フラグ立てた矢先にクロノグラフが制限入りしたので続きます。
前回言及して特に反応は無かったので遊馬の親はまだ健在ということに。
あれ、それだとおかしくね?という所があったらこっそりドン・サウザンドが書き換えます。
ソレが永い眠りから目覚めた時、最初に己の失態を悔いた。
かつての決戦から、どれほどの時が流れたかはわからない。
だが、自分を眺める人間たちの会話から、断片的にではあるが大体の察しは付く。
まだ自分が目覚めてよい時ではないこともだ。
自分の役目は、戦いの影響で生まれた厄介な怪物を封じ続けることであった。
奴を放置すれば自分たちの奔走が、この次元ごと水泡に帰すこともあり得る。
しかし、あれは消し去る訳にも行かず時が来れば世に放たなければならない。
だからこそ大それた結界まで建築し、奴を誘い込んで自分ごと石板に封じ込めたのだ。
誤って封印を解かぬよう決して誰も踏み入れてはならないと、かつての人間たちに協力させて結界ごと地中深くに埋めさせた。
だというのに。
結界は掘り起こされ最初に踏み入った人間は欲に駆られて、あろうことか封印の宝石を根こそぎ剥がし、奴は自由の身となった。加えて自分は「あーてぃふぁくと」とやらとして晒しものだ。
時折姿を見せる「おーなー」や「すぽんさー」とやらの欲望まみれの眼を見るたびに、そのぶくぶくと肥えた腹を食いちぎり、残りを次元の彼方へと投げ捨ててしまいたくなる。
人間どもの愚かさは重々承知していたが、どれほどの時を経ても全く成長していないようだ。
幸いにも奴へ打ち込んだ楔は抜かれてはいないらしい。
我が半身を使った奴への呪いだ。ろくに力を振るうことも、蓄えることも出来はしない。
楔のおかげで奴の動きがわかる代わりに自分も力の大半を使えないが、上手くいけば予定通りに封じておけるだろう。
しかし、そんな楽観視などしてもいられない。
あれはとうに
まずは己を納めた封印の石板から抜け出し、更に今の人間どもが施した檻からも脱出しなければならない。結界から無理矢理に移動させられたせいで石板の封印式も歪んでしまっている。外すにも時間がかかりそうだ。舌打ちをしたいが、石の中ではそれも敵わずまた怒りが募った。
待っていろ。すぐにこの「けぇす」とかいう透明な壁から脱出してみせる!
■■■■■
ぶるりと震えて目が覚めた。
見慣れていないテントの暗い天井に、消灯されているランプがぶら下がっている。
思わず出たあくびのせいか、涙で濡れている目元をこすりながら体を起こした。
もぞもぞと寝袋から這い出て、同じテントで寝ている今日会ったばかりの子供たちを起こさないよう、懐中電灯を取ってそっと彼らをまたいでいく。
テントから出ると夜風が心地よく吹いていた。
昼間は目に優しい緑色をしていた周囲の木々は、今は黒にしか見えずなかなかの威圧感を放ち、月も出ていないせいか真っ暗だ。散々鳴いていた蝉の声もこんな夜中では流石に黙り、揺れる木々のざわめきだけが耳へ降ってくる。立ち並ぶテントも中に人がいることはわかっているが、どれも寝静まっているせいで暗く静かな姿に、俺に妙な異物感と孤独感を与えてくる。
再びあくびが漏れた。トイレどっちだったっけか。
普通の子供が一人でいれば少々ひるみそうな光景だが、あいにく素直に怖がれるほど幼さは持ち合わせていない。むしろ都会では感じ辛いものが刺激してくるのは風情があって良いものだ。
山奥なので車の音もしない静かな夏の夜道を、ハリキリ尿意を治めるために歩き出した。
ハートランドシティから遠く離れたキャンプ場。
今日は、遊馬先生の誘いで参加したサマーキャンプの一日目だった。
三泊四日の長丁場を予定するこのキャンプは、主催している所が遊馬先生の父、九十九一馬さんに毎年仕事の依頼をしているらしく、バイトとして来る明里さんともども親子三人で参加しているそうだ。去年は小鳥女医と鉄男が加わって、今年はそこへ俺とアンナも参加している。
