王室親衛隊にルミアの命が狙われることになった魔術競技祭。
グレンと指示と二組の活躍によって見事に二組が優勝することができた。
ちなみにロクスの代わりに『決闘戦』に出場したのはカッシュという男子生徒だった。
そんなこんなで魔術競技祭も残りは閉会式だけとなり、その行程も滞りもなく終わって行く。
そして、いよいよ女王陛下であるアリシアが表彰台に立った。
その背後には王室親衛隊総隊長であるゼーロスと学院が誇る
申し分もない護衛。アリシアに害せる者などこの世界で誰一人いやしないだろう。
『それでは、今大会で顕著な成績を収めたクラスに、これから女王陛下が勲章を下賜されます。二組の代表者は前へお願いします。生徒一同、盛大な拍手を』
拍手が上がる。
各クラスの担当講師達から溜息が漏れながら、代表者であるグレンは前へ出る。
それと同時に別の二人もグレンと一緒に表彰台に上がる。
「アルベルト…………………? それに、リィエル…………?」
戸惑うアリシアをよそにロクスは幻影を解いて姿を露にする。
「祭りも終わりだ」
炎を宿すような赤い剣と共にロクスは炎熱のような熱い視線をゼーロスに向ける。
「馬鹿な!? ルミア殿、貴女は今、学生と共に町中にいるはず――――」
「そんなもんに義理はねえよ、おっさん」
居合わせた観客席の来賓客や、整列している大勢の生徒達も、一体何が起きているのか、さっぱり読めず、遠巻きにその様子を眺めながら困惑にざわめいている。
「ロクス、マジで死ぬなよ」
「死ぬつもりはねえよ」
作戦は既に伝わっているグレンは真剣な顔でそう告げる。
「くっ! 親衛隊ッ! 何をしている!? 賊共を捕えろッ!」
ゼーロスがアリシアを背に庇いながら指示を飛ばすと、会場を警邏していた衛士達が我に返って一斉に抜剣、ロクスとルミアを取り押さえようと殺到する。
「セリカ、頼む―――――ッ!」
だが、グレンが叫んだ瞬間、無数の光の線が猛速度で地面を走った。
表彰台を中心に六人を取り囲む結界が瞬時に構築されて内界と外界を切り離す。
「おい、おっさん。こっちは女王陛下を助ける手段がある。だから大人しくしてろ」
「はったりも大概にしろ! 子供といえど容赦はせんぞ!」
「頭の固い爺め………………。おい、講師。そっちは任せた」
「ああ」
二人は同時に駆ける。
グレンはアリシアに向かって。
ロクスはゼーロスに向かって。
互いが担う役割を果たす為に動き出す。
「させん!」
だが、ゼーロスはロクスの想像を上回う程に速度で飛び込んできた。
残像すら置き去りにする、人の身ではありえない神速の踏み込みと共に左右一振りずつ、二刀
回避不可能。
迎撃不可能。
直撃は避けれない神速の剣がロクスの命を刈り取る。
その瞬間――――
ロクスの黒い炎が全身から放出し、ゼーロスの
「な――――」
殺した。そう確信した瞬間に突如現れる黒い炎が自身の
その僅かな隙をロクスはついた。
「ハッ!」
赤い斜線がゼーロスに刻まれる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
その前にゼーロスの拳がロクスの顔を捉えて殴り飛ばした。
「がっ―――」
「ロクス君!?」
「陛下!?」
女王陛下であるアリシアを守る為に剣を捨てて素手に切り替えたゼーロスはロクスを退けてすぐにアリシアの方に視線を向けるも―――
そこにはネックレスを放り投げたアリシアの姿がいた。
「陛下、なんてことを―――――ッ!?」
絶望に歪んだ表情で叫ぶゼーロスにアリシアは優しく微笑みかける。
「私は大丈夫ですよ、ゼーロス」
鬼気迫るゼーロスだったが、アリシアが朗やかにただずむ様子を見て取ると、呆然と言葉を失った。
呆気を取られるゼーロスをよそにグレンは地面に落ちた翠緑のネックレスを忌々しげに見る。
「ロクスの言う通り、条件起動式の
「うるせぇよ………………………」
「ロクス君! 待って、今治すから!」
鉄の塊でも喰らったかのようなゼーロスの拳を受けて鼻の骨が折れた程度で終わったロクスはルミアの治療を受ける。
