シナリオ考察は我が領分にあらず
ひらめいた
「お前を殺してやる。"聖剣使い"。」
「やってみろよ、"魔剣使い"!!」
片や布地のシャツに身を包んだ、何処にでもいるような少年。片や白い軍服に身を包んだ、けれどそれ以外は普通の、何処にでもいるような少年。彼らはある理由で、互いを本気で殺そうとしていた。
「俺の能力は聞いているな、"勇者"。」
「オレの能力も知ってるんだろ、"魔王"!!」
魔剣使いは聖剣使いを"勇者"と羨み、聖剣使いは魔剣使いを"魔王"と羨む。彼らの願いは、彼らのあるべき姿と矛盾している。
「なら、もはや隠す意味もない。本気で殺してやる。」
「この期に及んで遠慮もいらない。全力で殺してやる!!」
魔剣使いは己の魂を、己のために燃やし始める。それは過去を遡り、戦士たちの技術を記憶もろともその身に降ろす降霊術に近い外法。
その業の名を■■■■■■■■。
聖剣使いは己の魂を、守るべきもののために燃やす。それはその力の在り方としては正しく、だがどうしようもなく人として、生命体としては間違っていた。
彼は■■■■。
輪郭が歪み、明らかに人ならざるナニカへと変貌して行く肉体を、魔剣使いは意志の力だけで抑え込み、その脆弱な身体へ封じた。
人の身に■■■とも言えるモノを取り込んだ聖剣使いは、人でありながら最早人ではない。
決着は近い。双方が斃れることなどあり得ない。彼らは相克するものではあっても、その力は絶対に互角ではありえない。この秩序ある世界において、彼ら双方の並立は、すなわち原初の混沌への回帰であり、世界にとっての禁忌である。
「おいで、■■■。」
「来い、■■■──エクスカリバー。」
魔剣使いは『魔剣』を。
聖剣使いは『聖剣』を。
自らが愛し愛用する、至高と信ずる
この世界──魔界において普遍的で、不変の強者たる魔剣の、唯一絶対なる一である『魔剣』。
存在仮説こそあれど、存在証明はついぞされなかった、伝説上の武器である『聖剣』。
「···」
「···」
国堕としか、大陸斬りか、或いは世界の割断か。優れた──規格外の武器は規格外の性能を持つが、それらは所詮、派生系に過ぎない。本来、武器とは何かを殺し、何かを壊すもの。そんな大層な能力など無くとも、その二振りは武器として頂点である。つまり、相手を殺すのに十分な殺傷能力を持つ。
触れれば切れる、などという生易しさは、もはや持ち合わせない。今の彼らの技量であれば、触れずとも、振らずとも斬れよう。だが、それは相手が格下である場合。彼らの相手は相克者であり、分かりやすく言えば、相互に特攻が入る。天敵であり、抗体であり、自滅因子である。結果として、やはり、相手の首を撥ね心臓を穿つまで、決定打とはならない。
「···」
「···」
先手必勝。そんなセオリーは通じない。
後手必殺。そんな搦め手は通用しない。
膠着したままの現状は、二人のうちどちらかが動いた時にのみ崩れる。第三者の介入などあり得ない。
魔界に生きるもの、魔剣にすがって生きる者であれば、魔剣使いの側に付く。だが、この世界に住まう生命体であるのなら、聖剣使いの側に居る。自己と無意識の葛藤は、どちらも同じ自己であるが故に、絶対に決着しない。本来であれば行き先の違うことがない、されどこの相克しあう二人のように。
世界の破壊を担う
「──行くぞ、聖剣使い。俺の世界に異物は要らん。」
「──行くぞ、魔剣使い。新世界に貴様は要らない。」
魔剣使いが疾走する。 聖剣使いが疾走する。
──だが、その衝突は、存在し得ないはずの第三者によって止められた。
存在しえない筈がない、この戦いの商品──"世界"によって。
「バカな!? 俺の邪魔は、お前にだけはできない筈だ!!」
「バカな!? オレたちは相互不干渉のはずなのに!!」
世界にとって、この戦いはあり得なかった。この二人が『世界』という枠を競って戦うことは前提であるが、その目的が反転するなどあってはならず、この現状もあり得ざるものだった。
世界は己のシステムに従い、修正を開始した。時間塑行を行えば、世界自身の修正力によって、この二人──『世界というシステム』のオーナー候補が消されてしまう可能性がある。ならば──この二人を含む、全ての今生きている者の記憶を消し、この戦いを『なかったことに』すればいい。
世界はプログラムに従い、人類の記憶から、この『魔王』と『勇者』の記憶を消し去った。同時に、二人の記憶も。
そして、十三年後。記憶障害に苛まれる人類は、意外なほど平穏に暮らしている。
「──また、あの夢か。」
「また言ってるー。魔剣使いはみんな中二病なんだね、マスター!!」
「──また、あの夢か。」
「また言ってるー。勇者はみんなこうなのかしらね?」
「うるさいぞ、リディ。静かにしてろ。」
「お前も静かにしろ、ノイズ。」
普通の布地のシャツを着た何処にでもいそうな少年が、白い軍服に身を包んだ少年とすれ違った。