祝え、新たな王の誕生を――!

僕がジオウドライバーを手にした事に理由はない。
ただそこにあったから掴んだ。それだけだった。


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カメンライダーの没案、と言うかプロトタイプを加筆して形にしてみました。
END後のエピローグは『カメンライダー』と繋がっていますが、それ以外は全く関係ないです。
カメンライダーよりも他シリーズを酷評するアンチヘイト描写が多いです。
あまりフォローもできてないので、苦手は方はバックしてください。


※途中で出てくるランキングは、『アニメ!アニメ!』様が実施した、『平成仮面ライダー作品で好きなタイトルは?』の結果を使用しました。

あとジオウとはありますが、そこまでジオウは関係ないです。
ただ無関係でもないので、まだ見てない人は注意してください(ライダー)b





カメンライダー02 次王への曙光

慣れない美容室でカットとパーマをお願いしたのは、全てこの日のためだった。

きっかけはSNSだ。今はディープな趣味を持つ人も、世界中から仲間を見つける事ができる。

僕は今日、仮面ライダーファンが集うオフ会に参加する事になった。

もともと事前にやり取りをしていた人が企画したもので――

 

 

『今年で平成も終わりですね。ジオウ放送記念に、それぞれのシリーズファンが集まってみませんか?』

 

 

つまり参加人数は19人。

僕は前々からツイッターで電王の事を中心に呟いていたからか、企画者の人が電王代表として声をかけてくれた。

 

光栄な事だったので、もちろんすぐにOKした。

僕の周りはディープなライダーファンがいなかったので、同じ趣味趣向を持つ人たちに会うのも楽しみだった。会費の5000円は高校生にはちょっと痛いけど、それでも同志達に会えるための課金と思えば、やむなしである。

 

しかしこの時、僕はとても焦っていた。

まさか電車が止まってしまうとは。ツイッターを見るに自殺未遂があったとか何とか。

全く迷惑な話である。おかげで15分も遅刻じゃないか。

 

 

僕は会場である『居酒屋・福ちゃん』の前にやってくると、カバンからデンオウベルトを腰に巻きつけた。

これがファンの証みたいなものだ。僕らは今日、お互いの事を仮面ライダーの名前で呼び合うことになっている。つまり僕は『電王さん』と言うわけだ。

 

 

「どうも! すいませんッ、遅れてしまって!!」

 

「お! 来た来た! こっちこっち!!」

 

 

やはり既に宴会場には僕を除いた18人全員が座っていた。

ヘコヘコを頭を下げながら、僕は手招きしてくれた人の隣に座る。

 

 

「本当にすいません!」

 

「いや仕方ないよ電車が止まったなら。俺もさっき来たところだし」

 

 

そう言ってくれた人の腰を見ると、ファイズのベルトがあった。

おお、なんと言うことだ。やはり最近は特オタの容姿レベルも上がってきているのだろう。ファイズさんや、ウィザードさんなんて、どう見てもオタクに見えない。

ライダーなんかを見ている容姿じゃない。

完全に陽キャじゃないか。どう見ても花見やBBQに行くような人たちだ。

 

いや、しかし周りを見ると、『見るからに』な人たちも多い。

チェックシャツをインにしているメガネの人もいる。

ああ、良かった。安心するぜ。

 

 

「でも本当ッ、申し訳ないです。本当にごめんなさい」

 

「いえいえ」

 

 

右にはファイズさんがいるわけだが、左にいた人はなんと女の人だった。

メガネをかけたショートカットの女の子。チョーカーをつけて、パーカーを着ていた。

いかん、オタクには嬉しすぎる容姿だ。ましてやライダーファンの女の子と来たなら、きっとすぐにホイホイ好きになってしまう。

 

事実、僕がそうだった。

ゴーストさんは7割増しくらい可愛く見えた。

このオフ会をきっかけに何か始まったりしないだろうか。

恋のライダーアクションでも起きないだろうか。僕のデンライナーはもうクライマックスだった。

 

僕は今、気持ち悪いだろうか。

いや気にするな、ここにいるのは皆ライダーオタク。何を臆する必要がある!

僕は今とても嬉しいのだ。とてもテンションが上がっているのだ。

そうだ、今にも踊り出したい気分である。オラ! ワクワクしてきたぞ!!

 

 

「でも電王さんが電車のトラブルで遅刻って面白いですね。運のなさも良太郎っぽいじゃないですか」

 

 

笑いが巻き起こった。

いい、いいぞ、これだ。こういうのだ。こう言う会話がしたかったんだ僕は!

 

 

「じゃあまず、乾杯しましょうか」

 

 

主催者であるディケイドさんが、ビールジョッキを持った。

ちなみに僕とゴーストさんと、ファイズさんとフォーゼさんは未成年のようなので、コーラにしてもらった。

 

 

「なんかいい乾杯の仕方とかないですかね」

 

「あ、じゃあ俺が使ってるヤツでいきます? フシーッ」

 

 

龍騎さんが立ち上がってグラスを掲げた。

 

 

「戦わなければぁー?」

 

 

生き残れないー!

