカな!こいつは遊馬先生専任捜査官のはずだ!

 

「待てアンナ!相手を間違えてないか!?」

「どんな格好してたってお前を見間違えるもんか!」

 

彼女はどこからか出した姿見を砂浜に突き立てて俺に向ける。

 

 

鏡にはエビ頭かつ古き良きヒーローのような赤い装甲の付けた白タイツ姿の俺が映っていた。

まんまゼアルである。

 

 

MATTE!?

コンタクト融合だと思ってたら、俺自身とブラック・パンサーをオーバーレイしていたらしい。

どうみてもゼアルなのに、顔はしっかり自分の物であるあたりヒーロー物に出てくる微妙なニセモノ敵キャラ感が拭えない。名前はきっとゼアルウラだな。

確かにヒーローっぽい格好だけども!HEROじゃなくてもロビンとかあっただろう!?

 

というか俺はレベル三だったのか。

多分、決闘者レベルだな。馬の骨の俺ではバトルシティには出られないのか……!

いや、エクシーズだからレベルが無い。レベルが無いからレベルゼロということではないが、計算されないならレベルゼロも同然。結局出れない!

 

「観念しろ!オレがお前を人生のセメタリーに送ってやるぜ!」

「ヒーローになったばかりなのに、まだ栄光のターンエンドには早いって!」

 

腰の手錠を構えて大人の面差しを持つアンナの口角があがる。こいつスマイル決めてやがる!

そのシルバーだけは腕に巻きたくない、とゼアルの体と元からの筋力すべてでもって砂浜を走り抜けるアクロスザユニバース。

当然、アンナはランチャーをぶっ放しながら追いかけてくるので爆撃と爆風と砂を背中で感じる。

 

「オレから逃げるなー!」

「バズーカ撃つようなのに捕まるのはゴメンだよー!」

 

なにか状況を打開する方法はないのか。誰でもいい救援を……助けてくれ遊星ー!

アンナが現れたあたりからいつの間にか誰もいなくなっていた海岸に悲鳴と爆音だけが響く。

キングならば追われるってのは気分がいいと軽口を叩いただろうか。俺には自分が逃げているとしか実感できない。

ドン☆ドン☆と鳴る音に振り返らず命を懸けた決闘疾走でフィールを高めていると、突然に海面から水飛沫が上がった。

 

水族館のイルカショーを思わせるハイジャンプで、ボディビルダーのようなポーズをとったマリン・ドルフィンがドヤ顔で現れた。

 

そのマリン・ドルフィンが、これがラッキーカードだとばかりにカードを投げつけ来た。

受け取ったこのカードなら世界がガラリと変わるかもしれない……!

 

「見せてあげるよ!ヒーローにはヒーローに相応しい逃げ回る舞台ってもんがあるんだ!」

 

ヒーローを気取るにはあまりに情けないセリフと共に、俺は左腕に展開済みなせいで走り辛くて仕方なかった決闘盤を使ってフィールド魔法を発動する。

 

「【摩天楼-スカイスクレイパー-】、発動!」

「あ、待て、うわ!」

 

砂浜から突如せり上がる建物がアンナの進路を妨害し、互いを視認できないようにビルの森が生い茂る。

発動した俺は、最も高いビルの頂点にある避雷針に立ちすべてを見下ろした。

完全に撒けたな勝ったと確信した俺は、オーロラで満たされた状態から一転して満月が昇る夜空に変わった空を背に腕を組んだ。

気分はさながらフレイム・ウィングマンである。

ビルの上に隠れたのよ!

 

それがフラグだったのか猛烈な突風が横から俺を襲い、避雷針から足を踏み外す。

 

「ちょ、ほっせっ、フン!」

 

慌てて体勢を立て直そうととしたものだから、逆立ちの状態でビルの避雷針にしがみつくみっともないゼアルという世にも奇妙な絵面が完成した。

高度が高すぎるせいか風が呼吸すら難しいほど吹き付けるので動くことも出来ない。

これはでは閉じ込められたも同然!くっ罠か……。使ったのはフィールド魔法なのに。

 

「あ、エア・ハミングバード!避雷針から降ろすだけでいいから手伝って!」

 

ビルより高く飛んでいたハミングバードを見つけ救いを求めた。

しかし、赤い人型の鳥は悲しそうな顔で首を横に振った。

 

―――すまない。私たちは専用構築デッキの中でしか決闘者を助けられないのだ……。

 

そんなこと無いって!十代だってHEROとコンタクト融合にハネクリボー専用カードぶち込んだとがり切ってる構築して勝ってきたじゃないか!

君の回復効果は意外に使えるから、と力説する救援要請も聞かずにハミングバードは悲壮感を抱えながら夜空に消えていった。

そんなものより俺を抱えて飛んでくれよ、おのれキモチュッチュぅ!

このままじゃ俺が地面とチュッチュしてしまう。キモいどころかグロくなるのは明白だ。

 

「いたぜ!ちょっと離れたくらいでオレから逃げられると思うなよ!」

 

地上からアンナの声が、どうしてか暴風吹き荒ぶはるか上空の俺まで届く。

もう見つかったかと首を上げて地上を見やれば、そこにはビルの間の道路を走るグスタフ・マックス。その砲身の先に仁王立ちするアンナ。

彼女はジャンプして宙を一回転。長い砲口の中へ身を投じた。

なにをする気なのか察した俺は、急いでその場を離脱するために避雷針を蹴飛ばして強風に乗る。

風を掴め!来いデータストーム!

