ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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動き出す悪意

「《死ね》」

砂浜に作られた、即席のビーチバレー場にてロクスは標的(ターゲット)であるグレンを抹殺せんと言わんばかりの辛辣な言葉と共に白魔【フィジカル・ブースト】で身体能力を強化してグレンの顔面目掛けて弾丸のようなスパイクを打ち込む。

「ほいっと」

だが、それだけでは足りないのか、自身と契約している精霊であるサラをチームに加えてそのサラの力でボールに炎を包み込ませる。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

グレンの顔面に向かってくる炎のボール。グレンは弾丸の如く向かってくるそのボールを間一髪で回避した。

「チッ」

得点は入るもロクスはそんなことはどうでもいい。挑発してきたグレンの顔にボールを叩き込まなければ気が済まない為に外したことに舌打ちする。

「てめぇ! ロクス! 俺を殺す気か!? 精霊まで使いやがって!!」

「あぁ? 別にルール違反じゃねえだろ?」

確かに精霊とはいえ、チームを組んでいる以上はルール違反ではない。

「でも、あんなの拾えないわよ……」

グレンと同じチームを組んでいるシスティーナがそうぼやく。どうやって炎を纏ったボールを拾えと?

「あはは……」

ロクスとチームを組んでいるルミアもただ苦笑するしかなかった。

「ロクス。ビーチバレーって楽しいね」

「お前が楽しんでいるならクソ講師の挑発に乗ってよかったかもな」

楽しそうに笑いながらロクスの腕に抱き着いてくる契約精霊のサラの頭を撫でるその光景にクラスメイトはぎょっと目を見開く。

あのロクスがこうもわかりやすく誰かに優しくするなんて想像もできなかったのだろう。それだけにサラがロクスにとって特別なのだと誰の眼から見てもわかる。

「ロクスってあんなに優しい顔もできるのかよ……」

「あのサラって精霊がちょっと羨ましい……」

「つーか、ロクスの筋肉が凄ぇ。どうやったらあんな風になるんだ?」

「美少女精霊なんて羨まし過ぎる!!」

「やっぱりロクスは幼女趣味(ロリコン)。我が同士」

「美少女、美幼女精霊…ハァハァ……」

外野からあることないこと言われているが無視する。が、最後の二人だけはあとで殺すとロクスは密かにそう決めた。

「……」

ロクスとサラがくっついているその光景を面白くないかのように唇を尖らせるルミア。わかってはいたことだが、それでも思うことがある。

「ふふ」

そんなルミアの視線に気づいたのか、サラは勝ち誇った笑みをルミアに見せる。

「クソが! やられぱなっしでいられるか!! 来いよ、ロクス! 講師に勝てる生徒などいないことを証明してやる!!」

「上等だ。クソ講師」

白熱するビーチバレーは確かな盛り上がりも発揮した。

 

 

 

 

 

そして次の日、研究所見学の日がやってくる。

午前中に軽めの食事を取ってから、グレンと二組の生徒達は観光街の旅籠を出発。サイネリア島の中心部にある白金魔導研究所を目指し、ぞろぞろと歩き始めた。

サイネリア島は実は島の敷地のほとんどは今もなお、手付かずの樹海であり、未知の領域でもある。そして今回の『遠征学修』の目的地である白金魔導研究所の道のりはフェジテのような精緻な石畳のように舗装されておらず、場所によってはまったく舗装されていない道なき道になっている領域すらある。

つまり、基本的に都会っ子な生徒達は早くも根を上げていた。

「はぁー、はぁー、うぅ……」

「ぜぇ……ぜぇ……」

「おいおい、大丈夫か? リン。俺、まだ余裕あるから荷物持とうか?」

「……あ、ありがとう、カッシュ君……流石、将来、冒険者志望だね……」

「ははっ、田舎者なだけさ」

「きぃいいい……どうして……高貴なわたくしが……このような……ッ! 馬車を回しなさいな……ッ! 馬車を……ッ!」

「ふん……随分……だらしが……ないね? ……ウェンディ、君のような……お嬢様には……荷が重かった……かな?」

「そういう……貴方こそ……いつものキレが……なくってよ……ギイブル!」

息を切らしながら進むクラスメイト達。だが、二人だけ平然としている。

ロクスとリィエルだ。

生徒達の誰もが大なり小なり疲労を顔に見せる中、この二人だけは息一つ乱さず、汗一つかいていない。

(だらしねぇ……)

そう思い、先にさっさと行こうかとも思ったロクスだが、それはそれでグレンに何か言われるのも面倒だと思って仕方がなくクラスメイトと合わせて動いていた。

「うるさいうるさいうるさいっ!」

「あ?」

突如、リィエルの張り上げた声が轟いた。

「関わらないで! もう、わたしに関わらないで! いらいらするから!」

「……っ!?」

「わたしは――あなた達なんか、大嫌い!」

子供のようにわめき立て、システィーナの手を振り払うと、ぷいっと二人に背中を向け、肩を怒らせて歩き去って行く際にロクスの横を通り過ぎる。

その瞬間、ロクスは見てしまった。

外見とは裏腹に本当に小さな子供のようなリィエルの横顔を。

(……まぁ、俺にはどうでもいいことか)

リィエル自身にも興味の欠片もない。特務分室としてルミアの護衛にも期待していない。どこでなにをしようが迷惑さえかけなければロクスは特に何かをするつもりはない。

(邪魔だとわかれば殺せばいいだけだ……)

そう、ただそれだけの話だ。

 

 

 

