tsプロゲーマー配信者なぎちゃん 作:ヲタクフレンズ
司が日本に滞在してから早くも5日目ぐらいになる、休養で日本に帰ってきた訳じゃないから忙しそうに転々とどっかに行ってるけど、暇を見つけてはわたしに電話したり会ってくれたりするので、嬉しい。
初菜はまだ帰ってきてない、連絡には出てくれるし、司が来るとわたしがわかった瞬間に電話をかけて来るので何かあった訳ではないと思うけど……ちょっと心配、それを上回るぐらいに怖い。
まさかと思うけど、盗聴器とかつけられてないよね、GPSとかつけてないよね?大丈夫だよな、大丈夫ダイジョウブ……
三音との仲も良好だ、近いうちにまた来ていいか聞かれたので、勿論承諾した、今度は三音と一緒にゲームでもしたいと伝えると、練習してきますわー!との事。
「……一ヶ月前とは大違いだ」
そして、まだ一ヶ月しか経っていないんだ、わたしのメンタルの成長に我ながら自慢したい……って言っても、まだ人見知りが完全に無くなった訳じゃないと思うけど。
広告も付けられるようになりそうだし、ここ数日で企業さんから色んな話を貰って、これが定期的な収入になるのなら、わたしは一人でも生きて暮らせる事になるのかな。
完全に自立出来たと思った時、わたしはどうするんだろう?……まだ先のことがわかる訳ないか。
「日本海の海底庭園にてテロリストの襲撃が発生、赤城財閥の迅速な行動で死者0人、怪我人0人か……物騒だな、でもさすが三音だなぁ、公の場ではどう言う人なんだろう?」
っと、こっちの記事はなになに?
【我等が教祖たそ、日本に来日!】
説明は不要でしょうが、ゔぁーちゃる教団の女神、教祖たそで有名なフィリス・リーベルフィール様じゅうよんさいが日本に遊びに来てくれました、これは本当に大変嬉しい事です。
まさか、ゔぁーちゃる教団とはなんぞやと言う人が居るはず無いでしょうが、そもそもゔぁーちゃる教団とは「きのこ派かたけのこ派か」、で大規模ないざこざの末に、大きく二つに分離。
大手データ輸送会社と、全人類管理データベース『ALICE』を崇拝する教団に別たれました。
でも教祖たそを思う気持ちは何一つ変わらないよ!是非日本を楽しんでね教祖たそ!ゔぁーちゃる教団本社に来たら好きなだけ飴ちゃんをあげるよ!
あ、ちなみに教祖っていうのは教祖たそが「響きがなんかかっこいいです!」と自分で命名して付けたあだ名でして、宗教・宗派をひらいた人ではないです。
「はえ〜〜……確かに教祖って響きかっこい、い?うーん?」
まぁ、詳しく見てみるとロシアの方から来てくれたみたいだから、日本を楽しんでくれると嬉しいな。
……なんでロシア?検索してみよっと。
「たけのこは一度負けた、だがロシアの大統領はたけのこ派だった、ならもうここで教団活動するしかない、ついでに日本の外交もしよう、そうしよう」
はい、うん……理由が可笑しいよ、なんでこうもギャグにギャグを重ねた後にブランデーとチョコレートで味付けしたみたいになってんだよ、てかついでに外交するなついでに!
まぁ、平和なのが一番だけどさ。
「……思い出したくない事には蓋をしよう」
今日は忘れててやってなかった五万人記念を今日しようと思う、ついでというか、都合が良い事に、前にSSS社から届いた案件の曜日が決定したので、それを宣伝するのに使わせてもらおう。
せっかくの記念だから、VRゲームをしようと思う……それで何のゲームをするかつおったー+で募集をかけたところ、アンケートの自由枠がホラゲーで埋まった。
8回ぐらいやり直したけど結果は変わらず、ホラゲーを享受しろかの如く押し付けて来たので……今からでも急な用事が出来てほしい限りだ。
いやなんだよ、ホラゲー、VRのホラーって直接襲いかかるようなゲームじゃなくて、音とか奇怪なオブジェとか、おばけとかで脅かすから本当に怖い、何も居ないはずなのに腕が掴まれる感覚とか。
「うう、今考えてどうすんだよぉ……」
いやだなぁ、確かに最近はよわよわなぎちゃんは見せてないかもだけど、って、別に見せる義理なんて無いけど!
