ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

13 / 62
魔術競技祭

魔術競技祭当日。

魔術学院の敷地北東部にある魔術競技場で主に行われ、開催前から競技場の観客席は人であふれかえっている。

観客席に座っているのは生徒達の両親だけではなく、学院の卒業生から学院の関係者まで集まり、賑わっている。

観客の中には競技祭よりも女王陛下を一目見ようと集まった者達もいるかもしれないなかで、女王陛下の激励の言葉と共に魔術競技祭は開催された。

 

 

 

 

広大な学院敷地内に設定されたコースを、一周毎にバトンタッチしながら何十周も回る『飛行競技』。その競技のラストスパートで予想外な勝負展開に歓声を上げていた。

『そして、さしかかった最終コーナーッ! 二組のロッド君がぁ、ロッド君がぁああ――――ぬ、抜いた――――ッ!? どういうことだッ!? まさかの二組が、まさかの二組が―――これは一体、どういうことだぁあああ――――――ッ!?』

魔術競技祭実行委員会のアースが実況席で興奮気味の奇声を張り上げている。

トップ争いの一角だった四組を最後の最後で二組が抜いたという予想外な結果に観客席から拍手と大歓声が上がった。

今では一位を取った一組よりも大奮闘をしている二組の方が注目の的だ。

だが、そんなことどうでもよさそうにロクスは本を読んでいた。

元より参加する気は微塵もなかった上に他者の奮闘も応援もする気はない。

「やったぁ、凄い! ロクス君、三位! ロッド君とカイ君、三位だよ!?」

―――のだが、ルミアがロクスの隣で手を打ち鳴らして大喜びしている。

(鬱陶しい……………………)

そんなロクスの心情に気にもしていないように興奮気味に話しかけてくるルミアに苛立ちが募る。

わざわざクラスとは少し離れた席に座って距離を取っていたのにルミアはごく自然にロクスの隣でクラスの応援をしている。

「ほら、ロクス君も一緒に応援しようよ?」

「一人で勝手にしとけ」

もはや半分諦めの投げやりで返すロクスの口からは溜息が漏れる。

(こいつがいると本当に調子が狂う………………任務がなけりゃ殺してたのに)

ルミアがこうして世話を焼きにくるのは恐らくは同じ異能者だからだろう。

異能を持つ者同士だから仲間意識を感じているのかもしれない。

ロクスからしてみれば鬱陶しいだけだが。

「楽しくないの?」

「当り前だろう。こんな祭り、俺にしてはただの時間の無駄だ」

できることなら今すぐにでもアルベルトの下で特訓がしたいロクスだが、今はアルベルトは任務に出ている為にいない。

ロクスにとって今、この時間は怠惰でしかない。こんなことをする暇などロクスにはない。

しかし、任務の事も考えて極力はルミアがいる二組の近くにいなければならない。

「つーか、何でお前は俺の隣にいやがる? フィーベルのところにでも行け」

「そんな邪険にしなくても…………………………」

追い払おうとするロクスにルミアは苦笑い。

「皆と一緒に、何か一つの事を目指すって凄く楽しくないかな? 私は凄く楽しいよ」

「そうかよ。俺にはどうでもいいことだ」

そっぽを向くロクスは楽しそうにするルミアを無視して本に意識を向ける。

それからも続く快進撃にも一瞥することなく、競技祭は続いた。

 

 

 

 

 

魔術競技祭の午前の部が終わって小一時間の昼休みがあり、それから午後の部が始まる。

全員がそれぞれの昼休みを終わらせて午後の部が始まったのだが、ロクスは午前と変わらずに本を読んでいたのだが、不意にルミアがいなくなったことに気付いた。

「たくっ」

すぐに遠見の魔術でルミアの居場所を探すロクスは応援に集中しているシスティーナ達を放置してルミアの所に向かう。

(勝手に動くなよ)

愚痴をこぼしながらルミアがいる学院敷地の南西端、学院を取り囲む鉄柵のかたわら、等間隔に植えられた木々の木陰に足を運んだ。

「こんなところで何してやがる?」

「ロクス君……………………?」

不意に現れたロクスの登場にルミアは手の中にあるロケットの蓋を閉じ、それを握りしめる。

「手間かけさせんな。さっさと戻れ」

「………………探しにきてくれたんだ」

「お前がいないとフィーベルがうるせぇんだよ」

苛立ちを隠すことなく告げるロクスにルミアは一笑してロケットの鎖を首の後ろで繋ぎ、ロケット本体を胸元から衣服の中に落とし込んだ。

「………………………………ロクス君は私と、女王陛下の関係を知っているんだよね?」

「ああ、それがどうした?」

テロ事件後に政府の上層部から聞かされたルミアの素性。どうでもいいことだから適当に聞き流したが、頭の片隅には入っている。

「少しだけでいいの? 私の話に付き合ってくれないかな?」

「はぁ? 誰がそんな面倒なことを―――」

「お願い…………」

聞く耳持たずに断ろうとしたが、切実に懇願してくるルミアにロクスは大きい溜息を溢してルミアの反対側の木に背を預けて腕を組む。

聞いてくれると思ったルミアは語り始めた。

自分がまだ王女だった頃の話。日々の政務で忙しい中、それでも時間を作って遊んでくれた優しい母親。いつも自分の面倒をみてくれた優しい姉。王室直系の娘として何一つ不自由なく、王室直系の娘としてやはりどこか不自由だった日々。それでも、確かな幸せと呼べた在りし日の記憶―――

