ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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嫌う理由

システィーナとの決闘から数日。ロクスは学院長室にいる。

「何か用か? 学院長」

アルザーノ帝国魔術学院の学院長を務めているリックは困ったように笑みを見せる。

「少し君の事が心配になってのぅ。酷い噂がわしの耳にまで届いておる」

「そんなどうでもいいことにわざわざ呼んだのか? いくらあんたでも時間を無駄に浪費させないで欲しいが」

心配してくれて気を遣っている学院長に対してもロクスはそんなことどうでもいい。

リックはそんなロクスの態度に気にも止めずに声をかける。

「同じ精霊使い同士、心配をさせておくれ。それに弟子の悪い噂は師であるわしにも快く思わんわい」

学院長であるリックは精霊使いであり、公にはされていないがロクスの魔術の師匠でもある。そしてロクスも学院長と同じ精霊使いである。

「数年前、精霊の導きによって君と出会って弟子にしたわしの自慢の弟子じゃ。じゃからこの学院に入学を勧めた。魔術師として君が平穏に過ごせれるように」

一呼吸置いてリックは尋ねる。

「やはり、考えは変わらないのかね?」

「ああ」

即答だった。

「あんたには感謝している。俺に力を与え、その使い方も教えてくれた。あんたの力になれることがあるのなら無条件で力になってもいい。だが―――これだけは譲れない」

炎を現すような強い意思を宿すその紅の瞳が学院長を見据える。

「俺は復讐を果たす為に全てを捨てた。その為だけに俺は生き、この命が消えても、この身が煉獄の炎に焼かれても俺は必ず奴等を殺す。そう誓った」

「………………………………」

その言葉にリックは瞑目する。

出会った当時から変わらないその瞳。何を言っても彼はその道から引き戻ることはないだろう。

「人の道に戻そうとしてくれているあんたには悪いが、俺が進むのは茨の道。それだけだ」

ロクスはリックが自分をまともな道に導いてくれていることぐらい理解している。

本当に思いやりがあり、優しい人だとわかっている。

復讐に生きると知っていながらも魔術や剣術など様々なことを教え、復讐に生きる辛さも悲しさも教えられ、まともに生きる方法を一緒に考えてくれた。

学院に入学を勧められたのも表向きは力を得る為と説得されたが、その本心は同じ年頃の学士と共に魔術に励み、友達を作り、恋人を作り、普通の学院生活を満喫して欲しかったのだろう。それが老婆心からくるものでもその気持ちは素直に嬉しかった。

そんなリックの優しさを無下にすることに悪いと思っている。

それでも止まらない。

復讐の為に生きるとそう決めたから。

リックはそれ以上は何も言わなかった。何も言わないリックにロクスは学院長室を出ていく。

放課後の時間帯。ロクスは学院の図書館で魔術の研鑽に励もうと足を動かす。

「ロクス君」

はずだったが、その前に彼を呼び止める声が廊下に響いた。

「…………………お前は本当に人の話を聞かねえ奴だな、ティンジェル」

振り返るとそこには同じクラスメイトであるルミアがいた。

「いい加減話しかけるなって何回言ったらわかる? 俺はお前が嫌いなんだよ」

はっきりと己の心情を口にするロクスにルミアの気丈な瞳は真っ直ぐにロクスを射抜いている。

「どうしてシスティにあんな酷いことをしたの? ロクス君ならそんなことしなくても勝てたよね?」

その言葉にロクスはどうしてルミアが声をかけてきた疑問に納得する。

痛めつける必要性は無かった。なのにロクスはシスティーナを痛めつけるように攻撃した。その真意を問いただす為にわざわざロクスが学院長室から出てくるのを待っていた。

ご苦労なことで、と他人事のようにぼやくロクスはルミアの問いに答えた。

「見せしめに丁度良かったからだ。それにフィーベルの説教にうんざりしていたからだ。それ以上の理由はねえよ」

また男子生徒のように邪魔をしてくる奴が現れない様に決闘を申し込んできたシスティーナが見せしめにちょうどよかった。

それに普段からの説教に対する鬱憤も晴らすのにもよかった。

親友をそんな理由で痛めつけたロクスにルミアは怒るだろう。だが、それはそれでこちらにも都合がいい。

「…………………………どうしてそこまでして一人になろうとするの? それは辛いだけだよ?」

しかし、そんなロクスの予想を裏切るように返ってきたのは怒りではなく悲しみだった。

それも親友であるシスティーナではなくその親友を痛めつけたロクスに向けて。

「そんな下らないことを聞く為に待っていたのか? ご苦労なことで」

嘆息交じりにそう返す。

「俺とお前等を一緒にするな、ティンジェル。仲良しこよしがしたいなら他を当たれ。俺にはどうでもいいことだ」

「仲良くなることがそんなにいけないのことなの? ロクス君だって同じ教室で一緒に勉強する友達でしょ?」

「都合のいい妄想をするな。お前等はただの同じクラスになっただけの赤の他人だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。大体、お前等とつるんで俺に何のメリットがある? 非常勤講師の授業をついていけているのが現状のお前等になにができる?」

「私が言いたいのは損得の問題じゃなくて、少しでもロクス君が皆と仲良くして貰いたいの。一人でいるのは辛いし、寂しいから」

その物言いはまるで孤独の辛さを知っているかのようだ。

いや、知っているのだろう。

どういう経緯を持っているかは知らないし、欠片も興味はないが。

「聖女面してんじゃねえよ、ティンジェル」

愛も変わらずその顔がロクスの腸を煮えくり返す。

「ああ本当によくもまぁそんな心にも思っていないことをべらべらと言えるもんだ。逆に感心するぞ」

「ロ、ロクス君………………?」

苛立ちを隠すことなく近づいてくるロクスに思わず数歩引いてしまうルミアに関係なくロクスは言葉を続ける。

「お前が何を思って、何を考えてそんなことをしているのかは知らねえがな、いい加減にしろよ。その薄っぺらい笑みと言葉で聖女様を気取ってんじゃねえ」

「わ、私はそんなこと―――」

「ないってか? 俺はな、お前みたいな眼をしている奴をよく知ってる。お前は自分の命よりも他人の命を優先にする自己犠牲女だ」

「!」

「自分の命を簡単に捨てる奴が『さぁ、皆仲よくしよう』なんてよく言えるな、おい。それでそいつらの代わりに死んでお前は満足か? 他の奴等に自分の為に泣いて貰って悲しんでもらって嬉しいか? 自分の本音一つ吐かねえだろうが仲良くしようなんてほざいてんじゃねえよ」

眼前までやってくる彼の瞳の色は怒りを灯しているように紅く輝いている。

「自分が死ぬまで皆と仲良く幸せな生活を送れましたっていい思い出でも残して死にたいのかは知らねえがな、自分を諦めている奴が俺に話しかけんじゃねえよ。だから俺はお前が嫌いなんだ、ティンジェル」

それだけ言って踵を返すロクスは振り返ることなくその場から離れ、ルミアは暫しの間、茫然と彼の後ろ姿を見ていた。

 

 

 

 

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