ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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何もない墓

――‶汝望まば、他者の望みを炉にくべよ〟

魔術師を目指すならば、誰もが最初に教わる言葉。他者の望みを蹴落とし、踏み躙り、目的の為に優しさや甘さを捨て切れるか? 良くも悪くもそれが魔術師の本質。

そしてロクスの父親、ウィルマ=フィアンマはお世辞にもそんな魔術師と呼べるような人間ではなかった。一応程度の貴族の爵位を持ち、アルザーノ帝国魔術学院を卒業した身ではありながらも位階は第三階梯(トレデ)のまま経歴も平凡の一言。

唯一、特徴を上げるとすれば優しいの一言だ。お人好しとも言える。

他者の望みを蹴落とし、踏み躙り、目的の為に優しさや甘さを捨て切ることができない人間。それがロクスの父親だ。アルザーノ帝国魔術学院を卒業後は魔導官僚で働き、同じ職場で出会った異性と恋仲となって夫婦となって妻、マインは子供を身籠った。

そうして二人の間に生まれた子供がロクスだ。

「お父さん、みてみて~」

それはロクスが生まれて五年の月日が経った頃、ロクスが初めて異能を行使した時、ロクスはまだ異能のことがわからず、優しい父親と同じ魔術が使えたのだと勘違いしてその異能を父親に見せた。

ウィルマは自分の息子が異能者だと知り、驚きを隠せれなかった。

アルザーノ帝国では異能は『嫌悪』の対象。差別と迫害の対象に成り得る。それを理解しているからこそウィルマは息子に強く異能を人前で使わないように言い聞かせた。

自分の息子が異能者でもウィルマとマインは変わらずの優しさと愛情を与え、ロクスを育てた。幸いにもロクスには魔術師としての才能があった。魔術の研鑽を積ませれば異能を誤魔化すことができると思い、二人はロクスに魔術を教えることにした。

だが、それから三年後、二人は天の智慧研究会の手によって殺されることをこの時はまだ知る術がなかった。

 

 

 

 

「……久しぶりに見たな」

『遠征学修』からフェジテに帰ってきたロクスは久しぶりに夢の中で両親と会った。今でも覚えている。両親の優しい顔に頭を撫でてくれた時の感触、愛情のその全てを鮮明に思い出すことができる。

だけどもう二度と、二人の優しい顔を見ることはできない。

「学院も休みだし、墓参りぐらい行くか……」

久々に両親の墓参りに行こうとロクスはシャワーを浴びて着替えて部屋を出る。

ロクスは北地区にあるアパートに住んでいる。前までは東地区にあるリックの屋敷で生活していたが、魔術学院に入学すると自分の面倒は自分で見ると、リックの屋敷を出て行った。

リックもそんなロクスを思って毎月お金は送ってはいるもロクスはその金には一度も使っていない。

金を稼ぐ手段なんていくらでもある。魔術師であれば余計に。だからロクスは金銭には困っていない。

両親の墓場に行く道中でロクスはある場所に足を止める。

そこには何もない。いや、正確にはあった場所だ。

かつてロクスが家族と一緒に過ごしていた家がそこにあった。だけど今では何一つ残っていない。

「……」

何も言わず、無言で再び足を動かすロクスは両親の墓がある墓地までやってきた。

「……久しぶり」

返って来るはずもない返事。ロクスは両親の名が彫られた墓石をじっと見つめる。

(この中には何もないが……)

墓の下には両親の遺体どころか、遺骨も遺品すらも入っていない。あの日、ロクス以外の全ては燃え散った。両親の遺体さえも骨も残らずに。あるのはロクスの記憶にある思い出だけだ。

「花はまだ供えない。全てが終わって生きていたら供える」

天の智慧研究会に復讐する。それが終わるまでロクスは両親の墓に花を供えない。けど、誰かが既に二人の墓に花を供えてくれている。それもまだ新しい。

「もう父さん達が死んで何年も経つのにまだ花を供えてくれる人もいるんだな」

誰よりも優しい両親であるのならそれも納得だ。

きっと多くの人に慕われている。亡くなった今もこうして花を供えてくれるほどに。

誰かはわからない。けど、まだ両親のことを覚えてくれているのならそれは嬉しいことだ。

「父さん。優しい父さんならきっとあいつと同じことを言うだろうな。復讐を止めて自分の幸せを手にしろって。わかっているよ、父さんも母さんもそういう人だから」

両親が生きていたらきっと止めるだろう。復讐という茨の道を進もうとする馬鹿な息子を体を張ってでも止めようとする。

「復讐なんて無意味だ。仮に復讐を果たせたとしても何も戻って来ない。そんなことわかってる。そんなことをしても誰かが生き返るわけじゃない」

そんなことは他の誰よりもロクス自身が理解している。

「だけど許せるわけがない。天の智慧研究会が今も生きているだけで殺意が憎悪が湧き出て仕方がない。奴等を地獄の業火で焼き尽くその時までこの憎しみは消えない」

グッと手に力を入れる。

「俺はきっと二人と同じ所には行けない。それでもいい。奴等に報いを受けさせるのなら、復讐を果たし、この憎悪を晴らせるというのなら俺は地獄(ゲヘナ)にだって落ちる覚悟はできている」

己の誓いを再度確認するかのように両親の墓でその決意を口にする。

「父さん。父さんは優しい人だったよ。魔術師とは思えないぐらいに優しい人。でも、俺は知ったんだ。優しいだけじゃなにも守れないし誰も救えない。だから父さんは……」

そこから先は言えなかった。いや、言いたくなかったのかもしれない。

そこで言葉を途切らせてロクスは踵を返す。

「優しさはここに置いていく。復讐を果たすのにそれはいらない」

最後に。

「親不孝な息子で、ごめん」

それだけを言い残してロクスはこの場を後にした。

(これでいい……俺は復讐の為に生きると決めた。その為に力を求める)

それが何の意味のない行為だったとしても内に宿る憎悪の炎を消すには天の智慧研究会を殺すしかない。

(殺す。殺し尽くす。奴等を、天の智慧研究会を一人残らず焼き尽くす。奴等が生み出したこの黒い炎で……ッ!)

誰がなんと言おうとも復讐を果たす。それがロクスの誓い、ロクスの生きる道。

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