「帝国宮廷魔導師団特務分室だと!? お前のような学生が!?」
「これが証拠だ。疑うんなら特務分室室長に確認しろ」
特務分室の紋章を見せるロクスに王室親衛隊は驚きを隠せれない。
普通なら学生の戯言で一蹴するも、ロクスは特務分室に所属している証である紋章は紛れもない本物である。
「しかし、これは女王陛下の勅命であり」
「ならどうして護衛任務を任されている俺に一言もねぇんだ? こいつを殺すことには構わねえが、部外者じゃねえんだから証拠を見せろ。部外者じゃなかったら開示義務はあるんだろ?」
一隊の隊長格らしい衛士は言葉を詰まらせる。
まさか学生と思っていた者が帝国宮廷魔導師団に所属している者とは露にも思ってなかった。
「……女王陛下は最高国家元首。その言葉はあらゆる法規を超え、全てに優先するのだ。そちらに一言かけなかったことには謝罪するが、これも女王陛下の為だ」
「俺はそんなこと聞いちゃいねえよ。こいつを殺す証拠を出せって言ってんだ。俺は報告書に女王陛下を暗殺する企てあり、とは書いてねえぞ」
「これは女王陛下の勅命であり――」
「同じセリフしか言えねえ木偶人形か、お前等。つまりなんだ、証拠はねえってことか? それともルミア=ティンジェルを殺さなきゃいけねえ理由でもあるのか? 冤罪を押し付けてまで」
瞬間、五閃の銀光に風切り音が唸った。
気付けば、目にも留まらぬ早業で五振りの剣が、四方からロクスの首筋や喉元に突き付けられる。
「……どういうつもりだ?」
「安心しろ、貴殿を殺しはしない。ただ少しの間眠って頂く」
「………《そういうことかよ》」
しゅぱっ、と。
頭上で何かが爆ぜるような音が鳴り響いた。
「うぎゃあああああああああああ――――ッ!?」
悲鳴を上げ、剣を取り落として目を押さえ、悶え苦しむ衛士達にロクスは圧縮凍結保存しておいた剣を解凍し、衛士達を斬り伏せた。
「な、なにを……」
「黒魔【フラッシュ・ライト】で隙を作っただけだ。たくっ、面倒事を起こしやがって」
吐き捨てるように愚痴をこぼしながらロクスはサラを召喚して半割れの宝石を渡す。
「サラ。これをあの講師に渡せ。事情は後で話すって伝言もつけてな」
「ええ、任せて」
ルミアの事情を知っているグレンと連絡手段を確保する為にサラを使ってロクスはルミアを抱える。
「きゃっ!?」
「ここにいたら面倒だ。離れるぞ」
ロクスはそう言って学院の外へ向かって走り出す。
人気のない路地裏で王室親衛隊が追いかけてこないことを確認するとルミアを手放す。
「ロクス君……どうして……?」
「あぁ、んなもん任務だからに決まってんだろうが。そうじゃなかったら誰がお前なんかを守るか。こっちはお前が死なれたら困るんだよ」
テロリストを誘き寄せる『餌』であるルミアが死ねば復讐を果たすことはできない。
その為に仕方がなくロクスはルミアを助けた。
それでもルミアの顔は苦渋に満ちていた。
「任務だから……助けたの? でも、いくら任務の為だからっていってもこのままじゃロクス君まで……」
「……自分が死ねばそれで終わりってか?」
その言葉にルミアは静かに頷いた。
「………本当にお前は俺を苛つかせる。任務がなかったら俺がお前を殺してぇよ」
ロクスはルミアの胸ぐらを掴み上げる。
「自分が死ねば終わりだと思ってんじゃねえ! 自己犠牲も大概にしやがれ!!」
「でも、このままじゃ私だけじゃなくロクス君まで……ッ!」
「馬鹿か! 状況を冷静に考えやがれ! 本当に女王陛下がお前を殺すんなら他にやりようがあるだろうが!」
乱暴にルミアを掴んでいる手を離してロクスは続ける。
「仮にも俺はお前の護衛を任されてんだ。仮にお前を殺すんなら、さっきみてえに下手な衝突を避ける意味も込めてお前を殺す前に俺に一言あるか、護衛の命を解くかするぐらいはするだろうが」
「あ……」
「まず話が急すぎると思わねえのかよ? どうして魔術競技祭の日にお前を殺す必要がある? 世間の体裁を保つ為にも罪状とその証拠ぐらいはでっちあげるだろうが」
冷静に語るロクスの言葉にルミアもようやく冷静さを取り戻し始めてきた。
言われてみれば確かに話が急すぎる。
本当に殺す必要性があるのなら三年前に殺しているはずだ。
「それでも強引にでもお前を殺す必要ができた。それこそ特務分室に所属している俺を眠らせてまで。なら話は簡単だ。王室親衛隊が躍起になってまでお前を殺さなければいけないその理由は」
「お母さんの命が危ない……」
「それしかねえだろうが」
その結論に至ったルミアに呆れながら同意する。
「恐らくは女王陛下の命は既に敵の掌の上。だから王室親衛隊はお前を殺そうと躍起になっている。そう考えれば一応は辻褄は会う」
はぁ~と深く溜息を吐くロクスにルミアは問う。
「どうして私のためにそこまでしてくれるの? ロクス君だっていつ殺されてもおかしくないんだよ……?」
王室親衛隊はルミアを殺そうと躍起になっている。それを邪魔しようとする輩がいたら排除しようとするだろう。
「俺は別にお前が死のうがどうでもいい。むしろ清々する。だが、お前は政治的利用価値がある。それは俺の復讐を果たす為にも役に立つんだよ。テロリストを誘き寄せる『餌』としてのな」
帝国政府にとって異能者であるルミアは天の智慧研究会の尻尾を掴む為に利用価値があると判断。ロクスはそれを利用してテロリストを殺す。
復讐を果たす為にもルミアがいてくれた方がテロリストを殺す効率がよくなる。
「俺は復讐の為にお前を利用する。テロリストを殺すついでにお前を守ってやるよ」
ロクスは一呼吸置いてルミアに告げる。
「だから安心しな。俺が復讐を果たすまで俺はお前の味方でいてやる」
「ロクス君……」
「だから死のうとするんじゃねえよ」
トクン、とルミアは動悸が激しくなる胸に手を当てた。