「VRか……」
実は配信用ナゲット君はSSS社から今後も使うからと譲り受けている、わたし贔屓が過ぎるんじゃないかと思うが、ナゲット君は経済的コスパが良いからなぁ、作ろうと思えば簡単に作れるんだろう。
でもこれは光栄な事だ、VRに存在出来る配信用ナゲット君は企業さんの所を除くと今現時点でわたしが把握している中で数十人、身近で言えば狩人先生とかの一部の配信者しか所持していない。
その中の一人にわたしがいるのは、結構自慢できたりする。
「別に威張ったりはしないけどさ」
何気無しに、パソコンの横に置かれた特別な機器、確か名前は……そう、『Presenza di elettroni=Moon Program』
特別に発注して作ってもらった物だが、このモデルにMoonタイプなんてないので、確実に他の人が使うモノとは違うと断言出来る。
じゃあ何が違うかって言われると、姉しか知らないのだけれど。
「あーVRホラーこわいなぁ……誰かわたしの代わりにやってくれないかなぁ」
なんて呟いてみたり。
☆
わたしの映っている画面を見る、赤のベレー帽とロングパーカー、手首に初菜のくれた御守りを付けたわたし自身だ。
今後、VRに飛ぶ時は基本的にこの格好で行こうと思う、私似合ってるし?……や、自己投影って結構疲れるんだこれが、全身全てが電子に反映されるまでずっと同じポーズ取らないといけないし。
5分ぐらいなら全然良いけど、生身と何ら変わらないまでの自分を再現するとなると早くても15分ぐらいはかかる、仕方ないんだけどね。
「配信は向こうにつけば自動的に始まるよう設定したから……おっけ、準備完了です」
それじゃあ行くか、
ーー擬似電子体総合プログラムを開始します。
ーー肉体と精神の統一を開始します。
ーー電子体へのアクセスを始めます。
ーー適合を完了しました。世界への適合を開始します。
ーーエンドレスエタニティへの接続を開始します。
ーー全行程良好、擬似工程クリア。
ーー全行程完了。配信を始めます。
ーーいつか凪沙様と話せる日が…いえ、頑張って下さいませ。凪沙様
やけに不気味なぐらいに静かで、嫌な空気が流れ今にも何かが湧いて出そうだ。
目開ければ、道路の壁に寄りかかって居たわたしをナゲット君が見つめていた。
「……おお、なぎ民達ー、配信出来てる?わたし見えてる?」
『出かわ』『かわいい』『5万人記念VRホラーだー!』『うおおおお!』『やったー!』『よわよわなぎちゃん?』『ざこざこなぎちゃん?』『ホラーと聞いて』『こんなかわいい子にホラーさせるんか!(歓喜)』『楽しみ』
「よしよし、コメント見えてるぞー?ってかまだ怖がってないだろ!……今日やるゲームはエンドレスエタニティです」
説明しよう!エンドレスエタニティとは、SSS社考案、ホラー専門VR会社おばけやしき社と合作した探索ホラーVRゲームなのだ!
深い暗闇と霧に包まれた一つの街の原因を突き止め、解明し解き明かす……だけなら良いのに、街の影からゾッとするような不明瞭な化け物の影になったり、背後に足音がしたり、振り向くと背後から笑い声がしたりと、とにかくこわい!
おばけやしき社は「本気出してないです、出したら死人出ますから」との事、お願いだからそのまま本気出さないで居て!
謎を解き明かしたプレイヤーには良いことが起きるそうだが、そもそもこのゲームをやってる事自体良いことじゃないよ!
