ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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地獄から這い上がってきたモノ

「私を殺すだと? ふははははははっ! 殺せるものなら殺してみるがよい!!」

殺してやる。そう告げたロクスの言葉に嘲笑する。

「特別に一つ教えてやろう! 私には先ほど見せた『発火能力』だけではなく『再生能力』もある! つまり貴様がいくら攻撃しようとも不死身である私を殺すことなど不可能なのだよ!」

自慢気に語るバークスは手をかざす。

「《疾》」

それを察知したロクスは『疾風脚(シュトラム)』でその場から離れる。するとぱきり、とロクスがほんの半瞬前まで居た空間が、ガラスが砕けるような音を立てて、一瞬で氷点下を極限まで振りきっていた。

「『冷凍能力』……」

「そうれ! まだまだいくぞ!」

バークスの全身から無数の稲妻が一斉に放たれる。

蛇のようにうねる極太の稲妻は四方八方へと手当たり次第に喰らいつき、バークスを中心に円を描くように疾駆する。それを回避していくロクスだが、逸れた稲妻は、その軌道上にあったガラス円筒の悉くを打ち砕き、粉砕していく。

「ちっ! 邪魔な障害物が多過ぎて狙いが定まらんのぉ――ッ!」

自身が発する荒ぶった稲妻の渦中、バークスの哄笑が響き渡る。

「まったく、こうなってもとことん役に立たんゴミ共めッ! まぁいい! ついでに大掃除だッ!」

「……『人体発電能力』」

バークスは炎熱系のB級軍用攻性呪文(アサルト・スペル)に匹敵する『発火能力』を発動させて辺り一面を暴力的な灼熱炎で焼き尽くそうとしたが、その灼熱炎はロクスの掌に集結して球体となって消滅する。

ロクスの固有魔術(オリジナル)灼熱令界(レへヴェー)】。

自身を中心としたあらゆる炎熱を掌握して隷属する。それは異能力の炎でも例外ではない。

「『発火能力』……」

「なるほどのぉ。炎は効かぬというわけか。だがそれがどうした!? 私の力はこんなものではないぞ!!」

一瞬だけ自身の異能力が通用しなかったことに驚きはしたもののすぐに別に異能力に切り替えてその力を発動させる。

「『発火能力』は貴様には効かぬようじゃが、私には『耐熱能力』がある! それだけではない! 『耐冷能力』に『耐電能力』も備わっておるのじゃよ! つまり、私には三属攻性呪文(アサルト・スペル)は通用せぬ!!」

炎が通用しないのはお前だけではない。それどころか私はもっと凄いと、言わんばかりに自慢気に語ると、『冷凍能力』と『生体発電能力』を使ってロクスを捕えようとするも、その攻撃はかすりもしていない。

「ええい! ちょこまかとすばしっこい! あまり動くでないわ! 余計な損傷を与えて私の研究に支障が出たらどうしてくれる!?」

あまりにも自分勝手な物言い。本当にロクスのことを、異能者を人間として見ていない。バークスにとってロクスはただの実験動物(モルモット)で自分の魔術を発展させる研究材料でしかない。

