何とか年内に更新したい欲望によってちょっと予定を変更した結果、ユウヤが倒れない・年末なのに落ちない・突貫ではさまる準備の超短編という不具合が発生しました。
非力な私を許してくれ……。
その夜、アンナは眠れずにいた。
―――アンナが大事な女の子だからに決まってるだろ。
「……………へへ。えへへ」
アンナの寝袋からはにかんだ笑い声が漏れている。その顔には締まりがない。
テント前でユウヤとチャーリーと別れ、そのまま自分の寝床に潜りこんだ後のこと。
先ほどは突然であまり頭が働かなかったので、大した反応はできなかった。だが、横になっているとユウヤから言われた言葉を思い出して、それがぐるぐると頭を回って止まらなくなった。
暗い中で迷ってちょっと、本当にちょっとだけ怖かった時に、好きな男の子が来てくれた。
その子から大事だと言われた。
アンナは顔が熱を持ち始めたことに気づき、それを隠すように頭ごと寝袋へ突っ込んだ。彼にしがみ付いた部分が妙に暖かくて、パタパタと音を出しながら寝袋の中で足が宙を漕ぎ始める。
そろそろ寝なきゃマズいと思いつつも、嬉しさと興奮と気恥ずかしさがない交ぜになった感情が、眠気を遠ざけてしまう。そしてまた彼を思い出す。
―――アンナは大事な女だからー。らー。らー。らー……。
「ふへへ……えっへへへへ」
そうしているうちに、過分に美化されたユウヤが若干異なるセリフを吐き出した。
頭を回るうちに想起が妄想へ暴走を始めると共に回す足は速く、音は大きくなり―――。
ゴスッと、寝袋の外から軽く叩かれた。
「ふぐんっ……!?」
「…………アンナちゃん、うるっさぃー……」
アンナが思わず寝袋から顔を出すと、隣で寝ていたアンナと同じ班の少女が不機嫌そうに睨みながら苦情を告げてきた。アンナが悶える音で目を覚ましてしまったようだ。
「……わ、悪ぃ」
「……」
少女はアンナの謝罪を聞くと満足したのか、そのまま反対側へ向いて再び眠りだす。
そしてアンナは、さっきとは別種の恥ずかしさで熱くなり、再び顔を寝袋にうずめた。
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「んお。アンナおあよー」
「おっ!?…………お、おう」
翌朝。
アンナが顔を洗いにテント近くの水場へ行くと、歯を磨いていたユウヤと鉢合わせた。
隣の子に叩かれたあともしばらく眠れなかったアンナは案の定寝不足だったが、不意の遭遇に眠気が少し飛んでしまった。対するユウヤは半開きのうろんな目のまま歯磨きを早々に再開している。
昨日の出来事と、寝起きを近くで見られたくなかったので、アンナは油を指しそびれた機械のように鈍くぎこちない動きでユウヤから距離を取って洗顔を始めた。
「アンナ、あの後眠れたー?」
「……全然」
「やっぱり?一度目が覚めると中々寝れないもんだよね。テントだし。今日も色々やるらしいからお互い気を付けようか」
寝不足の元凶が半分寝ているような声で、アンナを気遣ってきている。
その平然としている様子が、彼女の寝不足でだるく重い頭に怒りのスイッチを入れた。
「……………お前のせいじゃねーかっ……!」
「え、なんで?」
完全に予想外だという反応で返してくるこの男子にアンナは段々と腹が立ってきた。
こちらはユウヤの言葉のせいで一晩中悶々とさせられたのに、当の相手は何もなかったかのように普段通りだ。自分だけ意識しているようで非常に面白くない。
彼女は怒りの果てに反撃の手段を思いついた。
こうなったらオレもユウヤを大事な男だって言ってやる!