「貴様…………一体、何を…………何をした………………………? なぜ、
状況が呑み込めないゼーロスはグレンに問いかけるとグレンは一枚のカード。愚者のアルカナを見せる。
「こいつは俺の魔導器。愚者の絵柄に変換した術式を読み取ることで、俺は一定効果領域内における魔術の起動を完全封殺できる。
グレンの
いくら凄腕の魔術師でもあの
「さぁて、どう説明すっかな………………………てか、収拾つくの? これ」
困惑にどよめく周囲を見渡して事後処理に頭を悩ますグレンだった。
結論から言えば、騒ぎは大事なく収まった。
世界を相手取る女王陛下の巧みの話術が場にいた全ての者達を見事に欺いたおかげで無事に魔術競技祭は終了した。
「はぁ…………はぁ………………………」
騒ぎが終え、学院運営陣との緊急会議やらで、事件の功労者としての勲章授与式の日程調整やら、王室親衛隊との事情聴取やらで、時間を費やした為に時は既に夜。月が空に漂うなかでロクスは誰もいない路地裏で一人、苦痛で顔を歪ませていた。
顔中脂汗をびっしりと掻いて、立つことも困難のように地べたに座り込んでいる。
「ああ、クソが………………………」
愚痴を溢すロクスは慣れるまでここで大人しくしていようと思った。
「ロクス君!?」
その矢先に面倒な人物に見つかった。
「チッ……」
忌々しく舌打ちするロクスはその場から去ろうと思って立ち上がった瞬間、無様にも倒れてしまう。
「大丈夫!?」
駆け寄ってくるルミアはロクスを起き上がらせようと触れた瞬間。
「――――ッ!?」
高熱を帯びているロクスの身体に触れてすぐに異常だと気付いた。
「酷い熱……これって」
「なんでもねぇ…どっかいけ……」
「なんでもないじゃないよ! この身体は……」
異常なまでの熱量を身体から発するロクスに戸惑いながらも問いかけるルミアにロクスは皮肉に笑みを浮かばせる。
「あの、黒い炎が……何の代償もなしに使えるわけねえだろう……」
「え?」
「黒い炎を宿したあの日から俺の身体は常に全身を焼き尽くされるような高熱で犯されてる。黒い炎を使えば使う程に熱量が上がる……慣れれば耐えられるが、慣れるまでは結構きついんだよ……まぁ、
人権も尊厳もない
それよりも復讐を果たす方が先だ。その為の力ならどれだけこの身体が高熱に犯されようとも関係ない。
(俺にはもっと力がいる……)
それがどんな力だろうがなんでもいい。
復讐を果たす為ならばどんな力だって使う。どんな手段だって取る。
その為ならルミアだって利用する。
テロリストを誘き寄せる存在であるルミアがいれば奴等は必ず姿を現す。
その為にもルミアには生きて貰わなければならない。
「んしょっと」
「………………………………おい、なにしてやがる?」
ルミアはロクスの手を取って腕を肩に回してロクスを起こす。
「離せ………………………」
「こんなところにロクス君を置いておけないよ。嫌だろうけど私とシスティの家まで我慢して」
ロクスに肩を貸しながら歩き始めるルミアだが、力も体格も男性よりも劣る為に足元がふらつく。それでもルミアはロクスを離さない。
ロクスの身体から発する高熱を感じていないわけがないのに、それでもルミアはロクスを家まで連れて行こうとする。
「………………………………俺は復讐の為にお前を利用している男だぞ?」
「それでも守ってくれるって言ってくれた。それだけで十分だよ」
違う。
あんなのただの方便だ。
自分の復讐の為に都合よく出たただの言葉だ。
この女は何を勘違いしている。
それでもルミアは真剣だった。真剣にロクスを連れて行こうと必死に一歩を踏み出している。
そんな真剣なルミアを見てロクスは笑った。
(馬鹿みてぇ……)
他人の為にそこまで真剣になるルミアを一笑しながら、そんな
髪の色も顔立ちも違うのに性格や雰囲気、根っこの部分が非常に似ている。
(本当に、苛つく……)
かつて今日を生きる為に自分が殺した
「俺は、お前が嫌いだ……」
「うん」
それでも