そんなバークスに対してロクスは……。

「《ド素人が》」

「――――ッ!?」

刹那、黒魔【ラピッド・ストリーム】を起動。激風を身に纏い、機動力を爆発的に向上させたその速度でバークスに接近した瞬間、剣を走らせる。

直後、バークスの左腕は宙を舞っていた。

ロクスの神速の剣技が切断したバークスの左腕を地に墜とすのであったが……。

「馬鹿め! 忘れたか!? 私には『再生能力』があるということを!!」

そう、バークスが開発した魔薬(ドラッグ)には『再生能力』がある。いくら左腕を斬り落としたとしても『再生能力』ですぐにその左腕は元に戻る……筈だった。

「……は?」

しかし、戻らなかった。

たかが腕一本。数秒もあれば完全に元通りになる筈の腕が一向に再生されない。

何が起きた? 『再生能力』は? と困惑する頭で斬られた腕の先を見てみるとバークスは目をこれ以上ないぐらいに見開いた。

「黒い炎じゃと……ッ!?」

腕の先を確認すると黒い炎がまるで再生を阻害するかのように燃え続けている。

「戦い方が全然なっちゃいねぇ。どれだけ魔術に自信があるのかは知らねえが、魔術戦は三流以下だ」

異能者から異能力を抽出し、それを己の能力として引き起こす魔薬(ドラッグ)の合成に成功させたバークスは外道ではあるも魔術師としては一流なのかもしれない。

だが、それはあくまで研究者として一流なだけで魔術戦までも一流とは限らない。

「くっ! この程度でこの私がッ!?」

反撃しようと右手で『冷凍能力』を遣おうとするが、その右腕も宙を舞う結果となった。

「異能もそうだ。てめえはただ異能を使っているだけだ」

威力はある。だがそれだけ。その使い方も単純で何の捻りもない。おまけに複数の異能が使えるというのに一つずつしか使ってこない。

「魔術戦も三流以下、異能も半端。どれだけ自分を過大評価していたのかは知らねえが……」

「ガッ!?」

「断言してやる。てめえは俺が今まで会った敵の中で最弱だ」

両脚までも切断されてバークスは仰向けの態勢で倒れる。

右手も両脚も左腕と同じように黒炎が再生を阻害してバークスの『再生能力』を封じている。それにより今のバークスは四肢のない。

それはまるで手足が切除され、魔術的に『生かされている』状態だった少女と同じように。

「何より、てめえの相手は俺だ」

「ぐふっ!?」

バークスの腹部を踏みつけながらロクスはそう口にする。

「あの実験場で俺が今日を生き残る為に何人の異能者を殺してきたと思っていやがる?」

死にたくない。その一心で同じ異能者を何人も、何十人も殺し続けてきた。

同じ『発火能力者』も『冷凍能力者』や『生体発電能力者』もそれ以外の多くの異能者をロクスは殺し続けてきた。涙を流しながら、傷だらけになりながら、罪悪感に押し潰されそうになりながらも、ただ死にたくないその一心でロクスは今日を生き残ってきた。

きっとこの世界でロクス以外にいないだろう。

誰よりも異能を理解し、その異能者を殺すことに長けている存在はこの世界でロクスただ一人だけだろう。

バークスの一番の敗因は相手がロクスだったからかもしれない。

「ぐぅぅうううッ!?」

顔を真っ赤に染めながら自身を見下すロクスを睨みつけるバークスは異能力を発動しようとするも、『発火能力』も『冷凍能力』も『生体発電能力』も発動しなかった。

「それがてめえの限界なんだよ」

何故? と疑問を抱くバークスの心情を察したかのようにロクスが答えた。

「俺達、異能者は異能を自分の体の一部として異能を操る。だが、てめえは道具としてしか使ってねぇから手足がなくなった程度で異能が使えなくなるんだよ」

手がなければ道具は持てない。持てないからこそ道具(いのう)は使えない。

それが真の異能者(ロクス)と偽物の異能者(バークス)の違いである。

だが――

「じゃ、じゃが私には『再生能力』がある! 貴様のように扱えなくとも不死身である私は殺せまい!」

四肢を切断されながらもバークスの顔から笑みが消えない。

『再生能力』がある限り自分を殺すことはできないと、絶対の自信を有している。

「貴様の異能もそう長い間は使えまい! この炎が消えた時こそ貴様の最後だ!!」

そう吠える。

そんなバークスにロクスは小さく息を漏らした。

「『再生能力』があるから不死身か? てめえ、馬鹿だろ?」

「なっ!?」

呆れるように嘆息するロクスはバークスの頭を掴んで持ち上げ、液体が残っている割れたガラス円筒に近づいてバークスを水没させた。

「がぼっ!?」

「いくら『再生能力』があっても『窒息死』はするぞ?」

液体に顔を押し付けて呼吸を封じた。

いくら身体を再生させようとも呼吸は別だ。呼吸を封じれば『再生能力者』でも殺すことはできる。

実験場でもロクスは何人も『再生能力者』をこうして殺してきた。ナイフを首に突き刺したり、首を絞めたりと息をさせないようにして殺してきた経験がある。だからこそ『再生能力』があるからといって不死身ではないことは誰よりも知っている。

