ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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雑魚が

学院敷地の東端でルミアを叱責……癇癪を起した子供の八つ当たりをするロクスの叫び声に社交舞踏会での『ルミア暗殺計画』の黒幕であり、首謀者である天の智慧研究会、第二団(アデプタス)地位(・オーダー)》の魔術師《魔の右手》のザイードの固有魔術(オリジナル)呪われし夜の楽奏団(ペリオーデン・オーケストラ)】――人間の心と身体を音楽で支配する秘儀によって操られている社交舞踏会の参加者達の五感を通して全てを把握しているザイードにも届いた。

居場所が特定され、ザイードは支配した人間達を操ってルミアを亡き者にしようと動かせる。

「チッ! 流石にバレたか!?」

無理もない。感情的になっていたとはいえ、あれだけ叫べば居場所が特定されても不思議ではない。この状況を打破する為の作戦も練れていないグレン達はひとまずこの場を離れて時間を稼ごうと逃亡を図ろうとしたその時。

目に見えない壁がグレン達を守った。

「これは――」

ザイードによって支配された彼等の行く手を阻むようにグレン達を覆い尽くすように張られている結界は魔力の波動も世界法則の変動も感じられない。それはつまり、魔術によるものではない。

「……俺が時間を稼ぐ」

目を見開くグレン達を他所にロクスはそう告げると同時に、植林された雑木林や草木から数多くの精霊達がその姿を現す。

「魔術は使えなくても精霊は使役できる。事前に召喚した精霊の力でこいつらを足止めする」

天の智慧研究会が来るというのに何の準備もせず、のうのうと待っていることなどしない。ロクスはもしもの時の為に精霊を召喚して学院内に潜伏させていた。

「居場所が特定されたのは俺が原因だ。時間を稼いでやるからその間に策でも考えろ」

状況が状況だというのについ感情的になって叫んだのはロクス自身の未熟さ。猛省しなければいけない汚点。それでもルミアに対して言ったことは後悔はない。

「ロクス、お前……」

「早くしろ。俺の気は長くない」

生徒達を助けたいのならさっさとこの状況をどうにかしろ。暗にそう告げるロクスの言葉にグレンは頷いてアルベルトと向かい合う。

「おい、やるぞ? アルベルト」

「是非もない」

「で、どこからやる?」

「フェジテ南東のグレンデル時計塔の上からならば、学院の敷地内をほぼ一望出来るだろう。あくまで『音』という特性上から予想される『魔曲』の効果範囲、そして現在地点から移動にかかる時計も計上すれば、其処が一番現実的だ」

「なら、俺は北の迷いの森だ。多分、アウストラス山の南側の斜面のどっかになる。きっとお前側からも見えるはず。問題は距離だが――いけるか?」

「……誰に物を言ってる?」

「はは、違ぇねえ」

「この状況で適任の相方は……フィーベルか。借して貰うぞ。使い物になるのか?」

「それこそ誰に物を言ってんだよ? 俺の自慢の教え子だぞ?」

そして、グレンは不敵に笑い、アルベルトは素っ気なく鼻を鳴らした。

「どうやら……話はまとまったようじゃの」

「そうですね。僕らはグレンさん達のフォローに全力で回りましょう」

「ん。わたしにはよくわからないけど」

訳知り顔でバーナードとクリストフが頷き……リィエルがきょとんと頷く。

「え? わ、私も……? いや、そもそも貴方達は一体、何をするつもり……?」

まったくわけのわからないシスティーナが一人、目を点にする。

そんなシスティーナの両肩に、グレンが手を置いて、真摯に見つめる。

「いいか、白猫。俺達は――」

「おい」

だが、何かグレンが説明しようとした、その時、ロクスが告げる。

「結界が壊れるぞ」

その言葉が言い終えると同時に、爆炎が結界を破壊した。

結界が破壊されたことによって爆炎の余波がロクス達を襲い、身構え耐える。そしてその爆炎を放った人物へロクスは呆れを交ぜた声音で口を開く。

「だらしねえな、室長よ」

ロクス達の視線の先には敵の『魔曲』に支配され、傀儡と化したイヴが、その強大な炎の魔術を振るう。

鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)!」

鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)を使役させ、炎の壁を創り上げて炎の魔術を防ぐ。だが、事前に召喚した精霊の力は有限。新たに精霊を召喚しない限りはいずれ尽きる。

「さっさとしろ!」

ロクスの怒声にグレンはイヴに舌打ちする。

「チッ、イヴの奴、まんまと敵の術中に嵌りやがって! 白猫! お前はアルベルトと行け! そして――」

 

 

 

 

学院内の道を、北へ北へと駆けていく。

時折、ザイードに操られた人間達が現れては、獣ごとき俊敏な動作で、散発的にグレン達に襲い掛かってくるが、転がし、意識を刈り取り、吹き飛ばしながら予め学院敷地内に張っていたクリストフの索敵結界を頼りに北の迷いの森を目指して駆け抜けていく。

「ザイードがこちらに気付きました! 追ってきます!」

「そうか! アルベルトと白猫は!?」

「敵の狙いはあくまで王女だけのようです。アルベルトさん達はノーマーク。二人は今、何の問題もなく、学院敷地内を脱出しました!」

「そっか! そりゃありがてえなッ! そのまま監視頼むぜ、クリストフ!」

ただひたすらに駆け抜ける。

「あの、ロクス君。私も自分の足で……」

「超虚弱体質は黙ってろ」

セシリアを荷物のように担ぎながらザイードに操られている人間達を転がすロクスはそんなセシリアの言葉を一蹴する。体力のない超虚弱体質に走らせるぐらいなら担いだままの方がマシだった。

