ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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星の回廊

セリカは学院長の屋敷に足を運んでいた。

別に学院長であるリックに呼ばれたわけではない。ただ以前に頼まれごとの際に見知った異能者の少年がどうしても気になって仕方がなかった。

それに明確な理由などはない。ただ『内なる声』、思い出せもしない謎の使命について何かわかるかもしれないとそう思った故の行動だった。

それだけじゃない。永遠者(イモータリスト)というセリカの特異体質。それによってセリカの身体は歳を取らない。一つの生命体として生命活動を行いつつも、時間が止まっている。

その原因は謎。原理も不明。無論、セリカ自身も心当たりがない。

異能者である少年、ロクスのことを調べればその謎も解けるのではないかという考えもあった。

もう一度、調べさせて貰おう。そう思ってセリカはリックの屋敷に訪れた。

カン、カン、カン……呼び鈴を打ち鳴らすも誰も出ない。

「誰もいないのか?」

屋敷から人の気配は感じられなかった為にどこかに出かけているのかもしれない。

「まぁ、アポなしだからな」

リックに予め家に訪れることを伝えていなかった為に家を留守にしていてもおかしくはない。だから仕方がないと、今度はアポを取って改めてロクスのことについて調べさせて貰おうと踵を返したその時、庭の方から音が聞こえた。

セリカは屋敷の庭がある方に足を向ける。万が一、異能者であるロクスを狙う類の輩なら始末しておこうと庭に行くとそこには前に見知ったロクスが木剣を振るっていた。

前に見たまま、全身に包帯が巻かれた状態で型とも呼べない素振りをしているロクスに何をやっているのだと半分呆れながら学院長は何をやっているんだとセリカは息を漏らす。

怪我人なんだから大人しく寝ていろ、とセリカはそれを告げようとロクスに歩み寄ろうとした時、木剣がロクスの手から飛んで行った。

その時、木剣の持ち手の部分に赤い液体が付着しているのが見えた。

「おい!」

セリカは思わず、足早でロクスに近づいて腕を掴み、その手を見る。

「お前……」

その手は血塗れだった。傷口が開いて出血したのではない。手から血が出るほどに木剣を振り続けていたのだ。

いったい、何百回、何千回も木剣を振り続ければこんな風になるのか。

「……あの人は朝からいない」

ロクスはセリカにそう言って掴まれた腕を振り払い、木剣を拾って再び振り始めようとするもセリカがそれを止める。

「馬鹿か、お前は。こんな状態になって続けても意味なんて――」

「うるさい!!」

セリカの言葉を遮るようにロクスは叫ぶ。

「俺は強くならなきゃいけねえんだ!! あのクズ共を皆殺しにする為にも強くならないといけねえんだ!! その邪魔をするな!!」

怒声が轟く。

紅い瞳に宿る憤怒、憎悪、明確なまでの殺意。

それは復讐を誓った者にしかわからない焦れるような黒い感情の業火。

その瞳がセリカのなかの何かを思い出させようとしていた。

(私は、こいつと似ている、のか……?)

わからない。だけど、それに近い何かなのは間違いではないだろう。

そんなロクスにセリカはある提案を促す。

「ロクス。お前、魔術を学ぶ気はあるか?」

それは共感か、それとも同情か哀れみかはセリカ自身もわからない。ただ放っておけない。それだけは確かだ。だからロクスが望むのであれば魔術を教えてやろうとセリカはその提案を促した。

その提案にロクスは頷いた。

 

 

 

 

 

 

遺跡調査の日々も何事もなく緩やかに続いていき、最深部を目指す。

「フッ」

魔力が付呪(エンチャント)された愛剣で次々と狂霊を斬り捨てていくロクス。一振りで何匹もの狂霊を倒していくロクスの戦闘にシスティーナ達はただ眺めていることしかできなかった。

「やっぱり凄いわね……」

「ええ、本来であれば【マジック・バレット】の方が効率がいい筈ですのに」

剣に魔力を付呪(エンチャント)して戦うよりも無属性系の攻性呪文(アサルト・スペル)の代表である【マジック・バレット】などを一節で起動し、遠間から連射させた方が効率的に狂霊を倒せる。

現にシスティーナ達は【マジック・バレット】で狂霊を倒していたが、ロクスは魔力を付呪(エンチャント)した剣一本で圧倒している。

「俺も剣術を習うべきか……?」

「やめた方が賢明じゃないかな?」

システィーナ達のそんな会話をしている内にロクスは狂霊を殲滅して戻ってきた。

「終わったぞ」

「ご苦労さん。やっぱりお前がいると助かる」

「雇い主の要望に応えただけだ」

雇い主であるセリカに言われ、仕方がなく狂霊を相手にしたロクスは剣を鞘に納める。そしてグレン達と一緒に最深部へと向かう。

「なぁ、ロクス。どうして魔術を使わなかったんだ?」

「こっちの方が手っ取り早いだけだ」

「魔術師なら普通は逆だと思うんだけど……」

あれこれと質問を投げてくるカッシュ達に適当にあしらうように答える。そんなロクスの姿をルミアはじっと見据える。

「ルミア、ロクスがどうかしたの?」

「システィ、ううん、なんでもないよ。怪我とかしてないかなって思って」

「そうね。まぁ、ロクスなら問題ないでしょう」

ここにいる中で実力的に言えばセリカの次に強いロクスが狂霊相手に傷を負うことなどまずない。それでも心配する親友(ルミア)を安心させようとするシスティーナにルミアもそうだね、と答えた。

だけどそうではない。

ルミアが気にしているのはそこではなかった。

(私の本当の気持ち……)

