「よう、ぺぺ。隣いいか?」
「あら。おはよう、エド。もちろんいいわよ?」
とある日の朝、めずらしく早めに目が覚めたので食堂へ行くと随分と混んでいた。
普段は寝坊してばかりなので人があまりいないのだが普通の時間に来るとこんなに混んでいるのかと少し驚いた。やっぱ早起きなんてなんの得にもならんな、うん。
そんなことを考えているとAチームマスターの一人であるスカンジナビア・ペペロンチーノの左隣が空いていたので許可をとって失礼する。トレーを置いてから顔を上げるとぺぺの正面には同じくAチームマスターであるオフェリア・ファムルソローネが座っていた。
「ん、オフェリア。おはよ」
「……おはようございます。エドワード・エヴァンズ」
…………なぜフルネーム?
「オフェリア、アナタ随分とエドに無愛想ね。もしかして二人の間に何かあったの?」
「別に何もないわよ。……ただ、あまり話したこともないし」
「あれ、そうだっけ?オフェリアみたいな美人さんに話しかけてなかったなんて男として失格だな、僕は」
「………………」
「あらやだ、私の前で堂々と別の女を口説くなんて。エドったらいけずね」
ついつい思ったことを言ったらオフェリアからは冷たい視線が、ぺぺからは熱い視線が送られてきた。
……ちょ、冗談でもやめて。僕にそっちの気はないんだ。
「……ごちそうさま」
そう言ってオフェリアが席を立つ。もう食べ終わったのか?
「あれ、もう行くの?」
「ええ、私は貴方と違って忙しいから。エドワード・エヴァンズ。貴方もAチームから落とされたくなかったらもう少し真面目に生活することね」
そう僕に告げると彼女はさっさとどっか行ってしまった。
「……僕、嫌われてる?」
「さあ?でもあの子、真面目だから。アナタの雰囲気が気に入らなかったんじゃないの?」
「お、おう……。なかなかはっきり言うね……」
たしかに、まだ先の話になるが彼女が恋心を抱くのはあの堅物クソ真面目くんであるキリシュタリア・ヴォーダイムだ。僕とは真逆のタイプと言ってもいいだろう。だからってあんなに冷たくしなくてもいいのに…………。
たまたま会ったことだし仲良くしようと思ったのだが随分と嫌われてしまった。なんだか告白してもいないのにフラれた気分だ。
どうやら、早起きしたって得にはならないらしい。
別の日、シミュレータによる戦闘訓練を終えると、マスター候補の集団の中からオフェリアが抜け出て話しかけてきた。その顔つきは随分と険しい。
「貴方、どうして本気を出さないの?」
「……ん?なんの話?」
「惚けないで。さっきの戦闘訓練、いえ。今までのも。貴方、本気を出していないでしょ」
「え?いやいや、ちゃんとやってるって。真面目にさ」
「私にはそうは見えない。……貴方も、魔術師の家を継ぐ者として自覚を持った行動をとるべきよ」
「えぇ……。いや、てか何で僕の家のことなんて知ってんの?」
「時計塔でも貴方のことは噂になっていたわ。それにエヴァンズ家はそれなりに代を重ねている家でしょう。それくらい知ってるわ」
「へー、うちってそんな有名なんだ。初耳」
「っ。貴方は……」
オフェリアは顔をしかめて何かを言いたそうにしていたが踵を返し去っていった。なんなのあの子、僕のこと嫌いすぎでしょ。
にしてもなーんかピリピリしてるなあ。僕は第2部が始まってからの彼女しか知らないからなんとも言えないけど、あんなんだったっけ?スマホ越しに見るのとじゃあ印象が違う的なあれか?
なるべくAチームのメンバーとは仲良くしたいがどうやら難しそうだ。
またまた別の日の深夜、僕は一人でシミュレータを使い戦闘訓練をしていた。
いつだかのオフェリアに言われた通り、僕は普段の訓練では本気を出していない。自分の本気をあまり見られたくないのだ。
目の前にはゴーレムやらゾンビやらの
結構な力を込めたので風圧でまとめて数体が吹き飛ぶ。それでも近づいてきたエネミーを今度は蹴りで吹き飛ばす。
これが僕の戦闘方法。理論もへったくれもない、その膨大な魔力量に任せた超接近戦である。
なんて説明すればいいか、僕の体には魔力をストックできるスペースのようなものがあるのだ。
僕はこれを勝手に前世の魂と呼んでいる。
おそらく、僕の体には今世の魂と前世の魂の二つがある。そしてそのうちの一つ、前世の魂はいわゆる使われていない状態、空っぽなのだ。
そこに常に魔力を貯めまくってる僕は、もともとかなり多かった魔力量がさらにとんでもないことになっている。そのため魔力放出やら身体強化やらをサーヴァントレベルで扱えるのだ。と思う、多分。
まあ、理論はどうでもいい。
だが、こんなサーヴァントみたいな動きあまり見せたくないのでこうして深夜にコソコソ鍛錬しているのだ。
そろそろ疲れたので訓練を切り上げシミュレータを切ると、そこには口をぽかんと開けアホ面を晒すオフェリアの姿があった。
「あー……もしかして、見てた?」
何も言わない彼女にそう問いかけるとコクリと頷く。いや、なんか言ってくれ。
しばらくするとハッとしたように口を開くオフェリア。
