オレでなきゃ見逃しちゃうね
スルトは状況を理解できなかった。何故自分が飛ばされたのか、何故自分が倒れヒトが立っているのか。何故、倒れてもなお圧倒的に巨大なはずの自分が、ヒト如きに。
『オ、オオオォオオおおおおおオオオ!!』
激昂。スルトの頭の中は激しい怒り、それのみに支配されていた。
忌々しい、オフェリアに纒わり付く蟲が俺を見下すだと!?
それはナポレオンに対する苛立ちなど及ばないほどの怒り。その叫びは大気を震わせた。
「な……、信じられないスピードで再生してる!もう動き出すなんて!」
『どうやら膨大な魔力を全て再生に回しているらしい。すぐに立ち上がってくるぞ。どうする?ミスター・エヴァンズ』
カルデアのマスター、藤丸立香の言葉に反応したのはかの名探偵、シャーロック・ホームズ。レオナルド・ダ・ヴィンチと並ぶシャドウボーダーの頭脳だ。
「ふん。勘違いするなよ、ルーラー。俺は決してお前達の仲間になったつもりはない。オフェリアを助ける過程でお前達と同じ相手を敵としただけだ。精々私の邪魔はしないことだな」
それに応えるのはクリプターの一員であり、この場において最も異質な存在であるエドワード・エヴァンズ。シャーロック・ホームズはその会話で彼の真意を読み取ろうとしていた。そしてそれは彼に限った話ではなく、この場の大多数が突如現れた人物に警戒の念を抱いていた。
「いや、貴方普段はそんな話し方しないじゃない」
「それに一人称も俺なのか私なのかはっきりしませんね」
ほんの一部を除いて。
………………オフェリアはともかく、マシュもなかなか言うようになったじゃないか。成長かなこれも。はい、違いますね。
いや、だってねえ。僕の目指す理想はベ〇ータだぞ。そう簡単にデレるとは思わないでほしい。あくまでも最初は「俺はアイツを信用した訳ではないからな」とかサブキャラに言われつつ共闘するキャラである。
という訳で。
「別に仲間になったわけじゃないからな!取り敢えずスルトを倒すまで協力するだけだからな!」
よし、ここまでしっかり釘を刺せば変な勘違いはされないだろう。何故か向けられる視線が少し変な気もするが気のせいだ。多分。
なんて、そこから藤丸立香くんとお互い自己紹介をしていたらいつの間にかスルトが立ち上がっていた。
『巫山戯るな……!エドワード・エヴァンズ、貴様だけは!』
「随分恨まれてますね、何かしたの?」
「うーん、何も。強いて言えばさっき殴り飛ばしたくらい?」
「そう言えばどうやったの?あれ」
「めっちゃたくさんの神様の力で殴った」
「え、そんなのあるんですか?」
「あるっていうか借りたって感じ?譲ってもらった?的な?」
「へぇ、凄いですね!それ」
「だろ?実は凄いんだよ僕」
「あの、すいません、マスター!エドワードさん!お話している場合ではないかと思うのですが!」
「あ、ごめんマシュ」
「いやー、マシュも随分元気になったなあ」
「エドワードさん!そろそろ真面目になってください!怒りますよ!」
「もう怒ってるじゃん…………」
年下に怒られた…………。ちょっとヘコむ。特にオフェリアのなんかよくわからん生暖かい視線がむず痒い。どういう視線?それ。
ま、確かにそろそろ真面目にやんないとな。正直あのデカブツにはかなりムカついているので本気でいかせてもらおう。
「じゃあ早速。スルトを倒すにはここの皆、特にシグルドの協力が不可欠だ。敵同士ではあるけど一旦信じてもらいたい。今だけでいいからさ」
「…………しかし」
「お願い、シグルド。彼のことは私が保証するわ。だから、今だけでも彼に協力してあげて」
「……了解した。マスターの言葉を信じよう」
最初は困惑していたシグルドもオフェリアの説得によりなんとかなったようだ。よし、これなら。
「まずシグルドには僕のありったけの魔力を
「貴方のサーヴァントって…………」
「ああ、出番だぜ。セイバー」
そう告げた瞬間、僕の隣にサーヴァントが現れる。共に多くの試練(という名の神様の暇つぶし)を乗り越えた相棒、スサノオ。
いや、マジで絆深まったよ。多分絆レベル8くらいある。そろそろ9になる8。ゲージは割と溜まってるのに数値見たらあと16万とかそんな感じ。
「ようやく出番かよマスター、待ちくたびれたぜ」
宝具である剣を肩に乗せ、不敵な笑みを向けるスサノオ。準備は万端って訳か。
これで役者は揃った。
さあ、ここからが第2ラウンドだ。
『………………………………』