瞬間、風がピタリと止んだ。やはり罠か……。

 

「発射オーライ!」

 

大砲からフライングランチャーを伴って発射されるいつもの服装に戻ったアンナが、一直線に俺を目指す。

願いは虚しく照準をずらすための足掻きは無意味に終わり、砲弾の速度で迫るフィールを纏った爆撃が俺に直撃しゼアルが解けた。

宙に俺と目を回すブラック・パンサーが投げ出される。

 

そして、アンナの力強い抱擁が俺の腹を捕らえた。

 

「これでお前はずっとオレのモンだ!」

 

赤みの差した喜色満面の笑みで勝利宣言をして俺の手に手錠を嵌める。

 

大きな胸をさらに張るアンナと項垂れて猫背になる俺の間を煙が横切った。

二人揃って顔を見合わせてから見下ろせば、電閃が走りプスプスと空気が抜けるような音で煙を出すマシン。

フライングランチャーが程なくして爆発、俺たちは吹き飛ばされて落下した。

アンナにしがみ付かれながら落ちていく俺を、低いビルに飛び移っていたブラック・パンサーが汗を垂らし口をあんぐりと開けながら見送った。

 

「まだ年末じゃないって!」

 

俺の渇いた叫びを最後に世界は闇に覆われ……。

 

 

 

―――ベットから落ちて背中を床に打ち付けた。

 

 

 

何が起きたのか把握できていない頭に、外からのセミの声とすこし遅れて鳴りだした時の魔術師型目覚まし時計が朝だと告げる。

 

落ちた衝撃で、ベットに付いた台からカードと紙が顔にひらひらと弧を描きながら降ってきた。

それらを顔からはがして寝ぼけ眼のまま確認する。

夏休み直前に小学校でやった防犯講習。そこで渡された警官の男女が描かれたプリントと、店のストレージゾーンから発掘した『N・ブラック・パンサー』だった。

……結局お前も落ちたのね。

 

徐々に錆が落ちていく身体を起こし、床に落ちていた夏休みの課題である「夏らしさのある絵」をまたいで、やかましい時の魔術師をラス・オブ・ネオスで止めた。

 

 

……チョップなんて、夢じゃないとこんなものだよね。

夢の内容なんて現実になるはずがないのだ。

 

だから安心だ。うん。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「ユウヤ行くぞ!」

「俺は無実だ!」

「なに言ってんだ?」

「あ、ごめん。変な夢みてさ……どうしたのこんな朝っぱらから」

 

意味不明な夢から覚めて、朝食の母謹製大いなるカニカマの味噌汁をすすっているとチャイムを連打してアンナがやってきた。

夢を思い出して自己弁護をしてしまったが、玄関前に立つ彼女は現実のアンナなので見た目は小学生で、服装は普段よくみる白とマゼンダ柄のワンピースタイプのスポーツウェアにスパッツだ。捕まるなどアリえない。

 

「は?ちゃんと約束しただろ!忘れたのかよ!?」

「約束……?」

「姉ちゃんの大会を応援に行く話!!」

「……ああ、なるほど」

 

 

 

話は二週間前の休み時間までさかのぼる。

 

 

「【手札抹殺】を発動!」

「お、ありがとう。捨てられた【暗黒界】モンスターたちの効果発動!」

「あ、【暗黒界】のカードを、捨ててしまったー!」

 

俺はいつもの如く決闘をし、初めての対戦相手にドジリスしていた。

くそう、手札抹殺をトレードしてくれたから、なんだこの人っていい奴じゃんと決闘に応じたのが行けなかったのか。羽賀みたいなことしやがって!

すったもんだの末、【邪悪なるバリア-ダーク・フォース-】に【皆既日蝕の書】をチェーンしハノイの崇高なる力風味コンボを成立させて、右端に置いた【魅幽鳥】の二回攻撃で勝った。

決闘者は姑息な手を使うような相手と負けてはならない勝負では正面切って勝利を掴むもの!

 

「ガッチャ!楽しいデュエッ……」

「ユウヤ!頼みがある!」

 

ガッチャして決めたかったのをアンナが遮って相談してきた。

なんでも親戚のお姉さんがデュエルモンスターズの高校生大会で全国トーナメントまで進み、その大会が今年は遊園地であるハートランド内の会場で行われるそうだ。

そのお姉さんというのが遠くに住んでる憧れの人らしく応援に行きたいが、デュエルモンスターズのことはわからないから一緒に見ながら解説して欲しいとのこと。

 

「いいよ。全国大会レベルの決闘とか興味あるし」

「ホントか?やったやったやった!」

 

特に予定もなかったので了承したら、彼女が飛び跳ねて喜んでいたのをしっかり憶えている。

 

 

 

「思い出したな!さっさと着替えろよ!」

「ところで行くってどこに?」

「姉ちゃんとの待ち合わせ場所!もうすぐ時間だから早く!」

「アンナ、念のため聞くけど……」

「急げ!姉ちゃん試合にも出るんだから遅刻させられないんだぞ!もうここで脱げ!オレが着替えさせてやる!」

 

こちらに問わせることも許さず、その場で足踏みして焦るアンナが俺のパジャマを掴んで脱がせようとかかってくる。

今の掛け合いだけでも、また暴走状態だと十分理解できた。

 