他にも沢山の子供が参加しているため、班分けでは見事にバラバラになってしまったが、班の子供たちともレクリエーションと決闘を通して仲良くなれたし問題はない。
【グレイドル】の子が【エネミーコントローラー】を交換してくれたので、左!右!AB!とARビジョンを使ったコマンド入力とボタン連打の競い合いを始めるとちょっと受けた。
それにしても濃い一日だった。
俺と遊馬先生で森を天狗のように駆け回り、他の子が真似したらどうすんのと明里さんにげん骨で叱られアンナが明里さんの強さに惚れて弟子入りしたり、鉄男が昼飯の流しそうめんで華麗な箸さばきを見せて麺が天に昇ったり、小鳥女医ふくむ女の子たちが山の動物にさらわれた末にアンナが彼らの頂点に立って【ビースト】系カードを献上されたり、俺が飛夫さんとこのメカニックたちから実験を押し付けられたメカで動物たちからアンナを引きはがしたり……。
預かっていたメカはあらかた壊れてしまったが、みんな無事で良かった。
帰ったらどう言い訳しよう。山分けしてもらったカードを渡したら許してもらえるだろうか。
丸太で縁取りされた階段を下りながら、キャンプ後に取らねばならない責任で憂鬱になる。
「寝ないでうろつく悪い子誰だ?」
「うおぉおぉ!?」
突然、後ろから肩を掴まれながら囁かれ、思わず叫び声を上げてしまった。
一日の疲れから残っていた眠気も飛んで、飛び退いて後ろの下手人を確認する。
そこにはラフな格好に見覚えのある腕章をした、軽薄そうな雰囲気を持つ男が立っていた。
「うわ何ビックリしたぁ。なんだチャーリーか」
「夜中に叫ぶなよ。余所のキャンプ客に迷惑だろ」
相手が不審者や旅行者のナッシュでなく、サマーキャンプのスタッフだったことに胸を撫で下ろした。しかし向けた懐中電灯の灯りで眩しがる姿が妙に様になっているのが少々腹立たしい。
チャーリー・マッコイ。
ライフイズカーニバル!がキメ台詞のギャンブルデッキ使い。
アニメでは、手術を受ける少女のため持ち主に幸運をもたらす【No.7】を盗んで騒動を起こす冒険家兼電脳じゃないトレジャーハンター。一馬さんが失踪したショックで運に固執する男だった。
そんな未来はともかく現在は一馬さんの教え子の大学生でバイトスタッフだ。使うカードも交換したカードもギャンブルカードが多く、程度の差はあれ運に頼る所は元からのようだが。
「驚かす気満々の声かけしといて何言ってんのこの野郎」
「サプライズは会話の潤滑剤だぜ、ヤー坊」
「やっぱ完全にその呼び方で固定なのか……」
ヤー坊、とは俺のことらしい。
尊敬する教師の息子であるツクモユウマと、フルネームが似てる俺ことツクネユウヤ。名字でも名前でも呼び間違えそうだからと、この男は決闘をしてから俺をそう呼び始めた。正直遠慮したかったが「なら遊馬をマー坊とでも呼ぶか」という呟きによって苦渋の妥協をせざるを得なかった。遊馬先生をそんな豆腐やナス料理みたいな呼び名させてたまるか。
その後も様々な言動を見た結果、こいつを敬う気は消え失せた。当人も気にしてないし。
「もうとっくに消灯時間だ。夜のお散歩は危ないぜ?昼間のこともあるし、そうじゃなくても闇に乗じて怖ーい奴が狙ってくることだってあるんだからな」
「ご忠告ありがとう。トイレ行ったらすぐ戻るよ。そっちは見回り?」
「いや?俺は今日仲良くなった女の子とお喋りしてきた帰り」
「お前が闇に乗じて女狙いに行ってるじゃないか」
「おいおい、人聞きが悪いな。男として女性のお誘いを無下にできなかっただけだって」
する気が無いの言い間違いじゃないのか。
ヘラヘラ笑うこの男の特徴として、見た通りの軟派男であることが挙げられる。