「お願い変わって!」
『草』『草』『いつもと説明の仕方が違う草』『こわがりなぎちゃん』『心なしかナゲット君もぷるぷるしてる』『ナゲット君に心はあるのか』『にやにやが止まりませんなあ』『止まりませんなあ』『げへへへへ』『なぎちゃん…窓に!窓に!』
「窓なんてねぇよ!……ふー、まぁいざとなればわたしの俊敏な足で逃げりゃ良いんですよ、はい……わたしの味方はナゲット君だけだ、いざとなったら生贄になってね」
『草』『嫌そう』『首振ってるぞ』『機械いじめだぞ』『コンプラ問題だぞ』『ナゲット君に罪は無いぞ』『なぎちゃん、取り敢えず進んでみない?』『どれぐらいまでやんの?』『視聴者2万人おめ!』『よわよわこわがりなぎちゃん見たいんやなぁ』
う、悲しそうな目で見るなよ……冗談だよ、って2万人?複雑だよ……怖がる女の子は確かに可愛いが、当事者からしたらたまったもんじゃねえよ。
「クリアするかわたしの心が砕けるかの勝負だよ、さて立ち止まってる訳にもいかないし……よし、行くぞナゲット君!取り敢えず進んでみよう」
てくてくと歩く……こうしてみると普通の街、っていっても、車の通りもなければ人影も居ない、街にはわたし一人だけなんだけど、これはこれで、厨二心が擽られる。
「人もAIも居ない深夜に道路に立つとなんか、こう、わかるでしょ?」
『わかる』『わかる』『テンション上がる』『危ないぞ』『最近は深夜でも警備AI多いから出来ないね』『うーんナゲット君そこ変わって』『てかVR空間のナゲット君持ちって凄いな』『あー確かに』『もうSSS社のアイドルやろ』『否定はしません』『出来ません』
「貰った訳じゃないけどね、んー?なぎちゃんにずっと付いていきたい?可愛いやつだなー」
と、衝動的にナゲット君を撫でようとした時、その手をぐいっと掴まれた。
突然のことで何の抵抗も出来ないのでその勢いのまま地面に倒れそうになるのを、何とか回避する。
「っ……!これが見えない手って奴?はっ、地味な奴だな、わたしを怖がらせたいならーー?!」
と言いかけた所で、口を押さえられる、引き剥がそうと手を動かしてもビクともしない、次は目を隠される、息は出来るから苦しく無い。
肩を掴まれる、腕を、手首をーーや、やめて……やだっ!
「ーーぷはっ!はぁ……う、うう。何なんだよクソ」
唐突に解放されると、目の前にメモが落ちていた。
「なにこれ、ナゲット君わかる?」
『涙目なぎちゃん』『こわい』『ふぅ…』『おぱんつ見えないお……』『いけない気持ちになってきた』『怖かったです』『今のイベント固定?』『ランダム』『これ実際凄い怖そう』『なぎちゃんあのまま倒れてたら押さえつけられてたのか』『ほう』『ほう』
ほうじゃねーよ、のけ民にするぞあほばか。
「なぎ民ならもっとわたしを心配してよ……読むよ?」
このメモを見てるということは、この街に来たと言う事になる、なら私から言える事は一つだ、解決しろ、それしか道は無い。逃げ道は何処にもない、永久に繰り返すだけだ……か。
『エンドレスってそういう』『ふーん』『考察長文しようと思ったけどやめたわ』『まぁ専門のスレで書いてくれ』『未だに全ての全貌は解けてないんだよなぁこのゲーム』『シナリオって誰考案?』『SSS社のえらいひと』『パパは書いてないです』『あんたはパパじゃないぞ』
いや、狩人先生もパパじゃないからね、畏れ多いし、恥ずかしいし。
「解決しろって言われてもねー、ヒントも無しに出来るかよって話さ、ナゲット君、なんか当てある?……ないか」
またてくてくと歩く、さっきより周囲を警戒しながら……正直、同じ場所をぐるぐる回ってるように思うのは、霧のせいなのか、それとも何なのか。
「あ、壁に道があったりして?」
