ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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開催前のダンス

社交舞踏会、当日。

学院内には馬車がひっきりなしに到着し、今回の社交舞踏会に招かれた他校の生徒達や学院に縁ある政府の高官、貴族達などが続々と姿を現している。

そんな彼らは生徒会役員たちのエスコートで、学生会館の大客間(サルーン)に案内されていく。

ロクスはパーティー礼装用の燕尾服を着こなし、その様子を観察していた。

(《魔の右手》のザイード……)

怪しい奴が学院に侵入してくる可能性を警戒しながらロクスは先日、倉庫街でイヴが話していた作戦会議を思い出していた。

イヴが収集した情報によれば今回のルミア暗殺計画の首謀者は天の智慧研究会の内陣(インナー)たる第二団(アデプタス)地位(・オーダー)》の魔術師、《魔の右手》のザイード。

主にパレードや演説場、パーティー会場など、大勢の人間の前で、誰も気付かれないうちに標的を仕留めるという暗殺特化の外道魔術師。その暗殺方法は未だ謎に包まれている。

それ以外に第一団(ポータルス)(・オーダー)》が三名。それが敵の情報だ。

だが、敵も馬鹿ではない。

軍が敵の情報を掴んでいるように敵も軍の情報を掴んでいる。

(この会場でどうやってティンジェルを暗殺するのか……)

会場全体はイヴの眷属秘呪(シークレット)【第七園】が仕掛けられている。

眷属秘呪(シークレット)とは固有魔術(オリジナル)の一種あり、魂の魔術特性(パーソナリティ)を術式に組み込む固有魔術(オリジナル)とは異なり、血中マナ特性――即ち、魔力特性(スペシャリティ)を組み込む魔術である。その特性上、大抵一代限りの固有魔術(オリジナル)とは異なり、その血族が先祖代々伝え、発展させていくことが可能な秘術だ。

そして、イヴのイグナイト家が代々伝える眷属秘呪(シークレット)【第七園】とは、予め指定した領域内における炎熱系魔術の起動『五工程(クイント・アクション)』を全て省略出来るようにする、という図抜けた代物。要は領域内の敵を、精神集中も魔力操作も呪文詠唱もなく、炎を手足の一部のように自在に操って焼いてしまうことが可能なのだ。

無論、予めその【第七園】の支配領域を手間暇かけて魔術的に構築しなければならないし、領域内で自在に行使できる魔術は炎熱系のみに限られる。魔力消費も激しい。

だが、一度【第七園】の領域を構築し、その領域内に敵を誘い込んでしまえば、その威力は言うまでもなく、強力無比。領域内にいるイヴは、アルベルトの魔術起動速度すら遥かに凌駕する、この世界最速の魔導士だ。

そして眷属秘呪(シークレット)【イーラの炎】は一定領域内の人間の負の感情――特に殺意・悪意を炎の揺らめきとして視覚化し、察知・特定する索敵魔術。

【第七園】と多重起動(マルチ・タスク)することでルミアに対して殺意を抱いた瞬間、その仕掛け人は瞬時にイヴの炎によって確保される。確実に。

(室長の【第七園】がある限り、会場内での暗殺はほぼ不可能。外部からの干渉も俺やフレイザー達で対処すれば問題はない。それに講師とレイフォードが常にティンジェルの傍にいる)

完璧だ。少なくとも今回の作戦の指揮官がロクスだったらこれほどまでの作戦を思いつくことはできないし、ロクス自身、この作戦以上に完璧なものが思いつかない。

ただの暗殺者ならばこの情報を耳にしただけで暗殺は断念する以外に道はない。

(だけど、あのクズ共は必ずやってくる)

それは確信だ。

天の智慧研究会がたかがその程度で諦めるとは思えない。必ず何らかの方法で出し抜いてくるに違いない。問題はその方法がわからない。

一応、今回の社交舞踏会に招かれた来賓に紛れて侵入してくることを考えて警戒しているのが、流石にそんなわかりやすい手は使ってこないようだ。

「来てくれていたのですね。ロクス君」

「生徒会長が生徒会の仕事をしなくてもいいのか?」

来賓を警戒しているなか、生徒会長であるリゼがロクスに声をかけてきた。

「別に構いません。他の役員の方々も優秀ですから」

「そうかよ」

実際そうなのだろう。生徒会長がいないだけで仕事を回せないほどの無能が生徒会役員にはなれないのだから。

「それにしても正直驚きました。まさか本当に来てくださるとは」

「顔を出しに来ただけだ。すぐに消えるから安心しろ」

「いえ、どうせなら最後まで楽しんでいってください。貴方もこの学院の生徒なのですから」

薄く微笑んだまま告げる。

そこに……。

「ロクス君。ここにいましたか」

白いドレスに身を包んだセシリアがやってきた。

「へステイア法医師。あんたも来ていたのか」

「ええ、ロクス君がちゃんと社交舞踏会に参加しているのか確認を含めて。ちゃんと参加しているようで安心しました」

(わざわざそんなことの為に参加してのかよ……)

