ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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それはどうでもいいこと

次の日、授業の予鈴前。

「…………………昨日はすまんかった」

グレンはシスティーナに頭を下げて謝った。

その光景に誰もが、システィーナさえも硬直し困惑を隠せずにいた。

授業開始前だというのに教室に姿を現したグレンが、システィーナに頭を下げて謝って予鈴が鳴る。この時まで生徒達は遅刻はしなかったけど、立ったまま寝ているんだろうと予想していたが、グレンはそれを見事に裏切った。

「じゃ、授業を始める」

どよめきがうねりとなって教室中を支配した。誰もが顔を見合わせる。

「さて……………と。これが呪文学の教科書…………………だったっけ?」

グレンが教科書をめくって、苦い顔を浮かべる。そして教科書を持って窓際へと歩み寄り、窓を開いて………………。

「そぉい!」

窓の外へその教科書を投げ捨てていた。

その光景はもう見慣れたグレンの奇行。生徒達は失望と溜息と共に各々自分の好きな教科書を開いたのだが。

「さて、授業を始める前にお前らに一言言っておくことがある」

再び教壇に立ったグレンは一呼吸置いて――――

「お前らって本当に馬鹿だよな」

なんかとんでもない暴言を吐いた。

「昨日までの十一日間、お前らの授業を見ててわかったよ。お前らって魔術のこと、なぁ~んにもわかっちゃねーんだな。わかっていたら呪文の共通語を教えろなんて間抜けな質問出てくるわけないし、魔術の勉強と称して魔術式の書き取りやるなんてアホな真似するわけないもんな」

「【ショック・ボルト】程度の一節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」

誰が言ったか。しん、と教室が静まり返る。

そして、あちらこちらからクスクスと押し殺すような侮蔑の笑いが上がった。

「ま、正直、それを言われると耳が痛い」

ふて腐れたようにグレンはそっぽを向きながら小指で耳をほじる。

「残念ながら、俺は男に生まれたわりには魔力操作の感覚と、あと、略式詠唱のセンスが致命的なまでになくてね。学生時代は大分苦労したぜ。だがな………………誰かが知らんが今、【ショック・ボルト】『程度』とか言った奴。残念ながらお前やっぱ馬鹿だわ。ははっ、自分で証明してやんの」

教室中に、あっという間に苛立ちが蔓延していく。

「まぁ、いい。じゃ、今日はその件の【ショック・ボルト】の呪文について話そうか。お前らのレベルならこれでちょうどいいだろう」

あまりにもひどい侮辱にクラスが騒然となった。

「今さら、【ショック・ボルト】なんて初等呪文を説明されても………………………」

「やれやれ、僕達は【ショック・ボルト】なんてとっくの昔に究めているんですが?」

「はいはーい、これが、黒魔【ショック・ボルト】の呪文書でーす。ご覧ください、なんか思春期の恥ずかしい詩みたいな文章や、数式や幾何学図形がルーン語でみっしりと書いてありますねー、これが魔術式って言います」

