ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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勧誘

テロ事件後の二年次二組の教室では正式講師となったグレンの指導の下で生徒達はいつものように授業を行っているが―――一席だけ空席がある。

そこはこの学院で問題児であり、絶対的なまでに力を求め続ける一人の生徒、ロクス=フィアンマがよく座る席だ。

戻ってきた日常のなかで彼だけはまだ戻らない。

二組の生徒達もそんな彼の存在に全く気にも止めていないわけではない。

リック学院長から事情を聞かされる前の彼等なら清々したかもしれないが、事情を知らされた今は別だ。

姿を現さない彼に少なからずの心配はする。

「………………………………」

ルミアもその一人だ。

あの日、学院長室から飛び出していった日からロクスは姿をみせない。

自分が余計なことを言ってしまったせいで、もしかしたらもう二度と学院に戻ってこないのかもしれないと不安を募らせる。

「ロクス君……………」

彼は初めて私のことを嫌いと言った人だ。

男子生徒達に告白をされたことはあっても堂々と嫌いと言われたのは初めてだ。

それは聖女様を演じている私に嫌気を差して言った言葉だろう。

そして、聖女様(ルミア)ではなく私自身(ルミア)として見てくれた。

(まだ、熱いよ……………………)

彼に触れた手にはまだ熱が籠っているように思える。

触れた時の彼の手は異常なまでに熱かった。高熱で燃える鉄にでも触れたように熱かった。それでも彼の手は大きくて優しかった。

(貴方は今、何をしているの………………?)

ルミアの不安は更に募らせる。

 

 

 

 

 

 

 

アルザーノ帝国魔術学院敷地内北側にある『迷いの森』。そこには面倒な魔獣が住みついている。

「ギャン!」

「はぁ…………はぁ…………死んどけ…………………………」

狼型の魔獣、シャドウ・ウルフに剣を突き刺して絶命させる彼は次の獲物を求めて迷いの森を彷徨う。

「くそ、くそ………………………………まだ、まだ足りねぇ、このままじゃ」

もうどれぐらいの時間が経ったのかわからない。

全身に生傷を増やしながら森を彷徨う彼の瞳は炎のように熱くぎらついている。

――――力がいる。

――――もっと力がいる。

――――復讐を果たすその為にはもっと力がいる。

レイクとの戦闘。相性は悪かったなんて言い訳にならない。黒い炎、自身の異能がなければ間違いなく殺されていた。

あの程度の男に負けるようならこの先もきっとどこかで殺される。

生きて復讐を果たす為には、天の智慧研究会を独りも残らず殺し尽くす為には力がいる。

飽くなく力を追い求めるロクスの脳裏に一瞬、ルミアの顔が過る。

「違う………………違う、あいつは間違ってる。俺の黒い炎は復讐の炎、あいつはなにもわかっていないだけだ…………………」

そう、そのはずだ。

ラウレルに似ているだけでこうも迷わせるなんてどうかしている。

「ああ、殺せばいいのか………………………」

ぽつりとそんなことを口にした。

そうすれば頭からあいつは消える。こんな迷いも消える。

黒い炎が効かなったのも恐らくは異能者だからだ。そうでなければあの時黒い炎で消えていたに違いない。黒い炎が効かないのなら剣でも魔術でも使って殺せばいい。

ルミアの魔術の技量はシスティーナ以下だ。楽に殺せる。

「グルル………………」

そう決断したロクスの前にまたシャドウ・ウルフが姿を見せる。

剣を構えるロクスにシャドウ・ウルフはその鋭い爪牙を持ってロクスの喉元に噛み付こうとした瞬間――――

「!?」

一条の雷閃がシャドウ・ウルフを貫いた。

ロクスはそれがすぐに軍用魔術【ライトニング・ピアス】だと気づき、放たれた先に意識を向けるとそこには一人の男がいた。

藍色がかかった長い黒髪の奥から、鷹のように鋭い双眸を覗かせる。すらりとした長身で痩せ肉だが骨太。その物腰は、落ち着いていると称するよりはむしろ冷淡さを色濃く感じさせ、ナイフのように触れてはならない致命的な鋭さをどこか隠している―――そんな雰囲気の男が歩み寄ってくる。

