遊戯王のユウヤになりました   作:サルガシラン

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カウンセリングフェイズ担当医師を定石通りに専門家の九十九遊馬先生にするか、今作のヒロインであるアンナにするかで長い議論を行いました。

結果、コイン仏とサイコロ神がどちらも遊馬先生にお願いせよとお告げをしてきたので続きます。

注意、アンナが出ません。

アンナが……!出ません…!!


迷路の壁を登って越えるような。

 

 

 

次の一瞬で全てが決まる。

 

 

「行くよ……遊馬!」

「お、おう!」

 

夏の日差しが照りつける公園。

 

対峙する俺と遊馬先生の間を、風に飛ばされた砂煙が横切る。

戸惑いながら軽く構える遊馬先生を前に、俺はどこまでも真剣に画風すら変わった顔で、格闘家のような構えとコォォと鳴るほどの呼吸で、次の一瞬に備えている。

D・ゲイザー越しに見える風景には【ガガガマジシャン】と【ガガガガール】が脱力しつつ呆れた表情でこちらを見つめる姿と、俺を守るため彼らを威嚇する【サイバー・ダイナソー】の背中が映っている。

 

数秒間、セミの合唱だけが公園に響く。

不意に、誰かが置き去りにした空き缶がカランと音を立てて風に倒された。

 

それを合図にどちらともなく駆けだす。

数多のかっとビングにより鍛えられた俺たちの脚なら、わずか数メートルなど一瞬で互いの拳が届く距離まで詰められるのだ。

 

相手が迫る。

互いに腕を振りかぶり――――――。

 

 

「ジャン!」

「ケン!」

 

―――ポン!

 

 

俺の鉄の意思を込めたチョキに対し、遊馬先生は鋼の強さのグー。

勝負は、決した。

 

「……ユウヤの【変則ギア】の効果で【サイバー・ダイナソー】は除外されるぜ!」

「【サイバー・ダイナソー】!」

 

俺のフィールドの【サイバー・ダイナソー】が隣に開いた時空の裂け目へと吸い込まれていく。

消えていくメカ恐竜の断末魔が悲しげに響いた。

 

「【マジシャンズ・クロス】の効果を受けた【ガガガマジシャン】でダイレクトアタック!」

「ブレオァー!」

 

魔術師たちの連携攻撃が、がら空きの俺へと突き刺さり俺のライフがゼロになった。

 

「いぃよっしゃぁ!俺の勝ちだぜー!」

「遊馬が勝った……!?」

「ウソだろ!いまだに魔法カードの種類の違いもわかってないあの遊馬が!?」

「あー明日は雨かー?涼しくなるぜ!」

「ちょっと待て!素直に俺が強くなったって思わねーのかよ!?」

 

見ていた鉄男やクラスメイトたちによる驚愕の声へ遊馬先生がムキャー!と全身で抗議している。

それを他人事のように、俺は静かに自分の決闘盤を見つめた。

わかっていたが追い詰められた状況は、気合だけではどうにも逆転できない。

 

 

 

築根ユウヤ。決闘のスランプ中である。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「ユウヤ、決闘止めちまうのかよ!?」

「いや、止めたりしないよ。ちょっとひかえるだけ」

 

河原に遊馬先生の声が響く。向こう岸を犬と散歩してるおばあさんにまで届いていそうだ。

 

海美さんたちの大会も終わり、そこから数日跨いで飛夫さんからドローンもどきの作り方を教わった翌日。今日は遊馬先生たち男子連中だけで遊ぶ日だ。

 

公園で一通り遊んだあと河原で水切りをしていたところ、今度発売するパックを買う買わないの話になり俺は買わないと答えた。すると一緒にいた奴らが人とバイクの合体を初めて見たような顔で驚いた。その流れでしばらく決闘から離れようと思っていることを伝えると、さらに驚かれた。

 

「遊馬が勝ったうえに遊馬以上の決闘バカが決闘をやめる……だって……!?」

「雨どころじゃない……ふるぜ明日雨がヤリの!」

「だから、止めないし……ていうか失礼過ぎませーんお前らー?」

 