「…………………私はどうすればよかったんだろう?」

一通りの思い出話が終わると、ルミアはグレンに静かに問う。

「陛下が私を捨てた理由………………それはわかるの。王室のために、国の未来のためにどうしてもやらなければならない必要なことだったって。それでも……私は心のどこかで陛下を許せなかった……………怒っているんだと、思う………………」

「………………………………」

「だけど、あの人を再び母と呼びたい、抱きしめてもらいたい………………そんな思いも、どこかにあるの…………………ずるいよね………………私…………」

「………………………………」

「でも、あの人を母って呼んだら、私を引き取って、本当の両親のように私を愛してくれたシスティのお母様やお父様を裏切ってしまうようで………………それが申し訳なくて…………」

「………………………………」

「だから、私、わからないの。どうしたらいいのか、どうすればよかったのか………………」

目を伏せるルミア。

ロクスは呆れるように息を吐きながら答えた。

「くっだらねえ。そんなもん会えばいいだけの話だろうが」

驚くほどの率直に言ってのけたロクスにルミアは目を瞬かせる。

「そんな下らないことに時間を無駄に使わすんじゃねえよ。全部女王陛下に会えば解決する問題じゃねえか」

苛立ちながら乱暴に言い切るロクスにルミアは少し憤りを覚えた。

そんな簡単に言わないで欲しいと言い返そうと口を開こうとした―――

「もう二度と会えない奴だっているんだぞ」

が、その言葉を聞いて言えなかった。

そして思い出した。ロクスのことについて。

「……………………ロクス君のご両親は、今どこに?」

「死んだ。俺が天の智慧研究会に攫われる日に魔術で殺された。二人共焼き殺された。俺が異能者だとテロリスト共に知られたせいでな」

思わず手で口を覆ってしまったルミアは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

(そうだよ、ロクス君は………………………)

自分はまだ追放だけで済んだ。だけど、ロクスは両親を殺されて人権も人の尊厳もない実験動物(モルモット)として扱われてきた。

そんなロクスに自分の話を聞いたらそう返ってくるなんて簡単に想像できるはずなのに。

母親も生きている。人として生活もできている。

それだけでも十分のはずなのに如何にも自分は不幸のように語れば苛立つのも無理はない。

「俺の両親は俺が異能者だとわかっても受け入れてくれた。愛してくれた。だけど、俺が異能者だったせいで殺された。くだらねえ使い捨ての駒を作る計画の為に、な」

「………………………………」

「別にお前の為に言うつもりはねえが、うじうじする暇があんならさっさと―――あぁ?」

不意に怪訝そうな声を出すロクスにルミアは顔を上げる。すると、王室親衛隊が足早でこちらに向かって来ているのが視界に入った。

女王陛下を護衛している筈の王室親衛隊がどうしてこんなところにいるのか疑問に首を傾げていると王室親衛隊は二人の前で足を止め、囲むように素早く散開した。

「ルミア=ティンジェル……………だな?」

二人の正面に立った、その一隊の隊長格らしい衛士が低い声で問いかけてくる。

「………………ルミア=ティンジェルに間違いないな?」

「え? は、はい……………………そ、そうですけど………………………」

念を押すように再び重ねられた問いかけに、ルミアは戸惑いながらも答える。

次の瞬間。

衛士達は一斉に抜剣し、ルミアにその剣先を突きつけていた。

「――――ッ!?」

「傾聴せよ。我らは女王陛下の意思の代行者である」

一隊の隊長格らしい衛士が朗々と宣言した。

「ルミア=ティンジェル。恐れ多くもアリシア七世女王陛下を密かに亡き者にせんと画策し、国家転覆を企てたその罪、もはや弁明の余地なし! よって貴殿を不敬罪および国家反逆罪によって発見次第、その場で即、手討ちとせよ。これは女王陛下の勅命である!」

あまりにも現実離れした、その現実にロクスは面倒くさそうに溜息を吐いた。

「その話、ちょっと待て。証拠はあんのか?」

呆れながらも割って入るロクスに隊長格の衛士は淡々と告げる。

「部外者に開示義務はない。これはお前のような子供が触れてはならぬ、高度に政治的な問題だ。もし、その娘を庇い立てするようならば、お前も国家反逆罪で処分せねばならぬ」

「ようはねえってことだろ? たくっ、お前等報告書はちゃんと目を通しているのか? ルミア=ティンジェルはそんなことを企むような行動は一切してねえよ」

「報告書だと? どういう意味だ?」

ロクスの言葉に怪訝する一隊の隊長格らしい衛士にロクスはある紋章を王室親衛隊に見せる。

「俺は帝国宮廷魔導師団特務分室、執行官ナンバー16《塔》、ロクス=フィアンマだ。女王陛下の命によってルミア=ティンジェルの監視及び護衛を担ってる。さて、その件に関する詳しい情報を聞かせて貰おうか?」

その言葉にルミアも王室親衛隊も驚愕に包まれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。