遺跡に到着した次の日にグレン達は遺跡内へと足を踏み入れると、そのグレン達を狂霊――
精霊や妖精のような、概念的存在がマナによって受肉・実体化した存在。そんな精霊や妖精が狂化すると、目につくものを片端から襲う危険な存在になる。
だが、システィーナ達はそんな狂霊達を見事に迎撃して遺跡調査を進めていく。
『タウムの天文神殿』内はとにかく広い。
古代の宗教施設であるらしい神殿内には、祭儀場、礼拝場、天文台、霊廟、そして、大
外から見た以上の広さに疑念を抱くも、それには秘密があった。
それは壁や床、天井に刻まれた紋様によって空間が歪められているからだ。この時代で使う
更に古代人の作った遺跡や物品には、
それだけの魔術を使っていた古代人について謎が深まるばかりだが、グレン達は遺跡調査を続けていく。
「……さて、あそこが第一祭儀場か」
そして第一祭儀場に到着したグレン達は先にグレンが安全確認の為に先に入っていく。他の生徒達同様に待っていると。
『そう、貴方もあの子と同じなのね』
「――ッ」
不意に聞こえた声にロクスは瞬時に剣を握りしめ、背後に振り返るもそこには誰もいなかった。
(なんだ……?)
視線を動かして周囲を確認するもシスティーナ達どころかセリカさえグレンが入った第一祭儀場の方を向いている。ロクスは背後からの警戒を担う為に一行とは少し離れた後方にいたが、それでも何も反応していないのはおかしい。
(幻聴? いや、それにしてはあまりにも……)
気のせいだったと片付けるのは簡単だ。だが、気のせいで片づけるにはあまりにも不可思議が過ぎる。しかし、ロクスの後ろには誰もいない。
サラに視線を向けるもサラは首を傾げた。どうしてロクスが剣を握っているのか分からないような顔だ。
(なんだっていうんだよ、たくっ……)
一呼吸置いて剣を鞘に納める。
何もない以上、これ以上警戒しても意味がない。ロクスはシスティーナ達と一緒に安全が取れたであろう第一祭儀場に入っていく。
そのすぐ近くで一人の少女がいたことに気付くことなく。
その日の遺跡調査は何事もなく終えて日が沈む頃に遺跡前の敷設した野営場へと帰還する。
食事を済ませ、誰もが明日の遺跡調査に向けて休みを取っている間、ロクスは焚き火の灯りを頼りにセリカから修正された箇所を直しては改善している。
(なんだったんだ、あの声は……)
ふと思い出す。
第一祭儀場の前で聞こえた謎の声。間違いなく女の声だということはわかるも、それがいったい誰の声までかはわからない。
気にしてもしかたがないが、気にならないといえば嘘になってしまう。
(どこかの誰かに少し似てはいたが……)
脳裏に浮かび上がる一人の女。金髪でロクスのよく知る嫌いな女。
「ロクス君。まだ起きていたの?」
が、ちょうどよくロクスのところにやってきた。
「……お前こそさっさと寝てろ」
「そうしていたんだけど、目が覚めちゃって……」
あはは、と苦笑いしながら告げるルミア。慣れない
「サラ、さんは?」
「そこらへんほっつき歩いている」
久しぶりの外の為か、ロクスは自由気ままに出歩いている相棒の好きにさせている。
「そうなんだくちゅん」
くしゃみをするルミア。見れば寒そうに身を震わせていた。この辺りの夜は冷える為に身体が冷えるのも無理はない。そんなルミアを見てロクスは毛布を投げ渡す。
「羽織ってろ。それと焚火の近くにいろ。こんなところで風邪でもひかれたら面倒だ」
「あ、ありがとう……」
礼を告げてロクスの隣に座り込むルミアにどうして隣に座るのか? という疑問は口に出さずに放置する。眠たくなったら
「ロクス君とアルフォネア教授ってどういう関係なの?」
なのにルミアが話題を振ってきた。
「別に。ちょっとだけ魔術を教わっただけだ。後は学院長に頼まれてか、俺の異能について調べるためでもあったな」
「異能を調べる?」