と、白い壁を押そうとするとするりと抜けて、別の風景が広がる、大きな変化は見られないが先ほどより少しだけ霧が濃くなって、街灯の灯りが付いたり消えたりしてる、目に悪いなぁ……
「わたし、もしかして賢い?」
『賢い』『かわいい』『なぎーちか』『スピリチュアルやね』『パズルは出来ないけどな』『直感A』『迷う人はずっと迷うしね』『常識を疑えってね』『くっさ』『ホログラムウォールだ!』
「パズルの話はするな、んーまた歩けば何か起こるか?、正直さっきのぐらいならビビらないぞ〜〜?」
『イキってきた』『ほんとか?』『フラグ建築士なぎちゃん』『このゲームってゲームオーバーある?』『あるぞ、滅多に無いけど』『なぎちゃん…後ろに…俺が…』
「残念、このVRゲームは一人用です……ねえ気のせい?電柱の影大きくなってきてない?」
夜で見えにくいが夜目が利くわたしの目を信じると、足を進めるごとに電柱の影が大きくなっている気がする……あーやだやだ、ほんとやだ、マジでいやだ、怖えよぉ……
「デモプレイで見たから良いから、影が実体化して追いかけて来るやつでしょ?わたし予習済みなんだよ、ほんとそういうのいいから、いや怖く無いけどね?本当に、勘違いしないでね?そうじゃなくてさ、ほら、ありきたりでしょ、求めてないでしょ?求めてないんです、はい」
『草』『草』『長い』『早口なぎちゃん』『これが自称プロゲーマーですか』『自称じゃないぞ』『いつの間に?!』『なぎちゃん、それは恐怖だよ』『見て見たいです』『なぎ民は求めてるぞ』『求めてるぞ』
「うるせー!わたしは嫌なんだよぉ!」
と、なぎ民に反応したその時、街灯の明かりがタイミング良く消えて、音が止む。
闇が、影が上に延びる、徐々に徐々にわたしを囲むように壁のように伸びていく、やがて実体を持つかのように立体的になっていき、人の形になっていき……ふと、
「っマジふざけんなよ!」
エンドレスエタニティは公平性を保つ為に身体能力を一定化させる効力をVR空間そのものに展開されている、ただそれでも完全に一定化するのは不可能だ。
つまり、上限値に収まりきらないなら話は別で、地面を蹴った衝撃で2メートルある影の壁を超えて光が見える方向に走る。
『?!』『まじ?』『チッ』『チッ』『チュ』『キスするな』『身体能力たっか』『目が良すぎる』『真っ暗になって何も見えない筈なんやがなぁ』『しゅごい、惚れる』『プロハンニキかな?』『このパターンは初』『すごすご身体能力』
「は!、そう簡単にわたしが捕まるとでも?どーよわたしのーー」
そこで、言葉が詰まる、光……いや、光と思っていたものを見たからだ。
まるで濁った泥、いや、水たまりの中に灰色がかかった忌まわしき塊が、絶え間なく身を震わせながらふくらみ続けていた。そしてその塊から多様な形の、分体とも言うべき塊が増え続けて、這いずりながら鈍重に不規則に動く。
わたしが光と思い込んでいたものは、一軒家のごとく肥大化した名状し難い生命の冒涜のような塊で、塊の中心にある無数の瞳のような灰色のデコボコが一点を集中して見ていた。
「ぁ……」
だめだ、これは人が見て良いものじゃ無い、ゲームだからとか、そんな理屈じゃない。
力が抜ける、体を支えている事も出来ずその場にへたり込む、声が出ない。
無数に増え続けてる分体がわたしの存在を認知する、口から出る液体がまるでよだれの様に垂れ続け、地面を焼く。
『草も枯れる』『怖い』『怖い』『うおぉ……』『漏らした』『これマジですか?』『あのバカ会社どうせシステム上抜けられないだろって裏要素に本気出しただろ!!』『布団羽織ったお』『露骨にコメント減ったぞ』
ふと視界に見えたコメントで、少しだけ我を取り戻す。
に、にげないと……!でも、どこに?どうやって?立てないよ、立たないと……!!