「えと、シミュレータの無断使用は禁止されているはずだけど……」
「え?あ、ああ。オルガマリー所長とダ・ヴィンチちゃんに許可もらってるんだよ、特別に」
「そ、そう……」
そして再び訪れる沈黙。なんだこれ、付き合いたてのカップルかよ。
しばらく何を言おうか迷っていると、彼女が真剣な表情で口を開いた。
「貴方は、どうしてそれだけの才能を持っていながら、それを活かさないの?貴方が魔術について真面目に学べば家に貢献することだって、根源に近づくことだってできるかもしれないのに…………」
……そういえば、彼女は家のことで悩んでいるんだったか。名門であるファムルソローネ家に恥じないように、両親の期待に応えられるように、そうやって育ってきた彼女からしたら、僕のように不真面目な輩が気に入らなかったのだろう。
けど、そんなことか。そんなの……簡単だ。
「僕が、やりたくなかったからだよ」
「やりたく、なかったから……?」
「ああ。家のことも、根源とやらも、僕は興味がなかった。だからやらなかった、そんだけさ」
「そんな、無責任なこと……!」
「できない、って?まあ、たしかにそうかもな。普通はそういうもんだ」
でも、人生にはもっと大事なものがあるんだ。それが、僕は二週目でようやくわかった。だから、やりたいことをやってる。死なないように。後悔しないように。
「でもさ、自分の人生ってのは自分のもんだぜ?色々あるけどさ、結局のところ一番大事なのは自分が何やりたいかだ。オフェリアはさ、色々見過ぎなんだよ。たまには自分のこと見つめてみたら?」
「自分の、やりたいこと……」
「そ。止まってばっかじゃ見えないこともあるもんさ。たまには一歩踏み出してみないとな。そしたらなんか見つかるかもだし」
彼女は少し背負いすぎだ。見てるこっちが堅苦しくなってくる。せっかく可愛いんだからもうちょっと女の子っぽく笑えばいいのに。
「踏み出す、ね……」
「どう?なんかのヒントになったなら幸いだけど」
「——ええ。なんだか、少し気が楽になったわ。ありがとう、エドワード」
そう言って、オフェリアは少し笑った。
……おお。
「やっぱそっちの方が可愛いよ。笑ってる方が僕は好きだ」
「…………」
素直な感想を述べると何故か睨まれた。あれ、今けっこういい感じだったのにどうした?
「ていうか今エドワードって呼んだ?この前までフルネームで呼んでたのに」
「え?本当?気づかなかった」
「雰囲気も柔らかくなったし、このまま色んな人と仲良くなってみようぜ。オフェリアって友達少ないでしょ。てかぺぺくらいしかいないんじゃない?」
「なっ!!そんなことは…………な…い、と、思う…」
あれ、やっぱそうなの?悲しい事実が発覚してしまった。そういえば作中でも芥ヒナコとは関わりがなかったうえにマシュと友達になろうって言えてなかった気がする。
「ちょっと、可哀想な子を見る目で見ないで」
「いや、なら好都合だ。明日はヒナコとマシュに話しかけよう。他にもロマンや所長、ダヴィンチちゃんなんかも良いかもな。キリシュタリアはまだ難易度高いか…?」
「えっ?いきなりそんなに……嫌がられないかしら」
「このコミュ障め!いいからやるぞ!とりあえず明日の朝に食堂で話しかけるんだ。友達が増えると楽しいことも増えるし愚痴も言える。普通はオフェリアくらいの年頃の子は親の文句とか言うもんなんだよ」
「……色々と、考えが堅かったのはわかったわ。でも、貴方はそれでも不真面目すぎる。目も覚めちゃったし少し魔術について教えてあげる。来なさい」
「え、いや、それは別にいいかなーみたいな」
「私には色々させるのに自分は何も変わらないつもり?」
う、そう言われると断りづらい。
「わかった。多少は学んでみるよ……」
「ふふっ。よろしい」
僕がめんどくさそうに了承すると、彼女は上機嫌そうに笑った。
随分と嬉しそうですね…………。
おまけ
「なあ、キリシュタリアに告白しなくていいのか?」
『……はあ?』
「あ、僕には隠さなくていいぞ?クリプターになってから急に様なんてつけちゃってるし、なんかあったんだろ?」
『それは……そうだけど、キリシュタリア様に抱いている感情は尊敬と憧れよ。貴方の言うような気持ちはないわ』
「またまたぁ。初めてだからよくわかんないんだろ?経験豊富なこのエドワード・エヴァンズが教えてやるって」
たしかオフェリアは恋心を下賎なものだと思っているはずだ。まずはその思い込みを正してやらないと。
『だから……、っはあ…。本当、何でこんな人…………』
「ん?なに、なんか言った?」
『いえ。それよりエドワード。貴方クリプターとしての仕事はちゃんとしてる?
「ちょ、え、何?なんて?」
『どうせ真面目にしてないでしょ?本当、私がいないとちゃんとしないんだから……』
オフェリアのため息が聞こえてくる。若干嬉しそうなのは気のせいだろう。呆れられているんだろうし。なんだろう、とても残念な男扱いされてる気がする。
その後、オフェリアの
FGOが早くストーリーを更新してくれないと迂闊なこと書けない。