ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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不器用な想い

アルザーノ帝国魔術学院の二組はグレンの指導の下で魔導兵団戦の訓練に励んでいる。

「ふぅ……」

ルミアもまたクラスメイトと一緒に魔導兵団戦の訓練に励むもその顔から疲労の色が見え始める。

「ごめんね、ルミア。無理させちゃって」

「ううん。私こそごめんね。システィについて行けなくて」

親友を賭けた決闘だというのにこの程度で親友の足を引っ張ってしまうルミアは申し訳なさそうに謝るもシスティーナは首を横に振る。

「謝らないといけないのは私の方よ。ルミアは休んでいて。飲み物でも持ってくるから」

「うん」

訓練に無理をさせてしまった親友を休ませようとするシスティーナは飲み物を持ってこようとその場から離れ、ルミアは親友の気遣いを無駄にしないように休むことにする。

呼吸を整えながら他に訓練に励んでいるクラスメイト達に目を配らせるルミアはやはり思ってしまう。

(いないよね、ロクス君は……)

ロクスはこの場にはいない。

システィーナがレオスと結婚しても本当にどうでもいいのか、ここにはいない。それどころかここ最近では学院にすら顔を出していない。

それでも、もしかしたらとつい探してしまう。

(ロクス君はどうしてあんなことを……)

システィーナに向けて暴言にも等しい乱暴な物言い。暴言自体は今更の話だけど、その言葉もあってか、システィーナは誰よりも訓練に熱を入れている。そのせいもあってルミアはシスティーナに動きについて行けないでずにこうして休んでいる。

だが熱が入っているのは何もシスティーナだけに限った話ではない。

二組の全員は大なり小なり、ロクスの影響を受けているのが見て分かるほど。その影響は決していい影響とは言い難いけど強くなろうとする気持ちは確かなものだ。

「ほっほっほっ、皆、頑張っているようじゃな」

「学院長……」

突然の学院長の登場に思わず姿勢を正すルミアだが、リックはそれを止める。

「そのままで構わんよ。ちょっと生徒達の様子を見に来ただけじゃからな」

そう言って二組を見渡すリックは当然のようにあることに気付く。

「やはりロクス君はおらぬか」

わかっていたとはいえ、実際にいないとなるとリックは困ったように笑う。

「あの、学院長。ロクス君は……?」

「うむ。実は暫く学院を休むと連絡があってな。理由を聞いても返事すら返してくれんのじゃ」

それでも休むことを連絡している辺りはまだマシなのだろう。

(もしかして……)

ルミアはロクスが学院を休んでいる理由は何となく察した。恐らくは特務分室としての仕事なのだろうと。

「まぁ、ロクス君のことだからひょっこりと顔を出すじゃろう」

ああ、ありそう。とルミアは思った。

たぶん、魔導兵団戦が終わった頃には何食わぬ顔でいつも通りに学院に来る姿が容易に想像できてしまった。そこでルミアは学院長であるリックにあることを尋ねる。

「あの、学院長。ロクス君はその、どうして……」

誰かを傷つけるような、乱暴な物言いをするのか。そう尋ねるルミアにリックはふむ、と頷いて口を開く。

「そう思うのも当然じゃ。だが、どうか勘違いしないでおくれ。ロクス君は別に好きで言っているわけではないのだよ」

優しく諭すかのような口調でリックは語る。

「ロクス君はあまりにも傷つき、失い過ぎてきた。だからこそ、自分と同じ想いをさせないように相手を傷つけてでも強くさせようとする。自分が恨まれ、憎まれようとも構わずにその者を奮い立たせようとする」

それは一種の発破の類だろう。

相手を傷つけ、反感を買い、恨みや憎しみを向けられながらもその相手を強くさせようと奮い立たせる。今の二組と同じように。

「無論、ロクス君が意図的にそんなことをしているわけではない。そんなことができるほどあの子は器用ではないからのぉ」

むしろ不器用じゃ。とリックは言う。

「単純に苛立って仕方がないのじゃろう。黙って見ることもできず、かといって言葉で分からせてあげることもできないからこそそういうやり方を取ってしまう」

それは確かに不器用ではある。

だけどそれは悪い言い方をすれば傷つけてまで自分の価値観を押し付けているだけだ。それが許される道理はどこにもない。

それでもロクスは無視することも黙っている事もできない。

「ロクス君自身も理解しておるはずじゃ。それが不器用なやり方であることも、ただ悪戯に相手を傷つけているだけだということを。それでも失うよりかは傷ついた方がマシなの思っておるのじゃろうな」

「……それは、誰も失わせないように、死なせないように強くさせようとしている、ということですか?」

「確証はないがのぉ」

リックの言葉にルミアは思い出した。これまでのロクスの暴言を。

あまりにも傲慢で乱暴な暴言。ルミアも散々言われている。

だがそれは全て強くさせようとする発破の類だとすればどうだろうか?