みんなの声が重なってカチャカチャとグラスがぶつかる音が聞こえる。

おお見よ、この見事なシンクロ。タイムラグもなしに理解する続きの言葉!

最高に楽しかった。今まで飲んだコーラの中で一番美味しかった。

グラスをぶつける際にゴーストさんと目が合った。

中学生の僕だったら間違いなく勃起していた。

がはははは!!

 

 

「じゃあどうしましょう。自己紹介じゃないですけど、どうして自分がそのライダーが好きなのか順番に言ってきませんか」

 

 

悪くない提案だった。

当たり前だが、自分が一番好きなライダーが一番好きなわけで。

僕らは何故このベルトを巻いているのかを言い合うことになった。

まずはクウガさんが枝豆をつまみながら声をあげる。

 

 

「えー、私は多分、一番年上なのかな? まあクウガが好きなのはやっぱり他のライダーとは違う重さと言えばいいのかな。重厚な物語と、販促に縛られない内容が響いてね。最近の若い子は見てないと思うけど、やっぱり昭和ライダーが守ってきたものを受け継いでいると言えばいいのか……」

 

 

やはり自然と早口になってしまうものだ。あるあるかもしれない。

 

 

「あとは、今日は無礼講なんで、私に対しても敬語とか年齢とか気にせずにガンガン来て欲しい。やっぱり顔を合わせることでしか感じられないダイレクトな想いがあると思うからね」

 

 

僕はその時、一抹の不安を覚えた。

 

 

「なんかちょっと面倒そうなおっさんだな」

 

 

どうやらそれはファイズさんも同じらしい。小声で僕に語りかける。

僕はと言うと、曖昧に頷いた。そもそも僕は今回のオフ会を『ライダーたのちぃー』『ライダーしゃいこぉぉ』みたいなアホを丸出しにする気楽なものだと思っていた。

美味しい料理を美味しく頂きながら、あの話が良かった。あの監督は良い画を撮る。あの音楽はたまらない。あのキャラはココがいい。あの映画はどうたらこうたら、あの最終回はどうのこうの。

 

そんなお話を楽しくしながら、あわよくばライダーファンの女の子と知り合って、連絡先なんか交換して、付き合えたりなんかしちゃったりなんかして。

さらにあわよくば、童貞をフォーゼ最終回のように華麗に豪快に卒業するつもりであった。

 

しかしどうやらクウガさんが腹に抱えている想いは僕らのそれとは若干違っているらしい。

さすがは戦闘種族グロンギとの死闘を目に焼き付けただけはある。

彼はもっとその先の――、大きな何かと戦うつもりだった。

 

だが戦いとは当然傷つけあう事でもある。

僕は怪我をするつもりは無かったのだが、はたしてどうなる事やら。

 

 

「……アギトは面白かったので好きです」

 

 

当たり前の事を言って終わったのは、アギトさんだ。

前髪が長い。特に感想はそれだけだった。普通こういう場合はどこがどう好きなのかとか、誰が好きなのかを言うべきなのだろうが、緊張しているのかもしれない。

分かる。僕もまあそういうタイプだ。

 

 

「フシーッ! 龍騎やっぱり個性的なキャラクターが魅力だと思います。フシーッ! あとなんと言ってもあの作風ですからね。数々の作品に影響を与えたと言っても過言ではありませんフシーッ! 皆さんもご存知じゃないでしょうか。まどかマギカや、Fateなど――……」

 

「あのフシフシ言ってる吐息がキモイよな」

 

 

僕はファイズさんの言葉を無視した。

確かに僕も気にはなったが、僕は人の個性を笑うことはしないと決めている。

だが僕が気になったのは龍騎さんが言った他作品の存在である。若干、空気がピリついたものになったのは気のせいだろうか?

 

仮面ライダー……、特撮は今や『子供が見る番組』を脱却しているように思える。

話題が起こればツイッターのトレンドでは上位に来るし、数多くの著名人がファンである事を公言している。だがしかし同じくサブカルチャーや、ライトエンターテイメントのアニメや漫画とはまだ一線、僕にも上手く説明できない『ライン』があるように感じているのだ。

 

僕は、まどかマギカやFateはよく知らない。

共に現在アプリで有名になりつつあるが、どうにも僕は課金云々が肌に合わないので、時間がある時はソシャゲではなく、まとめサイトを見てしまうのだ。

 

ああ、いや、僕の話はどうでもいいとして。

龍騎は確かに衝撃的な作品だったとは思うが、何か他の作品を引き合いに出すとなると、僕は嫌な『忖度』を感じてしまう。

ザワザワとしたいらぬ心配とでも言えばいいのか。

 

杞憂であればいいのだが、この世の中はいろいろな人が住んでいる。

その全てが発言者の意図を汲んでくれるとは限らない。なんと言うか、畑違いと言えばいいのだろうか? 僕は嫌な居心地の悪さを感じてしまうのだ。

 

 

「ファイズが好きなのは、やっぱりライダーの中で一番かっこいいと思います。あのギミックといい、ガラケー持っているヤツだったら絶対マネしてたでしょ」

 