「誰だ…………………?」

剣を向けて警戒しながらも問いかけるロクスの頬に冷汗が垂れる。

この男は間違いなく強い。それも自分が戦ったレイクよりも遥かに。

なによりも気になるのがあの鷹のように鋭い双眸。あれは自分と同じ復讐を誓った者の眼だ。

「《雷槍よ》」

だが、男はロクスに返答に【ライトニング・ピアス】を持って答えた。

「《霧散》!」

それを【トライ・バニシュ】で打ち消してマナ・バイオリズムを整えて今度はこちらが呪文を唱える。

「《降りろ・炎獅子》!」

黒魔【ブレイズ・バースト】を唱えて男に向けて火球を放つもその火球は不意に急降下して地面に着弾、炸裂。爆音と爆炎が轟く中で砂煙が宙を舞う。

二節でルーンを唱えて直線から急降下させたロクスは宙に舞う砂煙を利用して白魔【フィジカル・ブースと】を唱えて身体能力を強化させて接近。

「《荒ぶる風よ》」

しかし男は黒魔【ゲイル・ブロウ】で砂煙を吹き飛ばす。

「《炎獅子》!―――――《吠えよ(ツヴァイ)》、《吠えよ(ドライ)》!」

吹き飛ばされることを前提に今度は【ブレイズ・バースト】を連唱(ラピット・ファイア)。超高熱の火球が三連続で飛んでいく。

一つは【トライ・バニシュ】で打ち消すことは出来ても残り二人は打ち消すことは出来ない。黒魔【フォース・シールド】で防御に回るしかない。

―――そう思った。

「《吠えよ炎獅子》」

だが、男は一節で三つの火球を放ち、相殺させる。

「なッ――」

それに絶句するロクスが驚いたのは自分の魔術が相殺されたことではなく、男の魔術の技量についてだ。

時間差起動(ディレイ・ブード)二反響唱(ダブル・キャスト)…………………ッ!」

時間差起動(ディレイ・ブード)

予め呪文を唱えておき、後に任意のタイミングで起動する高等起動。

二反響唱(ダブル・キャスト)

一度の呪文詠唱で、二度同じ魔術を起動する高等技法。

この男はそれを顔色一つ変えることなく平然と使用した。どちらか一つだけでも使えるだけでも凄いはずなのにこの男はそれを平然と使いこなしている。

(だけど、この距離なら!)

もう剣の間合いに入った。

この男が時間差起動(ディレイ・ブード)で魔術を起動するよりもこちらが一手早い。

「はぁ!」

振るわれる一閃。

「《フン》」

刹那、紅蓮の爆発が巻き起こり、衝撃でロクスは吹き飛ばされた。

「がっ……………………」

爆発の衝撃で吹き飛ばされて地面を何度も跳ねてようやく止まるロクスは致命傷ではなくても無視できないダメージは受けてしまった。

それに対して男は一節で黒魔【フォース・シールド】を起動させて光の六角形模様(ハニカム)が並ぶ魔力障壁で爆発から己の身を守った。

「ぐっ…………………………魔術罠(マジック・トラップ)? いつのまに………」

「貴様が砂煙を撒き散らした時だ」

男が仕掛けたのは魔術罠(マジック・トラップ)。黒魔【バーン・フロア】をロクスが撒き散らした砂煙を逆に利用して罠を張っていた。

時間差起動(ディレイ・ブード)二反響唱(ダブル・キャスト)もこちらの攻撃を相殺させる為だけじゃない。わざと接近を許してロクスの油断を誘った。

「終わりか?」

冷酷に見下す男にロクスは痛みを無視して立ち上がる。

「まだ、まだだ…………………ッ!」

ロクスは召喚魔術を詠唱してサラを召喚する。

自分の相棒を呼び出して第二ランドを始める。

「サラ!」

「ええ!」

サラは炎を放射させる。それを躱す男にサラは炎を放出し続ける間にロクスは己の切札を切る。

己の異能である黒い炎を噴出させて更にはロクスが使える最大火力の呪文を詠唱する。

「《漆黒の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・闇に蹂躙せよ》!」

「!?」

その呪文に初めて男の顔は僅かに歪んだ。

ロクスは『発火能力者』の異能を宿しているせいか炎熱系の魔術が非常に優れている。

それ故に軍用魔術である黒魔【ブレイズ・バースト】も割と早く取得することもでき、そしてその上の段階も取得することができ、更にそれにロクス自身の独自の改変を加え、最早、固有魔術(オリジナル)レベルまで昇華させた。

 

「【インフェルノ・ダークネス】!!」

 

