ヤンデレ系主人公!?「桜柳絵美里」さんの爆走恋愛論   作:C・S

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あの時は傘、貸してくれてありがとう。

発車ベルが鳴り電車の扉が閉まり、ブレーキ緩解音が聞こえ、列車がゆっくりと動き出した。

学校に行く路線とは違う路線であるためこれから見る景色はいつもと違ってとても新鮮に感じる。そして何より、私の隣にトウヤ君が座ってくれる状況がいつもよりもうんと長く続くっていうのはもう嬉しい限りだわ。

 

と、思ったのもつかの間。最初は三人でべらべらとだべっていたのであるが、だんだんと話す話題が無くなった。モーターの音のみが聞こえてくるこの状況が続くと、次第に心が暗い気持ちになってきてしまうものだ。

 

暗い気持ちになると、どうしてもあの時のことを思い出してしまう…

 

 

 

 

「絵美里、四万十川さんと約束してたんじゃなかったっけ?」

 

それは、学食から教室に帰る途中の道のりのことであった。しとしとと降り続ける雨はまるで私たちを包み込むような感じがしていたのであるがふと現実を思いだす。

 

「あっ、すっかり忘れていたわ。トウヤ君、悪いんだけど先に教室に戻っていてもらっていい?」

 

トウヤ君と一緒にいられる時間が短くなるのは寂しい限りであるがこればっかりは仕方のないことだわ。

 

「僕はかまわないよ。あ、傘はこれをつかって。僕は大丈夫だから」

 

トウヤ君は手を振りながらそう言って私はトウヤ君と別れた。

いったいどんな話だろう。そう不安に思いながら私は四万十川さんのところへと向かう。

 

雨が降り続ける中、四万十川さんはグラウンドの隅のねむの木の近くに立っていた。黒い傘を差して下を向きながら待っている彼女の姿はなぜか少しだけ暗さを感じた。あの傘のせいかと思ったがそうでもなさそうだ。

 

「ごめんね、四万十川さん。待たせてしまって。」

 

「いえ、トウヤ君と学食に行っていたんですよね。」

 

「まあそんなところね」

 

「トウヤ君、最近ちょっと暗いんですのよね」

 

四万十川さんは雨空を見ながら言った。

 

「それは私もそう思うんだけどそれがどうかしたっていうの?」

 

「いえ、これだけたくさんトウヤ君を見ているということをあなたに知って欲しくて言ったのですよ。」

 

確かに四万十川さんはトウヤ君のことを狙っていると以前言っていたことがある。

 

「絵美里さん、私がトウヤ君のことを好きであることは変わらないんですの。どうしても。でも、絵美里さんとも友達でいたいのです。それをずっと両立させることってできるのでしょうか」

 

空を見ていた彼女がその言葉を言い終わったのち、私の目を見た。

 

「そっ、そんなの」

 

分からない。私にそんなことがわかるわけがない。

私だって四万十川さんとは友達でいたい。でも、四万十川さんは私と同じようにトウヤ君のことが好きなのだ。それに加えてトウヤ君も過去にトウヤ君のことが好きだったという。そんな状況で私が四万十川さんにかけてあげられるような言葉なんてない。たとえあったとしてもそこへたどり着くことはできないだろう。どれが正解かさえもわからないのに。

 

「まあ、すぐに出せる答えではないことはわかっていますの。私のトウヤ君のことを好きであるという気持ちが変わらないこととともに、あなたのことも友達であるということも変わらないのですから」

 

「四万十川さん、いつまでも友達でいてくれるの」

 

「私はそのつもりでいますよ」

 

四万十川さんは少し微笑みながら言った。

私はその時、四万十川さんの御嬢様口調はわざとしているのではないかと思った。

 

それはさておき、そんなような出来事が起きてから一週間ちょっとしか経過していない今の状況はやはりまだ、もやもやとしているところがある。

今私の隣で寝ているトウヤ君はどんな夢を見ているんだろう。私が見えない部分ではトウヤ君は何を見ているのか、考えているのかを知ることが出来ないということに、なぜだかものすごく不安を感じる。

 

「絵美里さん、そろそろこの列車の終点に到着しますので乗り換えですの。トウヤ君を起こして準備をしましょう」

 

「あっ、もうそんな時間になったんだ……」

 

「トウヤ君、乗り換えだよ」

 

私はトウヤ君の肩をポンポンとたたき、トウヤ君を起こした。

するとトウヤ君は寝ぼけたような声で、

 

「ここはどこだ?」

 

「最初に乗った列車の終着駅よ」

 

「もうそんなところまでついたのか」

 

大きなあくびをして網棚から荷物を取り出すトウヤ君。

トウヤ君の動きの一つ一つが可愛いわ。

 


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