ヤンデレ系主人公!?「桜柳絵美里」さんの爆走恋愛論 作:C・S
「私の知り合い……?」
こんな変な列車の関係者なんて私の知ったこっちゃないわ。
「ええ、桜柳絵美里さんですよね」
「なんで私の名前を知っているんですか?」
「あ、いや、その、まあ列車の旅をお楽しみください」
車掌はそそくさと車掌室の扉を閉めた。私の名前を知っているなんて気味が悪いわ。トウヤ君に私のすべてを把握されるのは全く嫌ではないけど、全く知らない人に私の情報を知られるのは全くいい気分がしないわね。
「とりあえず自分たちの座席に戻ろうか」
不気味なほどに揺れが少ないこの列車はただひたすらにトンネル内を走行している。怖いという感情を押し殺すように、私はトウヤ君の手をギュッと握りしめながら歩く。トウヤ君の手はとても温かい。私が握っているからかしら。まあそうだったら嬉しいな。そんなことを考えながら歩き、私たちは元居た車両に戻った。
「トウヤ君、私たち一体どうなるのかしら。とっても心配だわ」
やっぱりこういう時はトウヤ君に甘えるのが一番よね。
もしかしら、嫌がるのではないかと思いつつもトウヤ君の腕に縋りつくと、トウヤ君は抱き返してくれた。やっぱり、トウヤ君は私のこと好きなんだわ。
「なんだろう、僕の憶測でしかないんだけど危ない目には合わないと思うんだ」
「どうして?」
「僕たちが高校に入学してから周りの雰囲気がおかしいと思わない?」
雰囲気がおかしい。確かに高校に入ってからトウヤ君ととってもうまく行っているような気がする。でも、そんなに気になることなのかな。私にとっては全く気にならないどころかむしろとっても嬉しいんだけど。
「何もかもうまく行き過ぎてる」
確かに何もかも行き過ぎている。でも、
「別に私にとっては何も不快なことはないわ。トウヤ君と一緒にいられればそれで私は幸せなんだから」
「……それはとてもうれしいんだけど」
トウヤ君は口ごもりながら言う。するとそれを遮るように、客車とデッキを隔てる扉が開いた。
「車内販売でございます。冷たいお飲み物、おつまみ、軽食などはいかがでしょうか」
先ほどのウェイトレスだ。トウヤ君はウェイトレスが来たからか顔を真っ赤にしている。
「あ、お客様。桜柳絵美里様だったんですね」
「そうですが……何か?」
車掌といいウェイトレスといいなぜ私の名前を知っているのかしら。
「お客様とお連れ様にお弁当の予約が入っております」
すると彼女はカートから弁当らしきものを取り出した。ボール紙でできた弁当箱の中には、チキンライス、唐揚げ、スモークチーズが入っている。
懐かしい。これと似たような弁当を家族で旅行に行ったときに食べた記憶がある。
「このお弁当はだれが予約してくれたんですか」
「それは申し上げられません。」
ウェイトレスは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「列車の旅はまだまだ続きます。何かご用件がございましたらお気軽にお申し付けください」
ウェイトレスはぺこりとお辞儀をして、この車両を去っていった。
「トウヤ君……」
「まあ、お腹も減ったことだし食べようよ」
「まあそうね」
グリーン車の座席は幅が広く、トウヤ君との距離が少し離れている。この車両の座席がロマンスシートみたいなものだったらなお良かっただろうなと思いつつ私は弁当を食べていた。まさかこの旅がこんなに不気味なものになるなんて思わなかった。列車はトンネル内を走行したままかれこれ3時間程経過している。トウヤ君がいなかったらこんな状況絶対に耐えられなかったわ。
「トウヤ君、私から絶対にはなれないでいてくれる?」
私はトウヤ君の手を握る。すると、
「もちろんだよ」
そう言ってトウヤ君は私の肩を抱き寄せてくれた。