ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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救いを求めるな

システィーナとレオスの正式な婚約が発表され、二人の結婚式が僅か一週間後という前代未聞の電撃結婚に学院中に激震が走った。

魔導兵団戦でのレオスとグレンの決闘は引き分けに終わるも、レオスはシスティーナを諦めることなく今度はグレンに直接決闘を申し込んだ。

グレンはその決闘を受け、学院の中庭で決着をつけようとしたのだが、その決闘の場にグレンは姿を現さなかった。

逃げた。誰もが当然のように、そう結論して学院内におけるグレンの評判は地に落ちるのであった。

レオスとシスティーナ。学院内で見せる二人の仲睦まじい二人の様子に観察眼の鋭いごく一部の生徒達は気付いていただろう。

幸せそうなシスティーナの笑顔は固く、影が差していると。

「……システィーナ、話がありますわ」

とある休み時間。

教室で、ウェンディ達、何人かのクラスメイトがシスティーナの詰め寄っていた。

「貴女……本気ですの? 本気でレオス先生と結婚するんですの?」

ウェンディが、レオスから受け取った結婚式への参列招待状をシスティーナに突きつけながら、訝しむような表情で問い詰めていく。

「う、うん……そうよ……元々、私達、許嫁同士だったし……わ、私もレオスのお嫁さんになるのが、子供の頃の夢だったから……すごく幸せ」

一見、非の打ち所のない笑顔だが、システィーナの表情はやはりどこか固い。

「夢っつったら、お前……魔術の勉強して、魔導考古学を極めて、天空城の謎を解くっていう夢は、どーすんだよ? いっつも俺達に熱く語ってたじゃねーか……」

カッシュも、どこか苦虫を噛み潰したような表情で苦言を呈する。

「さすがに結婚しちまったら……そういうの難しいんじゃねーのか? いーのかよ?」

びくり、と。

一瞬システィーナの背中が微かに震えるが……

「あ、あはは……確かに夢は夢だったけどね……でも、やっぱり夢なのよ。子供じみた夢に拘って、現実の幸福を捨てたらダメだと思うし……」

やはり、どう考えてもおかしい。

あの典型的なメルガリアンなシスティーナが、天空城への夢をそう論ずるなんて。

ウェンディとカッシュの表情は、ますます疑いに強張っていく。

「そ、それに、私はずっと私のことを想ってくれていた人と結婚するのよ? きっと幸せになれると思うの……」

「それにしたって、今週末に挙式なんて、あまりにも話が急過ぎだよ、システィーナ」

カッシュの隣のセシルが、おろおろしながら言った。

「そうですわね。婚約から挙式までの、ありえない短さもさることながら……お互いのご両親すら参列できない結婚式なんて、聞いたことがありませんわ。自分達だけで勝手に結婚式など挙げて、籍を入れて、ご両親に申し訳ないと思わなくって? 貴女」

「う……それは……そう! も、元々、そういう予定だったのよ! 私の両親も、レオスの両親もちゃんとこの話は知ってるし……納得してくださっているわ……ッ!」

「……ッ! ルミア、この話は本当ですの!?」

ウェンディが、少し離れた場所でこちらを見守っているルミアを振り返る。

「貴女の親友が突然、こんなことになって……貴女は納得しているのですか!?」

「そ、それは……」

だが、ルミアは何も答えず、暗い顔で黙って俯くだけだ。

やっぱり、何かおかしい。一体、何があったんだ?

この不自然極まりない話の展開に、システィーナを心配するクラスメート達の顔には拭いきれない、不安と疑いの色が見え隠れしている。

そんな時、教室の扉が開いた。

「あ……」

ここ最近、学院を休んでいたロクスがいつものように自分の教室にやってきた。すると、その足はいつものように自分の席に向かうことなくルミアに歩み寄る。

「ティンジェル。ちょっと時間を貸せ」

「え……?」

返答など聞く間でもなく腕を掴んで教室の外に連れて行こうとするロクスは教室を出る前にリィエルにも声をかける。

「レイフォード。ついでにお前も来い」

「……ん」

「ちょ、ちょっと待って。ロクス君」

ルミアの事情など知ったことか、と言わんばかりに強引にどこかに連れて行こうとするロクスにリィエルは二人についていく。

システィーナ達のことなどどうでもいいかのように。

 

 

 

 

「なるほど……そっちはそうなったか……」

人気のない廊下で人払いの結界を施し、ロクスはルミアからシスティーナを賭けた決闘の結末とその後どうなったのかを聞いてひとまず納得する。

(クライトスの野郎はそこまで強そうには見えなかったが……そもそもあの講師が逃亡……?)