ピトっ……と、頬にナニカが付着した。
「ゃ……っ?!」
本体、と言うべき塊の手の様なモノが、わたしの頬を汚す、不快な感触に逃げ出そうとしていた力が完全に脱力し、体を震わす事しか出来ない。
何かを確かめる様な感覚に、目だけは瞑る事が出来なかった、瞑る事をした時が、わたしの命の終わりだと無意識に悟ったからだ。
『涙出た』『怖い』『ヒェッ』『もう無理トイレ』『怖えよ』『おばけやしき社頭おかしい』『俺なら失神してた』『ナゲット君助けて!』『冒涜的過ぎないか?』『VRでこれはキツイ』『ガチホラーにも過ぎるよ……』
頬にかかる汚れに、手に……不浄のモノに、わたしはどうする事も出来ない、声を出そうとしても呻き声のようなものしか出せず、段々と視界が暗く染まっていくのを、漠然と理解し、恐怖が加速する。
しばらく、永遠に感じる時間の中で、唐突に頭に言葉が送られた。
『肉体、精神、存在。魂、或いは在り方。歪、正常?ク……愉快』
「なに……これ」
『伝達。オマエ、気に入った。特別、生かそう』
『我は電子、されど神故。努忘れるな、その身、我を悦ばせ』
脳裏に伝わった直後、幻だったかのように不浄の塊が消える、焼けた地面と不快な感触だけを残して。
『消えた?』『怖かった』『大丈夫?』『大丈夫?』『なぎちゃんもう辞めてもいいよ』『無理しないで辞めていいよ』『生きて』『しなないで』『しなないで』『良い子にするからなぎちゃん生きて』『風呂入ってたらどんな状況?』
「ーーあ、あぁ……しなないよ」
自分の手を見る、他でもないわたしの手だ……さっきのは、幻だったのか?現実だと考えたくない。
「大丈夫、だいじょうぶ、心壊れそうだけど……まだ大丈夫、先進もう」
『無理しないで』『無理しないで』『あー怖い』『目に光がないよなぎちゃん!』『ママ元気出して』『パパもう辞めても良いと思う』『お兄ちゃんも思う』『偽者達の言う通りだよ』『本当も大丈夫?』
し、心配で心が癒される……涙出る、のけ民は居なかったんだね……
『でもさっきの正直興奮しました』『ばかやめろ!俺もだけど』『不謹慎だぞ!RECしたけど』『のけ民共め!その録画僕にもちょーだい?』『最低だわ、俺もそーなの』『えろかった』『わかる』『わかってしまう』『なぎちゃんごめん、僕もです』
「な、な……お、おまえらなんてのけ民だー!!!」
もう知らないっ!コメント機能OFF!これでわたしからみんなは見えない!本当に怖かったんだよぉ?!
「わたしの味方はナゲット君だけ……でもないな、ねえさっき何してたのさ、わたしを助けても良かったでしょ!」
『草』『草』『無理がある』『ごめんなさいするナゲット君かわいそう』『あ、なぎちゃんコメント非表示にしてる』『草』『今なら告白し放題では?』『お前、有能』
「……よし、なんとか歩ける、進むよ」
アレが居た先に向かう、不思議な程静かで、不気味で、だけれどもわたしの直感を信じるなら今後しばらくは何にも襲われないと判断した。
10分ぐらい、その間に何もなく足を進めて行くと、屋敷のような場所に辿り着いた。
「ここは……多分、さっきの影に連れられてここまで来るんだろうなぁ、本当は」
はぁ……怖がり損じゃ無いかよ、ちくしょう……恐怖から逃げたらさらなる恐怖とか誰も求めてないから、洒落にならない怖さだったから。
「よ、よし、入るぞ?入るからな?覚悟はいいな?わたしは出来てる、何が来ても驚かない」
『覚悟は出来たか?』『俺は出来てる』『変な汗出て来た』『並大抵のならもう驚かんわ』『なぎちゃんを助けて』『助けて』『つおったーで自由枠にホラゲー投票した87.56%のなぎ民、見てるか?』『反省してます』『もうしない』『あれ、屋敷って正規ルートだっけ?』『え?』『ん?』
「お、お邪魔しまーす……」
恐る恐る屋敷の扉を開ける、ギィィと呻る軋んだ嫌な音に不安が加速するが、強烈な一発を貰った今のわたしにそれだけで止まる精神ではなく、屋敷の全貌が見えて来た。
一般的、というのもおかしな話だが、ぱっと思いつく屋敷の内装をしていて、変なオブジェがある事もなく、少ない灯りが点いている。
「ーーこんばんわ」
耳元で声がした、ビクッと体を震わせて、瞬時に離れて背後を振り向く。
「……おん、な?」
「はじめまして」
外に出ていないのだろう、目元が見えないまでの白い髪に、不自然な程に肌を見せない黒いドレス、不健康さを思わせる肌白い手を見て、嫌な予感がした。
「……幽霊か?」
「正解」
「より正確に言えば地縛霊の類だ、そうだろう」
「あら、見ただけで分かりますの?不思議な方」
「霊っていうのは自我が薄い、強力な自意識、或いは恨み、後悔が強いほど……実体に近い」
『洞察力A』『凄い』『勘が鋭い』『こういうのには強いのか』『手震えてるしそうでも無いと思う』『つよがりなぎちゃん』『かわいい』『鳥肌が止まらないです』『さっきみたいなのは辞めてくれ……』
ーーどうする?
