ロクでなし魔術講師と復讐の精霊使い   作:ユキシア

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復讐の時はきた

燃え上がる炎―――

血に塗れた両手―――

虚ろの瞳で見つめてくる彼女―――

壊れていく淡い幻想―――

そこから生まれる黒い炎。

恨め、憎め、殺せ――――

熱く爛れる漆黒の炎は我が身を燃やす以上に心を燃やす。

――――忘れるな。

お前(おれ)は復讐者だ。

 

 

 

 

 

「………………………………」

静かに目を覚ましたロクスは忘れもしない悪夢(かこ)を今日も見る。

汗まみれの服を脱いで汗を流した彼は簡易な朝食を口に入れて学院に向かう支度をする。

本来なら今日からは五日間は教授陣と講師達は揃って件の魔術学会に参加するに合わせて学院は休校になるが、二組の前任講師であるヒューイの突然の退職で授業の進行が遅れている為にその穴埋めとして休みの日に授業が入っている。

面倒ではあるが、魔術を身に着けるには環境が整っているから行かない理由はない。

「行くか………………………」

時間を見て、部屋を出るロクスは学院に向かう。

二組以外休みとなっている為にいつもより人が少ないのは耳障りな声を聞かなくて済む。

いつものように学院に到着し、自分の席に腰を下ろして羽ペンと羊皮紙を取り出す。

後に少しずつ生徒達が教室に集まってくるも、システィーナの決闘以来より人を寄せ付けなくなったロクスに声をかける者はいない。

「………………遅い!」

魔術の研鑽に励んでいる途中で不意にシスティーナの叫びが聞こえた。

顔を上げて時間を確認すると既に授業中、それでもグレンの姿は見えない。

遅刻だろう。ロクスは早々にそう割り切って再び視線を羊皮紙に向ける。

その時―――

「!」

身体に熱が帯びる。

胸にある黒い炎が教えてくれる。

怨敵はそこにいる、と。

そんなロクスの心情に関係なく教室の扉が無造作に開かれてそこから現れる人物に視線を向ける。

誰もが教室に入ってきたのはグレンだと思っていただろう。だから、突如現れた二人組の男を見て騒めき出した。

システィーナも知らない人物が突然に教室に入ってきて一瞬言葉を失うもすぐに気丈に振る舞う。

「ちょっと…………………貴方達、一体、何者なんですか?」

正義感の強いシスティーナが席に立ち、二人の前まで歩み寄ると臆せず言い放つ。

「ここはアルザーノ帝国魔術学院です。部外者は立ち入り禁止ですよ? そもそもどうやって学院に入ったんですか?」

「おいおい質問は一つずつにしてくれよ? オレ、君達みたいに学がねーんだからさ!」

チンピラ風の男がそう答えるとシスティーナは苦い顔で沈黙した。

「まず、オレ達の正体ね。テロリストってやつかな? 要は女王陛下サマにケンカ売る怖ーいお兄サン達ってワケ」

「は?」

「で、ココに入った方法。あの弱っちくて可哀想な守衛サンをブッ殺して、あの厄介な結界をブッ壊して、そんざお邪魔させていただいたのさ? どう? オーケイ?」

クラス中のどよめきが強くなる。

「ふ、ふざけないで下さい! 真面目に答えて!」

(本当に馬鹿だな、フィーベル)

チンピラ風の男の言葉を聞いてまだ噛みついているシスティーナの無知さに呆れながらその場から立ち上がる。

(仮にもテロリストを名乗る奴等が何の対策もなしにここまで来れる訳がないことぐらい少し考えたらわかるだろうが)

闊歩しながら現状を把握するロクスは二人組に近づく。

「え、ロクス?」

「一つ聞く。お前等は天の智慧研究会か?」

天の智慧研究会。

アルザーノ帝国に蔓延る魔術結社の一つ。魔術を極める為なら何をやっても良い。どんな犠牲を払っても許される、外道魔術師達の組織である。

歴史の中で常に帝国政府と血を血で洗う抗争を続けてきた最悪のテロリスト集団、魔術界の最暗部。

チンピラ風の男とダークコートの男の所属を確認すると、チンピラ風の男が答えた。

「そうそうだーい正解。いやーお兄サン達も有名になったものだね。君みたいな子供に知られるなんてな」

調子よく答えるチンピラ風の男。その答えを聞けたロクスに迷いはなかった。

「《死ね》」

「は―――」

チンピラ風の男の言葉は爆炎と共に消え失せた。

ロクスがチンピラ風の男に向けたのは軍用の性呪文(アサルト・スペル)、黒魔【ブレイズ・バースト】。収束熱エネルギーを至近距離で放ち、チンピラ風の男を一瞬で消した。

突如教室に轟く爆音、爆裂、爆炎。教室内が一瞬で炎世界へと変貌するなかでロクスは圧縮凍結保存しておいた柄から刀身まで灼熱の炎を帯びているような赤い剣をその手に持ち、残りのダークコートの男を見据える。

