ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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愚者と星と塔

「んで? これはどういう状況だ?」

天の智慧研究会の一員であるトゥルスを倒したロクスは遠見の魔術で最後に護衛対象であるルミアがいた場所にやってきたのだが、そこにはベッドに横たわるグレンにその傍で眠りについているシスティーナ。そして師的存在であり、上司でもあるアルベルトがいた。

ただ足元にある儀式法陣、それが施術者の生命力を被術者へ増幅移植する為の白魔儀【リヴァイヴァー】だということぐらいは理解できた。

「遅い。何をしていた?」

「こっちも襲撃を受けていたんだよ。で? 護衛対象は?」

「リィエルが連れ去った」

「……なるほど」

それを聞いて、ある程度は理解できた。

(つまりレイフォードは裏切って天の智慧研究会に寝返ったと……)

それはつまり殺しても問題はないということ。

「それにしてもよく魔力が足りたな。ああ、それでフィーベルか」

本来なら数人掛かりで行う儀式。たった二人では圧倒的に魔力が足りない。だが、システィーナは違う。

精神的弱さはあるものの、魔術師としての才能はそこらの魔術師とは比較にもならない。

純粋な才能で言えばロクスでさえもシスティーナの才能には足元にも及ばない。

(本当に羨ましいほどに恵まれているな、この女は……)

家柄、才能、金、環境などシスティーナ=フィーベルはあらゆるものに恵まれている。ロクスでさえも既に捨てた筈の妬みや嫉妬の感情を抱かせるほどに。

「それで、どうするんだ?」

「……」

これからどうするのか? 上司であるアルベルトから指示を求めるもアルベルトはただ腕を組んで壁に背を預けたまま。まるでグレンが起き上がってくるのを待っているかのように。

「……」

ロクスはその場に座り込む。

別にロクスはグレンの生死などどうでもいい。可能であれば今すぐにでも敵のアジトに向かいたいが本心ではあるも肝心の敵のアジトが分からない為に動きようがない。

唯一、それがわかっているであろうアルベルトが何も言わない以上はロクスにできることは先の戦闘で失った魔力を少しでも回復させることぐらいだ。

(たくっ、面倒だ……)

内心でそう愚痴りながらロクスは回復に努める。

 

 

 

 

 

それから暫くしてグレンは目を覚ました。

アルベルトからシスティーナと共に【リヴァイヴァー】を使って息を吹き返したことやリィエルの『兄貴』のことなどグレンとアルベルトしかわからない会話を行ったり、内定調査した方がいいとロクスが告げていたバークス=ブラウモンは天の智慧研究会と繋がりがあることが判明したり、ロクスの予測通りアルベルトは敵の潜伏場所に目を付けていた。

敵の潜伏場所以外、ロクスにはどうでもいいことなので話の大半は聞き流してやっと行動開始するようになった。

「講師。先に言っておく。レイフォードが俺の邪魔をしたら俺は躊躇いなくレイフォードを殺す」

「ロクス……」

グレンとてわかっている。ロクスはそういう奴だと。

相手が誰であろうとも復讐の邪魔をするのであれば殺す。そういう復讐者(にんげん)だ。

「俺にフレイザーのような慈悲など求めるな」

一方的にそう告げて部屋を出るロクスのその背を見届けながらグレンも準備に入る。

 

 

 

 

サイネリア島中央部に向けて、鬱蒼と茂る樹海の中を疾走し、アルベルトはエレノア=シャーレットに魔力信号を発する術を付呪(エンチャント)していた。それも強力な魔力隠蔽性を持つ術も付呪(エンチャント)したものを。それを頼りにグレン達はバークスの秘密研究所に繋がる地下水路の入口を発見した。

そこは貯水庫のような場所。グレン達が今やってきた、一際大きなプールを中心に、水路と水路を挟む通路が、大小様々なプールとプールを繋ぎ、延々と迷路のように複雑に絡み合っている。所々に水生系の樹木が林立し、あちこちにヒカリゴケが群生しているその様は、白金魔導研究所の風景と酷似していた。