現に今日一日だけでもキャンプ場の女性スタッフに余所の女性客と、若い女性を手当たり次第に口説いていた。同じ回数だけ明里さんからしばき倒され仕事に戻されていたので、ナンパに成功していたとか言われてもちょっと疑わしい。
「それが本当かはともかく、遊び過ぎて俺たちのキャンプに問題を飛び火させないでよ?」
「火遊びはお手の物。流石に一馬先生や坊主たちに迷惑かける真似はしねえさ」
「だといいけど……。じゃあおやすみー」
話もそこそこに切り上げて踵を返し、再びトイレへ歩き出す。するとチャーリーが俺に追いついて隣に並んで来た。
「どうしたの」
「子供一人じゃ危ないって言ってるだろ。ちょっとお散歩しようぜ」
「まぁ、いいけど」
どうせトイレまで往復する間だし、目くじら立てて拒否する理由はない。立場もあるだろうし。
「迷惑かけないとか言ってるけど、ナンパしてサボってたのは含まれないの?」
「ヤー坊くらいの歳だとまだ知らないだろうが、大人が美女を見て口説かないでいるのは、エチケットに反するんだ。今のうちに女の褒め方を覚えておかないと将来大変だぞ」
「どこの国のマナーだ。堂々と子供にウソを吹き込もうとするのは止めろよ」
そういうのは俺の性に合わないし、何故かはわからないが俺がチャーリーのような真似をしたら、明里さんのげん骨が可愛く思えるようなヒドイ目に遭うと第六感が警鐘を鳴らしている気がする。
「そもそもサボりって言われてもな……俺が必要なことあったか?ほとんどはヤー坊がまとめてくれてたじゃないか」
「……そうだったけどさ」
初対面の子供が相手と言う点を除けば、普段学校でやっていることと変わらないので正直言って、うちの班は監督役の大人がいなくても困ることはほとんどなかった。
「坊主や嬢ちゃんたちだけで十分だと思ったから、ちょっと離れて見守ることにしてただけさ。口を出さずに居た方がお前らの経験になると思ったしな」
「経験?」
「何でもかんでも手を貸したり代わりにやってやることを助けるとは言わないのさ。相手が八方塞がりになった時だけの方が、そいつの成長に繋がるんだよ」
「……」
ピタリと足が止まった。
チャーリーの言葉にも一理ある。確かに子供のやろうとしていることを、こちらの方が速いからと大人が口や手を出してばかりでは、彼らから意欲や試行錯誤する力を奪ってしまうだろう。
俺は遊馬先生のかっとビングに付き合う際に、彼が言い出す子供特有の発想を結構否定しがちだ。この間の「立ちこぎブランコから跳んで最高飛距離を目指す」チャレンジの時にも、いろいろあったのち最終的にァアクセルシンクロォォ!と叫んで跳ぶと飛距離が延びるという結論に達した辺りは、確実に俺の悪影響だろう。
もう少し彼らのやり方を尊重しつつチャーリーの言うように手助けするにも距離感を省みた方が、彼らの未来のためには良いのかもしれない。
ただ……。
「サボりの正当化じゃなければ、もうちょっと素直に受け入れられるんだけどなー……」
「おっと、バレちまったか。はっはっはっは」
良いことを言っているように見えるが、こいつ思いっ切り俺たちのことを見てない時があったので完全に口からでまかせである。おかげでアンナたちを助けに抜け出せたのだが、それはそれ。
笑って誤魔化そうとしているこの男を咎めようと口を開きかけたその時、茂みの向こうからガサガサと物音がしだした。
「ヤー坊。ちょっと後ろにさがってな」
庇うように音源と俺の間にチャーリーが立つ。
じわじわと近づいてくる音は、結構な大きさの何かが動く物であることが予想できた。昼間の動物たちが懲りもせずにやって来た可能性もあるので、二人そろって警戒を強める。
大した間もなく、ナニカが茂みを突っ切って飛び出してきた。
