ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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生きたいと願う女の子

バークスを倒したロクスはグレン達がいる最奥の部屋に辿り着く。だが、ロクスが到着した頃には全てが終わっていた。

「おっ、ロクス。無事だったんだな」

「当り前だ」

あんな奴に負けるか、といつも通りの態度で言ってくるロクスにグレンは安堵する。少し離れた位置にいるアルベルトも何も言ってはこないが、問題がないことに小さく息を漏らしていた。

「……」

ロクスは周囲を見渡して状況を確認する。

護衛対象であるルミアはひとまず無事だ。制服が破られてはいるもしっかりと五体満足ある。リィエルはそのルミアに抱き着かれながら泣いているがロクスはそこは無視した。

それよりもやるべきことがロクスにはあった。

「おい、ロクス……?」

不穏な空気を察知したのか、グレンはロクスに声をかける。だが当の本人はそんなことお構いなしに捕虜として捕らわれているであろう青髪の青年に近づいてその心臓に剣を突き刺した。

「ガッ!?」

「おい!?」

あまりにも迷いのない動きにグレンは数瞬反応が遅れてしまった。

心臓に剣を突き刺されて引き抜かれると、青髪の青年の胸元から心臓の鼓動に合わせて物凄い勢いで血が溢れ出る。止まらない血液、明らかな致命傷。治癒の魔術も間に合わない。

「い、いや、だ……死に、たくない……死にたく……」

「死ねよ」

無情の刃が青髪の青年の喉に突き刺さり、青髪の青年は絶命した。

死を確認したロクスは剣を引き抜き、血を払う。

そこへグレンがロクスに問う。

「……なんで殺した?」

「殺さない理由があるのか?」

端的にそう返す。

「そいつにはもう戦う気力はなかっただろ! それに拘束もしていた! 捕虜として捕えた方が組織の情報も聞き出せたかもしれねえだろうが!?」

グレンの言うことも一理ある。

だが。

「それはお前が決めることじゃねぇだろ? 魔術講師」

「――ッ!?」

「戦う気力がないからなんだ? 拘束しているからどうした? それが殺さない理由になるのか? たかが魔術講師がそれを指示する権限があるのか?」

今のグレンはあくまで魔術講師。軍に所属していないグレンにそれを指示する権限はない。

「それにどうせ組織の外陣(アウター)。役に立つ情報を持っているとは思わねえ。なら殺しても問題はないだろ? 少なくとも俺は室長が殺すなと指示されない限りは躊躇うことなく殺す」

情報を聞き出す為なら殺すのは後回しにする。その後で殺す。その価値すらない者はその場で殺す。例え戦う気力がなくても、捕虜として拘束されていたとしてもロクスには関係ない。

グレンはアルベルトを見るもアルベルトは何も言ってこない。こうなることがわかっていたかのように。いや、分かったうえで黙認しているのだろう。それに気付いたグレンは思わずギリと歯を噛み締める。

(いや違ぇ。俺が甘かったんだ! ロクスの復讐心をまだ甘くみていた……ッ!)

己の失態に恥じる。

ロクスが天の智慧研究会に憎悪し、復讐心を抱いているのは知っていた。だけど捕虜として先に拘束していれば殺しはしないだろうと思っていた。いや、そう思いたかったのかもしれない。もしくは自分の知っている誰かが殺しをすることから目を背けたかったのか……。

どちらにしてもグレンはまだロクスに宿す憎悪を甘く見ていた事実は変わらない。

「天の智慧研究会は殺す。それは組織に加担した奴も例外じゃねぇ」

ロクスは剣先をリィエルに向ける。

「待て!? どうしてリィエルまで!? リィエルはお前の復讐とは関係ねぇだろ!?」

「それをお前が言うか? 講師」

リィエルを庇おうとするグレンに対してロクスは呆れるように息を漏らす。

「お前を殺しかけたのは誰だ? レイフォードだろ? それに護衛対象であるティンジェルを天の智慧研究会に引き渡したのもレイフォードだ。今回の一件、一番の原因はこいつだ。違うか?」

「――ッ」

否定できなかった。

理由がどうであれ、リィエルは天の智慧研究会に加担したのは事実。裏切り行為であることは明白だ。

「待って! ロクス君!」

「待ってくれ! ロクス! 理由があるんだ!」

グレンは話した。リィエルのことについて。

リィエルは世界初の『Project:Revive Life』の成功例。シオンの妹、イルシアの『ジーン・コード』から、錬金術的に錬成された身体を持ち、イルシアの記憶情報『アストラル・コード』を引き継いだ魔造人間であること。そして先ほどロクスが殺した青年の名はライネル。シオンと共に『Project:Revive Life』を研究していた者でリィエルの記憶を封印・捏造されていた。その為にリィエルはライネルの言うことを逆らうことができなかったとグレンはロクスに語る。