「どうした?急に黙りこくって。やっとオフェリアのこと諦めたのか?」
『否。貴様だけは焼き尽くす。俺の炎はもはや誰だろうと止めることはできぬ。確実に、二度と。先刻のようなことは起きぬ。ここで貴様を────────殺す!!』
こちらが準備を進めている間、当然スルトも準備をしていた。自らの宝具を、全力を叩き込む準備を。
スルトが剣を掲げる。その剣は太陽の如く輝き、地上では決して存在し得ない温度を発していた。
『『
繰り出されるは星が生み出した神造兵装。命あるものであれば神をも殺す終末装置。星を燃やし尽くす炎の剣が今、振り下ろされた。
「まあ当然、宝具を撃つよな。だからもう一度頼むぜ皆」
僕がそう呟くと横にあるサーヴァントが現れる。
「貴方のことを信用したわけじゃないけど、そんなこと言ってる場合でもないしね!お願い、バーサーカー!」
神霊を複合したハイ・サーヴァントにして疑似サーヴァントでもあるシトナイ。その依り代の縁を利用したバーサーカーの召喚だ。
鋼鉄の如き肉体を持つそのバーサーカーが、スルトの宝具を受け止めた。
更にはワルキューレ────オルトリンデによる白鳥礼装の補助。スカサハ=スカディによる神鉄の盾の多数同時顕現。ブリュンヒルデ、シグルドによるルーンの防御付与。スルトの宝具解放、その一度目と同じ状況が再び訪れていた。
────だが。
『無駄だ。二度目はない。この一撃は俺の怒りを、魔力を全て込めた。
一度目とは異なる宝具の威力。まさしく巨人王の全力の一撃は絶大な破壊力を誇っていた。
「そう。────────一回目とは違う。
『────────ばかな、これは……!』
拮抗。炎の剣はこれ以上進まず、防御は決して崩れない。
「僕が魔力を流し込んでるんだ。とっておきの『貯金』まで使ってな。転生特典舐めんな」
『これは…………!スルトの宝具もそうだが、こちらの防御も魔力量が段違いだ!まさか、これを
ロリダ・ヴィンチちゃんが興奮しているが、今は抑えて欲しいものだ。そして、これで終わりじゃない。
「頼む、立香!マシュ!」
「ああ!皆頑張ってるんだ。俺だって見ているだけじゃない!マシュ、宝具を!」
「了解です、マスター!…………
マシュの宝具も加わり、剣の動きは完全に止まった。スルトの宝具はもう進まない。
「よし、思いっきりやれ!セイバー!」
僕がそう叫んだ瞬間、『待て』をされていた犬のようにスサノオが飛び出す。やっぱあいつ戦闘狂だろ。
「やっとだな。久しぶりに全力でいくぜ、踏ん張れよマスター。断ち切れ────────『
宝具、草薙剣による使用者の周囲半径3kmの強制切断。それを縦に振るえば。目視では高さを確認できないほどの巨人王だろうと。
「真っ二つだ」
真っ直ぐとスルトの身体に走った亀裂は止まることなく、やがて完全に両断した。
『ばかな、ばかな、ばかな!この俺が!ヒト如きに!英霊如きに!』
だが、両断されてもなおその再生能力によって傷を塞ごうとするスルト。しかし、そんな時間を与えてやる理由はない。
「あとは頼むぜ、二人とも」
「ええ────ありがとう、エドワード。……シグルド、今度こそ。あの巨人を────切り裂いて」
「了解した、マスター。魔剣起動、魔剣解放、魔剣完了。絶技用意。太陽の魔剣よ、その身で破壊を引き起こせ!────────『
そして、遂に。一筋の閃光がスルトを穿いた。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!オフェリアァアアアアアアア!!!何故だ!俺は!この俺が、ヒト如きに!エドワード・エヴァンズ!貴様如きに!!』
悪竜を滅ぼす一撃を受けてなお耐えるスルトに向かって、僕は地面を踏み抜いた。
「最後に二つ、教えといてやる」
僕はスルトの正面に舞う。遥か上空、巨人の顔の正面に。
「まず一つ、僕にはあらゆるもの────山や海、大気や風、自然全てに宿る八百万の神がついてる。与えられた加護なんかじゃない。
強く拳を握りしめ魔力を溜める。これで全て終わらせるために。
「そして二つ目だが────────」
限界まで引き絞られた腕を、全力で振り抜く。
「しつこい男は嫌われるぜ」
衝撃、轟音。そして爆風とともに、炎の巨人王は完全に消滅した。後には何も、残っていない。
「…………ったく。不器用すぎるよ、お前」
「という訳で、オフェリアは連れ去ります」
「「「えぇ!?」」」
皆ビックリしてる。そんなに驚くこと?