間違いなくバークスの秘密の研究所だ。

アルベルトは召喚【コール・ファミリア】で鷹を召喚してそれを『目』として先行させようとした時、それは現れた。

大量の水が天井へ巻き上げられ、盛大な水柱がそびえ立った。

「どぉわぁああああ―――ッ!? な、なんだぁああああ―――ッ!?」

グレンが慌てて身構え、アルベルトとロクスは素早い身のこなしでその場所から跳び下がる。

水柱の中から巨大で硬質な影が現れ、グレン達の前に立ちはだかっていた。

そのシルエットは一言で表せば、蟹だった。

人の倍以上の身の丈を持つ、冗談のような巨大な蟹。

川辺や磯部で見かける普通の蟹と決定的に違う点は、通常、蟹のハサミは左右の一対だけだが、その巨大な蟹は三対もの、いかにも凶悪そうなハサミを持っているところだ。

「何、この生物の進化過程構造をガン無視しちゃった、クリーチャーッ!?」

その巨体に見合わぬ俊敏な動作で、蟹が一斉にそのハサミの群れを振り下ろした。

「ぉわぁあああっとぉおおぅッ!?――危ッ!?」

グレンは狭い通路上を側転、跳躍、周囲の少ない足場を俊敏かつ正確に飛び回り、連続で振り下ろされる蟹のハサミを次々かわしていく。

「どけ、講師」

そこにロクスが一声。

「《炎獅子》」

黒魔【ブレイズ・バースト】を一節で詠唱。左手から投げ放たれた火球が蟹に着弾。渦巻く爆炎が蟹を飲み込み、業火の火柱が天井を焼き焦がす。

「ぉおおおおおおおおおッ!? 危ねぇ!? てめぇ、ロクス!? 俺まで焼き殺す気か!?」

間一髪。爆炎から逃れることができたグレンだが、一歩間違えればグレンも蟹のように丸焼きにされていた。だが、そんなグレンに対してロクスは。

「チッ」

舌打ちした。

「え? ちょっとロクスくん? どうして舌打ち? まさか俺まで殺そうとしたの? 俺、何かしたか?」

ロクスは答えない。ただ丸焼きになった蟹を見る。

合成魔獣(キメラ)か……」

「ああ。その昔、軍事用に研究されていた合成魔獣(キメラ)だろう。合成魔獣(キメラ)の兵器利用に関する研究は現在では凍結・禁止されているのだが……昔の研究成果が残っていたのか、或いはバークス=ブラウモンが禁じられた合成魔獣(キメラ)の研究を続けていたのか……」

「どっちにしろ、ここは合成魔獣(キメラ)の廃棄場所みたいだな」

「ねぇ、二人揃って話を進めないで俺の質問に答えてくれない? ねぇ」

その瞬間。

グレン達がいるこの区画の、あちこちで水柱が上がった。

蟹だけではない。巨大な烏賊、半魚人のような化け物、ゼリーの塊のような不定形生物……多種多様な怪物が次から次へと姿を現し始める。そのどいつもこいつもが、どこか歪な姿の出来損ないだった。

「団体様のお出ましか」

「突破するぞ」

「二人揃って無視するのはやめて!? クソが! 絶対後で問い詰めてやるからな!!」

三人は通路を駆け出した。

 

 

 

一方そ頃。

リィエルによって連れ去られたルミアは研究所で鎖付きの手枷で吊られて身体に描かれたルーンの術式に沿って膨大な魔力が疾走している。それが激しい激痛となって、ルミアを責め立てる。

ルミアは今、『Project:Revive Life』の儀式の一部に組み込まれ、その意思とは関係なく強制的に能力を行使させられているのである。

それに歓喜の声を上げるバークスとは裏腹にルミアはあることを思っていた。

(ロクス君も、こんな感じに……)

かつて天の智慧研究会の実験動物(モルモット)として扱われていたロクスの気持ちが今になってルミアは少しだけ分かった気がする。

痛い、苦しい、辛い。こちらの都合などお構いなしにただの道具として扱われる。それが何年もロクスが体験した地獄の日々。

(これは、辛い、ね……)

