クズゲーマーはヴィラン   作:ゆきん子

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好みのJKが見当たらない

 

 

 

「え、オールマイト居ないの」

 

なんと、確かにオールマイトが参加すると情報にはあったはずなのに、長い階段の上に見える子供達の側に目立つあの姿は見当たらない。

胸元に手をやって何かを掴む仕草をすると、俺の手の中には端末が握られていた。俺の力の中でもこれ系が一番便利かもな。

何やら騒がしい生徒やらを無視して親指で操作すると、オールマイト目撃板なるものがあった。へえ、こんなのあるんだ。

なになに?え、めっちゃ色んなとこでほぼ同時多発的に目撃されてんだけど。お勤めご苦労様でーすなんちゃって。

 

「オールマイト、通勤がてら善行に励んでるってよ」

「チッ」

 

死柄木は不快そうに顔を顰めて舌を打つ。

気が付けばJKもろとも生徒は殆ど居なくなっていた。

 

「それよりあいつだ。有象無象じゃ歯が立たない」

 

見れば、教師らしき男が体術で次々連れてきたヴィラン達を倒していく。

はえーな、やっぱプロヒーローってすげえわ。ていうかむしろあいつらが弱すぎなんかな。はは。

 

「23秒」

 

急に死柄木が意味分からんこと言って飛び出した。そんなことして大丈夫なんかな、何か個性消すっぽいけど。個性消された死柄木なんて、俺より運動音痴なひょろい男だよ。

首に巻いた布をびゅんと投げつけられ、死柄木はそれを難なくキャッチする。あの布の材質が気になるんだけど。細長い布が真っ直ぐ飛んだよ。

ブツブツと秒数をカウントする死柄木ははっきり言って不気味だ。二人の距離が近付くのを眺めていると、ヒーローの肘が死柄木の腹に食い込んだ。痛そう。

 

と、思ったら直前に手で受け止めてたらしい。

イレイザーヘッドというヒーローは、死柄木から逃れるために奴の顔を殴って距離をとった。

ああ、でもあの個性じゃ集団との長期戦闘は向いてないわな。生徒を安心させるために突っ込んできたって?かっこいいかよ。

でもそれももう終わりだな。死柄木が指示したのか、俺と一緒にぼーっと眺めてた脳無がイレイザーヘッドに向かってった。

 

さてと。俺もちゃんとお仕事しなきゃな。

手の平の上に"マップ"を開くと、地図の上に赤と青の点が多数現れる。青の数のが少なかったのが、見る見るうちに多勢だった赤が消滅して行った。子供にも負けるとかマジで使えないな。

赤い点の中でも俺と死柄木と黒霧さんはピンが刺されていて、一目でどこに居るのか分かる。

黒霧さんのところを見ると、一つの青い点がゲートから外へとものすごいスピードで動いている。

マジかよ、あの人子供逃がしたの?

 

「おーい死柄木」

「……なんだよ」

「子供が一人逃げた」

 

初めは振り向かずに適当に返事をした死柄木がそれには目を瞠って振り返る。それと同時に死柄木の正面に黒霧さんが現れた。

 

「死柄木弔」

「蒼弥から聞いた。黒霧おまえ…おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ。……13号は?」

「行動不能にはしました」

「さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあ、()()()ゲームオーバーだ」

 

イライラした様子で首を掻き毟っていた死柄木はそういうとくるっと踵を返し、「帰ろっか」なんて何の気負いもなく言い放った。

だが俺がへえーこのまま帰るんか、つまんねえななんて思っていると死柄木はニタリと笑んだ。

あーね。「と、思うじゃん?」って奴か。知ってる。

振り返った死柄木がその五指で蛙っぽい女の子(ちょっとかわいいかもしんない。でも両生類苦手なんだよなぁ)の顔にピタリと触れる。

 

「……」

 

何も起こらない。

イレイザーヘッドが脳無君に頭を押さえつけられているにも関わらず、最後の力を振り絞って死柄木の個性を消したらしい。

ひゅー、と俺の口笛がむなしく響いた。

 

「本っ当かっこいいぜ。イレイザーヘッド」

 

死柄木が振り返った隙を狙って緑色したもさもさ頭の少年が殴りかかるが、脳無が間に入った事で止められた。

 