相変わらずだな、とロクスは口から小さく息を漏らした。

「それではセシリア先生。後は彼をお願いします」

「はい。生徒会のお仕事、頑張ってください」

お辞儀をして生徒会の仕事に戻るリゼ。仕事に戻るリゼの背中を見送った後、セシリアはロクスに尋ねる。

「さて、ロクス君。どうですか?」

見せびらかすようにその身に纏う白いドレスを見せつける。凝りに凝った装飾はなく、むしろドレスのデザインとすればとてもシンプルで飾り付けられたアクセサリーも控えめで化粧も薄く施されている程度で髪も普段の三つ編みを解いて丁寧に結いあげられている。

お世辞抜きでも美しいと絶賛できる。ここが社交界ならば引手数多の立派な淑女(レディ)であることには間違いない。

そんなセシリアにロクスは言う。

「あんたは白よりも赤や黒のドレスの方がいいだろう? 血が目立たないし、それで社交舞踏会の空気をぶち壊さなくてもすむ」

「どうして素直に褒めることができないのですか……。それと私がいつも吐血している人みたいに言わないでください」

「結構な頻度で血を吐いてんだろ、あんたは」

ロクスは何度もその場面を見ているのでセシリアの超虚弱体質についてはよく知っている。

「ここはお世辞でも似合っているというべきですよ。お世辞でも女の子は嬉しいものなのですから」

「そういうものか?」

「そういうものです。さぁ、行きましょうか」

ロクスの腕を絡めてセシリアは開催前から既に盛り上がっている場へロクスを連れて行こうとする。

「せっかくなので一緒に踊りませんか?」

楽奏団の演奏に合わせて早くもダンスに興じている男女は多い。セシリアもそのダンスに参加しようとロクスを誘っている。それに対してロクスは……。

「一曲だけだ」

その誘いに応じた。

普段から治療などで世話になっている身としてはルミアのように強く拒むことはできない。それに社交舞踏会に参加した以上は誘われたら踊る程度はしておかないと不自然に思われる。

だから仕方がないと割り切ってロクスはセシリアの誘いに応じたのだ。

ダンスに興じている他の男女に乗じてロクスもセシリアと一緒に演奏に合わせてダンスをする。その光景にロクスを知っている人達から見れば目を見開くほどの驚くべき光景だ。

「お、おい、嘘だろ……。なんであいつがセシリア先生と」

「つーか、フィアンマのやつがどうして……え、まさか、あの二人ってそういう関係?」

「うそ、フィアンマくんとセシリア先生が……生徒と教師の禁断の関係」

「え、でも、ロクスって幼女趣味(ロリコン)って話じゃなかったっけ?」

「グレン先生といい、ロクスといい、クソが……」

「荒れるなよ。まだそうと決まったわけじゃないだろ?」

二人の関係を邪推するかのような声が会場内に飛びまうも、ロクスは差し当たって気にする素振りも見せないのは慣れているから。セシリアもまた気にするような素振りも見せずにただ今のダンスを楽しんでいる。

「ロクス君、踊れたのですね。てっきり不慣れなものかとばかり」

「これでも元は貴族の端くれだ。ガキの頃にダンスの基礎は習った。身体がまだ覚えていたのは少し驚いたが」

まさかそれが役に立つ日が来るとはロクス自身も思わなかっただろう。しかし、そのおかげで余計な恥をかかずに済んでいる。

「これなら私達もダンス・コンペに参加してもよかったかもしれませんね」

「それは御免被る」

「ふふ、そうでしょうね」

それは面倒だと言わんばかりの顔をするロクスにセシリアは微笑む。そしてロクスは約束通り、一曲分だけセシリアと踊るのであった。

その踊りを見ていた一人の講師と女子生徒は。

「先生。絶対に優勝しましょう」

「お、おう……」

鬼気迫るような微笑むを浮かべる女子生徒(ルミア)講師(グレン)は頷くしかなかった。

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