案外話せる、平和的に話すのも手だが地縛霊は死霊、悪霊に近い。最悪な事に扉の前に霊がいて、脱出は難しい、逃げることは難しいだろう。
「なぜ此処に?」
「……この街を解放する為」
「解放とは、また……困ります、この夜が無ければ私は此処から消えるでしょう、命が消えると知りながら、それを許認出来ますか?」
「ならお前は何を望むんだ」
「望むものと言われたなら、この街の永遠の暗闇をと答えましょう」
「それは違う」
「何故?」
「対話する必要が無い、それが望みなら話かける事もましてや招き入れる筈がない、わたしに用がある筈だ、対話するだけの事が」
『おお』『おお』『確かに』『すごすごなぎちゃん』『このイベント見た事無いんですが』『やっぱルート外れてない?』『なぎちゃん難易度ルナティック好きだね』『滅多に無いBADENDって……』『やめろ』『言うな』『口縫い合わせられたいか』『ごめん』
「不思議で聡明、ふふふっ……気に入りました」
独り言のようにぼそりと呟かれた言葉と同時に、反応する暇もなくわたしの目の前に、その顔が迫る。
不思議と綺麗な顔立ちだった、よくある口裂け女のような三日月めいた口というわけでもなく、顔だけ傷だらけと言う事でもない。長い髪の奥に見える赤い瞳が愉しげにわたしの瞳を覗く。
「頼みがあります、聞いてくれたらこの闇を祓う手伝いをしても良いですよ?」
「っ……確約しろ、話はそれからだ」
「ふふ……拒否権が無いと分かって、なお強気に放つ、ええ、ええ、約束しましょう。夜が晴れ、あなたが世界から離れるまで、手伝いましょう」
『ひぇっ』『うおお』『ヤンの匂いがする』『ゆりれずか?』『やっぱレズじゃないか!』『幽霊を誑かす自称プロゲーマーがいるらしい』『自称じゃないぞ』『なぎ民、相変わらず』『コメントで賑やかさないとまともに見れない』『それな』
「この屋敷に
「自分で出来る事じゃないのか」
「触れられない物をあなたは持てますか?」
「……わかった、これ以上は聞かない」
「懸命ですこと。その間私は消えていましょう」
ニヤッと、最後に嗤うと幽霊の女は半透明に、やがて透明になり私の目に見えなくなった、見えなくなっただけで今もわたしを見ているのだろう。逃げ出さないよう監視する為に。
……やっぱりコメントONにしておこう、なぎ民のみんなのコメントが無いと怖い。
「……わたしなぎ民がやったゲーム出来てる?同じゲームとは思えないんだけど」
『草』『わかる』『同じゲームしてない』『なぎちゃんだけルート外れ過ぎてる』『影から逃げるなんて普通できないからな』『プロハンニキここどうクリアしたっけ』『家に鍵開けして入ってハンドガン入手して原因とバトッた』『草』『草』『あの人もルート外れてる』『人によって様々やな』
いやホラゲーで何やってるんだ狩人先生は……こうなるなら大人しく影に連れ出されるのもありだったかもなぁ。
「とりあえず探そう、そう遠くない位置にあると思う」
予感というか、定番というか、こういうのは昔っから地下とかにあるのがデフォだ、そして大抵鍵がかかってる。これを破壊する。
『ええ』『草』『草』『暴力!』『血の気が多すぎる』『これしか知りません』『最適かつ最低』『ネットヤンキーなぎちゃん』『やっぱあたまわるわるだわ』『わるわるなぎちゃん』
「うっせ〜〜!溜まってんだよこっちはよぉ!なんでわたしがこんなに怖がらなきゃならねえんだよ、ねえ聞いてんのか87.56%のなぎ民達さあ!許さねえからな……餅食って喉詰まらせて病院行け!」
『草』『草』『ごめん』『ごめん』『すみません』『お願い許して!』『餅は洒落にならないですよ!』『直接的に言わない所に優しさ感じる』『病院…ナース…なぎちゃん…閃いた!』『怖くて今描けない』『怖がりか?』
