3章のネタバレ含みます。
Aチームメンバーの中で一番最初に気になったのは芥ヒナコだった。
そもそもの話として、僕の今世での目的は生き延びることだ。もちろん、自由に生きるだとか原作の先を知りたいだとかもあるが、まあ一番は死なないことだろう。
だから僕は戦闘で役に立ちそうな技術は学んできたし、1部と1.5部はレフの爆破を見逃してまで回避した。
そんな僕が思うに、生き延びるのに一番大事なこととは「見極める」ことだ。彼我の実力差を。相手の持つ戦力を。
まあ当然といえば当然だろう。相手が自分より強いことに気づかなければ負けるし、弱い相手だとしてもその実力差を見誤れば油断や慢心から負けることもある。
だから、戦力が不明でイマイチ測ることができないデイビットのことは底が知れないと考えている。
だが、そんなデイビットより先に気になったのが、芥ヒナコだった。
物静かで、無口で、無表情で、いつも一人で本を読んでいるよくわからない奴。
それが一般的な彼女への印象だろう。だが、僕にとっては違った。僕にはわかった。
魔力量が異常だとか、本気の戦闘を見たとか、そういう訳じゃない。証拠なんて何もない。だが、僕の勘が告げていたのだ。コイツは強いと。
明らかに人間として異常な程の力を有していると。
自分を鍛えるため数々の戦闘経験を積んできたが故の、第六感。それが芥ヒナコの異常性を教えてくれていた。
そう、だから。僕は————————。
ま、クリプターになるんだから当然でしょ!fgoの敵キャラなんだから凄い魔術とか使えるんじゃね、知らんけど!
特に何も考えていなかった。
「なあ、何の本読んでんの?」
まだ僕がカルデアに来てそんなに経っていないある日、休憩室にて。
カルデアでは、オルガマリーにマリスビリー所長、ロマン、ダ・ヴィンチちゃんくらいとしかまともに会話をしたことがない。そんな僕でも読書好き、という印象を受ける程常に本を持ち歩いている少女、芥ヒナコに声をかけた。
「………………」
彼女は無言で目線だけをこちらに向ける。その目は明らかにめんどくさがっていた。というよりもはや嫌悪や敵意すら感じる目だ。え?僕そんな嫌われるようなことしたっけ?まだ話したこともないのに?
「そこ、座っていい?」
僕は彼女の近くの席を指差し、返事を聞く前にさっさと座ってしまった。彼女から向けられる目線が更にきつくなる。
「……何の用?」
渋々、といった感じで彼女は口を開く。
「いや、同じマスター候補なんだし仲良くしようと思ってね。僕はエドワード・エヴァンズ。最近ここに来たんだ。よろしく」
「……芥ヒナコよ」
僕は握手をしようと手を出したのだが、彼女は自らの名前だけを告げるとその手を無視して再び本に目を落とした。
マジで必要最低限の会話のみって感じだな。セリフの全てに三点リーダが付いている気がする。原作ではもう少し喋っていた気がしたんだけど……こんなんだったっけ?
初のAチームマスターとのコンタクトがいきなり失敗しそうだった。やっぱ人選ミスったか……?