雪の精(スノー・ホワイト)。動きを封じろ」

魔術が使えない状況化でも精霊の力を行使しながらグレン達と共に駆け抜ける。ロクス自身、グレン達が何をしようとしているのかはわからないが、ある程度の予測はできる。

(フレイザーとフィーベルをグレンデル時計塔に行かせたってことは……)

予測が正しければ確かにこの状況でもザイードを討つことは可能かもしれない。本来なら不可能だと思う策でもアルベルトの実力を知っているロクスはその不可能も可能にしてしまう実力をアルベルトは有していることぐらい知っている。

「はぁ……はぁ……み、皆さん、一体、何を……?」

「喋る余裕があるなら足を動かせ」

苦しげに息を切らして、なんとか一同についていくルミアに、ロクスはそう返す。

「詳しく説明する暇はねぇ。手助けぐらいしてやるから黙って走れ」

不意にルミアの背を押すように風が吹く。

風の精霊の力で追い風を発生させ、ルミアの手助けをする。

「ティンジェル。俺はお前が大っ嫌いだ」

セシリアを抱え、生徒を転ばせながらロクスはルミアに言う。

「聖女のように振る舞うお前も、大罪人にように何もかも自分のせいにするお前も、自分のことを何もかも諦めようとするお前も、俺は大っ嫌いだ」

「……」

「それ以上にそんなお前に八つ当たりしている自分に反吐が出る」

「…………え?」

「俺はお前が嫌いだ。だけどな、嫌いな奴にガキの癇癪のように八つ当たりしていい理由にはねらねぇ」

「西、距離四百メトラ! 敵影二、こちらに向かって真っ直ぐ進行中! このままだと約二分後に、第一種戦術距離まで接近しますっ!」

クリストフの言葉にロクスは足を止める。

「さっきは叩いて悪かったな」

ロクスは迫る脅威。敵がいる西へ駆け出す。

「おいっ! ロクス!!」

「こっちは俺がなんとかする。お前等はそいつを守ってろ」

西から迫る脅威に立ち向かう為にグレン達から離れるロクスはセシリアに言う。

「悪いな、へステイア法医師。こんな危険なことに巻き込んで」

「いいえ、ロクス君の無茶にはもう慣れましたから」

気にもしていないかのように微笑むセシリアにロクスはそうか、とだけ答えて駆け出すこと数分、敵はそこにいた。

一人は『魔曲』によって操られている特務分室室長であり、ロクス達の上司でもあるイヴ。そしてもう一人は大柄で筋骨隆々な中年の男性。ロクスは帝国軍の資料でその顔を知っている。

「《咆哮》のゼトか……」

天の智慧研究会、第一団(ポータルス)(・オーダー)》……《咆哮》のゼト。《冬の女王》グレイシアと同じ外陣(アウター)

バーナードによって斬り落とされたであろう右腕は巨大な鋼の小手に換装されている。

「如何にも。我が《咆哮》のゼト。貴様は執行官ナンバー16《塔》だな」

「俺のことを覚えておく必要はねえよ」

セシリアを下ろし、ロクスは前へ出て剣を構える。

「すぐに殺す」

燃え上がる瞋恚の殺意の如く眼差しを向けるロクスは背後にいるセシリアに声をかける。

「へステイア法医師。ここから先はあんたが見ていい光景じゃねぇ。目を閉じてろ」

心優しい法医師にこれから行われる惨劇を見せたくなかった。だが、セシリアは静かに首を横に振る。

「見届けます。君が為そうとすることを」

「……」

真意ある言葉と共に瞬きの間も見逃さないかのように真剣な眼差しを向けるセシリアにロクスは無言で返した。

「面白い! 貴様の実力を我に見せてみよ! そして我が求道の糧となるのだッ! ――《破》ァッ!」

短く呪文を唱えつつ、ゼトは拳を構える。その手の甲に刻んだルーンが輝き、その拳にその身体を消し飛ばさんばかりの電撃を張るのだった。

魔闘術(ブラック・アーツ)。拳や脚に魔術を乗せ、インパクトの瞬間、相手の体内で直接その魔力を爆発させるという、魔術と格闘術の組み合わせた異色の近接戦闘術。

魔力操作のセンスに恵まれなければ、ただの基本技の一手すら取得困難な技だが――一度極めれば、その威力は強力無比。

「逝ねいッ!!」

拳を振りかざし、突進してくる。

その拳に凄まじい電撃が爆音を立てて張っており、重機関車の如く突進するゼトの猛撃。触れるあらゆる物を、砕き散らして吹き飛ばす、物理力の暴威。

受ければその身は一瞬でただの肉片へと変わり果てる。そんな暴威を前にロクスは一言。

 

「雑魚が」

 

ゼトの首が宙を舞った。

「…………………………………………は?」

反転する視界。世界が逆さまになったように見えるゼトの視界には首から上が無くなった自身の身体と剣を振り終えたロクスの姿が。

「魔煌刃将に比べたらてめぇの攻撃なんて止まって見えるんだよ。求道なら地獄でやってろ」

向けられるその瞳からは一切の慈悲もない冷酷無慈悲の眼差し。その瞳を向けられ、その顔を恐怖に歪ませながらゼトの命は終わりを迎えた。

そこにロクスに爆炎が迫る。

鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)

『魔曲』によって操られているイヴの炎をロクスは鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)で防ぐ。

「操られていなきゃあんたの炎もこの程度じゃねえだろうに」

少しの間だけとはいえ、イヴから訓練を受けた身。その炎がどれだけ脅威なのかは身を持って知っているロクスはそう嘆息しながら。

「悪いが室長。少し寝てろ」

拳をイヴに叩き込んで強制的に意識を途絶えさせる。

「……」

セシリアは最後まで見届けた。

なんとも言えない哀しい想いと共に。

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