この場にはいない自分を嫌う異性のことを思い出している時、遠くで地鳴りのような音が突然、響き渡った。

「何事だ!?」

作業を止め、バークスが怒声を上げる。

すると、この儀式部屋の入り口にエレノアが姿を現した。

「今、遠見の魔術で確認しました……侵入者ですわ」

「何だと!? 馬鹿な! どうしてここが割れた!? そんなはずは――」

「……はて?」

すると何を思ったか、エレノアはなぜか自分の体のあちこちに指を這わせ始める。

そして、頬に触れた時、その指を止めて。

「あらあらまぁ……近接格闘戦で殴られたあの時ですか……油断しましたわ」

くすり、と。エレノアは嫣然と微笑んだ。

「流石は帝国宮廷魔導士団特務分室《星》のアルベルト様……一杯食わせたと思っていましたが、一杯食わされたのはどうやら私の方だったみたいですわね。御見事」

苦々しく、それでもどこか愉悦の表情で、エレノアが呟いていた。

「そ、それは一体、どういうことだ!? エレノア殿ッ!」

「さぁ、どういうことでしょうか? とにかく敵戦力は三名。帝国宮廷魔導士団、特務分室のエース、アルベルト様。同じく特務分室のロクス様と、帝国魔術学院魔術講師、グレン様ですわ」

「……ッ!?」

グレンが生きている。そのことに驚くもルミアの表情は明るくなっていく。

「まだ、儀式の完遂まで時間がかかりますわ。それまでにこの部屋に至られると、儀式を台無しにされる恐れがあります。いかがいたしましょうか?」

「くぅ……おのれぇ、政府の犬共め……ッ!」

バークスがわなわなと震えながら、傍らのモノリス型魔導演算器に取り縋り、呪文を唱えながら指を動かし、操作を始める。

自ら作り上げた作品、合成魔獣(キメラ)の封印を解いてグレン達を蹴散らそうとする。

 

 

 

 

「邪魔だ」

赤い剣閃が走る。

次々と迫りくる合成魔獣(キメラ)をロクスは精霊の力も借りずに圧倒している。胴体を切断し、首を斬り捨て、時に魔術で焼き尽くす。

「凄ぇ…」

迫りくる合成魔獣(キメラ)をアルベルトと共に始末しながらグレンはただ驚きを隠せないでいた。

(ロクスのやつ、こんなに強かったのかよ……)

しかもそれでもまだ精霊を使っていない。本気を出してはいないのは見て分かる。

ただ驚くグレンの傍でアルベルトが淡々と合成魔獣(キメラ)を始末しながら口を開いた。

「元々奴にはそれだけの素質はあった。それを戦力として使えるように俺が矯正した」

「はぁ!? お前があいつを鍛えたのかよ!? 道理で凄ぇわけだ……」

納得と言わんばかりに頷く。

いったいどれだけ過酷な訓練を施したのか、グレンは想像もしたくなかった。

「分かったら口ではなく手を動かせ。いつまでボサッとしているつもりだ?」

「へいへい。わかりましたよ」

次々とバークスの作品である合成魔獣(キメラ)を倒していく三人はその足を止めることなく次の通路へ進むと……。

「こ、こいつは……ちょっとヘヴィかなー?」

思わずグレンが頬を引きつかせながら、呟いていた。

通路を突破し、大部屋に侵入したグレン達を待ち受けていたのは―――

「ゥオオオオオオオオオオオオオオオン……」

見上げるほど巨大な、大亀の怪物だった。

その大部分が透き通る宝石のようなもので構成されている。

「宝石獣か。過去、帝国が密かに行っていた合成魔獣(キメラ)研究の最高傑作として、理論上の設計だけは為されていたとは聞いていたが……」

「こいつの性質は?」

「殆どの攻性呪文(アサルト・スペル)が効かん。それに恐ろしく硬い」

「……厄介の極みじゃねーか」

が、ロクスはその歩みを止めることなく宝石獣の前に立ちはだかった。

「お、おい! ロクス――」

呼び戻らせようとグレンが声を投げるも。

「死ね」

ロクスの身体から発する黒い炎の放出によって宝石獣は跡形もなく消滅した。

「うそーん」

つい今しがた厄介の極みだと言ったばかりの宝石獣をロクスは通路に転がる石を蹴ってどかす程度の感覚で消し飛ばした。

「待て。ロクス」

スタスタと歩くロクスにアルベルトが呼び止める。

「前にも言ったはずだ。あまり異能を使うなと。その意味は貴様が一番わかって――」

「うるせぇよ」

歩みを止めてロクスは振り返り、アルベルトに言う。

「天の智慧研究会は殺す。邪魔する奴も殺す。その為の力をどう使おうが俺の勝手だ」

それだけ告げて再び前を向いて進みだすロクスにアルベルトは小さく息を漏らすに対してグレンは思う。

(ロクス。本当にお前を止めることはできねえのか……?)

その顔は生徒を思う講師の顔だった。

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