 

なつかしい。そう言えば僕も父さんから携帯を借りてマネをしていたっけ。

 

 

「オンドゥルルラギッタンディスカー! オンドゥルルラギッタンディスカー」

 

 

ブレイドさんは開口一発、オンドゥル語を連発していたが、見事に滑っていた。

いや無理もない。この取り留めの無い言葉の羅列を唐突に放つというのは、ライダーファンの間で言えば『あるある』であり、逆を言えば『お腹いっぱい』なのだ。

数名は気を遣ってオンドゥル語を返してはいるが、みんな確かな冷たさを感じていた事だろう。

今のシチュエーションとは別に――

 

 

『僕、仮面ライダーの中ではブレイドが一番好きなんですよ~』

 

 

と言うと、オンドゥル語が飛んで来る場合もある。

ライトなオタクや、飢えた特ヲタはよし来たと身構えるだろうが、もはや上級者ともなればこのフリは「オタクなんだからアキバが好きなんでしょ?」とか、「アニメが好きなんだからエヴァが好きなんでしょ?」などと言った偏見。もとい、おせっかいなのである。

 

しかし勘違いしないで欲しいのはむしろオンドゥル語が大好きな人もいっぱいいると言うことだ。

この辺は僕も未だに解き明かせない距離感である。滑る時は滑る、ドカンとウケる時はウケる。

非常に曖昧なラインだった。

これはもう自分でも思う。オタクってクソめんどくせーな。みたいな。

 

 

「あ、はい。僕は響鬼が好きです。和風なところとか良いすよね。あの時代にしてはライダー同士の仲も良いので安心して見れるっていうか」

 

「でも渋いですね。響鬼ファンと来ましたか」

 

「ええ。実は最近までテレビモーニングのコールセンターで働いてて」

 

「え!? マジっすか! テレモーってライダーやってる!」

 

「そうそう。でもクレーム担当なんでヤバイいちゃもんが多いんですよ。でも響鬼って結構楽で。だって何言われてもこれ元々ライダーとしてやるつもり無かったんでって言えば適当に受け流せるって言うか」

 

 

随分メタ的な話しを……。

確かに朝番組ともなれば細かな意見が出てくるのかもしれない。

噂に聞くとゴーストの浮遊や、キバの夜に変わる演出はクレームが来てなくなったらしい。

いや、本当かどうかは知らないが。

 

 

「でもほら! 主演俳優の人パワハラ疑惑かけられちゃって! 大変ですね! ナハハハハハ!!」

 

「………」

 

 

ナハハじゃねーんだよ、ナハハじゃ。

何とんでもない話題ブッ込んでくれてんだ。こちとら今も気を遣わなきゃいけねーのによ。

いや、待て、一瞬ヒートアップしてしまったが、これは気遣いかもしれない。

あえて自分から触れにくい話題を振っていく事で、自虐ネタのような感覚として、入りやすくしてくれたのではないか。

 

確かにデブの人が、僕ってデブなんですよ~と言ってくれた方が、へんに強張らないで済むというものだ。カロリーネタを振っていいんだなと思うじゃないか。

それと同じものだ。いかんいかん、僕はあくまでも冷静でいなければ……。

 

 

「そうですねぇー、大変ですねぇ」

 

 

現にディケイドさん達はそつなく話題を流している。

ソレくらいの感覚でいいのだ。何も、飛んで来る話題を全て真っ向から受け止める必要はない。

しかしまあ真偽は置いておいて、我々ライダーオタク……、と言うよりも、ドルオタや声豚など『ナマモノ』を好く人間には時としてこのような試練が与えられる。

 

彼らは時として我々に『人生イケメンでも上手くいかないんだぞ!』と言う事を教えてくれる。

何があったのかは知らないし、裏には深い事情があるのかもしれないし、中には全くのデタラメな内容もあるのかもしれない。

しかしいずれにせよ報道されてしまったものはしまったものだ。

交番にダイブしたり、お触りしてしまったり、ひいてはファンから金を借りて土下座をしたり。

 

だがそういう物は案外ちっぽけな事だ。

漫画家や小説化がツイッターで炎上するくらいくだらない事だ。

しかし――、残念ながら我々の脳みそは意外と下らない。

 

よく『作品と作者は違う。分けて考えるべきだ』なんて意見を耳にするが、僕はそうは思わない。と言うよりも思えない。そんなに都合のいい脳みそを持っているなら、今頃世界は平和になっている。

 

リアルの果てにある創作を愛するとはそう言う事だ。

僕の友達のマッちゃんは、応援している声優さんがアダルトビデオに出ていたらしく、学校に来なくなってしまった。気持ちは分かる。僕も処女厨だし。

そう言えばクラスメイトの南沢さんは、アイドルと噂があった女優のツイッターを荒らしていたか。死ねよクソビッチ、南沢さんは泣きながらそう打っていた。

 

 

