月明かりが路地を照らしていた。
コツリコツリとヒールが劣化したアスファルトを叩く音がよく響く。
「メリー、今日はどんな境界を暴くのかしら」
「さてさて、どうしましょうかねえ」
端末を手に、二人で夜の街を歩く。
金髪の少女は黒髪の少女の問いに対して目を見開いた。
それは、本来であれば見えないもの。
ほんのちょっぴり歪んだそれらに焦点を合わせていく。
今日も、瞳の調子は絶好調である。
「あの路地裏、何かあるかも」
「雰囲気があっていいわね」
ここに在るという、どこまでも連続した現実感。
それらに混ざり溶け込んだ、境界があって。
好奇心に引かれるようにして暗闇を往く。
「蓮子、その写真の場所は間違いないのよね?」
「夜空が映ってるのよ?私ほどの頭脳が間違いを犯す訳無い。そうでしょう?」
「間違いを犯さないのは何もしない者だけだろうと、私は思うわけ。謙虚に想定外も考えてよね」
「それを言うなら我々の性格は、我々の行動の結果なりってね。この傲慢さも、私の完璧さが産んだものなり」
「アリストテレスにビンタされるといいわ」
「普通に痛そうね……そういえば古代ギリシアの不可思議オカルティックな記事をこの前見つけたのよ!」
ワイワイと楽しそうに、二人で現の世界を歩む。
境界を暴き、隠されたものにこそ神秘を見出した少女達。
そんな、黒髪の少女の知性的な黒い瞳には。
そんな、金髪の少女の幻想的な金の瞳には。
●
現の世界から忘れられ、拒絶され、失われた者達の楽園、幻想郷。
自然豊かで、どこまでも現実的では無い素敵な素敵な地。
そんな幻想郷の僻地。
汗滲むような蒸し暑さを感じる地底の底で。
「……?」
紫髪の少女が椅子に座り、呆然としていた。
古明地さとりという名を持つその妖怪は、どこか疲れたような表情を浮かべていて。
朝から数度、慣れぬ大声を出したものだから、昼前になろうとも未だに薄っすらと残る頭痛に苛まれていた。
妹が、急にいなくなったのだ。
否、義理の妹とでも呼ぶべきだろうか。
想起によって投影されたそれを空っぽな無意識の妖怪が拾い、妹として動いていたもの。
本当にいなくなってしまった妹、古明地こいしの代わりに、地霊殿に居た子が突如として消えてしまった。
原因はわからない。
死滅したのか、休眠状態に陥ったのか。
現在の状況は分からず、現象へのアプローチの仕方すら不明。
サードアイから伸びる管を手で弄り、思考を回す。
結局自分での解決はほぼ不可能だと覚り、誰に相談すれば解決するかと頭を悩ませながら、ふと顔を上げたとき。
───見覚えのある少女が、目の前に笑顔で立っていた。
その少女は、古明地こいしと記載された、どこかの学生証を手に持っていて。
呆けたような表情を浮かべる姉に、少女は気さくに手を挙げる。
───読心できない。
しかしその存在は、化けたものでも空っぽのものでもない。
それは想起された妹の記憶では無く、他の誰でもない。
想起ならざる現が、確かに幻の内に在り。
「ただーいま!お姉ちゃん!」
閉じた第三の目が、姉の第三の目に触れた。
【女子大生こいし】 完
ここまで読んで頂きありがとう御座いました。
100話まで頑張った私へのご褒美にどうか評価をお願いします。
正式な後書きは活動報告に掲載されております。
本当にありがとう御座いました。