毒吐き少年と白い幼女 作:たいむ
「のう、アンデルセン。暇じゃー。何か面白い話をせい」
「そうか。だが、あいにくと気分なれん」
今回は、自分の使い魔の返事は素っ気なかった。
別に気にしてはいない。饒舌多弁な時もあれば、寡黙な時もある。普段の自分なら突っかかっていそうだったが、今日はそんな気分になれなかった。
ただ、あやつが何か話すときは、共通して痛烈な毒が盛り込まれる可能性が極めて高いのが難点だ。自他共に厭世気質を憚らず、何処の誰に対しても一切物怖じしたり、言葉を取り繕ったりしない。
あやつは今執筆中らしい。ペンを紙には知らせる音が聞こえる。しばらくすると、紙に走らせるペンの音が止まった。あやつが青い髪を僅かに揺らして顔を上げる。
「どうした、何千年たとうと美少女の尻ばかり追いかけている痛々しい手遅れ感満載な
「何じゃと!?おぬし、主に対する敬意が足りなくはないのか?会った時は、もう少し可愛げがあったはずじゃろ」
最初にこやつに会ったのは偶然だった。たまたま、どこかのコミュニティーのギフトで呼び出されたはいいが魔王にコミュニティーを潰されパスが切れ、消えかかっていたところを見つけた。本来であれば、見捨ててもよかったのだが、何となくその瞳に宿っている絶望の影がきになっってしまった。後は、面白そうだったからというのが一番近いだろう。何せ、少ない情報から私の正体を看破し、その上で
「黙れ、神は嫌いだ。――神も奇跡も、くそくらえだ。もし、そんなものがあるならあの娘は幸せになれた筈だ」
そう言い放ったのだから。
「ああ、気にいらないのならパスを切ればいい話だ。そうすれば、すぐにでも魔力切れを起こして俺は消えることになるだろうよ」
「せっかく拾った面白いものを捨てるのは愚か者のすることだ。この白夜叉、一度交わした契約は破らん」
「ふん、奇特なやつだ」
「何、死んだ人間を使役するなどなかなかないからのう」
ハンス・クリスチャン・アンデルセン。
嘗て、世界にその名の鳴り響く三大童話作家、グリム、イソップ、アンデルセンのひとりであり、箱庭でもそこそこの知名度がある。こやつの経歴は必ずしも栄光に満ちたものではなく、貧困と不運の連続だった。こやつが生前に世に出した作品には、救われざる者の叫びが込められたものが少なくない。
知識としては知っていても、本人と実際に対するとなかなかどうして面白い。イメージと違ったりすることも多く、退屈しない。それに、自分に媚びへつらうものはいても正面から毒を吐いてきたものは少なかったので、新鮮だった。一緒に過ごしているうちに、アンデルセンがどういう人物なのかもわかってきた・・・それは、知識としてではなく実感としてだ。根暗で厭世家な詩人で、他人に好かれる気がなく、また、自分にも価値を見出せなくなっているため、人生を楽しむ、という考えが欠如している。きっと生前、望む物は何一つ手に入らなかったことが原因だろう。だが、なんとなくそれが気に食わなかった。確かに生前、こやつは素晴らしい人生を送れたとは言えなかったのかもしれない。だが、自分の前でも諦めっ切った眼をしているのが気に食わなかった。だから、決めたのだ。こやつを手放すときは、この箱庭の生活は楽しかったと言わせた時だと。自分自身を少しは好きになった時だと。
「それにしても、こんなはずれサーヴァントの何がいいのかさっぱりだ」
「慈愛に満ちた私だからこその選択じゃ。どうじゃ、胸に飛び込んできてもよいぞ?」
「舐めるな、俺は童貞だ。お前の幼児体型に興味はない。見るのはその性根、人物像だけだ。」
あやつは、むかつくどや顔でそう返してきた。ここからは、戦争だ。
このくだらない言い争いは、女性店員が来るまで続き二人ともこっぴどく怒られた。