ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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同タイプの魔術師

グレンとセリカが住んでいるアルフォネア邸にロクスは足を運んでいた。

「まさか、お前が見舞いに来てくれるとは思ってもなかったぞ」

「あんたのせいで死にかけたからな。その文句を言うついでだ」

意外と言わんばかりに告げるセリカにロクスは手近な椅子に乱暴に座りながらそう返す。

セリカの身勝手な行動のせいで魔人というふざけた存在と戦わなければいけなくなった。そのせいで死にかけたのだから、その元凶に文句の一つや二つを言っても罰は当たらない。

「すまんすまん。調子が戻ったら詫びの一つでもしてやるから許してくれ」

「別にいい。あんたにはそれなりに世話になった身だ。それでチャラにしてやる」

ロクスはセリカに魔術を教わった身。

セリカの弟子とまではいかないが、ロクスの魔術師としての基礎はセリカによって鍛えられたと言っても過言ではない。だからロクスは今回の一件で世話になった分を帳消しにすることで手を打った。

「それで? どうなんだ?」

何が? と訊かなくてもわかる。

魔人の持つ黒き魔刀・魂喰らい(ソ・ルート)によって霊魂――エーテル体を著しく喰われ、損傷してしまった。霊魂の損傷。それは魔術師にとっては致命傷だ。霊的な感覚を使用する魔術において、霊魂――エーテル体の状態は絶対な影響を及ぼす。

だからロクスはセリカにこう尋ねたのだ。

――もう魔術は使えないのか? と。

その疑問に対してセリカは答えた。

「安心しろ。もう暫くは霊的治療が必要だが、まったく魔術が使えなくなるということはない。とはいえ、以前のように無尽蔵に魔術を振るうのは無理だろうな。なんらかの制限と限界がつく」

「……そうか」

魔術が使えなくなる。というわけではないようだ。

けれど、《灰燼の魔女》と呼ばれたその絶大の力が発揮できないということは痛手だろう、とロクスはそう思ったが、セリカの表情を見る限りではそうではなかった。

「なんだ? 心配してくれていたのか? まったく、グレンといい、お前といい、素直じゃないな」

「ハッ。誰があんたの心配なんかするか」

揶揄ってくるセリカを見てロクスは言う。

「……随分と清々しい顔をしているな。魔術が使えなくなったわけじゃねえが、弱体化したことには違わねえだろ?」

「まあな。けど、もういいんだ。私は一人じゃないってわかったからな」

「……」

その瞳は遺跡に入る前とは違う。

何かを愛しむような、大事なモノがあるかのような、その瞳からは光のような輝きがある。

前のように昏い輝きはそこになかった。

(止まる理由ができたのか……)

ただ一人、孤独に走り続ける理由がなくなったわけではない。しかし、それ以上にその足を止める理由ができただけの話だ。

(止まることができたのなら、それを俺がどうこう言う理由もねえか)

セリカがそれでいいのならロクスには関係のないこと。だからロクスはセリカにあれこれと言うことはしない。

それならもういいか、とロクスは帰ろうと立ち上がろうとした時。

「……なぁ、ロクス。私達は何者なんだろうな?」

「……」

窓の外、遥か上空に浮かぶ、半透明の巨大な古城『メルガリウスの天空城』を眺めながらセリカはロクスにそう告げた。

そのセリカの言葉にロクスも思うところがないとは言えない。

あの魔人、《魔煌刃将》アール=カーンはセリカの存在を知っていて、ロクスのことを《炎魔帝将》ヴィーア=ドォルと告げた。嘘やハッタリの類にしても荒唐無稽過ぎる。

少なくともあの魔人は何かしらの確証があったのだろう。それが何かまではわからないが。

けれど、気にならないと言えば嘘になる。しかし、真実を確かめる術を二人は持ち合わせていない。

あるとすれば……。

(あいつなら、何か知っているかもしれねえが……)

ロクスが思うあいつとは、遺跡で出会ったナムルスのことだ。ナムルスなら何か知っている可能性はあるが、それを素直に教えてくれるとは限らない。いや、ナムルスの言動から考えるに、知っていたとしても話せないかもしれないが、そんなことロクスにはどうでもいい。