こいつもオレのことが頭から離れなくてドキドキしっぱなしになって、どうしようも無くなれば良いんだ!!―――と。
「ゆ、ユウヤ!」
「おぉ……!?」
うがいも終わって洗面用具を片付けていたユウヤは、声を荒げたアンナに小さく肩が跳ねた。
「オレは、オレは……その!」
「う、うん……?」
自分は実はすごく恥ずかしいことを言おうとしているんじゃないか。
アンナは確実に赤くなっている顔に薄々感づきながらも、絶対に言ってやるという強い意思がブレーキを踏みつけることを拒んで止まらない。
「だから、お前を大……!」
「お?早いな、お二人さん」
意を決して伝えようとした言葉の続きを、急に湧いたチャーリーが遮った。
「ふん!!」
「ドゥグオブ!?」
「チャーリィー!?」
アンナは目の前の邪魔者へと、明里に弟子入りして教わったばかりの正拳突きを腹に打ち込む。
運悪く、近づくまでアンナたち二人を視認できず、かつその状況をまったく理解できていなかったチャーリーは、予想外の拳をモロに受けるハメとなりその場に沈んだ。
「この!この!」
「もう止めろアンナ!チャーリーのライフはもうゼロだって!」
「はーなーせー!!」
崩れ落ちたチャーリーへ追撃をしようと暴れるアンナを、ユウヤが羽交い絞めにしてなんとか止める。
「あ、明里のパンチより効いた、ぜ…………」
「チャァーリィィー!?」
ガクリと気を失うチャーリーを前に、ユウヤの大げさな嘆きが朝っぱらのキャンプ場に響いた。
その後、目覚めたチャーリーに揃って謝るアンナたちの姿があったという。
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察しの良かったチャーリーは笑って許したが、そうではないユウヤに暴力反対!と散々叱られた。
その後もめげずにアンナはユウヤに大事宣言をしようと、二人で話せる機会を伺っていた。
しかし……。
「ユウヤ、さっきの話で……」
「ユウヤ兄ちゃん、決闘しようぜー!」
「お、よーし相手になるよ!今度は負けないぞー」
「へへーん。おれのほうが強いからむりだって!」
最初は後ろから声をかけようとしたところを、正面から駆けよって来た年下の子にかっさらられ。
「アンタらホントにデュエル好きね。普通、キャンプにまでカード持ってくる?」
「持ってないとなんか落ち着かなくて……なぁ鉄男」
「だなー。決闘者はみんな、なんだかんだデッキ持って来てるしな」
「その連帯感、わっかんないわねー」
デュエルが終わるまで待っていたら、鉄男や明里と話を始め。
「ユウヤ……」
「ユウヤくん、昨日借りた……飛ぶ無線機?っていつ返した方が良い?」
「そういえば小鳥さんに渡したままだったっけ。うーん……昨日みたいなことが起きても困るし、キャンプ中はそのまま持っててもらって良い?」
ちょっと行ってたトイレから戻ると、小鳥との会話に割り込めず。
「遊馬、プチトマト食べられないからって服のポケットに突っ込んじゃダメだって……」
「か、隠してねぇーって!ちゃんと食ったんだよ!」
「そう?確かにお皿の上に何にもない。きれいに完食してるね」
「そーだって!ほら俺、早弁早グソは超得意だからな!」
「本当に何にもないね。…………お前プチトマト、ヘタごと食べたの?」
「ギク……!?」
朝食時にはユウヤが遊馬を構っていたせいで話せず、ついでに自分はヘタを取って隠し。
「ユウ……」
「すいませーん、そこの人ー。カード落としましたよー!」
「あん?……おう、確かに俺のだ」
「良かった…………あれ?このカード、何にも描いて…………?」
「オイ、ガキ。他人のモンをジロジロ見てんじゃねぇよ」
「あ、すいません、どうぞ」
「……チッ」
食後は、ユウヤが落ちたカードをスキンヘッドのチンピラみたいな男まで届けに走り。
「ユ……」
「チャーリー。そろそろ集合時間だって明里さんが呼んでたよ」
「ちょっと待てヤー坊。あの桃色の髪の人と仲良くなってくるまで……」
「そんな時間ないよ。ほら行くぞー」
「俺なら短時間で行ける!くそ、俺としたことがあんな美女がいるのを見落としていたとは……!……止めろヤー坊、引っ張るなって!素敵な出会いが遠退いて行くー……!」
最後に、ユウヤが仕事サボってナンパしようとする男を引きずっていくせいで、班行動になる時間まで結局二人っきりにはなれなかった。どうしようもなさに、アンナは普段のユウヤのように手膝をついて崩れ落ちたくなった。
こうなるなら途中でユウヤを無理矢理引っ張って告げてしまえば良かったと悔やみ、それじゃまるで告白するみたいだからまだ照れ臭くてヤダと思い直した。
しかし、そんなことでアンナが諦めることは無い。
彼女の中に一度決めたことを簡単に曲げるような、ぬるい根性はないからだ。
隙をみて今日中に必ず言ってユウヤを困らせてやる!とアンナは新たにした決意を、とりあえず心の隅へ追いやって、今日の宝探しゲームに勝つぞと気合を入れた。
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―――同時刻、キャンプ場周辺にて。
「いやはや……遠方からご足労いただき感謝いたしますよ」
「めんどくせえ場所に呼びつけやがって……暑いわ山ん中で不便だわ、ガキだらけで鬱陶しいわで最悪だぜ」
「すみませんねぇ。ここは私の“研究材料”を集めるのに、時期も含めて最適の条件を持つものですから……」
「ハッ。アンタの事情に興味なんてねぇよ。んなことよりその分報酬は弾んでもらうぜ?なにせ俺の仕事は安くねえからな」
「ええ、ええ、それはもちろん。では前金代わりと言ってはなんですが……こちらを」
「おいおいおい、こいつは……!」
「ククク……あなたのお仕事に大変役立つと思いますよ」
「この……【No.】は、ねぇ」
需要があるかはわかりませんが、要するにひと夏の冒険ならぬひと夏の決闘をやりたいがための溜め。
関係ないんですが最近、TFSPのイシズ編をまたやりました。
いや、全然関係ないんですけどね?