「わかったわかった待って待って!すぐ着替えてくるから家に入って待ってて。暑いし」

 

いつも通り説得を聞かないと諦めた俺は、服の裾からアンナの手を剥がして玄関内に招きいれた。

この状態のアンナをかっとビングでなんとかしようと考えるのは、ある意味でベクターを改心させるよりも手を焼くだろう。

 

「あらアンナちゃん。こんにちはー」

「お邪魔しまーす!急げよユウヤ!」

 

遊馬先生や小鳥女医たちと一緒に遊びに来たこともあるので、すでに母と顔見知りだ。

急かす声に溜息を一つ。

 

「へぇーデートかよー。遅刻は言語道断よユウヤー?」

「ううん。違うって」

「そういう時はちょっと照れながら否定しなよー。面白味零ねー」

 

ちょっかいを掛けてくる母を軽く流して部屋へ走った。

 

パジャマを放り投げて服を選ぶ視界の端で、開けている窓からの風によってカード手裏剣練習用の的とカレンダーが揺れていた。

その一角に「決闘大会応援・アンナ」と書かれている。

 

ただし、明後日からの日付で。

 

ちゃんと解説できるよう開示されている情報だけでもと大会について事前に調べて置いたのだ。

開催日も情報見ながら記したのだから俺が間違えている訳ではない。

 

 

 

はえーよアンナ……。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「アッハハハハハ!」

「わ、笑わないでくれよ海美姉ちゃん!」

 

待ち合わせ場所の駅前広場。

キャリーバッグと俺の脳が情報を受け付けない物体を横に置く、水色髪の美人が大笑いしている。

それに恥ずかしそうに抗議する赤面したアンナを、よれよれの俺は一歩引いて眺めている。

 

 

神月海美。

アニメでは「羽原海美」の名前で登場するアンナの決闘の師匠で、夫と組んだタッグ決闘では無類の強さを誇った新婚プロ決闘者。

俺が知っているのは結婚後の名前だけだったので、親戚の高校生のお姉さんというだけではこの人を思い出せなかった。というか、旦那とイチャついてる印象しかない。

確かにアンナと見比べれば、髪形や顔の作りが似てるように見えてくる。

いやそうでもないか?親戚じゃそんなに似てる訳ないし。

 

「だって、アンナちゃんが相変わらずで……あーおかしくっておなか痛いー……ウッフフフ」

 

ゆったりとした白地に海を連想する模様のシャツとジーンズを長い足で着こなす女性が、腹を抱えているのはアンナのせいである。

 

海美さんはそもそも数日続く大会に参加するため、明日から一緒に参加する同じ学校の生徒たちとハートランド内のホテルに泊まる予定だったのだ。

明日の夜には大会運営主催の前夜祭に参加するので、朝早くから仲間たちと合流して、ハートランドのアトラクションを楽しむつもりだそうだ。

 

今日の夜にも個人的な用でハートランドシティに住むある人に会うらしく、どうせならと仲のいいアンナとも遊ぶため、一人で朝から先乗りして一晩だけアンナの家に泊めさせてもらうとのこと。

日程の慌ただしさとアグレッシブさはどっかの誰かさんに通じるものがある。

 

で、アンナが勘違いした理由は、海美さんが来る日=大会の日だと思いこんでいたからだ。

海美さんからしてみれば、見知らぬ少年をなかば引きずるように必死の形相で走ってきたアンナが息を切らすのをみて、その慌てぶりの真相がいつもの盛大な勘違いなのだから、そりゃ笑うさ。

それはそれとして。

 

「アンナ」

「うぅ……!いやぁ悪ぃ悪ぃ」

 

冷や汗を垂らしながら頭を掻いて斜を向くアンナのこめかみを掴み、こちらの方に顔を固定させジト目で睨む。俺が言いたいことはわかるな。

 

「……」

「あははは……」

 

笑って誤魔化そうとしているが無視して鉄の意思をもって無言の凝視を続行する。

最近になって下手な説教よりこういう訴え方の方が効き目があると気づいた。

 

「………………」

「……ごめんなさい」

「何について謝ってる?」

「間違えてユウヤを怒鳴って引きずったこと……」

 

許してくださいってか、許してやるよお!

なんて言うと思ったか、お前の反省はまだまだだ!

 

「もうしない為にはどうすればいいと思う?」

「……まず間違えてないか落ち着いて確認する?」

「うん、だったらいいよ」

 

いままで何度も言ってきたことを覚えていてくれた……!