クラスメイトどもが震え声で過剰に反応しているが、俺をおちょくるのが目的だとその半笑いが教えてくれている。おっかねー!とか言いつつ、もう興味は投げる石を探す方へ移ったようだ。

 

「遊馬に負けたのが悔しかったのか……誰だって調子悪い時は有るんだから気にすんなって」

「いや、そういうのは本当に関係ないんだって」

 

妙に深刻な顔で鉄男が慰めてくれるが、それはそれで遊馬先生に失礼だ。

まぁ、無言で鉄男を軽く睨む彼には悪いが、普段のプレイングを考えれば仕方ない所はある。

 

水切りに適した平たい石を選び、川の流れに逆らわない方向へサイドスローで投げる。

俺の石は二回水面を切りながら進み、その横を後から投げた鉄男の石が五回、遊馬先生のものが四回跳ねながら俺の石を追い越してとんでいった。

おかしいな。いつもはカード手裏剣の練習効果で最低でも十回は行くのに。

 

俺が不調なのは水切りのことだけではない。

 

昨日も飛夫さんの所でメカニック仲間さんたちと決闘&交換で交流をしたが、勝負は全敗。

初手でサーチカードとサーチ先が揃うという、ちょっとイケてない事態が連発した。

ポーカーならフルハウスだと思うほど、手札に揃っても意味のない同名カードが集まるのである。

さっきの決闘でも同様の現象が起こる始末だ。

 

元からかなり無茶な構築をしている自覚はあるが、いつもならプレイング次第でどうとでもなる。

今は動くこともままならない。この世界でずっと決闘をして来てここまでヒドイ引きが続くのは初めてだ。こういう時にデッキが応えてくれない、と言うべきなのだろうか。

 

「なんて言うか……新しく挑戦してみたいことも出来たし、ちょうど良いかなって」

 

最初は興味がなかったので拒もうとしていたが、メカニックの偉大なる先輩たちの教え方が上手いことも相俟って見事に電子工作にハマりかけている。

よくよく思い出すと意外と決闘が関係ない問題も多いナンバーズをめぐる戦いで、どうせならほんの少しでも役立つメ蟹ックとなってみたい、なんて思うとんだロマンチストになるくらいだ。

当面の目標はあのドローンもどきレベルのメカを自力で組み上げることである。

 

親切にも、飛夫さんたちが昔練習に使っていた初心者向けの工作キットをバラの状態でもらった。

教わったことを忘れない内に組んだが、構造がドローンと共通する部分が多いのでわかり易い。

まんまと彼らの同士になる道へ誘導されている気もするが望むところだ。

勉強のための参考書や工具やらのために貯金しておきたいので、しばらくはカードを買う金銭的余裕がないのも決闘から離れようと考える理由の一つだ。

 

だから、しばらくはそっちに専念して……。

 

「なあユウヤ」

「ん、どうかした遊馬?水切りで向こう岸まで届かせるんでしょ。良い案浮かんだ?」

 

新たな石を水面へ投げる俺に、不思議そうな顔をした遊馬先生が話しかけて来た。

 

 

「なんでそんなに焦ってんだ?」

「え?」

 

 

焦ってる?俺が?

投げた石が一度だけ大きく跳ねて沈んだ。

 

「なんて言えば良いのかわかんねぇんだけど……なんかお前無理してる気がすんだよ。さっきの決闘でも急いで勝負付けようとしてたし。らしくねぇなーって」

「確かに。いつものユウヤならもっと慎重だよな」

「そんなことは……」

 

ない、と続けられず遊馬先生と鉄男に背を向けて、適当に掴んだ石を放る。

投げた石は斜めに突き刺さり、ドボンという鈍い音で水柱を上げただけだった。

 

焦っていると言えば、いるかもしれない。

全てが始まるのは俺たちが中学生になった頃だ。あと数年しかない。

前世では思いっきり文系へ進んだので、科学方面の知識は学校で習った部分まで記憶の彼方。

文字通り一から覚え直しになるから、今から本腰入れて勉強しても遊馬先生たちの戦いで役に立てるようになるとは思い上がれない。

 

たとえ上手く行ったところで、未来の遊馬先生の周りには機械に強い人間はザ・ナンバーズハンターのカイトや、実は登場初期以降はずっと働いているV兄さんなどと事欠かない。