飛び出してきた影を捕まえようとチャーリーが腕を伸ばす。しかし、触れる直前で驚いたように彼は腕を引っ込め、その脇を影が見事なステップですり抜けて躱し俺のもとへと駆けてくる。
狙いは俺か!咄嗟に距離をとろうとしたが、かかとを階段の段差にひっかけてよろけてしまい襲撃者のタックルをもろに腹で受け止めることになった。
「ンミッッ……ツォオ!?」
吹っ飛ばされそうになりながらも、なんのと倒れるのを踏ん張って痛みごと堪えた。
「捕まえ…………ん?」
抱え込んで伝わってくる胴体の感触と、こちらの腰に回された腕らしきもの。
体に触れる感覚から、相手が野生動物でなく人間であることが理解できた。
影の正体を確かめようと腕を離して見下ろすと、Tシャツがめくれ上がって見える肌と短パンが見え、自分の腹の方へ目を向ければ見慣れた赤とオレンジの髪が震えながら腹にめり込んでいた。
「アンナ……?どうしたの?」
「ユ゛ウ゛ヤ゛ぁぁー……!」
腕の中で見上げてきた襲撃者は、なぜか内股なうえに涙目で鼻声のアンナだった。
状況が飲み込めずチャーリーを見やれば、肩をすくめて困ったように笑っていた。
■■■■■
「……なるほど。確かにこれは一人で来たくないね」
「そーだろー!?……ううヤバい」
三人で公衆トイレまでたどり着くと、入り口の電灯が普通に切れかけて点滅していた。
周りに他の灯りが無い分、その頼りなさが浮き彫りになってむやみやたらと不気味な雰囲気を生み出している。目に悪いし、電灯の点滅がこの間の【No.96】を思い出して気分が悪い。
ここはバナナを思い出して留飲を下げよう。
アンナは俺と同じくトイレに行きたくなって目を覚ましたが、最寄りのトイレがこの有り様で近寄りたくなくなり、別のトイレを目指したそうだ。それは良かったのだが、そこで近道をしようといういらない発想が湧いてしまって、藪を突っ切って道なき道を走り出した。が、案の定迷いさらにタイミング悪く、持っていた懐中電灯の電池が切れてしまったらしい。
道を外れたせいで街灯の光が届かない闇に独りぼっち。寝る直前にテント内のみんなで怪談をしたせいでまとわりつく、振り向いたらなんかいそーという悪寒。割とギリギリの膀胱。
色んな意味で限界バトルだったろう。
そこへ俺たちの話し声が聞こえてきて、一も二もなく声の方向へ突進したのがさっきの真相だ。
「オ、オレを置いて先に帰ったりするなよ!怖いからじゃなくて、ライトがないからだけどな!」
「大丈夫だから早く行っといで」
「絶対だぞ!絶対だからな!!オッサンは……どっちでもいいや!」
「雑だな。それにまだオッサンって呼ばれるような歳じゃないって言ってるだろアンナちゃん」
まぁ、アンナは昼間ナンパしまくってたチャーリーを「オレああいう奴嫌い」と蔑む目で見ていたので、この反応は割とマシな方だと思う。大人がいて安心したからだろう。
俺とチャーリーに念押ししながら女子トイレへ駆け込む彼女はやたら必死である。先に帰れというフリみたいだ。俺も男子トイレの方へ入ろうとすると、彼女がトイレの入り口から何か言いたげに首だけひょっこりと出した。
「ちゃんといるってわかるようにしててくれよ!」
「わかるようにって……例えば?」
「う、歌うとか!」
「いや……夜中の公衆トイレで歌う子供とか、それこそ怪談でありそうだよ」
「変なこと言うなよバカぁ!」
セルフBGMを要求されたがハーモニカも草笛に適した葉っぱも無かったので、誰か近くに居るとわかれば良いのだからと、そこそこ大きめの声でチャーリーと話しておくことにした。
「――――で、目の仇にされてあやうく遺物の盗難事件の犯人にされるところでな。俺は端の方で発掘に関わってただけだってのに」
「そうなんだ……。随分嫌味な刑事が担当してたんだね」
「まったくだ。ちょっとそいつの愛人に手を出したからってなぁ」
「前言撤回。自分で付けた火種じゃねえか。火遊びはお手の物じゃなかったっけ?」