それから、二時間ほどが経過した。

切り立った崖に面した道を蛇行し、谷間にかかったつり橋を渡り、冷たく透き通った水の流れる渓谷沿いに進み……一行はとうとう、白金魔導研究所へと辿り着いた。

ここまで辿り着くまでの道のりですっかりくたびれた生徒達は座り込んだり、靴を脱いで流れる水に足をつけたりしている。

グレンが生徒達の人数を繰り返し確信していた、その時だった。

「ようこそ、アルザーノ帝国魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労様です」

グレン達の前に、ローブに身を包んだ一人の男が現れた。

歳の頃、四十、五十の初老の男だ。頭の天辺はすっかり禿げ上がり、残った髪や口元に生やす髭にも白いものが見え隠れしている。だが、いかにも好々爺然としており、不思議と親しみやすい雰囲気を持っていた。

「私はバークス=ブラウモン。この白金魔導研究所の所長を務めさせていただいている者です」

「や、あんたがバークスさんか」

グレンが額の汗を拭いながら背筋を正し、バークスに向き直って微妙に丁寧じゃない物言いの挨拶にも機嫌を損ねず、バークスは朗らかに応じながら所長自ら研究所の案内を行うのであった。

「……」

だが、ロクスは気付いている。

バークスはロクスそしてルミアが異能者だと気付いている。何故なら二人を見るバークスの視線が人間に向けるものではない。忌々しいあの施設で嫌というほどに向けられた実験動物(モルモット)を見るそれだと。

ロクスは常に持ち歩いている圧縮凍結保存した自身の愛剣に触れる。背後から一突きで殺してやろうと思うも留まる。

『貴様は憎しみの深さ故に短絡的な行動を取る。それが貴様の欠点でもある。常に冷酷な精神を持ち合わせておけ』

師的存在であるアルベルトからよく言われた。だからロクスはこの場では思い留まるも。

(証拠を掴んだら必ず殺してやる……)

バークスが天の智慧研究会の一員かどうかは定かではないが、異能者を人間として見ていない典型的な異能差別主義者だということに。

後に特務分室の権限を使って証拠を掴み、殺してやろうと頭の片隅にそれを置いておく。

それから何事もなく『遠征学修』による研究所の見学は終わった。

 

 

 

 

「ああ、レイフォードは使いものにならねぇ。護衛なんてあいつに務まらねえよ。チッ。わかったよ。補佐として俺が動けばいいんだろ? フレイザー。たく」

研究所見学が終えて、時は夕方。

ロクスは人目を避ける為に誰もいない場所で現状を伝える為に通信魔導器でアルベルトに現状報告をしていた。

「それとあのバークスっていう奴。アレは黒だ。天の智慧研究会かどうかはわからねえが、俺を、ついでに王女を見る目が人間に向けるものじゃなかった。内定調査でもしたほうがいい」

そのことも進言して通信を切るロクスは深い、それはもう深い溜息を吐いた。

「本当に護衛任務は面倒だ。仕事だから文句は言わねえが、せめて使える奴をよこしやがれ」

愚痴を溢しながら護衛対象であるルミアの居場所を遠見の魔術で確認して使いものにならないリィエルの代わりに護衛対象の近くに行こうと足を動かそうとした時。

「……結界か」

すぐさま圧縮凍結保存をしていた愛剣を解凍して愛剣を手にして周囲を警戒する。人払いの結界が張られている。

「こんばんは」

ロクスの前に姿を現したのは一見すればただの優男。だが、身に包んでいる礼服は天の智慧研究会に所属する第一団(ポータルス・)門》(オーダー)の礼服だ。

「天の智慧研究会……ッ!」

復讐の対象。その末端が今、ロクスの前に現れた。

「ご明察。私は天の智慧研究会、第一団(ポータルス・)門》(オーダー)――《雷読》トゥルス。貴方を捕えさせて貰います」

丁寧な物言い。しかし、その瞳はロクスを人間と見ていない。物もしくは動物に向けるソレと同じだ。

「実は私も天の智慧研究会には入会したばかりの新参者でしてね。上に上がる為にも実績を積み上げないといけないのですよ」

一人で勝手に語り出す。

「上司のご命令でバークスさんの為に貴方を捕えるように命じられたわけなんですよ。別に構わないでしょう? だって貴方は元は我々の所有物なのだから」

「……」

「聞きましたよ? 異能者の異能を強化させて洗脳して兵士として使う施設があると。まったく理解できませんね。そんなもの使って何になるのやら。まぁ、確かに駒としては有用かもしれませんが」

ロクスの神経を逆撫でするように喋る。

「ここ最近までその研究、というより施設は消滅してそこにいる者は全滅したと聞きましたが、生き残りがいたとは組織にとっても予想外だったでしょうね。あ、違いますね。消滅したのではなく、貴方が滅ぼしたが正しいのでしょう? 同じ境遇だった異能者達も含めて貴方が滅ぼした」

「……何が言いたい?」

「いえ、別に。ただ罪悪感とかないのかなと思いましてね? 殺したのでしょう? 組織の研究員ごと同じ異能者達を一人残らず滅ぼしてしまった事に」

「ないな」

トゥルスの言葉にロクスは即答する。

「罪悪感? そんなものは捨てた。俺にあるのはお前等、天の智慧研究会に対する憎悪と復讐心だけだ。くだらないことをわざわざ訊くな」

そう、ロクスにそんなものはない。復讐の為に全てを捨てて復讐者となった。

復讐を誓ったその日から。

「殺してやるよ、天の智慧研究会」

憎悪に満ちた瞳と共に剣を構えるロクスにトゥルスは小さく息を吐く。

「愚かな復讐者。貴方如きがどうこうできるほど我々は甘くないことを骨身に沁み込ませてあげましょう」

 

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