素直に謝れる子はとても立派だよ。その子供らしいクリアーで純粋なマインドを忘れないでくれ。

 

「仲良しなのね」

「どうも初めまして。築根ユウヤと申します」

「ご丁寧にどうも。神月海美よ」

 

柔らかな笑顔で丁寧に挨拶を返してくれる様は、まさしく優しいお姉さん。

落ち着いた雰囲気と洒落っ気のある美人というのは、子供からすればかなり大人に見えるものだ。

キレイな人だなぁ。アンナにとって憧れの女性というのも頷ける。

 

「君の話はアンナちゃんからよーく聞いてるわ。……大変でしょう?」

「ええ。でも最近になって慣れてきました」

「どういう意味だ!」

 

そのままの意味だよ。

アンナの暴走癖を理解しているようで俺の苦労を察してくれている。

いい人だなぁ。アンナにとって憧れの女性というのも頷ける。

だからアンナ。ちょっとでもああなりたいと思って近づこうとしてくれ。頼むから。

 

「でも今日はどうして君が?」

「あ!そ、それは……!」

「一緒に海美さんの試合を見る予定なんです。アンナが決闘のことわからないから、横で解説してくれと頼まれてるんですけど……。今日来たのは言った通りアンナの勘違いでして」

 

唐突に焦りだしたアンナに反応できず、割り込むタイミングで俺は説明してしまった。

なにか話すと都合の悪いことでもあるのだろうか。

 

「え、解説?でもアンナちゃん……」

「と、ところでさ!」

 

怪訝な顔の俺と海美さんの意識をそらすように、大声を飛ばして海美さんの荷物を指差すアンナ。

待ってくれアンナ!それの話題を振ろうとするな、それは今俺にとって最大の万能地雷だ!

 

「海美姉ちゃん、やっぱりこれに乗って来たんだな!」

 

直視を拒否したかった眼に機械の姿をした悪夢が映る。

 

海美さんの身の丈ほどの長さに、大砲のようなフォルム。

砲口付近に照準器にも見える取っ手があり、中央には座席らしき窪みと展開するのだろうタービンのような物が折りたたまれている。

 

 

 

どうみても、フライングランチャーだった。

 

 

 

いや、しかしカラーリングは海美さんの髪のような青と水色だ。

まだ飛行が可能なキャノン砲を模してるだけの乗り物だと言い張れるかもしれない。そうじゃなかったとしても、これは未来の決闘盤?と無理矢理押し切ってうやむやにする!

飛行する決闘盤もある時代だそれにフライングデュエルには遊星とZ-ONEという先駆者もいるのだあっても許される許されるだろぉー許されると言ってくれ。

集いし俺の願いの結晶で新たな認識を呼び起こすんだ!

 

「海美姉ちゃんのフライングランチャーはやっぱりカッコイイなー!」

「…………フフ。本当にアンナちゃんはフライングランチャーが好きね」

「だってだってフライングランチャーだぜ!飛べるしバズーカだって撃てるなんてスゲーぜーフライングランチャー!」

 

やはり願いは虚しい。

俺の願いでは光差す未知の見解は成せなかった!

フライングランチャーとはどういうことですか。フライングランチャーということです!

何度も連呼して俺の希望をバーサーカーソウルで砕かないでくれ。もうやめて俺のホープポイントはもうゼロよ。

俺は夏休みになっても手膝をついて打ちひしがれることになるのか……!

 

「ユ、ユウヤくん?突然どうしたの大丈夫!?」

「姉ちゃん大丈夫だよ。こいつ時々こうなるけど、ほっとけばすぐ元に戻るもん」

「そ、そうなの…………ところでアンナちゃん、上手く誤魔化せたわね。内緒なの?」

「うん……後でビックリさせてたくて」

 

呆れるアンナと困惑する海美さんが急に小声で内緒話を始める声に目もくれず、俺は日差しで熱せられた地面から顔も心も反転召喚ができない。

今は明かされた衝撃の真実に頭がショットガンシャッフルされて心を痛めているのだ。

 

フライングランチャーの出所ってこの人かよ!

確かにアニメでは、自分の乗り物なのに乗りなれてない様子が見て取れたが……。

まさか、カラーリング変えての貰い物か?実は遊馬先生を襲撃する時が初乗りだったのか?

 

「いいなー海美姉ちゃん。オレも欲しいなー」

「ダメよ。アンナちゃんには早いし、これは私にとってすごく大事なものだもの。今日はこれのためにきたのが半分の理由だし……」

 

フライングランチャーをひょいと持ち上げて大切そうに見つめる海美さん。

早い遅いの問題じゃないというか、なぜあの細腕でそんな飛行兵器を軽々と持ち上げられるんだ。

しまった彼女は全国レベルの決闘者だ。謎の筋力に納得せざるを得ない。

だって当然だろ決闘者なら!

 

は!決闘者ならば……これは千載一遇のチャンスだ!

名案を閃いた俺はすっくと立ちあがった。

 

「ほら元通りに……」

「海美さん、決闘してください」

「はぁ?」

「俺が勝ったらその危険物を処分……いえ、バズーカを射出できないようにしてください!」

「突然なに言いだしてんだよユウヤ!」

 

口を挟まないでくれアンナ。今は真面目な話をしているんだ。

驚いている海美さんに向かって頭を下げる。大事なものだと言っていたし今回の移動手段なら破棄してくれと言っても無理な話だろう。

 

「最悪アンナに渡さないと確約してもらうだけでいいですから!お願いします友達の命がかかってるんです!」

「意味わかんないけどバカにしてるのはわかるぞユウヤ!!」

 

決闘者ならば決闘で話をつければいい。

デュエル脳も甚だしいが、これが成功すればそれだけで問題が一気に収縮し、遊馬先生たちの安全は保障されたも同然になる!

アンナもこの間の美術館行ったあと辺りから嫌がらせの様なちょっかいはしなくなったし、このままイシズ・イシュタールも驚くような未来の姿を変える特大の一撃を呼び起こすのだ!