「蒼弥、どいつでもいい。あそこのガキ何人か殺せ」

「まったく人使い荒いよね」

 

背中に手をやると何かを掴んだ感触を感じた俺は、それを持った手を体の正面に下ろす。

今回持ってきた砂ライフルはドラグノフだ。この程度の広さの場所では十分の飛距離と見た目の割に軽い重量。速射性がそれなりに高いので、身を隠してじっくり狙う事ができないそんなあなたの強い味方です。

 

スコープを覗くとこちらを気にする素振りを見せるマスク君が。まずはこいつでいっか。

銃に頬ずりするように顔を押し付け、ゆっくりと息を吐いて、止める。

今現在風はない。高低差を考えるともう少し上……ここだ。

 

銃声が、雷鳴のように響く。

ゲーム補正なのか所謂ゾーンに入ったのかは分からんが、スローモーションのように俺のドラグノフから放たれる弾丸が口が半開きになった間抜けなガチムチマスク君の額に吸い込まれていく。ビューティフォーなんて言おうと思っていたら、マスク君と弾丸の間をデッケー拳が遮って弾丸が消しカスのように吹っ飛んだ。

おいおい、ふざけてんのか。7.62mm弾だぞ?

反動でブレたスコープ越し、見開かれた俺の目に映ったのは、見た事も無い程にぶちギレたオールマイトの顔(どアップ)だった。

 

「ひえ」

 

とんでもねーモノを見てしまったと短く悲鳴を上げた俺は、とりあえず無害アピールをするためにドラグノフを仕舞って「コンテニューだ」なんて楽しそうにふざけた事を抜かしてる死柄木の後ろに隠れた。

あの顔をどアップで見た俺のダメージはでかい。

 

オールマイトはひとっ飛びで残りの手下どもを片付けると、イレイザーヘッドを抱えて遠くに横たえる。スッと立ち上がったオールマイトは、その彫りの深い眉骨の下で眼光を光らせた。だからこえーって。

奴は目にも留まらぬ速さで今度は水難ゾーンに居た生徒達を連れて俺達とすれ違う。すっげー風圧だ。

 

不本意にも俺を背中に庇う形になった死柄木は、顔にくっ付けた手が落ちたのかふらふらと拾いに行った。すれ違った時ついでに殴られたらしい。何かごめんね、俺は多分いざと言う時の盾とかそんな感じで雇われたんだと思うけど、痛いのは嫌いだしさ。でも俺のせいで大事なものが落っこちたっぽい事は少し申し訳なく思うよ。

 

また俺がぼうっとしてると今度は脳無とオールマイトの戦いが始まった。迫力満点で思わず見入ってしまう。増強系の個性って地味なイメージだが、ここまで極まるとめちゃくちゃ派手だ。

だが、オールマイトの力は思ったより弱い。

いくら対オールマイト用として作られたとはいえ、最強のヒーローがこんなに苦戦するとは思わなかった。

 

「全っ然、効いてないな!」

「効かないのは"ショック吸収"だからさ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆうっくりと肉を抉り取るとかが効果的だね……。それをさせてくれるかは別として」

「教えちゃうのかよ」

 

びしっと突っ込みを入れるとおまえはいつまで隠れてるんだと冷たい対応をされてしまった。

ふざけてる俺達に構う暇もなくオールマイトは脳無にバックドロップを仕掛けるが、脳無の頭を叩き付けたはずの地面にワープゲートの入り口が用意されており、ブリッジのような体勢のオールマイトの背中の下に出口が用意されている。そこからにょきっと生えた脳無が指を食い込ませたわき腹から血が滲んだ。

黒霧さんはどうやらこのまま脳無にオールマイトの体を引きずりこませ、縮めたゲートで引きちぎるつもりらしい。本人も嫌がってるのにやるってことはさっきの失態をカバーしたいんかな。

あーこのままあっけなく終わっちゃうのかなと思ったら、どっかからか飛んできた爆発頭の少年が黒霧さんを拘束してしまった。次いで赤髪君が死柄木を攻撃しようとしたのは事前に気付き死柄木を引っ張って避けさせる。そろそろ仕事しないと帰った後死柄木に報酬を渋られそうだしね。

あれ、いつの間にか脳無君が凍らされてオールマイトが拘束から逃れてね?やばいな。

 

「平和の象徴はてめえら如きにやられねえよ」

 

イケメンは言う事もかっこいいのかよ。紅白頭のイケメン君が淡々とそう言うのを聞いて思った感想だが、そう言えば今の俺も美形なのだったと思い出した。

それにしても……俺一人だったら今すぐにでも家に帰れるが、死柄木は一応雇い主だし、黒霧さんにはお世話になってるし、助けるべきかなあ?