「だから収めるために言ってやったよ。『俺が盗んだのは彼女の心だけだぜ』ってな」
「油注いで焼かれに行ってどうすんだよ」
こいつ本当に、まともに取り合うとこっちが損をするタイプだなぁ。
用を足したあともアンナを待って、最近あったツイてなかった話で会話が弾んでいる。
「決闘してた時もそうだけど、自分から危ない橋を作って渡るような真似してない?」
「そうか?どうなるか自分でもわからない方がスリルがあって面白いだろ。決闘も人生もな」
「スリルねぇ……じゃあこんなのはどう。しっかりデッキから抜いて家の棚にしまっておいたはずのカードが、何故か二枚もデッキに混ざって初手で引いちゃうのが度々起こるとか」
「待て。話の方向性が違うんじゃないか?」
「意味わからなくてゾクゾクするを通り越して笑えてくるでしょ?」
「怖がらせたいにしても、もうちょっと反応に困らないホラーにしてくれよ」
「いや怪談とかじゃなくて。これチャーリーと決闘してた時の話だからね」
そして、その時だけという訳でもない。
抜いたはずの【スパイク・イーグル】とまた【モンキーボード】が邪魔しに参ったとばかりに顔を出した時は、スリルとか通り越して決闘中にカードを山の彼方へ放り投げたくなったからな。
今日は【凡骨融合】の少年や【異次元の偵察者ビート】の少女の時も同じことが起きたし。
「マジか……なんかに呪われてるんじゃないのかヤー坊」
「洒落にならないからそういうこと言うの本気で止めて」
自分で気づいていないだけで「決闘で……笑顔を……」と言い続けるもう一人の僕的な相棒霊が憑いてることを想定しなければならなくなる。決闘で除霊できるのかもしれないけれど、残念ながら決闘霊媒師の知り合いはいない。決闘者で幽霊っぽい人とは知り合う予定はあるが。
「あースッキリしたー!」
洗った手をプラプラと振りながら清々しい顔のアンナがトイレから出てきた。
その手をTシャツにゴシゴシこすり付ける彼女へ、持ってきたハンカチを差し出す。
「服で拭わない。ほら、使いなよ」
「別にいいじゃんか……借りるけどっ」
「それだけじゃないよ。全然知らない所で近道しようとして迷うとか、あそこに俺たちが来なかったらどうする気だったのさ」
「うえー……キャンプ来てまでお前の小言聞きたくねーよー」
戻ってきたので早速帰るか……なんて言うと思ったか。嫌だろうと聞かせるぞ。
キャンプ場内だからと夜の山を舐めてかかって遭難したらどうするんだ。本当に危ないからな。
「まあ待てよヤー坊、何もなかったんだから良いじゃないか。そういきり立つなよ」
「そーだそーだー!」
「甘やかすな。何か有ってからじゃ遅いんだから」
アンナは味方をしてくれるチャーリーを盾にするように背中へ隠れ、いーっ!と歯を見せてこちらを威嚇してきている。黙っててくれチャーリー、今は真面目な話をしてるんだ。他に怒る人がここにいない以上、俺が叱るしかないだろうが。
「……ま、でも危ないことしてたら心配になるもんだよな」
「おいオッサン、裏切るのかよ!?」
俺とアンナの間で、やれやれと笑っていたチャーリーが何かピンと閃いたような顔をしたかと思えば、急に逆のことを言い出した。なんか怪しいけどその方が助かるし良いか。
「そうだよ。だからこんなに怒ってるんだ」
「大事な相手を気にするのは仕方ないよな」
「そうそう」
「しかも女の子だ。一端の男として守りたいのは当然だな」
「そうそう」
「で、ヤー坊。お前がそんなに怒ってる理由はなんだ?」
「だから、アンナが大事な女の子だからに決まってるだろ」
「……ふぇ?」
大事な友達、しかも女子にはヒドイ目にあって欲しくないと思うのは普通のことだろうに。
何を言ってるんだ。
………ん?今なんかニュアンスがやや違うこと言わなかったか俺?