 

問題はもはや泣きも入っている俺の懇願に海美さんがどう応えるかだ。

おい、決闘しろよと言っても、横のアンナのように会話のドッチボールについていけない可能性もあり得る。

決闘式強制交渉は初めてやることなのだ。この美女を困らせているだけではないだろうか。

心配になってチラリと海美さんの顔をうかがう。

その顔つきは困惑しいる……。

 

「いいわ。決闘者同士の会話ならこちらの方が速いもの!」

「え、ええ!?」

 

訳はなく。

 

先ほどの柔和な表情からうって変わって、自信に満ちた精悍さと瞳の奥で闘志を燃やしてこちらをしかと見つめる海美さん。

決闘の間合いを取り、決闘盤とD・ゲイザーで俺をロックオンする彼女はまさしく決闘者!

よかったちゃんとデュエル脳だった。俺好みの答えで応じてくれた。

 

「いざ尋常に!」

 

―――決闘!

 

しかし、未来のプロだろうがなんだろうが関係ねぇよ。超えて見せる!

これは決して負けてはならない決闘。俺は未来を救う!!

 

うおおお!

 

 

 

 

 

「【水精鱗-ガイオアビス】で【N・ブラック・パンサー】を攻撃!」

「ヲーぉぉぉ!?」

 

ダメだった。

 

襲い来る激流が俺と黒い豹を飲み込みライフを削りぬかれ、俺は敗北によって吹き飛ばされた。

くっ、攻めを焦って海美さんのライフポイントを一〇〇という鉄壁にしてしまったのが失敗だったか!

未来破壊にはまず社長の愛人【オベリスク】とその他一体を生け贄に捧げて、社長の嫁を呼ばなければできないことだったのだろうか。

【オベリスク】も【青眼】も、この世界じゃしっかり伝説のレアカードだ。ああ!もう!

 

「ふー。危なかった」

「やったやった!やっぱり海美姉ちゃんの決闘はカッコいいぜ!」

「ありがとうアンナちゃん」

 

弾ける笑顔ではしゃぐアンナに微笑みかける海美さんの姿からは、決闘中に見せた戦士のように研ぎ澄まされたオーラも鋭い眼光もなく、同じ人物だとは思えないほどだ。

 

「だぁー負けたー……」

「へへーん。どうだユウヤ!海美姉ちゃんはスゴイだろー!」

「うん……本当にー……」

 

未だ哀れなほど薄っぺらな胸を張り、自分が勝ったかのように喜ぶのは憧れの人の活躍が誇らしいからだろう。

倒れたままの俺を海美さんが手を貸して引き起こしてくれた。

 

「ユウヤくん、あなた強いのね!思わず本気でやっちゃったわ」

「いえ全然。海美さんの足元にも及びませんでした」

「そんなことないわ。工夫を凝らしたデッキをあんなに操るんだもの!」

 

いいえ。手持ちのカードパワーがないから手を尽くしてるだけなんです。

海美さんは全国大会に出るほどに何人もの決闘者を踏み越えた実力者。どう考えても格上だ。

そんな相手に善戦できたのは普通ならいいことなのだろう。

もっとも、この戦いにおいては善戦では意味がないのだ。

くっ、希望を与えられてそれを奪われるなんて……ファンサービスしやがって!

 

「じゃあまずはアンナちゃんの家に行きましょう。遊び周るなら荷物は少なくしたいしね」

「海美さん、負けた俺はなにをすればいいんですか?」

 

挑んだ理由は決闘中に不審にならない範囲で話したので特に繰り返して聞かれることはない。

アンナが持ったら危ないというのは共通認識だったのですぐ納得してくれた。

とはいえ、勝ったら自分の言うことを聞いてくれと言って負けたのだから、デュエル脳ムーブをした決闘者の仁義としてこちらも彼女の要求に応じなければならないだろう。

 

「そんなの…………ううん、そうね」

 

始めはこそ海美さんは、それは気にしなくていいと告げようとしたのが見て取れたが、アンナを見てなにかを思いついたようだ。

アンナの後ろにまわってその両肩に手を置き、しゃがんでアンナの肩から茶目っ気たっぷりに顔を出す。

 

「ユウヤくん、私たちとデートしましょう!」

 

…………。

 

「はぁ」

「はぁ!?」

 

思わず俺とアンナがハモる。

温度差は激しかったが。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

デート。

それは男女の関係がスピードの中で進化した時に起こる決闘。

アイススケートなどで伝説の逢引をすることに命をかけるいいムードの者たちを人々はカップルと呼んだ……。

 

「アンナちゃん可愛い!やっぱりフリフリなのも似合うわね!」

「う、ううぅ……!」

 

だから、小学生女子が親戚のお姉さんの着せ替え人形状態になってプルプル震えているのを同級生男子が見るのをデートとは呼びません。

 

俺たちはシティ某所のショッピングモール内の服屋にいる。

先ほどまでは普通に海美さんの服選びに二人が姦しくしているのを俺が時々感想を言いつつ見守っていたのだが、ある程度したところで海美さんの標的が服からアンナに変わり現在に至る。

 

「こんなヒラヒラしたのオレには合わないってぇ……」

 

普段は動きやすい服装ばかりなせいか着慣れないタイプのゴスロリ調の白黒柄フレアスカートワンピースをキョロキョロと見下ろしている。

顔が真っ赤になったままだが、まんざらでもないようにも見える。

 