この場にかわいいJKだったり美女ヒーローがいたら張り切っちゃうんだけどナー。あ、はい、仕事します。

何かを察した死柄木に睨まれた俺は、極力気配を消して脚を動かす。幸い周囲の目は黒霧さんや死柄木に向いていて俺に注目する奴は居なかった。

 

「出入り口を押さえられた……こりゃあピンチだなあ…」

「このうっかりヤローめ!思ったとおりだ。モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる!そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!?そうだろ!?」

 

ピクリと反応した黒霧さんをぐっと押さえつけた爆発少年はヴィランもびっくりな凶悪な笑みで脅しかけていた。

死柄木は俺から注意を逸らそうとしているのだが、爆発少年もそれを知らぬ間に助けている。

 

「参ったな……俺達はここまでかあ!」

 

わざとらしく両手を挙げた死柄木と目が合って俺はニヤリと口角を吊り上げた。

 

「エクス…」

「なんてなあ」

 

「カリ()()()!!!」

 

景気付けに叫んでバールのようなもののU時になった方を爆発少年の首に引っ掛けてフルスイングした。

3m程転がりながら吹っ飛ぶ爆発少年に、緑頭君が「かっちゃん!」と悲痛な声を上げる。さっき邪険にされてたっぽいのにお優しいこって。

しかし"かっちゃん"は青黒くなった喉を押さえて咳き込みながら緑頭君を睨み付けた。

 

「そんな事ばっかしてたらお友達できないよ?"かっちゃん"」

「んだと、げほっおまぇげっほ、ごほ」

 

全く。ヒーロー志望なら武器を持って居なかろうがヴィランに隙を見せちゃ駄目だろう?よりによってこの個性社会でさ。

俺はまたどこからともなく手の中にベレッタM92を取り出す。アメリカ軍にも採用されている拳銃で、バイオの主人公が使っていることでも有名だ。

躊躇いもなく額を狙って2発打ち込むが、また邪魔が入った。

 

「っつ~!へへ、危うく今日いいとこナシで終わるところだったぜ…!」

 

にっかりと笑う赤髪に顔が歪む。

ふざけんなよ、腹立つな。

 

「射線に入るんじゃねえよ」

「脳無、そこの餓鬼二人を片付けろ」

 

珍しくマジでキレそうになったが、死柄木の温度の無い声でいくらか冷静になる。

振り向けばあの赤い目が珍しいものを見たと愉快そうに歪んでいた。これ後でいつもの仕返しとばかりにいじられるやつだよ。

 

 

 

 

俺が不貞腐れてる内にまた色々進んで、ヒーロー側の応援が来たのを機に俺達ヴィラン連合は多くの手下を残して退却した。

 

 

 

 

 

 

「……おい、蒼弥」

「なあ、最後ミッドナイト居たよな」

 

あの日から俺がむすりと思い悩む事が増えたからか、死柄木がどこか気を使ったように声を掛けてきた。

俺はそれを分かった上でわざと話を逸らす。

 

「それが何だよ?」

「やばくなかった?めっちゃでかかったんだけど。テレビで見たときは"でっけ~"くらいしか思わなかったけど、実際に見るあの質量やばいわ」

「はあ……。女子高生はどうした」

「時代は変わる」

 

 

 

俺の弾は一発も標的に当たらなかったのに、向こうのスナイプの弾は死柄木に着弾した。

あの距離から拳銃で当てるとか…"ホーミング"って個性はマジでチートだチート。……はあ、いや…自分が当てらんなかったからって言い訳してんのは俺も分かってんだけど、こっちにもプロゲーマーとしてのプライドがあるわけで。

あん時は俺が慢心してて、あの赤髪が予想以上に周りを見ていたって事なんだが……。それでもオールマイトはともかく、あのガキに止められたってのがムカつく。

 

「死柄木」

「なんだよ」

「やっぱガキってクソだわ」

 

死柄木は同意するように鼻を鳴らした。

 

 

 

 

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