だが、彼女を選んだ理由がある。ここで諦める訳にはいかない。
「よろしくヒナコ。僕のことは気軽にエドとでも呼んでくれ」
「…………そう」
「いやー、ここに来てからまだそんなに経ってなくてさ。友達とかまだ出来てないんだよ。ヒナコが居てくれて良かった良かった」
「ちょっと、勝手に友達ってことにしないで」
「実はさ、僕ちょっとだけ日本に住んでた時期あったんだよ。日本人が居て安心っていうか。ヒナコは日本のどこ出身?」
彼女の話しかけんなオーラとめんどくせえオーラをガン無視して話しかけていく。強引すぎるか?僕だったらこれやられたらムカつく。
「ん。それってさ、漢字ばっかだから日本語の本かと思ったけど。もしかして漢文?ヒナコって漢文読めるの?」
ふと、彼女の持つ本が目に入った。それは小説ではなく文献といった感じだ。
「……まあ、そうね」
「僕も日本でちょっとだけ習ったことあるぜ。それアレでしょ?四面楚歌の語源になったやつ。何だったっけ?」
古い記憶を呼び起こす。いかんせん前世の中学校時代に習ったものだ。なかなか思い出せない。
「…………垓下の歌」
僕が一人でうんうん唸っていると、ヒナコがぽつりと呟いた。
「あっ!それそれ!えーと、あれだよ。虞や虞や汝を奈何せん。ってやつ」
「………………」
「懐かしいなぁ。なんかこの部分だけ覚えてんだよな。当時めっちゃ疑問に思ってたから」
「疑問……?」
すると、ヒナコがようやくこちらを見た。少し雰囲気が和らいだ気がする。どうしたんだろ、急に。もしかして僕が日本の話をしたからか?まあ故郷の話で気分を悪くする人も少ないか。
「いやさ、項羽ってなんちゃらの覇王とか名乗って人殺しまくってたんだろ?殺戮やら虐殺やら。なのにこの時だけ妙に人間臭いっていうか……なんか違和感があったんだよ。今までの項羽の人物像と違いすぎるっていうか…………。なんだろ、虞のことを本当に想っていなければこんなセリフ絶対に出てこないと思うんだ」
「っ…………!」
「まあ、僕は誰かを本気で愛したことなんてないから分かんないけど、何かを感じたんだよ」
「…………そう」
僕が話し終えると、彼女は一言だけ呟いた。しかし、それはさっきまでの素っ気ない返事とは少しだけ違う気がした。
…………この雰囲気なら大丈夫か?
「なあ」
「……何?」
「ヒナコはさ、何がそんなに怖いんだ?」
「っ!」
ほんの少し、ヒナコは目を見開く。その表情は どうして、と言っているように見えた。
「いや、なんというか。常に周りを警戒して観察してるっていうか……一言で言うなら見すぎだ見すぎ。他の奴はともかく僕はすぐ視線に気づいたぞ」
「……………………」
「何をそこまで警戒してんのか分からんけど、なんかあるのか?」
僕は、ヒナコのことを知らない。今日まで話したこともなかったし、原作も2章までしかプレイしていないから。前世の知識なんかも彼女には使えない。
彼女の視線には敵意が、憎悪があった。だが、それだけなら放っておいただろう。だからと言って直感的に彼女の強さが分かったから話しかけた訳でもない。
彼女は————恐れているのだ。強大な力を持ちながら。そして、どこか諦めている。それが————気に入らない。
敵側とはいえヒロイン候補だぞ。いつまでもそんなんじゃ困るってもんだ。ヒロインってのは可愛くてなんぼだろ。
「私は…………人間が憎い」
今までで、一番の感情を込めて、彼女が言う。
「あなたは……人間?」
「え?」
随分と真面目な顔で訳の分からない質問をされたので気の抜けた声が出てしまった。なに、どしたの急に。
「人間は、私を排除しようとする。私に敵意を向ける。私が存在することを拒む。あの人にも…………」
ヒナコは諦めたような顔で、憎悪のこもった顔で、燃えるような目で語る。そこには大人しめな少女の姿などなく、
「……まあ、人ってのは自分と違うものを嫌い、畏れ、排除しようとするもんだ。自分より強大なものが怖いから」
それはどうしようもない。やめろ、と言ったところでこれは個人の問題ではないのだ。大勢が集まる人間という集団だからこそ起きること。なくすことはできない。
…………ただ。
「考えが硬い!」
「…………は?」
キョトンとした顔でヒナコがこちらを見る。まったく、何なんだこいつは!