「そんなことない!そうでしょうユウヤくん」

「はい。勝気な表情から意表を突いてくるコンボが合っていて胸キュンポイントが高くとても愛らしいと感じます。……痛い痛い」

「……!……!」

 

無言の拳をブンブン振り回して当てに来ないでくれ。結構痛い。

照れを隠したいのだろうが、顔がニヤけているのを噛み殺せていないから軽い変顔になっている。

 

俺がこんなにノリノリなのにはとてもとても深い事情がある。

男子であるが故に最初こそ女性服売り場に入ることすら少々抵抗していたのだ。

そもそもからして女性がウィンドウショッピングにかける熱も時間もまったく理解できなかった俺は、デートという名の荷物持ちかーとも考えていたため若干低いノリになってしまった。

 

それを見かねた海美さんが楽しくない?と俺を心配してしまったのだ。

楽しんでいるのに水を差してしまったのを申し訳なく感じたが、誤魔化すのもどうかと思案して結局、どうしてそう熱中するのかがわからないと正直に伝えた。

海美さんはそれに対して諭すような声で真剣に解説してくれた。

 

 

「ユウヤくん。女の子にとって服を買うっていうのはドローと同じなの。お店というデッキからお金というドロー加速で服を引いて、手札を増やしてコンボを狙うのよ。沢山使える手札があれば色んな戦略を立てられるし、ドローもそれだけでワクワクするでしょう?」

 

 

サンダーボルトに打たれたような衝撃だった。

目から鱗の決闘者でもわかる説明をされては納得せざるを得ない。勉強になりマース!

そのドローを全力で見届けよう!サーチするカードだってしっかり考えなきゃダメだもんな!

アドバイスだって求められるのなら万丈目サンダーの名に懸けてキチンと答えるとも!

一、十、百、千!満足させてやるよぉ!

 

「もっと加減してくれよ海美姉ちゃん!」

「んー難しいわ。だってアンナちゃんの反応がいつもより可愛いんだもの!彼のおかげね」

「うあー!うわー!」

 

その後も海美さん主催のアンナファッションショーは続いた。

名に懸けたはいいものの、海美さんの服選びと違って服を変えるたびに感想を答えさせられ、前の服と同じことを言えば露骨に不満そうな顔で返されるのには苦労した。

 

試してるんだねこの俺のボキャブラリーを!こんなところで止まらず、少ない語彙の限界にゴーウェイするかっとビングだ!

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「このお店、いい服がそろってて楽しかったわね!」

「こ、これで歩いて大丈夫なのかぁ……?」

「アンナちゃん、可愛いから大丈夫よ」

 

着せ替えと買い物を存分に堪能して最高のサティスファクションをしている海美さんと、沢山着替えさせたお詫びにと海美さんからプレゼントされた服を着ているアンナ。

ドレスを思わせる真っ白いフリフリのワンピースを試着室の外でまで着続けるのは、まだ抵抗があるのだろう。

 

「ユウヤくんだってすごく似合ってるって言ってくれたじゃない」

「そうだけど……」

 

それへのコメント強靭無敵最強だったんだが……いやふつくしいだったか?

白かったから社長のセリフでしのいだことは覚えている。後半は褒める言葉を絞り出すのに必死で息切れしてたからなぁ……。

 

海美さんを盾にするよう陰に隠れてその脇からこっちを見つめるアンナは、とても恥ずかしがりつつなにか言ってくれと訴えかけてくる。

 

「いつもの動き易そうな服もいいけど、そういうのも新鮮でいいと思うよ。どこも変じゃないし」

「そ、そうか?」

 

俺の迷いのない返答に安心したのか、海美さんの陰から出てくる。

まぁ、あれだ。デスポリスの格好よりは、はるかに似合っているというだけの話だ。

うんそれだけだ。

気を取り直して、買い物袋を持ち直す。

結構な量があるので彼女は自分で持つと言ってくれたが、ここらは男の甲斐性だろう。

もしくは敗者への罰だ。ダメージを受けるたびに電撃を浴びせられたり、体が徐々に消えていくことに比べればなんてことは無い。

 

「さぁ、次のお店に行きましょうか!」

「まだやるのかよ~……」

「アンナちゃんは見たくないのユウヤくんがカッコいい服着てるところ」

「行くぞユウヤ!お前も同じ目にあいやがれ!」

 

項垂れていたアンナの表情が一転、獲物を見つけたとばかりに輝き俺の手をグングンと引く。

こいつ俺をコストにして自分も着せ替える側になる効果を発動する気だな。

俺の罰☆ゲームはまだまだ続くのか……なまじデュエル脳の領域に踏み込んだ俺に魔の試着部屋という闇の扉が開かれたのだろうか……。

半端な気持ちで入ってくるなよデュエル脳の世界によぉ、という幻聴が聞こえた。

 

「あれ、海美ちゃん?」

 

男性服の店の入り口でガスバーナーの炎を連想する青い髪形の男性がこちらに声をかけてきた。

 

「あら?飛夫くん!こんなところでバッタリ会うなんて!」

「久しぶり。今日来るのはわかってたけど気の早い再会だね」

 

このミリタリーシャツを着こなす高校生くらいの男性は、どうやら海美さんの知り合いらしい。

ん?なんだか見覚えがあるようなないような……。

 

「アンナちゃん、ユウヤくん。紹介するわ、こちら羽原飛夫くん!私の用事の相手よ」

「初めましてボーイアンドガール」

 

名前を聞いて納得した。

 

羽原飛夫。

海美さんの夫でありタッグパートナーとして登場するプロ決闘者だ。以上。

……いやふざけているのではなく、それ以上の情報がほぼないのだ。

強いて言えば、決闘者特有の身体能力で身重になったばかりの海美さんを気遣い、決闘で吹き飛ばされるたびに受け止める愛とガッツがあったぐらいか。

 

まぁ、全部は今から見て未来の話だから、彼の情報は何もないのと同じことだ。

しかし、今日の用とはなんだろうか?