僕らファンは、愛する対象を好意的に考えてしまい、どんな事をしても肯定してしまう悪い癖があるが、悲しんでいる人も確かにいるのだ。

それを忘れてはいけないが、ファンと言う生き物はいつもそこから目を逸らす。

傍から見れば随分とまあ、僕達はバカなんだろう。

我ながら……、儚い幻想花(サクラ)を好きになる。

悲しき生き物よ。

 

 

「スタイリッシュ戦闘。特有のガバみはあるが、それもまた良し。ちなみに我も無職」

 

 

小太りでハゲのおじさんが目を閉じ、腕を組んでいた。

もうベルトがパツパツである。みんな優しい笑みを浮かべてスルーした。何も聞かなかった。カブトが好き。それでいいじゃないか。僕だって部活もバイトもしてないし。人間みんな友達だ。

そうしていると僕の番になった。コーラを置いて、頭を下げる。

 

 

「電王ってやっぱりライダーの流れを変えましたよ。人によってはそれが悪いって言う人もいるかもしれないけど僕、はそうは思わない。当時は特に声優さんのブームが来てた頃と聞きますし、製作サイドも意欲的な心意気を感じて素晴らしいと思います」

 

 

僕は電王ファンだと名乗っているが、実際は仮面ライダーファンなので、シリーズはみんな好きだし、見ている。

けれども嘘とかではなく、本当に電王が一番好きだった。

モモタロスと良太郎の友情には本当に泣いた。それに間違いなく、電王は映画が連発されるだけの魅力があった。

 

ライダーは子度向けに作られている分、どうしても演技が拙いとお遊戯会に見えてしまう場合がある。しかし電王は一話から俳優の演技力が高く、さらに怪人が仲間になって変身すると言う歴史を壊した感動は、今でも鮮明に覚えている。

よくファンの間では『愛』などと言うトンチンカンな言葉を使って、ファンのレベルの尺度を量ろうとするが、それは全て間違いである。

 

 

「後はやっぱり多重人格と言うシステムを応用した憑依によって、次はどんな味方がくるかと言うワクワクを――」

 

 

皆さんも覚えておくと良い。

本当の仮面ライダーファンとは一体どういう人なのか?

それはつまり、仮面ライダー電王を見ている人のことである。

もちろんただ見ているだけでは意味がない。電王を見た上で、好きな仮面ライダーのトップ3に電王が入っている人の事を言うのだ。

 

これはその実、重要なポイントである。

 

本当に仮面ライダーを愛している。

本当の意味で仮面ライダーを慈しみ、作品に対して真摯に向き合っている人は、必ず電王を好きになる。もしも皆さんの周りで仮面ライダーファンを自称する者がいたらば、好きなライダーのトップ3を聞いてみて欲しい。考えたくも無い悪夢だが、もしもそこに電王が入っていないなら、ソイツは間違いなくファンを騙ったアンチである。

 

愛など欠片もない、薄汚いにわか野郎なので、無視してもらっても構わない。

と言うよりも、もしかしたら脳に障害がある可能性もあるので、なるべく優しくしてあげてほしい。

 

んん……、あまりこんな事を言いたくないし、そんな事はありえないとは思うが、もしも嫌いな仮面ライダーに電王が入っているのならば、以後ソイツの話は一切否定してほしい。

なんだったら殺してしまえばいいんだ! ウオッォォオォオォォオォ!!

 

 

「ハッ!」

 

 

おっといけない。オタクはついつい自分の好きなものを語るときは周りが見えなくなってしまう。リアルも、妄想も。

僕は言葉を切り上げ、少しばつが悪そうに肩を竦めた。

 

 

「本当に好きなんですね。嬉しいな、わたしも電王は二番目に好きなんです」

 

 

ゴーストさんが拍手を行ってくれた。

かわいい。僕は彼女の虜になっていた。

そうしているとキバさんがディケイドさんの肩に触れていた。

 

 

「この人の嫁です。ライダーつながりで結婚しました」

 

 

そうだ。そうか。そういう物もあるのだ。

僕もこのゴーストさんと上手い具合にならないだろうか。

ディケイドさんも自己紹介を行っていた。ずっとライダーが好きだったらしく、こうして定期的にオフ会を開いているうちに、今回の内容を思いついたらしい。

それぞれのシリーズファンを集めて話をしてみようと。

 

そうだ。改めて思う。

この広い世界の中、様々なエンターテイメントが溢れている世界で、僕達は同じシリーズを好きになった。それはとても素晴らしいことだ。

和やかな雰囲気の中、続いてダブルさんが手をあげた。

 

 

「ダブルが一番完成度が高いと思ぃます。キャラクターもいいし、かっこいいし、夏映画の完成度は一番だと思います。風都探偵も買ってます。トキメが可愛いです。あ、あ、あと趣味はライダーヒロインに出てる女優さんに似てるAV女優さんを探すことです」ニチャァァァア

 

 

………。

 

 

「地獄みたいなヤツが来たな」

 

 

小声でファイズさんが呟いた。

僕は何度も頷いた。地獄のような男だった。

人間何を食べたら、あんな風におぞましい生き物になれるのだろうか。

何故、なんで今、その話をする。

 