「リィエルには何の罪もねえ。もし、罪があるとすればリィエルに何も告げなかった俺にある」

「グレン……」

「だから頼む、リィエルを殺さないでくれ……」

リィエルの裏切り行為はグレンがリィエルに対してその事実をうやむやにし続けてきたからこそ起きたことだ。だから今回の一件の罪はリィエルにではなく自分にあると告げる。

「……」

ロクスは剣先をリィエルに向けたまま何かを考えるかのように黙り込むと視線をグレンからリィエルに戻す。

「レイフォード。お前からは何か言うことはねえのか?」

「……わ、私は」

「俺はお前を殺すことに躊躇はない。何か言い分があるなら講師じゃなくてお前が言え」

安易な返答をすれば殺す。その瞳を向けられながらもリィエルは意を決したかのように口を開く。

「……私はグレンやルミア、システィーナに、酷いことをした」

理由はどうであれその事実は変わらない。だからその責任から逃れるのではなく受け入れる。

「だから謝りたい。謝って、またルミア達と一緒にいたい」

とつとつと不器用に思いの丈を述べる。そして――

「生きたい」

「―ッ」

その想いをロクスに伝える。

「まだ、なんのために生きたらいいのかわからなくなるけど、それでもグレンやルミア達と一緒に生きていたい」

生きたいと、ただ純粋にその想いを口にするリィエルにロクスは何も答えない。

説得に失敗したのか? とグレンは冷汗を流しながらいざという時は我が身をリィエルに盾になろうと身構える。手に愚者のアルカナを握りしめ、いつでも【愚者の世界】を起動できるように。

「ロクス君。ロクス君にとってリィエルは復讐の対象なの?」

リィエルを抱き締めながらルミアはロクスにそう問いかける。

「確かに私をここに連れてきたのはリィエルだよ。でも、リィエルはずっと苦しそうにしていた。自分の意志で、したくて私を連れてきてはいない。そうしないと何の為に生きているのかわからなくなるから……だからそうするしかなかったの」

この場に連れてきたのは間違いなくリィエル。しかし、ルミアは知っている。

リィエルがずっと辛そうにしていたことを。

「リィエルは敵じゃないよ。そしてロクス君の復讐の対象でもない。だからリィエルを殺さないで」

「ルミア……」

守るように、庇う様に復讐者(ロクス)を止めようと必死に言葉を選択して口にするルミア。それでロクスが止まるかどうかはわからない。けど、何もしないままでいるよりかは全然マシだ。

だが、剣を引く気配はない。とはいえ、リィエルを殺す様子もない。

ロクス自身に何か思うところがあるのか、悩んでいるのかはわからない。だけど説得させるには後一手足りない。そう思った時、グレン達にとって予想外な人物がロクスに問いかけた。

「ねぇ、ロクス。この子を殺しちゃうの?」

サラだ。ロクスの腕を掴みながらロクスを見上げるようにそう問う。

「話を聞く限りだとどちらかと言えばロクスと同じ被害者側の子だよ? この子を殺してロクスの復讐は果たせるの? 後悔しない?」

「……サラ。お前はどっちの味方だ?」

「もちろん私はずっとロクスの味方だよ。この先、何があってもロクスの味方でロクスの力。でも私はロクスの恋人で相棒。愛しい人が迷っているのなら声の一つぐらいかけるよ」

サラはただロクスの味方で力だけの存在ではない。

困っている時は手を貸し、辛い時は慰め、戦う時は共に戦う相棒だ。だから相棒として恋人として迷っている相棒(ロクス)に声をかける。

「間違いは誰にだってあるよ。それに生きたいと願う女の子をロクスは殺せるの?」

「……」

自身の相棒の言葉に何も答えず、無言を貫くロクスはただ黙って剣を下ろした。それに安堵するグレンやルミアはほっと一息。

「レイフォード。お前の命はそいつらに預ける。だが勘違いするな。次に裏切ったら俺は容赦なくお前を殺す。そいつらに感謝するんだな」

「……ん」

頷くリィエルに背を向けて入ってきた扉から出ていくロクス。そのロクスに続くように出ていくサラは顔だけ振り返ってウインクする。

(た、助けてくれたのかな……?)

きっとそうだろう。

どういう意図があって助けたのかはわからない。だけどきっとサラがロクスに声をかけなければどうなっていたのかはわからない。ロクスの相棒であるサラだからこそロクスは剣を収めたのだろう。

何はともあれ、これでようやく今回の事件の幕は閉じた。

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