「例えば!明るく元気な田中さんが居たとして!そしたら全国の田中さんは明るく元気なのか!?」
「ちょ、え。何の話……?」
「否!そうじゃないだろ!暗くてシャイな田中さんもいれば綺麗な田中さんもカッコいい田中さんも可愛い田中さんもいる!それが人ってもんだ!」
「………………」
「確かにお前が今まで見てきた人間はそうだったのかもな。でもな、全部が全部そうだとは限らないんだよ。嫌いな奴がいたっていい。嫌いな奴ばっかりでもいい。嫌いな奴しかいなくてもいい。でもな、人間そのものを嫌いになっちゃダメだ。まだお前が見てない、接してないもんに勝手に評価下してんじゃねえよ」
「そんなの、綺麗事じゃ…………‼︎」
「少なくとも僕は違う!」
「……!」
彼女の目を、見据える。
「別に好きになれとも言ってねえよ。嫌うのをやめろとも。ただ知りもしないもんを勝手に決めつけてるんじゃねえよって言ってるんだ。そうやって人間そのものを嫌って、憎んで、警戒してたら疲れるだろ?色々と。だからお前はそんな諦めたみたいな顔してるんだろ」
ヒナコに何があったかは、知らない。
でも、知らないからこそ言えることってのもある。
「上手く付き合っていけよ。嫌い続けるってのもエネルギー使うぜ?テキトーで良いんだよテキトーで。なんか目標があるからカルデアにいるんだろ?だったらそれにエネルギー使え。余計なこと悩んでるよりよっぽどマシだよ」
「でも、私は…………」
「だから好きにならなくてもいいんだって。ただ嫌いかどうかは接して、知ってから決めるんだ。愛想よくしなくたっていい。適当に気楽にやっとけ。僕みたいにな」
「…………そうね。私には、目標がある。何をもってしても叶えたい願いが」
彼女は一呼吸おいて、口を開く。
「それに、エドワードみたいなのもいるって、わかったし……」
その頰は赤らんでいて、目線は僕ではないどこかに向けられている。あらやだ、初心で可愛い。
「…………もしかしたら、違うかもな」
「?何の話をしているの」
「最初の質問。もしかしたら違うかもなって」
「ああ。それは……どうして?」
どうして————か。
「
「エドワード、貴方いったい…………」
「いやごめん。カッコつけたくてテキトーなこと言った。僕も人間とは違う部分あるぜアピールしとけば好感度上がるかなと思って」
でも転生って大体が神のせいだし。ワンチャンあるんじゃね。知らんけど。
「はぁ…………。なんだかエドワードを見てると色々バカらしくなってきたわ」
「ん、何かそれ今後たくさん言われそうな予感」
「ふふっ。……なにそれ」
「まあ、僕もAチーム入ることになったから。今後よろしく」
「そうなの?じゃあ、よろしく」
そう言って、笑う彼女は。
自分で美人を名乗っても、名前に美人が入っていても、大丈夫なくらい綺麗だった。
おまけ
「……どしたの急に。こんな時間に通信なんて。くっそ眠いんだけど」
『エドワード、報告があるわ。実はさっき始皇帝のところから帰る途中で項羽様と会って—————』
「ほーん」
『そしたら項羽様が————』
「なるほどなるほど」
『次に項羽様に————』
「おいおいマジかよ……」
『なんと項羽様の————』
「そいつぁあすげえや」
『今度は項羽様を————』
「で、蘭陵王いる?簡潔に言うと何があったの?」
『はい。マスターが項羽殿とすれ違い、その際に二、三言葉を交わしておられました』
「それをよくこんな長いストーリーにできるな…………」
『聴いてる?エドワード。そしたら項羽様が瞼を閉じ瞬きなさったのだけど、その次に呼吸をなさって————』
「え、そこまで聞かなきゃなの?今何時かわかってる?これ朝まで付き合わなきゃなの?」
『エドワード殿。御武運を』
蘭陵王の言葉がいやによく聞こえてきた。どうやら恋する乙女ってのはとてつもない生き物らしい。イケメンゆえの経験からくる同情が多分に含まれた声だった。
虞美人欲しくて回したら始皇帝きました。嬉しいけど……!お前じゃないんだよ……!
もちろん自分はヒナコが真祖もどきで人間嫌いだということは初めからわかっていましたよ?当然です。うん。あんなに人間恨んでることも分かった上で会話させてましたよ?
前の話と矛盾しないように書くの大変だった……!まあこれも二次創作の良さということで。
急いで書いたので地の文とか付け足して修正するかもです。