失うぐらいなら傷ついた方がいい。

傷つかなければ人は強くなろうとしない。

弱ければ全てを奪われるだけ。

失わせないように、死なせないようにする自分の価値観を押し付ける身勝手な我儘。

「とはいえ、わしも本当のところはわからん。ロクス君は自分の本心を決して語ろうとはせん。けどな、ルミア君。そんなわしでも言えることが一つだけあるのじゃよ」

リックは微笑みながらルミアに告げる。

「ロクス君は君のことを嫌ってはおらん。むしろ誰よりも心配しておる」

「え……?」

嫌いだとロクスから散々言われてきたルミアはただ驚いた。

「見ていられないのじゃろう。ルミア君のような優しい子が自分よりも他人を優先してしまうのが。だからこそ、必要以上につっかかってしまう」

「あ……」

『それなのにお前は死ぬことを選んだ!! 希望を与えるだけ与えて自分勝手に死んだ女が復讐を止めろだと!? ふざけんな!! 悲劇のヒロインでもなりたかったのか、自己犠牲を良しとする聖女にでもなりたかったのかは知らねえがな、お前は俺を裏切った!!』

ロクスがラウレルに向けて叫ぶように言ったその言葉。

その少女に似ているから、重ねてしまうから、想起させてしまうからつっかかってしまう。それが、自分勝手な嫌悪感と自分のことも大切にして欲しい想い。それが交ざり合って愛憎に近い感情をルミアにぶつけてしまう。

それがルミアにとっても普通の人にとってもはた迷惑なものには違いない。それでもロクスはもうそうすることしかできないかのようにロクスは他者を傷つけようとする。

ロクス=フィアンマは弱さを決して許さない。

自分に対しても他の人に対しても。

だからこそ傷つけても強くさせようとする。

それがロクス本人ですら気付こうとしないほどの叱咤激励(いかり)

「本当に君のことを嫌っているのなら無関心になれば楽なはずじゃ。それに気付かず、嫌悪感を剥き出しにするのはそれだけ君のことが放っておけぬということじゃろう。まぁ、その真意はわしにもわからぬが」

「……」

その真意はルミアはなんとなくだけど理解できた。

自分を犠牲に死を選択した少女(ラウレル)と似ているから。ただそれだけだ。自分勝手な感情をルミアに押し付けているに過ぎない。だけどそれだけロクスにとって大切な存在だったということだ。

「ルミア君。君はもう少し自分の気持ちに正直になったほうがよいな」

「え?」

「ロクス君は誰よりもそういうのに敏感じゃ。誰かの為に自分の気持ちを偽ることなどせんよい。子供の笑顔を守るのは大人の義務なのだから」

「学院長……」

穏やかに微笑みながらリックはルミアにそう告げる。

「最も子供、息子一人も笑顔にしてやることもできんわしには過ぎた言葉じゃが」

リックは一度もロクスの笑顔を見たことはない。もう笑うことなどできないかのようにいつも険しい顔をしている。そんな自分に不甲斐無さを覚える。

「ルミアー!」

「システィ……」

両手に飲み物を持ってルミアの下に駆け寄ってくるシスティーナを見てリックはその場を去ることにした。

「ふむ。これ以上は邪魔になってしまうのぉ。ではルミア君。頑張りなさい」

「はい。あの、学院長」

「ん?」

「ロクス君は学院長にとても感謝していると思います。学院長がロクス君を大切にしている気持ちは本当なのですから」

そうでなければロクスがリックの言葉を聞いたりはしない。少なからずの感謝や恩義を感じているからリックの言葉には従っているのだから。

「ありがとう、ルミア君」

励ましの言葉を送ってくれたルミアに礼を告げてリックは今度こそその場を去った。

「お待たせ! ルミア! さっき学院長がいたみたいだけど」

「うん。訓練頑張ってって励まされたんだ」

そうなんだ、と納得する親友から飲み物を受け取るルミアはリックが去った場所をもう一度見て思う。

(親子だな……)

ロクスもリックも心の内側を見透かしているかのような物言いにルミアはふとそう思った。

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