ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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決戦

魔人と戦う少し前――

「……と、あの魔人の不死性とその弱点を説明する前に……」

ふと、本をめくる手を止め、不意にシスティーナが話を変える。

それはロラン=エルトリアについて。

ロラン=エルトリアは近世では有名な魔導考古学者でメルガリウスの天空城を中心に古代史研究を重ね、その代表著作の名は『メルガリウスの天空城』と『メルガリウスの魔法使い』。

世界各地に伝わる古代の神話や伝説、民間伝承を、ロラン独自の分析・解釈を下に編纂したもの……その最高傑作が『メルガリウスの魔法使い』

だが、そのロラン=エルトリアはレザリア王国、聖エリサレス教会に『異端者』として捕まって……火刑台に送られた。

罪状は『邪悪な思想の書籍を世に出し、無辜なる民を惑わした罪』。

帝国人なら子供の頃には一度は読んだことがあるただの童話を世に出しただけで火刑に処された。

いくらなんでも異常、何か裏があると思うかもしれないが、そんなのはただの陰謀論。よくある話だ。

本題はロラン=エルトリアではなく、その童話の内容。

「左手に魔法を打ち消す赤い魔刀……右手に魂を喰らう黒い魔刀……何度殺しても死なない不死身の魔人……これ、どこかで聞いたことありません? 子供の頃、『メルガリウスの魔法使い』が大好きだった先生なら、きっとご存知だと思うんですけど」

システィーナが本を開いて、グレンへと向ける。

双刀の剣士が万の軍勢に立ち向かっている構図のその挿絵には、見覚えがあった。

その挿絵に、そして、システィーナの指摘に……グレンの懐かしい記憶が、不意に脳裏にフラッシュバックする。

「……魔煌刃将アール=カーンか!」

絵本『メルガリウスの魔法使い』では、主人公の敵役として『魔王』、そしてそれを守護する『魔将星』達が登場する。魔将星とは、魔王直属の、強大な力を持つ配下達のことだ。元・人間が、何らかの形で人間を辞めたような連中ばかり。

中でも、魔煌刃将アール=カーンは独特な立ち位置に存在するキャラクターで、己が真に忠誠を捧げるべき相手を求め、無数の強者と戦い続け、時に魔王にすら牙を剥くという変わり者。

そして、その最大の特徴は、先述の双魔刀と、かつて邪神がアール=カーンに課した十三の試練を乗り越えることで手に入れた、十三の命。

「――って、バカか!? それはただのお伽噺だろ!? 白猫、お前はあの魔人が魔煌刃将アール=カーンだー、とでも言いたいのか? お前、それは流石に……」

「私だって、バカなことを言っているってのはわかってるわ! でも、それにしては、類似点が多過ぎない!? これ、本当に偶然なの!? 偶然にしては出来過ぎてない!?」

確かに、ただの偶然で片づけていいのかわからない。

一つや二つの一致ならば偶然かもしれないが、三つ以上の一致はほぼ必然だ。

「それにどういうわけかはわからないけど、あの魔人はロクスのことを《炎魔帝将》って呼んでいたわ。勘違いかもしれないけど、ロクスのことを自分と同じ魔将星だと思ったのなら……」

あの魔人は魔煌刃将アール=カーンだという可能性は高い。

「先生……この可能性に賭けてみませんか? 相手があのアール=カーンなら……」

打倒する手段は、攻略法は、ある。

それを聞いたロクスは……。

「俺はフィーベルの賭けに乗った」

馬鹿げていると自覚しながらもロクスはシスティーナの推測に自身の命を賭ける。

「俺はこんなところで死ぬ訳にはいかねえ。僅かでも可能性があるのなら、何が何でもその可能性を掴む」

こんなところで死ぬわけにはいかない。復讐を果たすその時まで死ぬことなどできない。だからロクスはシスティーナの推測が正しい、とは言わない。しかし、賭ける価値はあると踏んだ。

そして――

 

 

 

 

(……俺としたことが……こんな綱渡りな道に賭けるとは、な……)