ロクスから見てもレオスはそこまで強い魔術師ではない。実戦経験が乏しいことぐらいロクスでも見抜いていた。それに対してグレンは仮にも帝国宮廷魔導士団の一員として戦場を生き抜いてきた経験と実績がある。なによりグレンには対魔術師殺しの固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】がある。魔導兵団戦ならいざ知らず、一対一の決闘でグレンがレオスに負けることなどない。

だけどルミアから聞いた話ではグレンは決闘の場所に姿を現さなかった。そして、あれだけ自分の夢を追い続けていたシスティーナがレオスと結婚することを望んでいる。

(時期的に考えてクライトスと『天使の塵(エンジェル・ダスト)』に何かしらの関係性があるとは思ったが……当てが外れたか? ただ偶然にタイミングが重なっただけ?)

ロクスはチラリとルミアを見る。

(クライトスと天の智慧研究会が裏で繋がっているとも考えたが、奴等の狙いはフィーベルじゃなくてこの女だ。フィーベルを狙う理由がどこにある? フィーベル家の財産目当て? 奴等が?)

レオスと天の智慧研究会が繋がっていて遠回しにルミアを狙っているにしても遠回し過ぎる。そもそもそれなら『天使の塵(エンジェル・ダスト)』の一件はどう説明すればいい?

(それにクライトスの野郎は何を考えているんだ? いくら許嫁同士とはいえ、婚約から挙式まで早過ぎる。それに両家の両親も参列させないなんて……暴挙が過ぎる……)

フィーベル家は勿論クライトス家も名門。上流階級同士の勝手な婚姻に、帝国政府が介入しないわけがない。仮にレオスがシスティーナと結婚できたとしても問題が起きない訳がない。

(それがわからない奴じゃないはずだ……)

様々な問題が噴出してでもシスティーナを手中に収めなければいけない理由でもあるのか? もしくはそれ以外にも目的があるのか……。

(『天使の塵(エンジェル・ダスト)』の一件、クライトスとフィーベルの結婚……どちらも目的がわからない。いったい何を考えていやがる……)

天使の塵(エンジェル・ダスト)』の首魁もレオスの目的もわからず、苛立つロクスにルミアは思わず口を開く。

「ロクス君……私、どうしたらいいのかな……?」

「あぁ?」

「システィはレオスさんと結婚するって、その一点張りで……私はどうすればいいのか、わからなくて……」

「だろうな」

ルミアは法医呪紋(ヒーラー・スペル)が多少得意なことを除けば、魔術師としてはごくごく平凡。親友の窮地に何もできない自分に不甲斐無さを抱くのは当然のことだ。

「十中八九、脅されてんだろう。ティンジェル、お前を脅しの材料にしてな。じゃなかったらフィーベルがああも大人しくしているわけがねぇ」

親友を守る為にレオスに従っている。それならばシスティーナの現状にも説明はできるが。

(それならそれでクライトスはどうやってティンジェルの正体を知ったか……)

ルミアは帝国でも秘匿される存在。それをレオスはどうやって知ることができたのか? 謎が深まる一方だ。

「私のせいで……ッ」

自分のせいで親友が窮地に陥っている。それを知ったルミアは親友の下へ駆け出そうとするがロクスがそれを止めた。

「離して! 私のせいで、システィがッ!!」

「自分の正体を明かせば解決できるってか? そんなわけねえだろう? これ以上面倒事を増やすんじゃねえ」

仮にルミアが自分の正体を明かしたとしてもそれが解決に繋がるとは限らない。それどころかルミアを狙う輩が増えるのは明確。そうなれば余計な面倒事が増えるのはロクスからしても避けたい。

「とにかく表向きは証拠がない以上はフィーベル達には手が出せねえのが現状だ。それと今回の一件が関係しているかはわからねえが、お前の護衛として俺は戻ってきたから余計なことはするな。それを言いに来た」

レオスと『天使の塵(エンジェル・ダスト)』の関係性についても調べようとしたが、そちらは大した収穫にはならなかった。

「レイフォードもこいつから離れるな。きっちり護衛しろ」

「うん、任せて」

本当に任せてもいいのかわからないが、戦闘に関してはある種信用している為にリィエルをルミアの傍から離れないようにさせる。

「……助けて、くれないの?」

縋るかのように、請うようにロクスに助力を求めるルミアにロクスは怒りも苛立ちも見せない真顔で告げる。

「俺は正義の魔法使いでも正義の味方でもない」

正義の魔法使いのように誰かを救うことなどできない。

誰かに救いの手を差し伸ばせるほど、正義の味方を名乗れるほどロクスの手は綺麗ではない。

既にその手は赤く染まり、その身は昏い憎悪に包まれ、その心は復讐に染まっている。

「俺は――復讐者だ。誰かを助けることも、救うことなどできない」

ロクス=フィアンマは誰も救えないし、自分自身さえも救えない。

ただ身を焦がす憎悪の炎のまま、怨敵を殺すことしかできない。

それこそが復讐を誓い、艱難辛苦の茨の道を歩み続けるロクスの果たすべき悲願。

たとえ、歩みその先に何もなかったとしても、歩んできた軌跡に何も残せなかったとしても、己の為すべきをことを為す。

「だから、俺に救いを求めるな」

ただそれだけ。ただそれだけの話なのだ。

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