B級軍用攻性呪文(アサルト・スペル)黒魔【インフェルノ・フレア】。並みの炎とは比較にならない超高熱の灼熱劫火に黒い炎を加えた漆黒劫火。

あらゆるものを呑み込み焼き尽くすなんて生温いものじゃない。触れたら存在ごと消し尽くす漆黒の灼熱劫火の前に防御は不可能。

黒魔改【インフェルノ・ダークネス】。漆黒の業火が男を襲う。

はずだった―――――

しかし、漆黒の業火は男をすり抜けてしまう。

詰み(チェックメイト)だ」

ロクスの背後から男は指先をロクスの頭に向けたままそう言った。

「―――――――――――っ」

完全な敗北を叩きつけられたロクスは幻のように消えていく男の姿にようやく理解した。

「………………黒魔【イリュージョン・イメージ】」

光操作によって生まれた虚像。ロクスが攻撃を放ったのは幻だった。

「貴様は復讐心で己の視野を狭めている。だからこんな手に引っかかる」

男の評価は正しかった。

目の前の敵しか見ていなかったロクスの負けだ。

「………………俺を、殺すのか?」

「そのつもりなら既に貴様を四回は殺してる」

「じゃ、どうして生かす?」

「それはあいつに聞くんだな」

男は指先を下ろして近づいてくる女性に視線を向ける。

「お疲れ様、アルベルト」

近づいてきたのは男と似た服装をした一人の女性。

年齢はグレンと変わらないだろう。激しく燃え上がる深紅の髪を、三つ編みに束ねてサイドテールにしている。その相貌は非常に精緻で見目麗しいが、……………どこか、氷のような酷薄さを湛えている。昏く燃えるような紫炎色を湛えた切れ長の半眼も、口元に浮かべる薄い笑みも、どこか他者に対する嘲弄のような印象を拭えない。

「初めまして、ロクス=フィアンマ。私は帝国宮廷魔導師団特務分室室長、執行官ナンバー1《魔術師》のイヴ=イグナイトよ。貴方を勧誘(スカウト)に来たわ」

「………………………どういう意味だ?」

「言葉通りよ。貴方、先日の学院で起きたテロ事件で二人のテロリストを倒した。まぁ、まだまだ拙い部分も多いけど子供にしては十分な功績よ。例えそれが天の智慧研究会で生み出された異能を使ったとしてもね」

「…………………脅す気か?」

「そんなことはしないわ。それに言ったでしょ? 貴方を勧誘(スカウト)に来たと。特務分室に入れば貴方の復讐の手伝いをしてあげる。憎いんでしょ? 天の智慧研究会が」

「ああ」

「今の特務分室は人手が不足していてね。優秀な人材を探しているのよ。そこで私は貴方に目を付けた。そして、貴方の実力を見る為にそこにいるアルベルトと戦わせたの。結果は上々よ。B級の軍用攻性呪文(アサルト・スペル)黒魔【インフェルノ・フレア】を改変したあの黒い劫火を防げる者はまずいないでしょう。だけど、今の貴方はまだまだ弱い。実戦不足が出ているわ。任務がてらそこにいるアルベルトに鍛えさせてあげる」

指摘するイヴにロクスはその言葉の正しさに何も言わずに受け入れる。

「使える駒なら私は異能者だからって偏見は持たないわ。私の下につきなさい。そうすれば貴方の復讐の手助けぐらいはしてあげる」

左手を指し伸ばすイヴの顔は断るわけがないと言いたげに自信に満ちている。

だけどその通りだ。

「ああ、天の智慧研究会を殺せるのなら、復讐を果たせれるのなら入ってやる」

ロクスは迷うことなくイヴの手を掴んだ。

「ようこそ、特務分室へ。今から貴方は帝国宮廷魔導師団特務分室、執行官ナンバー16《塔》、ロクス=フィアンマよ。空いている席の一つを貴方に譲るわ」

「そんなことはどうでもいい。俺は何をすればいい?」

「そうね。貴方が通っているアルザーノ帝国魔術学院にルミア=ティンジェルの護衛をしなさい。同じ学士だからちょうどいいわ」

「…………………なんであいつを」

殺そうと思っていた少女を護衛しなくてはならない。それに憤りを覚えるロクスにイヴは続ける。

「ルミア=ティンジェルは帝国政府にとって監視対象であり、天の智慧研究会の尻尾を掴むための『餌』でもあるのよ。ルミア=ティンジェルの傍にいれば向こうから貴方の前に現れるわ」

「あいつが餌なら俺は(ルミア)に食いついた獲物(テロリスト)を釣る釣り人か?」

「ええ、因みに拒否権はないわよ。もう貴方は私の部下、私の指示に大人しく従いなさい」

「………………………………………………………………………………わかった。だけど、テロリストは殺す」

「それで構わないわ。それじゃアルベルト。その子を鍛えてあげてちょうだい」

「ああ」

要件は済んだイヴは踵を返して去って行く。

そしてロクスは自分を圧倒したアルベルトの下で強くなる為に地獄の特訓が開始される。

 

 

 

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