いや、彼なりに盛り上げるつもりで冗談を口にしたのだろうか。

だとしたら失敗もいいところだが、臆するな。彼もまた僕らと同じライダーファンではないか。

人類、みんな、友達だ。

 

 

「私はやっぱりあの、あれですね」

 

 

そこで僕は、はじめてオーズさんがおじさんではなく、おばさんだと言うことに気づいた。

いや、おばさんでもなく、もしかしたらお姉さんなのかもしれない。

 

 

「え、エグいくらいのブスがいたな……! おいちょっと待て! アイツ髭生えてねぇか。もはや怪人だろ……!」

 

 

僕はファイズさんの言葉を聞いて、激しく首を横に振った。

僕は人の容姿をからかうのは嫌いだ。いいじゃないか、別におじさんに見えるおばさんでも。

髭が生えていようが、いまいが。

 

 

「オーズのアンクと映司はセックスしてると思う。役者さんも多分してるんじゃないかな」ニチャア

 

 

してる訳ねぇだろ、頭おかしいんじゃねぇか?

アホぬかしとれコイツらはさっきからセックスとがどうのこうの。こんな話しかできんのか。

いい加減にしろよマジで。まだ初対面だぞ、パンチがでかすぎるんだよ。処理しきれねぇんだよ。

 

そうだ。そうだよ。多分こういう所なんですよ。

特オタと言うか、サブカル好きがアンダーグラウンドとして煙たがられてきたのは。

 

 

「あの、ぼきゅっ、むかしいじめられてて――」

 

 

申し訳ないが、フォーゼさんは声が小さすぎて何を言っているかサッパリ聞こえなかった。大丈夫だろうか? メチャクチャ痩せてる。ガリガリじゃないか。ごはんはちゃんと食べた方がいいと思うけど。

 

ぁあ、ファイズさんも飽きてきたのか、からあげを食べながらソシャゲをしている。

しかしゴーストさんは真剣に聞いて頷いていた。かわいい。こういう所がもう好きだ。

 

 

「ウィザードってなんかスゲーって思って。クルクルしてて凄いなぁって思いましたぁ」

 

 

ウィザードさんは何だか凄いバカだった。

しかし僕は心が狭いので、イケメンで頭がいい人を見ると、劣等感に苛まれてコーラが美味しくなくなる。これくらいが丁度いいのだ。

 

 

「鎧武は確実に平成二期の流れを変えましたよ」

 

 

鎧武さんはまだ比較的まともそうな人だったが、彼の話しを聞いているクウガさんや龍騎さんの目が若干据わっている事に、僕は一抹の不安を覚えた。

考えたくはないが、この会合、もしかしたら血が流れるかもしれない。

僕はこの不安が、どうか杞憂で終わってくれる事を祈っていた。

 

 

「私はぁ、ドライブの俳優さんが大好きでぇ。かっこいいですよねぇ。ネットで映画とか見てぇ。写真集とかブックオフでめっちゃ買いましたぁ。このベルトも、中古の玩具屋さんでかってぇ」

 

 

ドライブさんはいろいろダメな人だった。

しかし間違いなくこの場にいる女性陣の中で一番美人なので、僕は笑顔で話しを聞いていた。

ファイズさんも笑顔で頷いていた。ダブルさんがチンコのポジションをしきりに直していたが、怖いので見なかったことにした。

 

 

「わたしッ、あの、ゴーストが凄く好きで。ツイッターとかでも役者さんをフォローさせて頂いてて、あの」

 

 

緊張しているみたいだ。かわいい。

いろいろ話しを聞いていると、タケル殿の尊みが深くてエモいらしい。

素晴らしいことだ。女の子がゴーストドライバーを巻いている画は大変、尊みが深い。

 

 

「ヴェハハハハハア!!」

 

 

エグゼイドさんは黎斗の真似をしていたがコレも見事に滑っていた。

僕はまだ温かい目で見ることができるが、今日ココに呼ばれたのは、ただのライダーファンじゃない。皆がトップファンだと自負している連中だ。

ドライブさんだって一見すればアホにみえるが、ツイッターのフォロワー数は一般人にしてはかなり多いと来た。

 

時にレベルの高すぎるファンは、困った風に進化をしてしまう。

愛が重い。こんな話しは男女のソレに留まらない。何を言っているのか、イマイチ分からない人は、どうぞブレイドの前半OPを視聴してもらいたい。

 

我々は知りすぎているが故の罠と言うものがある。

達観と言うべきか、本来ファンと言うのは熱の塊なのだろうが、逆にもうそれを過ぎると、どこか冷めた部分さえ出てくる。

それはまるで子供が遊園地のパンダに乗ってはしゃいでいるのを見ている親の気持ちだろう。「はいはい、あんなのではしゃいじゃって可愛いんだから」そんな気持ちがどこかにあるため、もう黎斗の高笑いや土管ネタくらいでは不動なのだ。

 

そう、そうだ。

ソレこそ電王放送後はライダーのノリが加速していき、女性ファンの獲得やメディア進出などの機会を得たが、それまではやはり閉鎖的な界隈での盛り上がりでしかないように感じた。