魔人と対峙しながら、グレンが胸中で小さく舌打ちする。

あの魔人の正体が、本当に魔煌刃将アール=カーンである保証など、どこにもない。

もし、前提が違えば魔人に勝てる可能性など、ほぼない。

だが――それをただの偶然と切り捨てるには、あまりにも状況が出来過ぎている。

もし、本当に魔人の正体が魔煌刃将アール=カーンなら、残りの命の残数(ストック)は三つだ。

正体も命の残数(ストック)も何の保証も確信もない。それでもそれを確かめるかのようにグレンとロクスはそれを眼前の魔人の前で告げた。

魔人本人にそれを肯定させる為の反応を知る為に。

『良いだろう。《炎魔帝将》だけでなく、我が真なる主すら知らぬ秘中を、汝等がいかに知ったかは与り知らぬが……精々足掻け、《炎魔帝将》そして愚者の民草よ。その炎と群の力を以て、見事、我を三度殺してみせよ』

暫くの間、沈黙が続くなかで魔人が双魔刀を構え――決定的な言葉を吐いた。

確定した。

魔人の正体も命の残数(ストック)も明らかとなった。

ロラン=エルトリアはいったい何を見たのか?

魔将星――かれらは物語上の存在ではなかったのか?

色々と考えるべきことはあるも、それは後回し。

今は――

「てめぇをぶっ殺す! サラ!」

「うん!」

ロクスはサラに手を伸ばし、サラもまたロクスに手を伸ばす。

お互いの手が重なり合い、同時に告げる。

「「接続(アクセス)!!」」

すると、精霊であるサラはまるでロクスの肉体、内側へと吸収されるかのように入っていき……浸食同化していく。

やがて―ぼっ! と火柱が出現する。

この一帯の気温が一気に上昇し、庭園は深紅の光輝で照らされていく。

そして――

その火柱より姿を現すのは赤い髪がまるで炎のように燃え上がり、炎によって編まれたような赤色の衣を纏うロクスがその姿を現す。

「【精霊同化(スピリット・ダイブ)火精霊の霊衣(サラ・フェリグリア)】。これが俺のもう一つの固有魔術(オリジナル)

憑依召喚(ポセッション)というそんな召喚魔術がある。

概念存在をその身に降ろしてその力を行使する。そんな魔術にロクスは目を付けた。

サラは精霊、概念的存在がマナによって受肉・実体化している存在だ。ならばサラを自身に降ろすことができれば精霊の力を自分自身で行使できるのではないか? とロクスはそう一つの推測を立てた。

それからは行動は早かった。

魔術構築から詠唱、様々な実験と検証を繰り返しながらロクスは憑依召喚(ポセッション)を自分なりに改良・改善を行いながら研究を続けてきた。

だが、完成には色々と難航した。

発想自体は悪くはなかった。魔術理論的にも実現は可能だ。しかし、ロクスは憑依召喚(ポセッション)との相性がよろしくなかった。

それでもこうして実戦にまで使えるようになったのは相性がよろしくなかったからと諦めずに実現に向けて懸命に取り組んだからだ。炎熱の特化した魔術特性(パーソナリティ)を応用できるか試し、契約している精霊であるサラと協力して貰い、セリカからも助言(アドバイス)を求めて、やっとの思いで完成させたロクスのもう一つの固有魔術(オリジナル)

精霊と同化し、その力を意のままに行使する。

それが――【精霊同化(スピリット・ダイブ)火精霊の霊衣(サラ・フェリグリア)】。

(ハハ、事前に聞いてはいたが、マジで頼もしいな、おい……)

魔人との決戦前にその力を聞いてルミアの能力で白魔【フィジカル・ブースト】と黒魔【トライ・レジスト】で炎熱防御力を極限まで高めているとはいえ、ロクスから燃え盛るほどの熱量にはただ驚く以外のリアクションが取れなかった。

もし、黒魔【トライ・レジスト】で予め防御対策を取っていなければロクスの傍に立つことすらかなわずに火達磨になっていただろう。

(下手をすりゃイヴ……イグナイト家を上回る炎熱最強の魔術師になっちまうかもしれねぇな……)

無論、ロクスとイグナイト家では魔術師として積み重ねてきた技術・技量の差もあるだろう。だけど、今のロクスなら本当の意味でイグナイト家を超えるかもしれない、そう思えてしまう。

(だが、この状況では心強ぇ! マジで勝てる可能性はある!!)

勝てる可能性が高まり、多少なりの余裕が生まれるグレン。

しかし、そんなロクスを見た魔人――魔煌刃将アール=カーンは……。

『……懐かしきその姿。無限熱量とはあまりにも遠いが、やはり汝は《炎魔帝将》ヴィーア=ドォル。乙女より授かりし力を失ってもなお、その炎は健在か』

まるで懐かしむかのように告げる魔人は今一度構え直す。

『来い。《炎魔帝将》そして愚者の民草共よ』

生き残る為の決戦が始まった。

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