「さぁな。だが俺が何者だろうがどうでもいい」

そう、どうでもいいのだ。

何故なら……。

「俺は復讐を果たすことができるのなら自分が何者だろうがどうでもいい」

「……ロクス」

そう、ロクスはそういう人間だ。自分が何者だろうとそんなことは二の次。復讐を果たすことを第一に考えるロクスにとって自分の正体など無関心。どうでもいいことだ。

仮に魔人の言っている通り、ロクスは自分の正体が《炎魔帝将》ヴィーア=ドォルだとしてもどうでもいいことだ。

「じゃあな。療養しておけよ」

もう話すことはない。ロクスは今度こそ立ち上がって部屋から出て行こうと扉に手をかける。

「お前は、止まらないのか?」

「それを許さないのは自分だってことはあんたもわかってんだろ?」

セリカの言葉にロクスはそれだけ答えて部屋を後にする。

「……そうだな、その通りだよな」

一人、残された部屋でセリカはポツリと呟く。

「けど、誰かに助けを求めるぐらいはしても罰は当たらないと思うぞ……」

 

 

 

 

 

とある一室。

ロクスは自分の上司であるイヴに呼び出されていた。そこには既にイヴやアルベルト、そして同じ特務分室に所属している者達もいるなかでイヴから任務を言い渡された。

内容は社交舞踏会に乗じた天の智慧研究会による『ルミア暗殺計画』を阻止し、首謀者を生捕りにすること。

天の智慧研究会では今、組織の方針が二派に分かれている。一つは『現状肯定派』そしてもう一つは『急進派』。今回の暗殺計画は『急進派』による暴走によるもの。

そこで特務分室は密かに天の智慧研究会を迎え討つことが決定した。

(ようやく尻尾を出してきやがったか……)

今回の任務の資料を持つ手に力が入る。

(ようやく奴等を殺せる機会がきやがった……ッ!)

その為に軍に入った。特務分室の一員としてつまらない任務をこなしてきた。

復讐を果たせるそのチャンスを逃すつもりはない。

「ロクス。分かっているとは思うけど」

「命令には従う。それでいいだろ?」

「ええ」

復讐心に駆られ、余計なことをしないように釘を刺そうとしたイヴだったが、それは杞憂に終わった。

「詳しい作戦はグレンも交えて話すわ。解散」

パンパン、と手を叩いてイヴは解散を促す。

上司であるイヴの言葉に誰もがその場を後にするなかでロクスは一人残る。それに怪訝したイヴはロクスに問う。

「なにかしら? まさか任務に不満でも?」

それならどうしてくれようかしら? と思っていたイヴにロクスは頭を下げた。

「俺を、鍛えてくれ」

予想外な懇願に流石のイヴも目を丸くした。

傲慢とまでは言わないが、プライドの高いロクスがこうもわかりやすく頼んでくるとは思わなかった。

「社交舞踏会までの間だけでいい。頼む」

「……どうして私に? アルベルトじゃなくて」

率直な疑問だ。

今のロクスを鍛えたのはアルベルトだ。今はアルベルトから合格点を貰って師事を受けてはいないが、頼まれればまた一から鍛えてくれるはずだ。少なくともアルベルトはそういう人間だとイヴは思っている。

しかし、ロクスが頼んでいるのはイヴだ。

「俺とフレイザーとじゃあ戦闘スタイルは違う。俺がどれだけ鍛えてもあいつのような魔術狙撃はできねえ」

「そうね」

それにはイヴも納得。

剣と魔術で敵を圧倒するロクスと違って圧倒的な技量とセンスによって遠距離から敵を射抜くアルベルトとでは戦闘スタイルはまるで違う。

だからこそイヴなのだ。

ロクスが次のステージに上がる為にはどうしてもイヴに師事を受けなければいけない。

「俺と同じ炎熱の魔術の使い手であり、近距離魔術戦最強と名高いイグナイト家であるあんたと俺は多少の差異はあるも同タイプの魔術師だ。だから魔術師として俺より上にいるあんたにしか頼めない」

なるほど。イヴは今度こそ納得した。

(確かにイグナイト家である私と同タイプではあるわね……)

イヴから見てもそれは思っていた。

ロクスは剣も使うが、純粋な魔術師としても優秀だ。魔力容量(キャパシティ)と魔力制御に優れるイヴと同じ天才型の魔術師。

更には炎熱に特化した魔術特性(パーソナリティ)を持つロクスはどこまでもイヴに、イグナイト家の魔術師に似ている。

更なる強さを求める為にロクスがイヴに教えを乞うのもわからなくもない。

「……まぁいいわ。社交舞踏会までの開いている時間でよければ鍛えてあげる。だけど覚悟なさい、一回でも弱音を吐いたらそれで終わりにするから」

イヴは渋々といった感じに了承した。

立場上、多忙ではあるもそれぐらいの時間は作れる。

(まぁ、使える手駒を鍛えても損はないでしょう)

そう自分を納得させるイヴにロクスは礼を口にする。

「……感謝する」

「ええ、存分に感謝なさい。そして私の手足となってしっかりと働きなさい」

「ああ」

こうしてロクスは社交舞踏会が始まるまでの間、イヴに鍛えて貰うことになった。

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