生徒達の不平不満を完全無視してグレンは本を掲げて話し始める。

このクラスの生徒達が一節詠唱ができること、魔術の基本技能は一通りできることを前提に話を進めていく。

そしてグレンは【ショック・ボルト】の呪文を黒板に書いて三節ある呪文を四節に増やした。

《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

「さて、これを唱えると何が起こる? 当ててみな」

クラス中が沈黙する。

何が起こるかよりもなぜそんなことを聞くのかという困惑の沈黙だ。

更にグレンはそこに基本的な唱え方という条件を突き出すも沈黙は続いた。

グレンも予想通り全滅かと思った矢先―――

「右に曲がる」

たった一人、ロクスだけがつまらなそうに答えた。

「へぇ、わかる奴もいるじゃねえか。なら、えっと………………………」

「ロクス=フィアンマだ。覚える必要はない」

「お、おう、じゃ、ロクス。これはどうだ?」

《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

「射程が三分の一」

「これは?」

《雷精よ・紫電  以て・撃ち倒せ》

「出力が大幅に落ちる」

「なら―――」

「そんな下らない事よりさっさと即興の呪文改変を見せた方が早いんじゃねえか? 時間の無駄だ」

うんざりするようにそう言うロクスは溜息を吐きながら左手を誰もいない場所に向ける。

「《こんな風に》」

呪文改変による一節詠唱で【ショック・ボルト】を起動させるロクスに生徒達だけではなくグレンも目を丸くした。

「マジか………………一節の呪文改変で精度を落とすことがねぇなんて天才っているもんだな」

「そんなことはどうでもいいからさっさと進めろ。この程度もできない奴等にわざわざかける時間なんてねぇ」

「ちょっと、そこまで言うことないでしょう!?」

その言葉に噛み付いてきたのはシスティーナだった。

「事実だろうが。実際に俺以外の誰もが答えなかった。お前も含めてな」

「だからといって言っていいことと悪いことが――――」

「はいはーい、そこまで。喧嘩なら外でやりなさーい」

二人の間を入って仲裁するグレンはロクスに言う。

「ロクス。お前がこいつらよりも先に行っているのはよくわかったが、白猫と言い争っている方こそ時間の無駄だと思わねえか? 別に俺はこいつらと足踏みを揃えろなんて言わねえよ。俺の授業中はお前の好きなことでもしていればいい」

「………………………………ああ」

グレンの言葉にロクスは口を閉ざす。

それを見てグレンは教壇に戻って生徒達に告げる。

「じゃ、これからいよいよ基礎的な文法と公式を解説すんぞ。ま、興味ない奴は寝てな。正直マジで退屈な話だから」

しかし、今この教室において欠片でも眠気を抱いている生徒は一人もいなかった。

 

 

 

 

その日の昼休み。

誰もが昼食を取るその時間帯で多くの者は学院にある食堂を利用する。

当然ロクスだって昼食を取る為に食堂を利用するも、ロクスはサンドイッチを片手に羽ペンを持って羊皮紙に何かを書いている。

だが、誰もそれを気にする者はいない。何故ならロクスが座るテーブルには誰も座っていないどころか近づこうとする者さえいない。

自分が嫌われ者という自覚はあるし、ロクスにはそんなことはどうでもいいとさえ思っている。

周囲の視線と言葉に気にもかけず魔術の研鑽に励んでいると対面の席に誰かが腰を落ち着かせた。

「失礼」

それは非常勤講師であるグレンだ。一応、一言断って座るグレンを一瞥して特に何も言わず、放置する。

そんなロクスにグレンは呆れながら言う。

「お前、わざわざこんな時間まで勉強かよ。飯の時ぐらい休んだらどうだ?」

「あんたには関係ないことだ」

ばっさりと言い切るロクスにグレンは溜息を吐いた。

「まぁそうなんだけどよ。お前、そこまでして魔術を学んでどうするんだ?」

「別に」

答える気はない。言外にそう告げている。

一向に手を止めない彼を見てグレンは再び溜息を吐きながら自分の食事を口にする。

「にしても、お前も随分と嫌われ者じゃねえか。お前の噂、少し耳にしたけどロクなやつじゃないもんばっかだ。少しは学生としての本分を――――」

「非常勤講師。先に言っておく」

その手を止めて紅い瞳はグレンを見据えながら告げる。

「俺は誰かに好かれる為にここに来たわけでも、学生を満喫する為に来たわけじゃない。目的を果たす為に来た。それだけだ。他の奴等の事なんて知ったことか」

そのあまりにも物言いにグレンは思わず引いた。グレンだけじゃなく、それを聞いた生徒達も彼から更に距離を取った。

「わかったら要件以外話しかけるな」

それだけ言って彼は再び羽ペンを動かす。

 

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