システィーナ達が魔導兵団戦の訓練に励んでいた頃、ロクスはアルベルトと共にとある調査に駆り出されていた。
「えげつないな……」
眼前に転がる変死体を見てぽつりとそう口から漏れる。
血まみれで、生前どのような容姿をしていたのか判別困難なほど全身が崩壊している。全身から噴水のごとく派手に出血したらしい……壁にはドス黒い血が付着している。
「これが件の『
「ああ」
アルベルトは短く肯定する。
被投与者の思考と感情を完全に掌握し、筋力の自己制限機能を外し、ただ投与者の命令を忠実なまでにこなす無敵の兵士を作ることを目的として開発された
一度この薬を投与された人間は廃人と化し、もう二度と元には戻らない上、定期的に『
たった一度の使用で、肉体的に生きてはいても、人としては死んだも同然となる。
この
他者に投与するだけで、
死者を迎えに来た天使の羽粉――すなわち、『
(これが
それを聞いてロクスは真っ先にそう思った。
たまたま目を付けなかっただけか、それとも使おうとは思わなかったのか、その意図を知る術はもうないが、もしも使われていたらロクスはここにはいない。
「だけど資料では『
「そのはずだ。だが現実は違う。再びこうして『
「面倒くせぇ……」
思わずぼやく。
ロクスは一時的に王女の護衛任務を解任し、今回の調査に参加させられている。
政府上層部はこの事態をかなり重く見ている。軍は勿論、魔導省の高級官僚達も総出で、この事件の調査に当たっているほどに。軍に所属しているロクスがこの場にいるのはある意味、当然のことかもしれない。
「その『
「『
「あんたでもか?」
「ああ。だが、一年余前、その製法を自身の頭の中だけで完全把握していたあの男はグレンと……セラが始末した」
「そうか」
セラ、という名に心当たりはないロクスだが、特に気にすることはなかった。
アルベルトの表情からその事件で死んだのだろうとなんとなく予想ができたから。
「そいつが生きている可能性は?」
魔術師にとって生死を誤魔化す術は掃いて捨てるほどある。だから何らかの方法で生き延びていてまた今回のような事件を起こしているのではないかと一考した。
「ない……とは断言はできん」
変死体を見てアルベルトはそう答えた。
『
(だけど、それなら目的はなんだ?)
仮にアルベルトが言うあの男が生きていたとするのならその目的がわからない。ただの無差別な殺戮が目的ならもっと死者が出ていてもおかしくはないし、発見された変死体からも共通点が見当たらない。
『
(帝国の戦力を削ぐのなら一般人を殺す理由がない。攪乱が目的ならその本命はなんだ? 女王の命? いや、それなら帝都で使うはずだし、『
ふと、ロクスの脳裏に一人の少女の顔が思い浮かぶ。
自分の嫌いな優しい笑みが消えないその少女のことを思い浮かべてはすぐにそれを振り払う。
(なんであいつのことを……クソが)
何であの女のことを思い浮かべるのか、そんな自分に腹を立てるロクス。その後ろでアルベルトの宝石型の通信魔導器の通信魔術の着信音が鳴り、アルベルトは通信魔導器を耳を当てる。
「なに? ……そうか、わかった」
通信相手からの言葉に一瞬眉を顰めるがすぐに理解したかのように通信を切ってロクスに伝える。
「ロクス。イヴからの命令だ。お前は学院に戻れ」
「はぁ? 人手が足りないから駆り出されたんだが?」
「事情が変わった。お前は再び王女の護衛任務に戻れ。万が一にも今回の事件の首魁の狙いが王女であるのならその護りを万全にしなくてはならん。お前とリィエルがいれば問題はない。後のことは俺達でやっておく」
「チッ。へいへい」
軽く舌打ちしてロクスはフェジテに向かう。
(フェジテに戻った頃には終わってんだろ……)
そう思いながらロクスは再びルミアの護衛任務の為にフェジテに帰るのであった。