 

それこそ世間一般から見れば、子供が見る番組で盛り上がっている社会不適合者。

ベルトを巻いているならば、それはもうアダルトチルドレンとして黄色い救急車を呼ばれたはずだ。

だからこそ一部の特撮ファンは、世間から虐げられてきた感覚を覚えてしまうのだろう。

 

その実、見てもらえば分かると思うが、完成度で言えば平成ライダーと言うのはアニメ作品に引けをとらない。と、僕は思っている。

だがしかし世間の目は冷たく、所詮はジャリ番とコケにされた記憶は、人を墜落させ、精神の具合を悪くさせる。

 

そこで生まれてしまうのが『逆張り野郎』なのだ。

 

光ではなく闇を見詰めることで生まれる存在であると、僕は勝手に解釈している。

たとえばハッピーエンドが嫌いだったり、24時間テレビが嫌いだったり。

創作的に言うのであれば、仮面ライダーよりも明らかに人気が高い作品の話題が出ると。「ちくしょう! なぜ俺の好きなライダーが評価されず、あんな作品で皆が盛り上がるんだ」と嫉妬の炎が燃え上がってしまうことだ。

或いは純粋な『嫌い』と言う感情が、歪んだ闇を活性かさせ、『もっと嫌い』に見えてしまう憎悪の悪しきスパイラルなのである。

 

僕は分かる。

この空間に足を踏み入れた時から、その嫌な空気をどこかで感じてしまった。

ましてや年齢層が上の人なら、負を熟成させる時間が備わってしまっている。

僕はまだ高校生の身空であり、電王が放送している時はチビちゃんだった。

 

しかし成長していく中で、いかに電王が素晴らしい作品だったのかを再認識し、同時にそこへ発生した『悪しき暴徒』たちも確認している。

 

好きになり、知れば知るほど、見たくない物も見えて、それが心を歪にしていく。

そうして僕達の中に逆張り野郎が生まれてしまう。

おそらく、ここにいる7割くらいの人間はワンピースやソードアートオンラインが嫌いだろう。もっと言えばアニメやラノベにかつてない言いようの無い怒りを感じているものがいる筈だ。

 

 

そうした存在。僕は電王ファンだからよく分かる。

ましてやそれがシリーズものであったなら尚更だろう。

きっとFF7を煙たがっている人は多いと思う。テイルズで言うなら、アビスやヴェスペリア辺りだろうか……。もう一度言うが、僕は電王ファンだからこそ分かる。

アレもまた爆発的なブームを巻き起こした。それはまさに爆発だ。

激しい光の奔流は、多くの闇を作ってしまうから……。

 

 

おっと、そんな事を思っている内にビルドさんが話し出した。

なんだか震えている、緊張しているんだろうか。

 

 

「ビルドが好きな理由は戦兎と万丈の友情が素敵で――」

 

 

そこでファイズさんは鼻を鳴らした。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「アイツやべぇよ。目が泳いでる。ガチモンかもしれない」

 

 

ファイズさんは昔、映画館でバイトをしていたらしいのだが、いい大人が上映中にペチャクチャお喋りしたり、奇声をあげるわで大変迷惑していたらしい。どうやらそうした大人にビルドさんは似ているとか。

 

 

「勘弁して欲しいぜ。なるべくアイツに触れるのは止めておいた方がいいかもよ」

 

 

僕は複雑な気分になった。

僕らがココに呼ばれたのは、確かな意味がある筈だ。ディケイドさんだって、だから声をかけた。

これが好き。あれが好き。それは当然の事だ。それは誰しもに与えられた権利であり、当然の事の筈だ。

 

だがしかし、いつしか僕らは作品だけを見るのを止めた。

 

下手に成長してしまうと、その裏側や群がる人たちを見てしまう。

コンテンツを腐らせるのはファン。いつしか僕達は、純粋な目で作品を見ることを止めてしまう。

しかしそれは仕方の無いことである。アイドルアニメでも、ファンの奇行が目立てば、それが作品全体の評価に繋がってしまう。

 

僕だってツイッターのアイコンを仮面ライダーにして、良からぬ行いをしているものを見れば、そのライダーの好感度が下がってしまう。

僕達ファンは作品を背負う事を誇りとしているが、それが良からぬ暴走を生んでしまう事も多々あるのだ。

 

確かに僕はプリキュアの同人誌で抜いた事がある。

そんな事をゴーストさんに知られれば僕は一生口を聞いてもらえないだろうし、もしもクラスメイト達に知られれば僕はきっと社会的にオメガドライブされるかもしれない。

 

だがそれがどうした。言わなきゃいいだけだ!

そうすれば知られることはない。こんな会合で自分の性癖を露呈するなんてバカな行動を取らなければいいだけだ!