「もうとっとと解決して終わりたいよ……ん、あれかな」
地下に降りるとまた扉があるので、開けると無駄に広い部屋の中心に、何かを祀った、或いは封印したかのような魔法陣めいたものと、一般的な人の手程の橙黄色に輝いた宝石があった。
「これを壊せばいいのか……」
一歩一歩と近付いて、あともう直ぐで拾えるところで、足音の様な音が聞こえた。
「ここにきて……っ!」
振り向く事はしない、自分の足を信じて駆け出す、初速で飛ばせーー
『逃げて』『逃げて』『腐った死体とかド定番、でも怖い』『怖い』『数えて20体ぐらい』『多いな』『冷や汗が』『頑張れなぎちゃん』『その中の一番のイケメン俺』『APP1がお前?』『顔が腐ってんぞ』『風呂入れ』
「っ取った!オラ!」
勢いよく壁に叩きつける、衝撃音と共に粉々に宝石が砕け散る。
「これで……ってこいつらまだ動くのかよ!」
不味い、恐怖で最大限のキャパシティを出せないわたしでは数の暴力には屈すると確信している、ジリジリと逃げ場を埋められ、壁際に追い込まれた。
ダメだ、掴まれる、頬を撫でられた感触がフラッシュバックする、もういやだ、いやだいやだ、やだ……!これ以上恐怖に晒されたら、もう……!
「怖がるあなたも素敵です」
耳元で、ささやくような声がした。
時同じく、全ての腐った死体が蒼白い炎に包まれ炭化する。
『うおおおおおお!』『うおおおおおお!』『さっきの幽霊ちゃんだ!』『敵の敵は味方ってね』『くっさ』『これは熱い展開』『ある意味王道的展開』『どう演算組んでAI動かしてんだ?』『ホラー作れば右に出る者がいない社とSSS社やしなぁ』
「お、まえ……わたしを助けて……?」
「ええ、ええ。約束ですもの、約束は守ります」
「アレは……おまえの作ったものとかじゃないのか」
「失礼な方、アレは元々この屋敷に住みついた行き場のない魂の成れの果てでしょう」
むっとした顔をする幽霊に、少しだけ警戒を下げる。
「元凶は、闇と霧の原因は何なんだ」
「意味も無く霧を作り偽りの夜に人を惑わせ永遠を享受する。意志を持たない集合体。でしょうか」
「……おまえは、何だ?」
「しがない一地縛霊ですよ?……ふふっ、では行きましょうか」
ふっと愉しむ笑みを浮かべながら、来た道の方に視線を向ける……どうやらその原因とやらに案内してくれるみたいだ、大人しく付いていくのが得策か。
屋敷を出る、それで確信した。やっぱりこの霊は屋敷に住みついた地縛霊ではない、大方あの宝石の効果か何かで屋敷に留まられたのだろう。この街そのものの地縛霊か、或いは。
「心地良い視線ですこと」
「嫌味か?はっ、別に助けてもらったからって信じた訳じゃない」
「あら、悲しいです……あぁ、名前を聞いても?」
「教えない」
「ふふ、それも良いでしょう」
『険悪で草』『一方的だけどな』『仲良くしていけー?』『ツンツンなぎちゃん』『レアななぎちゃんだなぁ』『霊に良い思い出無さそうだしな』『幽霊×なぎの新刊どこ?』『ミク×なぎの新刊どこ?』
「見えて来ました、アレですよ」
それは暗視ゴーグルのように夜目の利くわたしでも見通せる事の出来ない霧、そしてその霧の中にいるであろうナニカ。人が見てはいけない冒涜的な気配。
「わたしは、どうすれば良い」
「何も……ああいえ、わたしから離れないでくださいね」
「……わかった」
それは、時間にすれば数分もしない時間なのだろう、幽霊の生み出した蒼白い炎を合図に、黒い影が鋭利に鋭く突き刺すように動く。
幽霊は手をかざすと、まるで存在そのものを世界から排除するかのように潰し跡形もなく消える。
