ゲームの中に転生したと思ったらどうも違うようで、ここは同じ日本だった。
パラレルワールドって言うのかな。俺が居た所には無かった"個性"っていう異能が当り前にあって、科学力は少しだけ進んでない。まあ微々たるもんだけど、よさげなゲームが無くて萎えた。
で、だ。察しているとは思うが俺のこのゲームみたいな能力も個性の一言で片づけられるらしい。特別感はなくなったが、人より出来ることは著しく多い。チーターぽくて複雑だが正真正銘生まれつき俺の力だ。多分前世での努力が報われちゃった感じだろう。
そんなことより俺が今何をしてるかって?
犯罪者だ。
「よっす死柄木、おっすおっす」
「……黒霧、あいつどっかとばせ」
「照れんなって。黒霧さんもどーも」
「こんばんは風見蒼弥」
死柄木は中指を立ててコップを持ち上げるとちびっと飲む。
許可されてはいないが勝手に隣に座って俺の分の飲み物を黒霧さんに作ってもらう。
分かりやすく嫌そうな顔をする死柄木ににんまりと笑いかけると、更に顰めた顔を反らされた。
「何の用だよ。つか隣座んな」
「呼んだのそっちじゃん。"先生"が来るように言ってきたんだよ。聞いてない?」
「先生が?」
死柄木がそう言った途端にモニターに通信が入る。先生のご登場だ。タイミングが良すぎて盗聴器の類を疑いたくなる。つか本当に仕掛けてあっても驚かない自信あるわ。
「蒼弥。来ていたのか」
「え、皆して酷くない?これでも依頼断ってきたんだけど…」
因みに依頼を受けて悪い事をしてご飯を食べてます。稼ぐ方法が善行でも悪行でもうまいもんはうまい。
不貞腐れてグラスを呷ると、モニターの向こうで苦笑したような気配がする。
「悪く思わないでくれ。予想より早いと思っただけだ」
「それで、要件はなんですか?なにかご依頼でも?」
流石にこの人の前でこれ以上ふざけては居られない。居住まいを正す俺を横の死柄木が意外そうな目で見るのを感じつつもお仕事モードに切り替えて聞くと、先生はゆっくりと頷いた。
「そんなところだ。情報が入ってね、近々弔達はあの計画を大きく前進させる。それを手伝ってやって欲しい」
「へえ…ま、いいですけどね。死柄木クンてば、最近有象無象を集めだしたと思ったらまさかこの為だったの?」
「だったらなんだよ」
「いや?別に」
あの計画ってーと思い当たるのはオールマイトを殺害するとかいうあれだ。オールマイトと言ったら日本では知らないものは居ないと思われる最強のヒーローだ。
そんな野望を掲げちゃってるこの死柄木弔と言う男は正直向こう見ず過ぎてバカなの?と言いたくなるが、そんなバカなところを俺は案外気に入ってる。
どうせ二度目の人生、こんな俺好みの能力。バカと一緒に踊りたいってもんだよね。
詳しい作戦を聞いてざっくりと説明すると、明後日校舎から遠く離れた場所でオールマイトが生徒を連れて訓練だかなんかをするらしい。そこに黒霧さんの能力で俺らがお邪魔して、更に黒霧さんの能力で生徒を分散して有象無象に足止めさせるらしい。
オールマイト以外の引率の教師はそれ用の有象無象で対処。そんでオールマイトを相手にするのは脳無って言う脳みそむき出し改造人間だ。いくら改造人間脳無クンでも、あのオールマイト相手にそんなに上手く行くかな?
