ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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復讐者と灰燼の魔女

数年前――

(セリカ)は学院長であるリックの頼まれてリックの住む屋敷まで足を運んでいた。

「すまんのぉ、セリカ君。わざわざ来て貰って」

「なに、別に構わんさ。それに学院長の頼みともなれば断るわけにもいかんしな」

個人的としても断る理由もなかったセリカは学院長の屋敷に呼ばれて、リックはセリカをある部屋に案内している。

「それで? 私を呼んだということはそれなりの理由があるんだろう?」

「ふむ。セリカ君は異能者を知っておるじゃろ?」

「まぁ、それなりにだが」

「実は少し前にワシは一人の少年を保護したのじゃが、その子がちょっとのぉ……」

なんとも歯切れの悪い言葉にセリカは怪訝する。

「話を察するに学院長が保護したその子供が異能者なんだろ? それがどうかしたのか?」

セリカは別に異能者だろうが差別しないし、侮蔑することなどしない。

それが学院長であるリックが保護した子供ともなれば少しは優しくしてやろうとは考える情ぐらいはセリカは持っていた。

「まぁ、見て貰った方が早いかもしれん」

そう言ってリックはとある部屋の扉をノックする。しかし、返答はない。

寝ているのか? そう思ったセリカであったが、リックの反応からして見てそれは違うのはわかる。

リックは扉を開けるとそこには一人の少年がいた。

「……67……68……」

やせ細った少年が部屋の真ん中で筋トレをしていた。

「ロクス君! まだ安静にしておかねばならん! 無理をすればまた身体を壊してしまうぞ!」

リックが強引に筋トレをしている少年、ロクスを止めさせる。

「……問題、ない。けふ」

ロクスは口から血を吐いた。

それを見てリックは薬を取り出してそれをロクスに飲ませる。慣れた手つきからこのような光景は日常的に起きているのだろう。

「まだ君の内臓も傷だらけなんじゃ。しっかり休みなさい」

見ればロクスの体中にはルーンが文字が書かれていた包帯を巻かれている。それは治癒や回復といった効果を発揮するルーンだということはセリカでも一目でわかるし、それだけに目の前の少年の身体は傷だらけだというのもわかる。

「……学院長、こいつがそうか?」

そのセリカの声にロクスはようやくセリカの存在に気づいたのか、顔を上げてセリカを見た。

「――っ」

セリカは思わず目を強張らせた。

一瞬だったとはいえ、傷だらけの少年と目が合っただけで身を強張らせてしまった。

その紅の瞳に映るのは激しいまでの憎悪。

身を焦がすような憤怒。

世界を焼き尽くさんとばかりのドス黒い感情の業火がその瞳に宿っている。

その瞳を見た瞬間、セリカの『内なる声』が強くなった気がした。

 

 

 

 

「というわけでちょっとばかしあの馬鹿を手伝ってくれないか?」

「何がというわけだ。アルフォネア教授」

学院の附属図書館で魔術の研鑽を積んでいるロクスにセリカは唐突にそんなことを言ってきた。

「というよりも今は授業中だろ? 生徒であるお前がこんなところにいていいのか?」

「別に。必要な単位は取っているし、退学になろうがどうでもいい」

ここ最近、ロクスは学院には通っているものの教室にはほぼ顔を出していない。それでも必要なものは最低限は確保しているし、何か問題があって退学になろうともロクスは痛くもかゆくもない。

ロクスにとって学院など学院長であるリックに勧められて入ったに過ぎない。

「それよりもその馬鹿の手伝いって……ああ、そういえば講師職の雇用契約の更新条件は定期的に研究成果を魔術論文にして提出することだったな。時期的に考えて提出期限までに魔術論文を提出することを忘れてクビになりかけているってところか。自業自得だ」

「そう言われたら何も言い返せんのが辛いところなんだが……お前、どうして講師職の職務規定についてそんなに詳しいんだ?」

「学院長が見せてきたことがあったからな」

「子供に何を見せているんだ、学院長……」

恐らくはロクスに生きる為の未来の道筋の一つとして講師としての道を示そうともしたのだろう。復讐という茨の道以外の道に進んで欲しい一心で。

「まぁ、ともかくとして、あの馬鹿が珍しくもやる気を出していてな。自腹を切ってまで『タウムの天文神殿』の遺跡調査をすることになったんだ」

(あの講師が自腹を……?)