そうして消えていく影が、不規則に、防衛本能のように動き回るソレは、やがて霧が薄まり正体が判明する。
それはいつかに見たのっぺりとした黒い塊に類似した、アレとは別の何かだ、液体では無く個体、黒い外見なのに、肉の塊を思い浮かばせる脈動するものに、吐き気を覚える。
『こわい』『こわい』『うえー不気味』『見慣れても気持ち悪いな』『灰色のアレ程ではないな』『アレは例外』『正規ルートだとどうなるん?』『街どうにもならんから街から脱出する』『なるほどね』『異変解決は出来るっても難易度高過ぎるよな』
「大丈夫ですか?」
「っくそ……なんとか」
「動きます、手を」
「あ、あぁ。わかった」
口から上が髪で隠れて表情が伺えないこの女を、だが約束は守るだろうと信用して、差し伸べられた手を握る。
すると不思議と羽が生えたかのように軽くなり、気付いた時には幽霊とともに宙に浮いていた。
消えていく異形の塊を横目に、わたしでは理解の出来ない呪文のようなものを唱えると、強大な何かに鷲掴まれたかのように、ミシッと軋む音がした。
透明な何かに押し潰されるかのように消えていく、存在一つすら残さず、断末魔をあげることもなく。
「……凄まじいな」
「思ったより簡単でした、元は下級程度……融合したとはいえ、自我が無ければ、この通り」
下級程度、ね。
「おまえ、神霊だろ、それも邪神の類だ」
「お気付きで?ふふっ……それより、空を」
そう言われ、空を見る。
いつの間にか闇は晴れていた、澄んだ空気に、美しい青空が広がる。
闇は晴れた、わたしはこの街を救ったんだ……。
『うおおおおお!』『GoodEndってね』『晴れたの久々に見た』『おめでとう!』『おめでとう!』『なんて澄んだ空』『ゲームクリアおめ!』『時間にして2時間ぐらい?』『短いようで濃かった』『公式の異変解決プレイヤーに名前載るなこれ』『快挙だね』『凄い』
「……おまえはどうするんだ、闇が晴れたら存在が消えるんじゃないのか」
「ご心配ですか?優しい方、そうですねぇ」
そう言いつつ、わたしを地面に下ろす。
とりあえず、手を貸してくれたことに礼を言おうとして、ぴとっと彼女の人差し指がわたしの唇に触れた。近距離から見える赤い瞳が、驚いたわたしの瞳を逃さない。
「気に入りました、暫くはあなたの闇に棲み付く事にしましょう、もし助けが必要なら、
どういうーーと思ったのも束の間に、ふっと嗤うと、幽霊は……テレサは幻のように消えた。
『お?』『復旧した』『ノイズ入ったな』『こわい』『わかるこわい』『生きてた良かった』『幽霊ちゃん消えてる』『珍しい現象だったな』『いやぁなんだかんだ今日も楽しかったね』『夜道に気をつけろよ』
「……よし、と言う事でゲームクリア!五万人記念の放送終わるよー?怖くて多分寝付けないから明日の配信は無しです、それじゃまたねなぎ民のみんな!」
ナゲット君に向けて手を振り、お疲れのコメントとナゲット君の手と思わしきものがわたしに向けて手を振り返すのにほっこりしつつ、現実への帰還を開始する。
思う事はある、正直に言えば混乱している……だけれど、多分現実に戻ったら一気に今までの蓄積された恐怖が押し寄せて来て直ぐに寝るか、寝付けないまま羊を数えるか司と電話するか初菜と電話するか……。
なんにせよ、なんとか無事にゲームクリアできて良かった。
引っかかる胸の中にある確かな満足感を覚え。
ーーお疲れ様でした、凪沙様。
私の体は現実へと帰還した。
怖がるなぎちゃん抱き締めたい。VR回でした。
人の考察見るのええなぁ、感想いつもありがとう!見てるからな〜
誤字報告いつもありがとう!助かってます。嬉しいです。
追記
ゲームの元ネタは登場人物紹介の最後の方に!
灰色のアレ、わかった人いるかな?