 

その自制心こそが、ファンに必要なものであると僕は思っている。

別に何を思おうが、どんな事をしようが、しかるべき場所ではちゃんとした人であればいいのだ。

事実、自己紹介が済んだ僕らは美味しいご飯を食べながら、楽しい話題に華を咲かせていた。

もつ鍋がメチャクチャ美味しいので、たくさんムシャムシャ食べた。

 

 

「電王はやっぱり声優さんがいいですよねぇ。リュウタの人が好きで――」

 

 

ゴーストさんとのおしゃべりは最高だった。

まともに女の子と話しをした事がない僕でもスラスラ言葉が出てきた。

 

 

「え? マジで? フォートナイトやってんの? じゃあ今度一緒にやろうよ」

 

「いいんですか? ぜひぜひ」

 

「あ、私もやってますよ。面白いですよねあれ」

 

「いいねー、じゃあ今度またラインで――」

 

 

さらに僕とファイズさんとゴーストさんは年齢が近いので、すぐに仲良くなった。

もはやライダーとは無関係な話題で盛り上がっていると、フォーゼさんがチラチラ見てくるのが気になった。

 

 

「フォーゼさんもやってるんですか? フォートナイト」

 

「ぁ、いぇ、まあ、はい、その、あの、はぃ!」

 

「フォーゼさんも一緒にやりませんか?」

 

「え? あ、でもぼきゅぅ、よわぃ……」

 

「いいじゃないですか。ねえファイズさんも、ゴーストさんも」

 

「いいよ。俺もどうせ初心者だし」

 

「そうですね。せっかく知り合えたんですから」

 

 

非常に和やかな雰囲気だった。

どうやらディケイドさんが年齢が近い者同士で席を決めてくれたらしく、僕らは沢山おしゃべりをした。

しかしそんな和やかな雰囲気が一変する事が起こる。

それは誰かが何気なく口にした一言だった。

 

 

「それにしてもジオウ始まりましたね」

 

 

するとブレイドさんがレモンサワーの入ったグラスを強くテーブルへ置いた。

 

 

「ディケイドみたいにならないと良いんですけどね」

 

 

ピリリとした刺激だった。

いけない。気持ちは分かるが、ここにはディケイドさんがいるのだ。

ディケイドさんはディケイドが好きだからディケイドさんなのだ。なのに、ああ、ああ。

 

とは言え、ディケイドさんはにこやかな笑みで頷いていた。

良かった、さすがは主催者で妻帯者なだけはある。大人だ。

 

 

「ディケイドの脚本は納得できません。何をどうしたら剣崎をあんな扱いに……!」

 

 

お前ももうやめとけよ!

そうは思ったが、僕は気が弱い。

それにブレイドさんはブレイドがとても好きなのだ。だからこそ色々と思うところがあるのだろう。

 

そもそもライダーはそこらへんがまた複雑なのである。

たとえばこれが漫画であったなら原作者はただ一人だ。

作画担当が別にいたり、編集が手を加える事はあるのだろうが、やはりお話を作るのは作者その一人である。

 

しかしライダーはそうじゃない

。一つの作品に複数の脚本家が参加したりする。

いわばリレー小説みたいものだ。だから話しによってキャラが違ってたりするし、完結編を他の人が担当する不思議な事もある。

 

さらに言えば監督一つでも中身がかなり変わってくる。

ふとももを撮るのが好きな人もいれば、全然フォームチェンジを使わない人もいる。

たとえベテランな脚本家や監督であっても、映画公開後には二度とライダーに関わるんじゃねぇぞ死ね! なんて言葉が飛んで来る恐ろしい世界なのだ。

 

僕がお気に入り登録しているライダーファンのブロガーも、ウィザードの小説版の内容にはブチギレていた。脚本化が同じにも関わらずだ。おそろしい話しである。

 

ブレイドさんはまだブツブツ文句を言っている。

どうやらこの人はディケイドが嫌いらしい。これもまた面倒な内容になるが、ブレイドさんは別に『士やディケイド』が嫌いなわけじゃない。『仮面ライダーディケイドと言う番組』が嫌いなのだ。

 

確かにクセの強い作風だった事は否定できない。

ディケイドさんもそれが分かっているのか、笑って話を聞き流していた。

するとまたジョッキを置く音が聞こえた。クウガさんがほんのり頬を赤くして遠くを見詰めていた。

 

 

「しかし流石に顔面にライダーってのはどうなんだろうね。ちょっと流石に、格好悪すぎじゃないか? ヒーローとしては情けないと思うが」

 

「はは、まあ、奇抜ですよね」

 

「フォーゼとか、鎧武やエグゼイドだってそうだ。奇抜であればいいってモンじゃない。そこのところを最近の公式はどうにも勘違いしている気がする。そもそも二期は玩具が多すぎる。扱いきれないフォーム数に、少ししか出ないアイテム。あれじゃあまるで玩具の宣伝番組だ。ましてや最近はスピンオフを前提にストーリーを作っている気もするね。これじゃあまるで金を出さないヤツはエンターテイメントの範囲外とでも言わんばかりだ。嘆かわしいよ私は本当に。なあそうだろ響鬼くん、そういう文句はあるよな」

 

「ええまあそうですね。クレームは多かったですよ。親御さんから玩具が多すぎるって。それにライダー側は売れれば良いかもしれないですけど、テレビモーニング側としては視聴率は毎年悪くなる一方ですからね。噂では打ち切りたい上層部もいるそうですよ。アギトの頃なんかは11%くらいあったみたいですけど、最近のは良くて5%前後ですからね」