てか明後日て。急かよ。
「あとは君達で話し合いなさい」
そんな、"先生"のような事を言ってモニターの通信が切れる。
「で、俺は何すんの?」
「お前は保険だ。何かあった時のな」
「はー?それじゃあつまんないじゃん。折角のJKだよ?分かってる?JK」
「うっせーな…ガキのどこがいいんだか」
「……」
沈黙が落ちる。
いや、俺が黙ったせいなんだけど。
「え、それって"そんな奴より俺を見て"的な……?」
「は?」
再び落ちる沈黙。
自分の体を守るように震える俺は、容姿も相まって儚い美青年に見える事だろう。…内心はともかく。
黒霧さんは俺の意図に気付いたのか、やれやれと言った風に頭を振っている。(はたしてアレが頭なのかは良く分からんが、少なくとも声はあそこから聞こえてくる)
しかしからかわれる事に慣れていない死柄木は、俺の言葉の意味をようやく察したのか、顔に引っ付けた手の向こうで目を大きく開いて顔を赤くした。勿論怒りで。
「ふ、ふざけんな…!キモイんだよ!」
「ジョーダンじゃーん。そんな事よりJKの魅力が分からんとは……お前ホントに日本人?」
「ガキなんて煩いだけだろ」
「熟し切れてない魅力と言うものがあってだな」
バシバシと背中を叩くと本格的にうざがられ始めた。酒が回ってきたかな、はは。
さてと、保険だなんて不明確な仕事を言い渡されても正直困るが、明後日と言われたら準備はしなきゃな。一応装備は
っべー。ついに来たよ。死柄木念願のこの日が。
基本的に夜型である俺は寝ぼけ
警備の薄い時間を狙った上黒霧さんの能力で直接潜入かましたとはいえ、日本最高峰のヒーロー養成校がそれでいいのかよって笑ったわ。結果警報装置の正確な位置とか分かったし、作戦をよりスムーズに運べるようになったからこちらとしてはお礼を言いたい。
バーの中には見慣れない面子がチラホラ居るが、これは広場で引率教師を足止めする奴等だ。他の奴等は別の場所に待機して、その時が来たら黒霧さんのお迎えで散り散りに飛ばされる。黒霧さんマジ忙しそう。
「弔クンー蒼弥君が来たよー」
「朝からうざいな。馴れ馴れしく呼ぶなよ」
死柄木は平常心を保とうとしているのだろうが、うきうきしてるのか目が血走ってる。わくわく小僧かよ。
こんな調子じゃ本当に今日オールマイトが死んだらピョンピョン飛び跳ねるか号泣する死柄木が見れるんじゃないだろうか。まって想像したら面白すぎたんだが?
ニマニマ笑う俺を普段なら煙たがる死柄木だが、今日は気分がいいのか凶悪ではあるが俺に笑い返してきた。おや、これはマジで珍しくご機嫌じゃん。
死柄木は一歩前に踏み出すと、その気味の悪い手のようなマスクの向こう側で口を開いた。
「お前ら…今日がどんな日になるか、分かるか?俺達の……俺の手によって、人々の希望であり平和の象徴のオールマイトが死ぬ日だ」
その場がざわつく。
純粋に(?)オールマイトが殺せる事に喜んでいる奴、ただ人を殺したくてウズウズしてる異常者に、子供をいたぶる事に喜ぶクズ、報酬が貰えればそれで良いと思ってる奴。それぞれが多かれ少なかれこの作戦に何らかの感情を抱いて、死柄木の言葉に耳を傾けていた。
「そしてオールマイトなんかが称えられるこの腐った世界に終止符を打ち、俺たちの時代が始まる」
いまいち統率の取れていなかった寄せ集めの集団から、歓声が上がる。
悪のカリスマの卵に、小さな亀裂が入った気がした。
「そろそろ時間です。死柄木弔」
「分かった」
「死柄木」
広がった黒霧さんのワープゲートに入ろうとしていた死柄木を呼び止めると、奴は胡乱げな目で俺を見上げた。
俺は珍しく爽やかさを心がけて微笑むと、死柄木に握った拳を差し出した。
「"ゲームスタート"だ」
「……ああ」
素直に拳をぶつけて来た死柄木は、その後何の躊躇もなくワープゲートに首を突っ込む。
俺は脳無に先を譲ってから不気味に揺蕩う黒に足を踏み入れた。
いつものバー~のあたりを修正しました。
いつものバーを集合場所にしたらこの後捕まるヴィランから情報が漏れちゃいますね。いくら気を抜いて読んでもらえればなんて言っても矛盾はいくない。