「よっ、と」
「え、きゃっ!ちょ、ちょっと!エドワード…………!」
周りが驚いている間にオフェリアを担ぐ。最初は肩に担ごうかと思ったが、それだとあまりにもあんまりなのでいわゆるお姫様抱っこだ。
「異聞帯やら空想樹やらはそっちでどうにでもしてくれ。僕が来ず、オフェリアが
「ちょ、何その理論!オフェリアさんも何とか言ってよ!」
「────────ぇ?にゃに?」
「ダメだこの人!」
「元気だなあ立香は。ま、オフェリアの怪我も治さなきゃだし急ぐよ。じゃあな」
そう言って僕は自らの異聞帯に帰る。ルー〇ラ的な。何も伏せれてねえなこれだと。
「ホントにいなくなった!」
立香の声が最後に聞こえてきた気がするが、まあ今はどうでもいいだろう。さらば北欧、ゲッテルデメルング!(キメ顔)
「────────ん、ここ、は……?」
「お、目が覚めたか」
日本の異聞帯、高天原にて。僕のために与えられた部屋で眠っていたオフェリアが目を覚まし体を起こした。
「エドワード…………、私────────」
「目も、脳も治してもらった。これでもう心配はない。…………ただ、悪い。魔眼は元通りに出来なかった。僕が来るのが遅かったせいだ。ごめん」
そう、ここに来てすぐにオフェリアの怪我は治してもらったのだが、魔眼はどうにもならなかった。神様にもできないことはあるらしい。それを伝えるとオフェリアは静かに────そう、と一言呟いた。
「いえ。もう良いの。そんなことより────ありがとう。エドワード」
彼女も自分なりに考えがあるのだろう。魔眼のことは気にした様子もなく、柔らかい笑顔でお礼を言ってきた。
「────────そうか。なら、良かったよ」
この笑顔を守れて良かったと、心から思う。
「ところで、ここは何処なの?」
「ん?ああ。僕の担当してる異聞帯だよ。今は部屋、っていうか家?貰ってるからさ、そこに来てる」
「へぇ、ここが貴方の異聞帯…………って、部屋?」
「うん、僕の部屋」
「じゃあ、このベッドも?」
「うん。作ってもらった僕のベッド」
「そ、そうなの…………。そう、なるほど。そうなのね……」
急に枕をぎゅっと抱き寄せ顔をうずめるオフェリア。疲れててベッドとか久しぶりだったのかな?
「そういえば、その。良かったの?あんなことして」
「あんなこと?」
「私の異聞帯まで来て、カルデアと協力したことよ。貴方までキリシュタリア様や他の皆、異星の神にも目を付けられたかもしれないわ。最悪ここの空想樹や貴方の大令呪が奪われるかも────────」
「ああ、それならもう無いよ?てかバレてないし」
「────────え?」
「ああ、言ってなかったけどオフェリアの大令呪も取っといたぜ。今オフェリアが持ってるのはただの巨大な魔力の塊。使っても死ぬことはないからいつでも使っていいよ」
「いえ、そのことはどうでも……よくはないけれども。貴方さっきなんて言ったの?
「うん。そっちでもあったでしょ、なんか変な種子が襲ってくること。あんなん起きたら嫌だし伐採した。スパッと」
「そ、そんなこと!だって空想樹がないと異聞帯の維持は────。それに、そんなことしたら異星の神にだって!」
「だから異聞帯の王たちで維持してるんだよ。それに魔術で監視の目は誤魔化してる。異星の神も他のクリプターもコヤンスカヤだってこの異聞帯の真の姿は誰も知らない。北欧での出来事もだ。今頃オフェリアは大令呪を使って死んだことにでもなってるんじゃないか?」
「…………………………!」
開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろうか。おーい、オフェリアさん?もしもし?
「エドワード…………貴方無茶苦茶だわ」
「前からそうだろ?」
僕は呆れるオフェリアにそう笑いかけた。二度目の人生ではっちゃけてる奴が常識に囚われると思うなよ!
「ふふっ。そうね、貴方は以前からそうだったわ。私がいないとすぐに変なことするんだから」
変なこととは心外な。一体いつ僕がそんなことやったんだ。いつもですかね。
ふと、良いことを思いついた。オフェリアにも知っていて欲しいしな。
「そうだ、落ち着いたらここを案内してやるよ。きっと色々驚くぜ?」
翌日、予想通りいちいちリアクションをしてくれるオフェリアをからかいつつ、この異聞帯を一緒に歩き回った。ずっと驚いてて実に面白かったです。
まあ、久しぶりに会った酒呑ちゃんがイチャついてきたところを見られ、説教されたのはまた別の話ということで。
インドの異聞帯がめっさ楽しみ。早くこいストーリー!