「ああ、とはいってもそこまでわかったことはねえが」
隠していることではない為にロクスは淡々と答えた。
学院長であるリックはロクスの黒い炎、異能のことについてセリカの知識を借りようと思っての行動だったのだろうが、異能はまだ解明されていないことが多過ぎる為に調べる時間に比べて分かったことは少ない。
「恐らくはお前のことも調べているだろうな。下手をすればお前の異能は俺以上に謎が多いから」
そう、数多くの異能とその異能者を見てきたロクスでさえもルミアの異能については分からないことが多い。その分からない理由を天の智慧研究会は知っていて、その理由が目的でルミアを手に入れようとしているのかもしれない。
「俺とアルフォネア教授の関係なんてそんなもんだ。異能のことについて調べ終わってからはろくに会っていなかったしな」
「そうなんだ……」
納得というよりも安堵の表情を見せるルミアに怪訝しながらも話は終わったと思い手を動かす。
「ロクス。ただいま。あ、ルミアも来てたんだ」
「ああ」
するとサラが散歩から戻ってきた。
「……それじゃあ、私はそろそろ戻るね」
「ああ」
二人の邪魔をしてはいけないと思ったのか、ルミアは毛布をロクスに返してシスティーナ達のいる
「ルミア」
だけど、どういうわけかサラもついてきた。
「サラ、さん……」
「サラでいいよ。ちょっとだけ私とお話しよ」
「え? でも……」
「すぐに終わるから。ね?」
「は、はぁ……」
サラの意図がわからず戸惑うルミアであったが、同時にずっと前から聞きたかったことが聞けるチャンスだと思い、思い切って尋ねてみる。
「サラはどうしてロクス君の復讐を手伝うの?」
「大好きだからだよ?」
さも当然のようにサラは答えた。
「私はロクスが好き、大好き。だから力になってあげたいし、傍にいたい。好きな人の力になりたいのは人間も一緒でしょ?」
ロクスに向ける好意を隠すこともなく堂々と言ってのけるサラの気持ちはルミアだってわからなくもない。だけど……。
「それが復讐でも? もしかしたらロクス君が死ぬかもしれないんだよ?」
好きな人が死ぬかもしれない。それでも力を貸すのか? そんな問いにサラは……。
「それがどうかしたの?」
キョトンと首を傾げた。
「……え?」
予想外の反応。啞然とするルミアにサラは言葉を続ける。
「燃えるような強い意思を宿した瞳、業火のように決して消えない荒ぶる炎を宿した心。その炎は衰えることを知らないかのように燃え続ける。そんなロクスに私は一目惚れをした」
懐かしそうに、嬉しそうに、愛しそうに語る。
「私はロクスほど純粋な炎を宿した人を知らない。私の全てを捧げてもいいと、そう思わせるほどに美しくも荒々しい炎を私はずっと見ていたい。彼の傍で、彼の力として、最後の瞬間まで瞬くことなく」
精霊である彼女の瞳には何が映っているのか、何が見えているのかルミアにはわからない。けれど、これだけははっきりとわかる。
「私はロクスの復讐を肯定する。その為になら私は私の全てを捧げてもいい」
サラはロクスの復讐を肯定する存在だ。
好きだから、愛しているから、己の全てを捧げてもいいから彼の傍で彼の炎を見続けたい。それがサラがロクスに力を貸す最大の理由。
「例え死ぬことになっても、その時は私も一緒。地獄に堕ちても私はロクスの傍にいるつもりだよ。まぁ、私は精霊だから死後もロクスと一緒にいられるかわからないけど」
だけどロクスと一緒なら地獄に堕ちても構わないという気持ちは本物だ。
「ルミアはどうなの?」
「わ、私は……」
上手く言葉が出せない。言いたいことはあるのに、言葉が出てこない。
「まぁ、私はどっちでもいいけど、一つ
それだけ告げてサラは踵を返してロクスの元に戻った。
見れば既にシスティーナ達のいる
「私は……」
自分の抱えている歪みを実感しながらルミアは