 

「彼は明後日の大会にも出場するし、アレを作ったすごいメカニックなのよ」

「アレって……まさか」

「そうフライングランチャー!」

 

危険をアクセルさせるすべての元凶シンクロを生み出した鴻上サウザンドはお前かぁぁぁ!

 

 

俺と……俺と決闘しろぉぉぉぉ!

 

 

 

 

「【単一化】でカバートークンたちの攻撃力を【幻獣機ドラゴサック】と同じにする!さらに【ミニマム・ガッツ】で……」

「【トークン謝肉祭】を発動!」

「イワァァァァーク!」

 

やはりダメでした。

 

幻獣機トークン二機がサンバカバたちごとを焼き払われ、俺は決闘のために移動したショッピングモールの中庭広場に転がった。

今度は完璧な手札がMeの勝ちじゃないかと確信させ、ダメじゃなーいという声が聞こえたような気がしたのに……!ライフを五〇残して超鉄壁にしてしまうなんて。

せっかくこの間の【電池メン】の子と交換した【単一化】で大量強化できたから、【ドラゴサック】の攻撃力をゼロにして畳みかけるつもりだったのに。

ドイツもコイツもアイツもソイツも人の希望を土足で踏み荒らしやがって!

いい加減沈めよ沈めぇ!フライングランチャー!

 

「とても楽しい決闘だったよボーイ。大会前にこんな決闘が出来るなんて嬉しいよ」

「ありがとうございます……でもなんであんな物作ったんですか?」

「……昔、廃棄予定で使える部品を集めて組み上げたらああなってしまったんだ」

 

羽原さんは遠い目をしているがなにがどうなったら大砲が飛ぶんだ。

どうして大砲と合体しないんだと疑問にでも思ったのか。

部品は拾ったじゃないだろう本当にメ蟹ックじゃないかチクショウ!

 

「元々は自分で乗ってただけだったんだけどね。彼女が転校する時に譲ったんだよ」

「転……校……?」

「ええ。もともと私は彼と同じ学校だったんだけど親の仕事の都合で引っ越したの」

「へー。そーなんだー」

 

俺たちの決闘が長引いていたので、見える範囲の店で買い物をしていた海美さんとアンナが戻ってきた。

転校。

……何故だろう。その言葉を聞いただけでものすごく嫌な予感がしだしたのは何故だろう。

 

「転校する時にフライングランチャーを賭けた決闘をしたのよ」

「何故そんなことを……?」

「それはね……」

 

とても大事なことを話すかのように真剣な面持ちで重々しく口を開いた。

きっと重要な理由があるのだろうと耳を傾ける。

 

「彼との関係を次のターンに繋ぐためよ!」

 

…………意味不明の返答だった。なにを言ってるんだまるで意味がわからんぞ。

 

「フライングランチャーは彼が作った物だから、他の誰にも整備ができないの。だったらこれを持っていれば会いにくる理由は勝手にできるのよ!」

「おおー……!」

「そしてコレの所有権を賭けて決闘を挑んで勝てば、お願いを聞いてもらえるわ!」

「決闘ってそんなこともできるのか!」

 

説明は失敗フラグだと思います。戦略もなにも聞いてた羽原さん頭抱えてるし……。

アンナはよくわかってないのに感心してるようだが。

待てよ。そういや某JOINさんが手の内をすべて見せるのは恋愛上級者のテクニックと言っていたようなそうじゃないような……。こうして実際に見ると恫喝外交を連想するのは何故だろうか。

 

アニメでは新婚だからああなのかと思っていたが、もしかしてこの人デュエル脳と恋愛脳が融合モンスターとして現れ出ちゃってるのではないか。

いやもうそこまでの積極性があるなら「会いたかった」が理由でいいのでは……!

 

駆け引きの重要性は恋愛も決闘も同じよ!とアンナに力説する海美さんから離れて、羽原さんにひそひそと小声で問いかける。

 

「羽原さん、もしかしてですけど海美さんってアレを渡しちゃいけないタイプの方なんじゃ……」

「ああ、やっぱりわかるかい?」

「ならなんで賭けちゃったんですか……!?」

「賭けとはいえ決闘を挑まれたら断れないさ。決闘者ならわかるだろうボーイ……」

「…………くぅぁ、わかってしまうのが辛い……!」

 

昨日までならどういうことだと言えたのに、今朝自分がそれを利用したからなにも反論できぬ!

