ヤンデレ系主人公!?「桜柳絵美里」さんの爆走恋愛論 作:C・S
私の兄は私が中学1年生の春、行方不明になった。
その年は桜の開花が例年よりも1、2週間ほど早かったためか、彼の入学式ではきれいな桜吹雪を見ることができた。校庭の桜の木を見上げながら兄は、
「ほら絵美里、桜の花びらが落ちるスピードは秒速5センチメートルなんだってな」
「どっかのアニメ映画で覚えたような知識ね」
彼はラノベやアニメ、ゲームが好きなまあ所謂オタクという人種のようだった。まあ、私も人のことを言えた立場ではないのだが。
「やれやれ、桜の美しさの情緒ってものがわからないものなのか?」
彼は何を言っているのか私にはよくわからなかった。まあ、そんなことはもはやどうでもよかった。いつものことだから。しかし、先ほどからやたらこっちのほうをじろじろと見てくる人がいる。その視線の主は女子だったのだが、なぜこちらのほうをずっと見ているのだろうかと私は不思議で不思議で仕方がなかった。
「ねえさっきからずっとこっちを見られている気がしない?」
「そんなこといつものことだよ」
彼はいつもこのような視線を浴びせられていたらしい。やっぱり世の中の「女」ってやつは意味不明だわ。私自身も一応女だけどこんなヤバそうな人に魅力を感じる理由が全く分からない。
まあ、こんな感じの私の兄なのだが、なぜ異世界転移でチートハーレムみたいな状況になっているのだろうか。そして、なによりなぜわたしとトウヤ君をここまで連れてきたのかしら。
「はやく言ってよ」
ずっと黙ってにやにやとこっちを見ている兄に私は言った。
「まあそう焦るなって。長旅も疲れたことだろうし、食事でもしようよ。もちろん僕のごちそうだ。ルーム、ペンシル、食事の用意をお願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。ご主人様」
小柄で黒髪のメイドと紫髪のメイドはぴったりと息を合わせて兄にそう言った。
「もうちょろっとしたら食事ができるから待っててね」
どうにも奇妙な言い方だ。ランちゃんはそう言い残し大広間を後にした。
「トウヤ君、とっとと帰りましょう。こんなところに長くいる必要なんてないわ」
早く私は元の場所に帰りたい。せっかくのトウヤ君とのSLの旅行が台無しじゃない。
「まあ、せっかくお食事を用意してくれるみたいだしこのまま帰るのは失礼でしょ」
「それもそうだけど……」
やたらと広い大広間に私とトウヤ君で二人っきり。二人っきりであることについてはうれしい。だが、この訳が分からない状況は何とかしてほしい。私はもっと純粋にトウヤ君との旅行を楽しみたかったんだわ。
「普通の旅行はこれからいくらだってできるだろう。絵美里がいいっていうならどこにでもいくよ。それに、この旅行って同じような経験はもう二度とできないと思うんだ」
「トウヤ君がそう言ってくれるなら」
普通の旅行はこれからいくらだってできる、か。この言葉ずっと覚えているんだからね。
「お待たせいたしました、桜柳様、坂本様」
黒髪のメイドさんが大広間の扉を開けて料理を運んできた。
「なんでトウヤ君の名字を知っているのよ。私はあなたにトウヤ君の名字を教えた覚えなんてないわ」
すると黒髪のメイドさんはハッと驚いたような表情をしたが、くすくすと笑いながら、
「まあ、この世界にはこうして考えられないようなことがよく起こるんですよ。まあ、この世界に限ったことではないかもしれませんが」
なんかこの人列車にいたウェイトレスさんに似ている気がするのだが気のせいだろうか。まあ、相変わらずランちゃんといいそのメイドさんも何を言っているのか分からないわ。
「それってどういう意味ですか?」
トウヤ君から意外な言葉が出てきた。
「そのうちわかる日が来るわ。いいえ、あなたは知っているんじゃないですか。まあ知っていたとしても。失礼、これ以上は私からは何も言えません」
そして黒髪のメイドさんは不敵な笑みを浮かべた。
「なあ、ゆきっ。じゃねえやペンシル。二人をおちょくるのはよしてくれよ」
「ご主人様、大変失礼いたしました」
そう言って彼女はぺこりとお辞儀をした。
「さあ、お食事にしよう」
「えっ、もうできたの?」
ランちゃんがメイドさんたちに食事の用意を頼んでから5分もたっていない。そんなに早く料理を作れるっていうことは大したものではないのかしら。そう思ったのであるが、メイドさんたちがテーブルに並べた料理はそれはもう豪華なものであった。
「ランちゃん、どんな悪いことをすればこんなに豪華な食事を用意することができるの?」
「相変わらず絵美里は失礼だな。僕は何も悪いことなんてしてないよ」
「ご主人様はなんでもできるのです」
したり顔で紫髪のメイドさんが。よっぽど慕われているのね。