大半の問題は彼らが居れば十分だ。それこそ、俺が自力でフライングランチャーを作ってフライングデュエルができるような、決闘とメカの腕がなければ居ても邪魔なだけだろう。

 

いや。

そもそもの話。

 

元々関わらないはずの俺は、何もしない方が全て上手く行くのかもしれない。

どころか、俺がいるせいで事態が悪い方向に進む可能性もある。【No.96】の件なんていい例だ。

 

決闘も作りたいメカも、こうして皆と共に遊ぶことですら。

俺がやろうとしていることは無駄どころか、なにもかも余計なことなのかも……。

 

 

「なぁユウヤ、もう一回決闘しようぜ!」

「え?うん、良いけど……」

 

 

 

■■■■■

 

 

 

遊馬先生の決闘の強さは、非常に緩やかに上がっている。

 

遊馬先生の弱さはルールをイマイチ理解していないことにもあるが、元々使っていたデッキが父親からもらった【オノマト】系を基本とするエクシーズ前提の構築だった所為でもある。

まだモンスターエクシーズを持っていない遊馬先生の場合、打点が若干低めのモンスターを多く並べて戦うのだ。気が付くとフィールドが埋まっているとかザラである。

 

なので、本人の拘りを尊重しデッキを大きく変えずに打点を補うカードを数枚交換し、それらをどう使えばいいかを彼のデッキを借りて実演して見せたことがある。

すると、持ち前の引きの強さでその場に合った逆転のカードを呼び込んでくるようになった。

実は【マジシャンズ・クロス】も俺と交換したカードだったりする。あと【連合軍】とか。

遊馬先生のデッキに合いつつ、俺が所持していた中では一番まともな強化カードたちである。

 

それでも、遊馬先生が勝つと皆が驚く程度に勝率が低いのは……勢いだけで動きすぎるハリキリボーイだからとか、色々と問題は残っているから。

だから、考えて動いてくれるようになるのは未来のためにも大歓迎なのだが……。

 

「えーと……これがこうであーなるから……」

「まぁ……ゆっくり考えなよ。焦らずしっかり考えた方が良いことあるよ。多分」

 

 

なんと遊馬先生が長考をしだした。

一決闘中に三度目である。

 

 

「遊馬……お前も暑さでどうかしちまったのか!?」

「この決闘、長ーなー……」

「明日は……ビルが降る……」

「俺が考えて決闘するのがそんなにおかしいのかよ!?」

 

見ていた鉄男たちのヤジが飛び、遊馬先生が反論する。

俺もアーク・クレイドルが降ってくるかもしれない、とか思ってしまったのは内緒だ。

 

現在の状況は、俺のライフは六〇〇でフィールドには【パワーフレーム】を装備して意味なく攻撃力が一八〇〇になった【竜胆ブルーム】が一体いるだけ。

それに対して、遊馬先生側は無傷のライフに【ドドドポット】と【ドドドウィッチ】、【ズババナイト】が並び、【連合軍】がモンスター二体を強化しているという状態でメインフェイズ2だ。

 

彼が考えた甲斐とこちらの手札事故が合わさって、正直言ってそのままターンエンドされたら手札は四枚もあって潤沢なのにサレンダーしたいほどの追い詰められ具合だ。

 

「で、今度はどう悩んでるの?」

「こっちとこっち、どっちのカード伏せようか考えてんだ!」

 

もう両方とも伏せれば良いんじゃないかな。

いや、どっちも手札を消費して発動するカードの可能性もあるので、一概には言えないか。

 

「へへ、あんまりやらねぇけど、やってみると色々やれそうなことが見えてくるモンだな!」

「……うん、そうだね」

 

苦笑交じりに返してしまったが、違うことをするとよく見えるのは同意しよう。

 

この決闘……いや、この世界の決闘がそうだ。

テーブルに座って決闘をしないので、必然的にいつも相手の全身と向かい合う。

ARビジョンが有るから、視線は前を向き対戦相手の仕草や表情がどうしても目に入ってくる。

していることは前世と同じだというのに、この世界の決闘は誰かと共にやっていることを強く意識させられるのだ。

 