不審になって顔を上げると、ヒューと口笛を吹くしたり顔のチャーリーとその後ろでプルプル震えながら茹だったように頭から煙をだして顔を伏せるアンナの姿があった。
…………うん。見なかったことにしよう。どうやって煙出してるとかツッコんでられないし、点滅する電灯のせいで赤面した顔もよく見えなかった。
「えーと、だから……心配だからもう止めてね」
「………………ぉう」
なんかもう怒る気を削がれてしまったので適当にまとめると、アンナは下を向いたまま消え入りそうな上擦った声で返事をした。
「じゃあ、お二人さん。明日も早いんだからとっとと戻って寝るとしようぜ」
既に歩き出しているチャーリーが朗らかに促してくる。おい、この空気なんとかしろよ。
どうしようもないので、その後ろを二人でついて歩くことにした。
「結局お前、どっちの味方してたのさ」
「決まってるだろ。女の子の幸せの味方だ」
「そりゃあ立派なことで」
「アンナちゃんは素直みたいだから、わかりやすいしな」
「……………うるせーよオッサン」
「だから、呼ぶんならできればチャーリーの方で頼むぜアンナちゃん」
クックックと笑うチャーリーを、頑なに俺の方を向いてくれないアンナが小声で非難する。
それ暗にアンナを単純とかバカ正直とかっていってないか?
「しっかし、ヤー坊があそこまで言うとは思わなかったぜ。将来有望だな」
ほっとけ。
もうこれ以上この話題でいじらせないために、話題を変えさせよう。
「ところで、明日の宝探しゲームって懐中電灯って必要なのか?」
「話の舵取りはまだまだみたいだけどな」
「いいから答えろサイコロカーニバル」
「持ってなくて大丈夫だ。中は電気通ってるし、謎解きに必要ならその場所に置いてあるからな」
明日の午前中にやるのは、キャンプ場近くにある遺跡の中で行われる本格的な宝探しゲーム。
いくつかあるルートを班ごとに選んで、用意された問題や仕掛けを解きながらルートごとに置かれたお宝を手に入れて脱出するまでを競争するそうだ。
説明してくれた遊馬先生が、今年で全ルート制覇できそうだぜ!と息巻いていたのを覚えている。
一馬さんは専門家として……というかその遺跡を発見したチームの一員だったらしく、当時の状況を知る人間として案内者たちのまとめ役や緊急時には救助の先導を務めるそうだ。
「ヤー坊は特に楽しめるだろうさ」
「ああ、宝を見つけたらカードがもらえるっていうのは遊馬から聞いてる」
宝はカードとお土産屋のストラップで、終わったら豪華特典としてそのままもらえるらしい。去年のカードは【サイクロン】だったという。俺のキャンプ参加の決め手だ。この世界においてもレアカードでもなんでもないが、俺は持ってないからそいつをこっちに寄越せ……!
「それもあるけどな、それだけじゃない」
「他にも何かあるの?」
「その遺跡にはデュエルモンスターズみたいな伝承があるんだよ。決闘者なら壁のレリーフまで楽しめるだろうさ。特にお前みたいな決闘バカはな」
ああ。そんな話も一応聞いてはいる。でも、この世界ならそんな場所いくらでもあるだろう。
それに明日行くのは
十年近い時間でとっくに調べつくされて、数年前からレクリエーションに使うことまで許可されているのだ。
そもそも遊馬先生が何度も来てるのに今まで何もなかったんだから、危険などあるわけが無い。
次回「ユウヤ倒れる」デュエルスタンバイ!
明里さん関連のせいか割と人気が無いライフイズカーニバルさん投入。
変なこと教えに来るちょっと素行の悪いあんちゃんポジがいると今後の話でちょっと助かるので……。
やっぱいらないかなと思ったら今回限り。