サラの言葉が今でも鮮明に蘇る。

我儘になった方がいい。そう助言(アドバイス)を受けてもルミアはまだ自分の歪み、気持ちに整理がつかないでいた。

だがそれも無理はない。はいわかりましたと変えられるほどルミアが抱えているものは簡単な問題ではないのだから。

「ほう……? このだだっ広い部屋が『タウムの天文神殿』が誇る大天象儀(プラネタリウム)場か……」

そして一同は最深部――大天象儀(プラネタリウム)場へと辿り着いた。

綺麗に磨き抜かれた半球状の大部屋の中心に、謎の巨大な魔導装置が鎮座し、その傍らには黒い石板のようなモノリスが立っている。

その魔導装置の正体は天象儀(プラネタリウム)装置。これも古代魔術(エンシャント)が生み出した一種の魔法遺産(アーティファクト)であり、光の魔術によってこの半球状の大部屋に星空を投射する……という機能を持つ。

そしてシスティーナの頼みに魔導装置を起動させて天象儀(プラネタリウム)を起動させるも、ロクスは興味がないかのように自分の仕事に取り掛かる。

一度天象儀(プラネタリウム)を見たグレン達も調査を開始し始める。

(古代人は何を考えてこんなもんを作ったのやら……)

魔術で隠してある部屋や魔力痕跡を探しながらロクスはふと思った。

天象儀(プラネタリウム)も古代人の考えもロクスにはどうでもいいことだ。唯一興味があるとすれば古代人が使っていたとされる古代魔術(エンシャント)ぐらいだ。

(何かの儀式的な装置か文化か……。まぁ、俺はフィーベルと違って魔導考古学なんてものに興味はねえけど)

内心でそう結論を出しながら仕事に集中するロクス。しかし、どれだけ時間をかけて念入りに調べても新しい発見はなかった。

周囲を見渡して他のクラスメイト達の方を確認してみるも結果はロクスと変わらず。やはり、もうこの遺跡には調べ尽くされたのだろうと結論を出したその瞬間、それは本当に、唐突だった。

きん、きん、きん―――

辺りに突如、魔力反響音が響き……一瞬、床の紋様をなぞるように蒼い光が走った。

「何――ッ!?」

慌ててグレンが振り返る。

すると、天象儀(プラネタリウム)装置が駆動しているではないか――

天象儀(プラネタリウム)装置のアームが先ほどと同じように室内に星空を投射し――星々が徐々に加速しながら回転していき――やがて、全ての星々が狂ったように頭上を暴走回転し、銀線となって無数の同心円を描き――

やがて、天象儀(プラネタリウム)装置がゆっくりと動作を止め――星空が消えていき――

「な――ッ!?」

天象儀(プラネタリウム)場の北側の空間に、蒼い光で三次元的に投射された『扉』が出現していた。それは明らかに、離れた空間同士を繋ぐワープゲートの類いだ。

「う……嘘……本当に……?」

突然の『扉』の出現に流石のロクスも驚きを隠せない。そして、天象儀(プラネタリウム)装置の制御モノリスの傍らにいるシスティーナとルミアを見てこの二人が天象儀(プラネタリウム)装置に対して行った何らかの操作が、この謎の『扉』を出現させたのは明かだ。

その『扉』にカッシュ達は大騒ぎをしてはいるが、ロクスはありえない、とそう断言していた。

(フィーベル達が偶然、たまたまこの『扉』を発見した? いや、ありえねぇ……。確かにフィーベルには魔術師としての才覚も魔導考古学に対する造詣も深い。だが、今のフィーベル達程度で偶然に発見できる代物ならとっくに誰かが発見している)

魔術師達も馬鹿ではない。

ありとあらゆる方法を試してそれでも天象儀(プラネタリウム)装置としての機能以外何もないと結論を出している。もし、僅かでも何かあればそれに気付かないわけがない。

誰もが、ロクスさえも突如出現した『扉』に呆気を取られているなかで誰もが気付かなかった。

セリカがその『扉』を、目が血走らんばかりの勢いで睨みつけていたことに。

「……ほ……星の……回、廊……? そうだ……《星の回廊》だ……ッ!?」

セリカの様子は尋常じゃなかった。何か意味不明な事をぶつぶつ呟いている。

そんな意味不明なことを、まるで譫言のように呟いたセリカは突然、何かに背を蹴られたように、猛然と駆け出した。

虚空に開かれた、その謎の『扉』を目指して――

「アルフォネア教授!?」

「セリカ!?」

「《アホが》」

猛然と謎の『扉』に向かって駆け出すセリカにロクスは呪文改変で黒魔【ラピッド・ストリーム】を起動させる。

セリカが何があるかわからないその『扉』に跳び込もうとするなんてド素人以下のことをやらかすのはロクスも予想外。だが、このままどんな危険なあるのかもわからない所にセリカを行かせるわけにはいかないと思い、激風を身に纏って爆発的な機動力でそれを阻止しようと動き出す。

だが、問題があった。

それは距離。

ロクスは他のクラスメイトやグレンやセリカ達と距離を取って調査を行っていた。システィーナとルミアが謎の『扉』を発見してもその場から動くことはなく、遠目で見ていた。

だからこそセリカが駆け出してから【ラピッド・ストリーム】を起動させてもそれはもう遅く、ロクスがセリカを捕まえるよりも早くセリカは向こう側へ―――姿を消した。

グレンは慌てて、後を追おうとするが、『扉』はグレンの目の前で――セリカを吞み込んだまま――

その『扉』は消えてしまった。

「……くそっ! セリカッ!? セリカァアアアアアアアアアアア――ッ!?」

グレンが『扉』があった場所の床に飛びつき、拳で叩き、叫ぶ。

「チッ」

そのグレンにロクスは小さく舌打ちした。

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