魔王と勇者の戦いから数十年。
とある世界のとある国。
金持ちな貴族が多く、大陸の経済の中心とも言われている国であった。
其処では
奴隷は他国より商品として運び込まれる。貧しい者、戦に負けた戦奴、没落した貴族。それらが身を売り売られ流れ着き、その国の労働力となっていた。
ある奴隷は幸福にも裕福な貴族に買われ、その貴族の使用人して仕えた。
また、ある奴隷は優しい貴族に買われ、働かせて貰いお金を頂いて自分の故郷に帰った。
また、ある奴隷は不幸にも悪辣な貴族に買われ、いたぶられ弄ばれ最期には死に至ったと。
そんな善も悪も混沌とした国のとある屋敷のお話。
始まり始まり~。
僕の名前はキシリム・ストローク。この国で権力と財力のある貴族の中のストローク家の長男で8歳だ。友達…というか貴族付き合いでの
「よぉ坊主、今日も御主は暇そうじゃのう。」
「…………。」
僕の奴隷はそう言う。奴隷は漆黒のように黒くボサボサの長髪で長身の女だった。まるで獣みたいなボサボサの髪だったが艶があり、顔は貴族であれば誰もが目を引いたであろう美貌があり、胸も大きく、女性の誰もが妬む程のスタイルの良さがあった。だが奴隷だ。
胡座をかいて床に座るソイツは、一目で分かるボロい布を纏い、首に逃げられぬよう一般の奴隷とは違う特殊合金の首輪に鎖、其処から延びる繋ぎ止め(だった物)の塊を振り回しながら床に置いた水飲みの皿を豪快に飲み干した。
上品の欠片もない。奴隷だからしょうがない。しょうがない…が……
「その坊主って呼ぶのは止めろ!キシリム様か御主人様って言えよ!」
そうコイツだ。主従関係だの立場だの無関心なんだ。服従するべき僕を坊主だ小僧だ。とからかってくるんだ。
「まだまだ駆け出しの小僧を坊主と呼んで何が悪い。ガキと呼ばれないだけマシだ。寧ろ餓鬼の方に失礼だ。」
「ッ…この!」
頭にきた。僕は椅子から立ち上がり馬用の鞭に似た奴隷用の鞭を取り出して奴隷に降り下ろした。奴隷は見向きもせず水を飲みながら掌で受け止めた。
「……直ぐに手を出すのはイカンぞ坊主。」
「クッ!……このっ!このっ!」
僕が何度も鞭を降り下ろすが奴隷は痛がる様子はなく掌で受け止めている。
「このっ!……あれ?鞭が無い。」
「…探し物はこれかの?」
いつの間にか降り下ろした手には鞭はなく、奴隷は鞭の先を摘まんでいた。しかもこれ見ようがしに「ほれほれ~。」と揺らしている。
「返せっ!」
「ほいっと!」
僕が鞭を掴もうとすると奴隷は鞭を有らぬ方に持っていく。もう一度掴もうとするとまた有らぬ方へ。とうとう奴隷は立ち上がり鞭を僕の身長より高い方へと持っていってしまった。
「返してよ!奴隷が主人に逆らうなよ!」
「ハッハッハッ、勉強も良いがたまには運動せい。それもうちょい高く跳べば届くぞい。」
僕が跳び上がるが何度やってももうちょっとの所で手に届かない。今度は力一杯溜めて跳び上がると手に届いた。が掴む瞬間、奴隷は鞭を更に上に上げた。って返す気無いだろっ!!
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
「何じゃもうへばったのか?ちょんちょん。」
膝に手を当て息を吐いていると奴隷は屈んで鞭の持ち手で僕の頭を突っついてきた。更に腹が立った。
「このッ!」
「ハッ、惜しいな。」
いい加減鬱陶しいから鞭を手で払おうとすると、またヒョイッと奴隷は鞭を上げる。当たらずに僕のストレスが降り積もる。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!もう、どうしたら鞭を返してくれんだよ!」
僕は怒りを露にすると奴隷は溜め息を吐いた。吐きたいのはこっちの方だ!
「返して欲しくばちゃんと言え。」
「偉そうにすんな!お前は僕の奴隷だろう!僕の言うこと訊けよ!」
「我から見ても御主は態度の悪い小僧だ。言う事を訊かせたければ態度で示せ。良い番犬でも無視して胡座かいて昼寝するだろうよ。」
「むっぐぬぬぬぬぬ~…。」
埒が空かない、このまま怒りに委ねたいが同じようになるだろう。取り敢えず我慢して対応を変えよう。だがどうすれば良いか分からない。
「……どうすれば良いだよ。」
「…何をして欲しいかちゃんと言え。誰に、であるぞ。」
呆れ目、だがその目は真っ直ぐ僕を見ていた。僕はイライラするが何故かその目に言ってやろうと怒りを押さえ込んで言った。
「…鞭を返せよ、奴隷。」
「はい駄目じゃ。」
僕はキレた。
「だあ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁ!!何だよ、ちゃんと言ったじゃないかぁ!何が不満なんだよ!?」
僕は怒鳴り散らす。僕はちゃんと言った。なのに『違う』と言われた。いったい何処が違うのか僕には分からない。
「名前じゃ…教えたであろう。」
「なっ!?」
名前…それを言わせたいのか?いつの間にか怒りが湧いてこず、その代わりに顔が熱くなっていく。何故だか分からない。
「奴隷なんぞ、この国には幾らでもいる。区別が必要だ。ならば名を呼んだ方が良かろう。」
「で…でも、それは…。」
「ふむ、それじゃこの鞭でこれからも突っついてやろう。新しいの買おうとも突っつきまくってやろう。」
「ッ…わかったよ。」
正直言いたくない。でも此れからの苦労を考えれば此処で僕が折れればいいんだろう。が正直言いたくない。
「鞭を返してくれ、……る…ルビア。」
すると奴隷…ルビアは満面の笑みをして鞭を僕の前に差し出し僕は受け取る。そして僕の頭を撫でてきた。
「…そうそれで良いのだ坊主。」
「…奴隷が僕の頭を撫でるな!あと僕の勉強の邪魔をするな!いいな!」
「はいはい…。」
僕はルビアの手を払い、テーブルに付き直す。ルビアはそのまま素っ気なく答えると、何も言わず何をしているか分からない。只、テーブルに座ってからも僕の顔は暫く熱かった。
分からない事ばかりでモヤモヤする。
━━━━━
僕は一人で窓を眺めていた。さっきまで偉そうにしている
父様はホントに大変だ。回りの顔伺いながら金回しだ。ホント、何故偉そうに生きようとはしないのか。
「……━…━…~い、お~い坊主、聞いておるか~?」
「!?…なんだお前か。」
いつの間にか奴隷、ルビアが背後に立っていた。今一瞬心臓が跳び跳ねた。
「野暮用ができたのでな、御主も行くか?」
野暮用、それは主に奴隷店関係の事だろう。つまり外へ行くという事。
「いや、僕は行かない。さっきまで顔伺いで疲れた。」
僕は再び窓の外を眺めた。このやり取りは何時もの事だった。
「そうか、なら我は行ってくる。」
「…他の貴族と揉め事起こさないでよ。」
「はいはい。」
そう言って奴隷は部屋から出ていく。
本来はこんなことはしてはいけない。本来はこんなことはしない。それが