断れないよな。固い決闘で結ばれた相手の頼みだもんな……。

 

「それにさ転校して距離が離れれば、彼女も視野が広がって余所に目が向くと思ってね……」

「……へぇ」

「はッ!」

 

振り返ると、俺たちのささやく程度の会話をいつの間にか傍で聞いていた海美さんが不気味なほどの笑みを貼り付けていた。

海美さんがポケットからボタンだらけの小さな機械を取り出し操作をしだした。

そこから数秒、空の彼方からなにかが飛んでくる。

大砲の両側に飛行のためのタービンがついた物体が飛来する。

 

 

やっぱりどうみてもフライングランチャーだった。

 

 

呼び出されたフライングランチャーが自動運転で勝手にやってきたようだ。

こんなの自作するなんて、羽原さん決闘者じゃなくても生きていけるだろう。

いや、そっちの方が成功するのでは……。

海美さんが無駄に洗練された無駄にカッコイイ無駄のない無駄な動きでフライングランチャーに飛び乗った。

 

「待つんだ海美ちゃん、こんなところでバズーカは!」

「これはバズーカじゃないわ……愛よ」

 

ああうん……痛みこそ愛って言った奴いましたものね。それが君の愛なんだね……。

なんだろうこれ新しい昼ドラでも始まったのか。

ハイライトの消えた目からは優しいお姉さんなんて印象は見る影もない。

 

「すこし離れたくらいで人生のデュエルターゲットのロックは外れない!それを私がわからせてあげるわ!」

「マズい!またエキサイトしだした!」

 

羽原さん、あれはエキサイトですむ形相じゃないと思う。

またってことはこうなることが度々あるのか…………。

本当になんでそんな相手にこんな危険物渡したぁ!

やっぱりアンナの親戚だけはある。思い込んだら止まらないところが一緒だ。

おっかないな神月の女。

 

「勘弁してくれ!」

「待ちなさい飛夫くん!私から逃げられると思わないで!」

 

全速力で走りだす羽原さんを追って、海美さんは俺たちを置きざりにフライングランチャーで飛んでいく。

これはどうみても逃げ切れないだろうな……彼はもう終わりですね。

というか未来のことを知っている俺からしてみると、彼らは確実に結ばれバカップルの如き新婚になる運命なのだ。

こうなっているのは男の方が迂闊な行動ばかりとっていたが為に現れた未来を導くサーキットが完成したに過ぎない。

 

どうあがいても捕まる運命力に支配されているのだから、彼は早々にサレンダーしてて彼女を受け入れた方が苦労は少ないのではなかろうか。

 

 

 

 

―――不意に、彼らの姿に逃げる自分とフライングランチャーに乗るアンナが重なって見えた。

 

 

 

 

慌てて、ごしごしと目元をこすって逃走追走する二人をもう一度見た。

ちゃんと羽原さんと海美さんだ。何も幻視などしていない。

 

俺にはおかしなパワーヴィジョンなど見えてなどいない。

いないったらいないのだ!

仮に見えたとしても追われる側になるのは遊馬先生のはずだからやはり大いなる間違い。

 

「ユウヤ……」

 

海美さんがえらいハリキリガールになった姿にあっけにとられ静かだったアンナが俺の袖を引く。

 

「なに?」

「この荷物、どうすんだ?」

 

俺たちの横には海美さんが置いて行った、どうみても小学生二人で運ぶには辛いであろう量の買い物袋が残されている。

 

「…………ここで待とうか。気がすんだら冷静になって戻ってくるだろうから」

 

ああいう暴走は経験上、収まるまで待つしかないのだ。

近くにあった長椅子に荷物をまとめて、俺たちは腰かけて待つことにした。

俺のデュエルマッスルならば運ぶこともできなくはないが入れ違いになっても困る。

 

 

 

 

結局、よれよれになった羽原さんをつれて海美さんが戻って来たのは二時間後だった。

ぺこぺこと申し訳なさそうに謝る彼女に、待ちくたびれて寝てしまったアンナに膝枕をしつつ、慣れてますからと答えた俺は酷く無表情になっていた気がする。

幸せそうに「ずっとオレのモンだぁ……」なんて寝言とよだれをこぼすアンナに足を掴まれて動けず痺れるぅし、ズボンも垂れたよだれでベトベトになった。

 

 

 

ああ、やっぱり逃げられなかったか……。

だれか俺と羽原さんに元気のシャワーを注いでくれないだろうか。

 

 

 

その数日後の話だが、羽原さんと意気投合した。理由は聞くな。

 

 

どういう機構でフライングランチャーが飛んでいるのかちょっと疑問だったので質問したら、気が付いた時には、もらったキャンディ舐めながら俺が自力でドローンもどきの飛行物体を完成させていた。

飛夫兄さんが素人への説明もやる気を引き出すのも上手すぎるのが悪いのだ。

断じて俺がメカニックの道を歩みだしたわけではない。

 

ただ、今なら開かないドアも開けられそうではある。

き、きっと、そのドアは遊馬先生も俺も爆撃されない未来のことだから……。

 

 

だから大丈夫だ。うん。

 

 

 

 




公式のどこかでフライングランチャーの出所やアンナと海美の親族関係がないことを明言する物あったならのこの話はゼロリバースされます。
旧姓とか出てくる訳ないしって思って……出来心だったんです。

夢のシーンがメチャクチャでいいんだと思ったら書いてて超楽しかったしスゴイ速く書けた。
大事。心の余裕。


Q、海美とアンナがしてた内緒のことって?
ヒント:海美に相談してる、好きな人が好きなこと。

Q、なんでまだ内緒?
ヒント:夏休み。学校で会えない。



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