だから、盤面以外のことにまで意識が向く。

目の前の人はどういう時にそんな表情をするのか。どう思っているからそんな風に体が動くのか。

そんなことを推測して時々、相手の心が理解できたような錯覚をする時もあるほど。

神聖な儀式、なんて称されていた時は何を馬鹿なと思っていたのに、今ではアリ得る話だと納得できそうなのはだいぶ毒されてきた証拠だろうな。

 

少なくとも、目の前の少年が楽しそうに悩んでいるのは誰が見てもわかる。

 

「遊馬はいつも楽しそうだ」

「お前も楽しめば良いじゃねぇか」

「え?」

 

 

「ユウヤはかっとビングしたいんだろう?ならもっと楽しんだ方が良いじゃんか!」

 

 

呆ける俺へ遊馬先生は悪戯が成功したような顔でニッと笑いかけてきた。

 

「遊馬……」

「お前が言ったんじゃねぇか。『焦らずしっかり考えた方が良いことある』ってさ!」

 

ああ……なるほど。

それを言いたかったから、普段は直感で動くくせに長考するなんて真似をしたのか。

そうすれば、俺なら必ずそれを肯定する言葉で待つと確信して。

 

「……はは」

 

思わず笑い声が零れた。やっぱり遊馬先生には敵わない。

なるほど、小鳥女医もまだ会ったことのないキャットちゃんも、そして……いつかアンナも。

好きになる訳だ。当人が自覚してもいなかった悩みまでどうにかしてしまうのだから。

 

こういうことをされるから助けたいと夢想してしまう。

彼が……大事な友人が命を懸けて決闘をしていくのに、黙って見ているしかできないのは嫌だ。

たとえそれが無意味であろうとも、だ。

 

うだうだと悩むのも馬鹿馬鹿しくなってきた。なるようになれだ。

だから、こうしなきゃああしなきゃも邪魔とかも……除外してしまおう。

強くないも、強くなれるかどうかも忘れて、これからも俺は思うままに行こう。

 

「よし、決めた!カードを一枚セットしてターンエンドだ!」

 

遊馬先生も徹底的に迷い抜いて決定したようだ。次は俺の番。

さて、カウンセリングフェイズもそろそろ終了を宣言して、とっとと次に行かせてもらうか。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

全て振り切るようにカードを引きぬく。

何を引いたかはまだ見えていない。

だが、久々に動き回れるカードが舞い込んで来たと指が伝えてくれている、気がした。

 

 

勝負の結果は……一番エンジョイした者が勝利を掴んだ。それだけの話。

 

 

帰りに夕暮れの中でもう一度だけ投げた石は、十二個の波紋を刻みながら河の半分まで到達した。

先はまだ長いな。

 

 

 

 

余談になるがこのずっと後に、海美さんから授かった「決闘式勉強法」なる画期的かつ意味不明な学習方法によって知識がリミットオーバーアクセルするという、俺の悩みはなんだったんだと崩れ落ちる元も子もない事態が発生する。

 

そんなこと、この時は微塵も想像できなかった。

この世界は決闘絡めれば大抵どうにかなるとはわかっていたが……ここまでか。

 

 

 





・決闘式勉強法
手製の白紙カードを用意し、覚えたい事柄を要素要素に分けて重要単語をカード名に、その説明を効果欄に書き込んで関連する単語同士でコンボを行う。カードを創造するように決闘をするようにして学ぶ決闘者の決闘者による真の決闘者の為だけの学習方法。
ソリティアが得意な決闘者に非常に大きな学習効果をもたらすが、同じ知識を普通の方法で学んだ決闘者でない相手と、同じことを話しているのに話が噛み合わなくなるリスクを持つ。

例)「あれをああして繋ぎ合わせてそれに組み込んで出力を上げて……」
  「あれに融合使ってそれにエクシーズで攻撃力アップってことだな!」
  「え?」

使用の際は用法用量を守ってほどほどにお使いください。
実際にやって効果があるとは保障できませんが。



ちょっと時間をおいただけで書き方が全然判らなくなりますね。
これでいいのかと悩み出すとキリがないですし……ウガガガ……。

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