「会いたかったぞ、天の智慧研究会」

「………………………貴様、何者だ? ただの学生ではないな」

ダークコートの男は相方がやられたと同時に呪文を唱えていたのかその背後には五本の剣が浮いている。そして、その相方を殺したロクスに鋭い眼差しを向けながら問いかけるとロクスはそれに答えた。

「復讐者」

「………………………そうか。では復讐者よ。取引をしよう」

「取引だと?」

「ルミア=ティンジェルをこちらに差し出せ。そうすれば残りは見逃してやる」

簡潔に取引の内容を告げるダークコートの男、レイクは話を続ける。

「貴様の存在は計画には入っていなかったとはいえ、私の実力は貴様より上だ。軍用魔術を扱えたところで貴様では私を殺すことはできない」

レイクはただ冷徹にそして冷酷に告げる。

それはロクスを見下しているからの発言ではなく、純粋な場数の差による経験則による判断だ。

確かに強い。だが、少なくともまだ自分よりは弱い。

それがレイクの判断だ。

「我々の目的は後ろにいるルミア=ティンジェルの身柄ただ一つ。貴様が我々に恨みを持つ者だとしても実力差を無視してまで戦うような愚者ではあるまい?」

「………………………………」

「この場は生かしてやる。ルミア=ティンジェルを差し出せ」

計画の目的であるルミアの身柄を要求するレイクに他の生徒達と一緒にいるルミアは一歩踏み出そうとする。

これ以上誰も傷付けない様に。

――――だが

「知るかよ」

この男にはそんなことどうでもよかった。

「お前等天の智慧研究会の都合なんか知ったことか。俺はお前等天の智慧研究会を殺す為だけに生きてきたんだ。折角めぐり合わせた屑をはいそうですかって見逃されるか」

剣先をレイクに向ける。

「ティンジェルを連れて行きたいなら俺を殺してからにしろ」

「…………………そうか」

戦闘態勢に入る二人。一触即発のなかでルミアが動いた。

「待ってください!」

二人の間を割って入るようにルミアが前に出た。

「大人しく貴方に従います。ですから、他の皆は見逃してください」

ルミアは我が身を犠牲にするように自ら名乗り出た。

「駄目よ、ルミア! 殺されちゃう!」

制止の声を上げるシスティーナにルミアは優しい笑みを浮かばせる。

「大丈夫だよ、システィ。私は、大丈夫だから」

親友に心配させないように笑うルミアにロクスがルミアの胸ぐらを掴んだ。

「だから俺はお前が嫌いなんだよ、ティンジェル!」

「何が大丈夫だ!? どう考えても大丈夫じゃねえのに何を根拠でそんなこと言っていやがる!? そこまでして聖女様を演じたいのか!?」

激昂する。

「本当にお前は俺を苛つかせる! 本当に腹が立つ! 自分を犠牲にして皆を救うってか!? 違うだろう!? お前はただ自分から目を背けているだけだろうが!」

ロクスはルミアを後ろに放り投げて敵であるレイクを見据えながら口を開く。

「他の奴等を連れて出ていけ。だが、勘違いはするな。俺はお前等を守る為に戦うつもりは微塵もねぇ。戦いの邪魔になるだけだ」

「ロ、ロクス君………………………」

「行け」

有無言わせず最後通告のように告げるその言葉にシスティーナはルミアの腕を掴んでこの教室にいる皆に向けて叫ぶ。

「皆急いで逃げて! 学院の外に出るの!!」

システィーナの一声で生徒達は一斉に後ろの扉から教室を出ていく。そして、最後にシスティーナとルミアが残ったロクスを一瞥して教室から去る。

「………………………見事な演説だな」

「そんなんじゃねえよ」

「だが、これで貴様の生存率はゼロだ。貴様の言う通り、貴様を殺してからルミア=ティンジェルを連れて行く」

冷徹に告げるその言葉にロクスは唯一無二の相棒を召喚する。

「サラ」

その名を口にすると、ロクスの隣に姿を現すのは褐色肌の美少女。

ロクスが契約した炎の精霊、サラ。

「呼んだ? ロクス」

「力を貸せ」

「ええ勿論よ」

現れた炎の精霊に流石のレイクも驚きを隠せれない。

「なるほど、驚かされた。まさか精霊使いだったとはな。だが、それでも貴様の敗北は変わらん。ただ貴様の生存率が増えただけの話だ」

「うるせぇよ。そんなもん俺を殺してから言え」

「ではそうしよう」

―――さぁ、殺せ。

内にある黒い炎が燃え上がり、抑えきれない衝動となってロクスは戦う。

 

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