幕間の物語的なやつです。
「なあ、カドック。なんかないの?」
「……なんかって、なんだよ」
「なんでもいいから暇潰せるやつだよ。お前の部屋魔術だとか神話だとかの堅っ苦しいやつばっかでつまんないんだよね」
「じゃあなんで僕の部屋に来るんだ。僕は才能のあるエドと違って忙しいんだよ」
そう言って、Aチームのメンバーである彼、カドック・ゼムルプスは僕から目をそらす。机の上にはなにやら書類が置いてあり、彼はそれを熱心に見ている。
「いや、才能て。Aチームで一番成績が悪い僕を馬鹿にしてんの?」
「なのに戦闘訓練であれだけの結果を残してるからだ。エドも少しは勉強したらどうなんだ?」
「勉強?それ人理修復の役に立つの?めんどいし。お前もよくやるよな、ほんと」
いや、わりとマジでめんどくさい。魔術関係の勉強は歴史やら文化やら古典やら絡んできて本当に難しいのだ。あんなん誰がやるかっての。
そんなことを考えているとカドックがこちらを見てくる。なんだその目。あれだ、ジト目ってやつ。
「さっきも言ったけど、Aチームの奴らはお前含め化物ばっかだ。そこに凡人である僕が入っていくには奴ら以上の努力が必要なんだよ。才能の差を埋めるには効率化した努力を続けていくしかないんだ」
「……努力、ねぇ」
たしかに努力は大事だ。僕がここまで戦闘を得意とするようになれたのはひたすら死にたくない一心で努力をしたからだし、彼もその努力によってAチーム入りを果たしている。
「でもさ、息抜きも大事だぜ?努力と同じかそれ以上に。お前なんか趣味とかないの?」
「……趣味、か」
僕がそう言うと彼は少し考え込む。しばらくすると控えめに口を開いた。
「強いて言うなら、ロックだな。ああいったのを聞くのは好きだよ」
え、ロック?まじ?意外。
「なんだその顔は。僕だって音楽くらい聞くさ」
「いや、そりゃ音楽は聞くだろうけど。ロックってのは意外だったわ。魔術師ってのはこう、クラシックしか認めない!みたいな感じかと」
「そこまでの奴だったらカルデアになんて来ないだろ」
「たしかに。てか何聞くの?アジカン?ウーバーとか?」
「あじかん?うーばー?なんだそれ。有名なやつだとボン・ジョビとかクイーンだよ。そのくらい知ってるだろ?」
「え?まあ、うん。知ってるけど……」
つい日本感覚で話してしまった。まじか、アジカンもウーバーも知らないのか。てかどっからどこまでがロックなのかよくわからんけど。
「いや、でもカドックにも人並みの趣味があって安心したよ。サイボーグみたいな生活してんのかと思ってたからさ」
「僕をなんだと思ってるんだ」
「さっきサイボーグって言ったじゃん」
「…………」
やめて!なんだこいつ……。みたいな目で見ないで!
「ていうか、いい加減出ていけよ。いつまで僕の部屋にいるんだ」
「いや、つい暇で。……でも、もう暇じゃなくなった」
「?」
「前々から思っていたがお前は娯楽を知らなすぎる。このエドワード・エヴァンズが真の息抜きというものを教えてやるよ」
「いや、いい。帰れ」
即答。だが…………。
「いいのか?僕の部屋に来ればエロ本いっぱいあるぞ?もちろん、お前の好きなジャンルの新作もある。だが今来なきゃお前には貸さない。二度とな」
ちなみにこいつが好きなジャンルは悪戯好きのクール系皇女様とかいうニッチすぎるジャンルである。入手に苦労するぜ。だが日本にはある。何故なら日本だから。
「……チッ。いいよ、行くさ。行けばいいんだろ」
チョロい。童貞チョロい。
「よし、じゃあ僕の部屋へ行こう。勉強道具は持ってくるなよ?これは息抜きなんだからな」
ふっふっふ。こと娯楽において日本の右に出る国はないと言ってもいい。このクソ真面目に新しい世界を教えてやるぜ。
「クソっ!もう1回だ!」
「よかろう。何度でもかかってくるがいい」
あれから1時間後、僕たちは大乱闘して相手をスマッシュするゲームをやっていた。
「というか、どうして勝てないんだ……!操作は一通り覚えたっていうのに」
「くぐってきた修羅場の数が違うのだよ。初心者には負けんさ」
「いや、ある程度パターンは読めてきた。次は勝つ…!」
「ふっ。やってみるがいい」
速攻でボコしてやった。
その後も————。
「なんでさっき投げた甲羅が効いていないんだ!」
「いや、バナナ常に後ろに置いとくのは普通だから」