多少なりの付き合いがある為にロクスは怪訝する。

遺跡調査隊は第三階梯(トレデ)以上の魔術師で編成するのが慣例だ。そして、一応、一人前の魔術師と見なされる第三階梯(トレデ)を遺跡調査に動員すると、規定で雇用費が発生する。

グレンがその雇用費を払えるだけの金があるとは思えなかった。

(いや、『タウムの天文神殿』の探索危険度はF級だったな……。なら、自分のクラスの生徒を使うつもりだろうな。あの講師なら)

今頃はグレンの固有魔術(オリジナル)【ムーンサルト・ジャンピング土下座】を披露しているに違いない。

「とはいえ、あんな馬鹿でも可愛い弟子であることには違いないからな。信頼できる実力者であるお前にも手を貸して欲しいんだが……あからさまに嫌な顔をするな」

本当に嫌そうな顔をしている。

「断る。あんたには悪いがどう考えてもその馬鹿の自業自得だ。どうして俺がその馬鹿の手伝いをしなきゃいけねぇ。俺にそんな暇はねえんだよ」

ロクスは強くならなければいけない。

天の智慧研究会に復讐する為にも力が必要だ。その力を磨き続ける為にも余計なことに時間を取らせたくはなかった。

「まぁ、お前ならそう言うだろうとは思っていたさ。だからお前に依頼をしに来た」

「依頼?」

「依頼内容はグレンの手伝い。お前の分の雇用費は私が出す。規定額の三倍だ。それと依頼中の空いた時間にお前の魔術を見てやろう」

「あんたがか?」

「ああ。この名高き第七階梯(セプテンデ)である私が直々に見てやる。どうだ?」

「……」

ロクスは思考する。

金は別にどうでもいい。それぐらい自分でどうにかできる。だが、あのセリカが依頼中とはいえ、魔術を見て貰えるとすれば今以上に魔術の発展に繋がるかもしれない。

セリカの実力はロクスも良く知っている。単純な実力もそうだが、その知識量も豊富だ。

(未完成のアレが完成できるかもしれねえな……)

未完成ながらも一応は使えるロクスの新しい固有魔術(オリジナル)。しかし、負担も激しく短時間しかその力は発揮できないという欠点がある。

ここ最近ではアレを完成させようとしてはいるも、完成にはまだ届かない。

「……わかった。その条件であんたに雇われる」

「よし。なら詳しい話は後でグレンから聞いてくれ」

ロクスを雇うことに成功したセリカはもう用がないかのように踵を返して附属図書館から出ようとする際にロクスはん? と疑問が過った。

「さっきの口ぶりからしてあんたも行くのか?」

たいして気に留めなかったが、先ほどからセリカはグレンの遺跡調査に同行するつもりでいる口ぶりだ。何故わざわざ名高き第七階梯(セプテンデ)がF級の『タウムの天文神殿』に赴くのか、率直な疑問をセリカに訊いてみた。それに対してセリカは……。

「ああ。まぁ、たいした理由ではないさ」

そう答えて附属図書館から出て行った。

「……たいした理由ではない? たかがF級の遺跡調査に自分だけじゃなくて俺まで雇う理由がたいしたことないわけねえだろ。何を考えていやがる、あの教授は」

思うことはあるもロクスは既に雇われた側。依頼主の意向に文句を言うのは止めておいた。

「……一応、室長に連絡しておくか」

王女を狙って仕掛けてきたテロリストは先日、アルベルトと共に始末したばかりだが、今回の遺跡調査について上司であるイヴに一応程度に連絡しておいた。

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