液体の中で空気の泡を作る作業に忙しいバークスを引き上げ……。

「ぷはっ!? がぷっ!?」

また水没させる。

「苦しいか? それでもてめえが異能者に与えた苦痛に比べればまだ優しい方だが」

それは本当だろう。だが、バークスにとってはどうして自分がこんな苦しい思いをしなくてはならないかと、理解ができなかった。

天に選ばれたる自分が、世界の祝福を受けている筈なのに、どうしてこんな理不尽で不条理な酷い目に遭わなければいけないのか、わからなかった。

「てめえは幸せ者だろうが」

バークスにとって理不尽の権化とも呼べる存在であるロクスがバークスを引き上げてそう言う。

「両親を殺されたことはあるか? その光景を間近で見たことは? 人が焼ける臭いを嗅いだことは? 恐怖で失禁したことは? 悪夢で目を覚ましたことは? 痛みで強制的に起こされたことは? 拷問を受けたことは? 拷問を目の前で無理矢理見せられたことは? 痛い食事を食べたことは? 何日も食事が食べられなかったことは? 牢屋にいた鼠や虫を食べる為に殴り合ったことは? それがご馳走だと思ったことは? 殺し合いを強制させられたことは? ナイフで人を突き刺した感触は? 自分が吐いたゲロを舐めたことは? 家畜の汚物を浴びたことは? 食べさせられたことは? 意志など関係なく女と交わったことは? 結果を出さないだけで嬲られたことは? 何日も手足を拘束されたことは? 何の薬か毒かもわからないものを飲み込まされたことは? 仲間を殺して今日を生き残ったことに安堵しながら罪悪感に苛まれたことは? 死ぬことで地獄から逃れられる仲間の安心しきった顔を見たことは? それが羨ましいと思いながらも生にしがみつく惨めさがてめえにわかるか? わからねえだろう?」

バークスはロクスが何を言っているのかさえ理解できなかった。思考がまるで追いついて来なかった。

「ただ異能者という理由だけでどうして俺達がこんな目に遭わないといけない? 日常を、平和を壊されなければいけない? 何もかも奪われなければいけない?」

ただわかることがあるとすれば……。

「それこそが理不尽で不条理と呼べるものだろう?」

目の前にいるソレはそんな地獄から這い上がって来た憎悪にその身を燃やす復讐者という鬼そのものであるということだ。

「…ぁ……ぁぁ……」

バークスは自身の心が壊れていくことがわかった。

己を食い殺そうとする鬼にただ絶望するしかなかった。

そこでバークスは理解した。

自分は死ぬという現実を、目の前の復讐者には交渉も取引も通用せず、降伏も服従も意味もなく、ただ自分を殺す為だけに『地獄(ゲヘナ)』――冥界第九園から派遣された憎悪に染まった鬼、悪魔であることを。

「死ね」

黒い炎がバークスを焼き尽くす。この世に塵一つ残すことさえ許さないかのように激しく燃え上がるバークスはその身、魂までもがこの世から完全に消滅する。

消滅したバークスを確認したロクスは黒い炎を消すと、グラリと倒れ込む身体を無理矢理堪えさせて自身の契約精霊であるサラを召喚する。

「ロクス」

「……サラ。頼みがある」

倒れようとしているロクスを支えるサラにロクスはあることを頼む。

「ここにあるモノを全部、お前の炎で燃やしてくれ。何一つ、残すことなく全てを」

そんな頼みをサラは頷いて応じ、炎を生み出してこの部屋一帯を炎に包ませる。

何一つ例外はない。魔導装置も、ガラス円筒も、その中に閉じ込められている異能者の成れの果ても、少女の亡骸の全てを赤い炎によって燃えていく。

「……」

ロクスはただ黙って燃えていくその光景を見届けていると、その炎から先ほど死んだ筈の少女が炎となって姿を現した。

それは炎熱による揺らめきによるものか? それとも幻か? もしくは少女の霊魂か?

わからない現象を目の当たりにするロクスを前に少女は口を開いた。

―――ありがとう。

燃え上がる炎と共にロクスの耳には確かにそう聞こえた。

「……俺は、お前等の仇を取ったわけでも、救ったわけでもない。ただ殺しただけだ」

それは幻聴であったとしても、炎となった少女が幻覚であったとしても関係ない。

ロクスがバークスを殺したのは少女達の仇を取ったわけではない。そして少女達を救えたわけでもない。ただバークスを殺しただけ。だから礼を言われる覚えがロクスにはなかった。

「だからいつまでもこの世界に留まっていないでさっさとあの世へ逝け。来世があるなら今度こそ幸せになりやがれ」

それを聞いた少女は姿を消した。あの世へ旅立ったのか、それを確かめる術はロクスにはない。

だが――

「俺はまだ、死ねない……」

ロクスはまだ死ぬわけにはいかない。

天の智慧研究会がある限り、ロクスはどこまでも生にしがみついて天の智慧研究会に復讐し続ける。天の智慧研究会が生み出した黒い炎とその身に宿す憎悪と共に。

「行くぞ、サラ」

「うん」

ロクスはサラと共にグレン達が進んで行った道に向かって歩き始める。

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