「おい、なんで僕だけこんな借金が増えるんだ。それにうんこも大量についてるし」
「さあ?まあでもお前運なさそうだもんなあ」
「このコードで戦闘ヘリが呼び出せるんだよ。あと一定時間無敵とか殴ったら爆発するとかもあるな」
「……取り敢えずあの車盗むか」
「…………ん、もうこんな時間か」
ふと時計を見ると時刻は夜9時。カドックとゲームをやっている内に随分と時間が経ったらしい。
「おい、カドック。食堂行こうぜ。いつの間にかもうみんな食べ終わってる時間だよ」
「……そうだな、僕も腹が減った」
そう言ってコントローラーを置くカドック。そうなるようにしたとはいえ、随分とハマったな。
「どうだった?ゲームってのも案外悪くないもんだろ?」
「…………まあな。息抜きくらいにはやってもいいかもしれない」
微妙に素直じゃねえなこいつ。
その後、食堂でお腹を満たした僕たちは再び僕の部屋の前に来ていた。
「ほい。約束のエロ本」
「……これが新刊か」
「ちゃんと返せよ。エロ本って安くはないんだから」
「わかってるさ。僕が一度でも返さなかったことがあるか?」
ないな。ていうか君エロ本借りすぎでしょ。別にいいんだけど。
そうやって僕たちが裏の取引をしていると————。
「…………その手に持っているものは、何?」
急にかけられた声に反応し振り向くと、そこにはAチームのメンバーであるオフェリア・ファムルソローネと芥ヒナコの二人がいた。
「え?これ?いや実はカドックに魔術について教えてもらおうと思って——って、いねえ!いつの間に!」
僕の隣にいたはずのカドックが気がつかない内にいなくなっていた。隠れやがったな、あいつ!
「……ふーん、魔術?私にはそうは見えないけど」
ヒナコが汚物を見るような目で僕を見てくる。いや、違うんだって。マジで。
「前々から思っていたけれど、貴方は……その、性に奔放というか、オープンすぎるわ。スタッフの子に手を出してる、なんて噂も聞くし」
そう言って、オフェリアが顔を赤らめながらこちらを睨む。やだ、この子意外と初心なのね。
「いや、そりゃ可愛い女の子がいたら手を出す————」
喋っている途中で頭に衝撃が走る。痛っ。え、普通に殴られたんだけど。
「来て。貴方には魔術師としての心構えから教えてあげる。そうすれば少しはマシになると思うけど」
「え、ちょ。やだやだ。お前の話長いし。いや、引っ張らないで!あとヒナコも僕の足を踏むな!普通に痛いから、まじで」
え、なにこの鈍感系ハーレム主人公みたいな展開。まさか二人とも僕のことを……?いや、ないですね。だって凄い怖い顔してるもん。女の子って怖い。
その後、オフェリアに約2時間ほど説教された。足が痺れた…………。途中からヒナコですら飽きて本読んでたからね。なんなのあの子。
ちなみに後日カドックをしばいて例のエロ本は貸しておいた。あの根暗童貞一人だけ逃げやがって。
おまけ
『……なあ』
「ん、どーした」
『
「…………わかる」
『いや、別に暇ではないんだ。空想樹の安定なんかで忙しいんだが……、こう、少し休憩しようって時にやることがなさすぎる』
「いやもう、めっちゃわかる。ゲームとかないし。一応スマホ持ってんだけどネット繋がらないしな」
『こっちにもネットなんてないな。というか娯楽が一切ない。全然そういう歴史じゃない』
「だよなあ。…………てかさ、ロシアってエロ本とかあんの?」
『汎人類史の方はあるだろうけどな、こっちにはないよ』
「まあそうだよなあ。スマホでも見れないし。そりゃ汎人類史に負けるわ。スケベ心を忘れた者に勝利は訪れないんだ」
『酷い言い様だな……』
「てかさ、ふと思い出したんだけど。だいぶ前に貸した悪戯好きクール系皇女様のエロ本って返してもらったっけ?」
『あれなら確か返した気が———って、アナスタシア⁉︎』
「え、なに、皇女様いるの?」
『ち、違う……!これは君とは関係なくて——いや、冷たい!魔力が溢れてる!凍る、このままだと凍る……!』
「…………」
カドックの情けない叫び声が聞こえたところで僕は通信を切った。どうやら自分が召喚したサーヴァントとは上手くやっているらしい。よきかなよきかな。
…………強く生きろ、カドック。
その2はオフェリアを予定しています。オフェリアの口調わからん……。あと早く第3異聞帯の更新こい……!