 

「そういう事なんだよ結局は。会社は玩具を出して調子に乗っているが、客はどんどん離れて行く一方だ。もう会社側にとってはライダーはヒーローではなくただの商売道具なんだよ。これじゃあ天国にいる原作者が可哀想だ」

 

「お手本みたいな老害だな」

 

 

ファイズさんの小声に、僕は曖昧な笑みを返した。

確かにこれはよくない流れではあった。

 

 

「で、でもほら。昔はテレビが主流でしたけど今はネットとかが中心になっていますし……! あ、録画とかも!」

 

 

ゴーストさんのフォローはとても素晴らしかったが、クウガさんはそれで納得していないようだった。本当に面白ければリアルタイムで見る。クウガがそれを証明しているらしい。

 

 

「いや失礼。皆さん、この老害の言葉に気を悪くしたなら謝る」

 

 

ファイズさんはお刺身を食べる手を止めた。

一瞬自分の声が聞こえていたのかとヒヤリとしたようだが、どうやらそう言う事ではないらしい。クウガさんも、自分の言葉が場の空気を悪くすることを自覚していたようだ。

しかしそれでも伝えたい想いがあった。否定したい想いがあった。

なぜか。決まっている。仮面ライダーが好きだからだ。

 

 

「ここに呼ばれたと言うことが、私がアンチではないと言うことの証明になると思う。しかしだからこそ嘘はつかないが、私には仮面ライダーに対する文句がたくさんある。タイトルこそ出さないが、いくつかの作品はむしろ嫌いだ。だから文句を言いたい」

 

 

やはりクウガさんの熱意は誰よりも高いものであった。

その熱量で、周りにいる人を火傷させてしまうとしても。

 

 

「私はライダーを愛しているからこそ文句を言ってもいいと思う。子供を叱れるのは愛があってこそだろう? 私はハッキリ言ってライダーはこのままではダメな方向に進んでしまうと思うんだ。だからちゃんと意見を言って、それを聞いてもらわなければならない。仮面ライダーだったら何でも好き、ライダーなら何でも良い。そんな考えは、作品に対する冒涜だ。思考停止で物語に向き合わない、これほど愚かなことはないと思っている」

 

「きらくにみればいいじゃーん!」

 

 

ドライブさんはだし巻き卵を食べながら言った。

確かにそうだが、それにしてもドライブさんは綺麗だ。食べてる姿がちょっとエロい。

んん、でもちょっと、いやかなりクチャクチャ言ってるのが気になるな。

鼻が詰まってるのだろうか……。

 

あ、いや。なんでもない。

クウガさんもドライブさんを無視した。

 

 

「原作者様が亡くなった今、ライダーを乗っ取らせる訳にはいかない。ライダーは自由のために戦った戦士だ。だから我々にも自由に発言する権利があると思う」

 

 

実を言うと、この辺についての答えは、僕もまだ出せていないのが現状だ。

それはつまり、仮面ライダーとはシリーズものだ。他にもシリーズものの作品は腐るほど存在している。ナンバリングタイトルとでも言えばいいか。或いは別作品と言ってもいい並び。

たとえばそれこそドラクエとか、FFとか、テイルズとか、ペルソナとか。

プリキュアとかポケモンもそうか。

 

 

そこで出てくる問題とは、ファンはシリーズを丸ごとを愛さなければならないのか問題である。

 

 

僕は仮面ライダーは全て好きだ。

しかしやはり優劣と言えばいいのか。ランキングは確かに存在している。

仮面ライダーはそれぞれ大きな個性がある。故に、●●は好きだが、○○は嫌いと言う人がいてもなんらおかしくはない。

 

こういう会合で嫌いなものを口にするのはどうかとは思うが、だからと言って、全てを無条件に愛さなければならないと言うのも僕は……、うん、それはそれで違う気がするのだ。

現に今、そっちがその気ならと、何人かのラブソルジャー達は拳を握り締めた。

その時だ。龍騎さんが明るく声をあげたのは。

 

 

「あ、なんか面白そうなランキングがありますよ~」

 

 

好きな仮面ライダーランキング。

約284人ほどにアンケートをとって1位から19位までを出したものらしい。

丁度僕たちの会が始まった頃に発表され、ツイッターでは現在その話題で盛り上がっているらしい。

 

 

「面白そうだからこれ見ましょうよ。よし、じゃあ18位から発表しますね」

 

 

仮にもテレビ局関係者だったからか、響鬼さんは楽しそうにためていた。

 

 

「どん! 18位! 響鬼!」

 

 

おぉと声が上がる。響鬼さんはばつが悪そうに笑っていた。

 

 

「あちゃー、まああれはクセが強いからなぁ。ライダーじゃないし、もともと」

 

 

そして大変失礼な話だが、僕らはなんとなくこの時点で最下位の検討がついた。

僕は隣を見る事ができなかった。その後もランキングは滞りなく発表されていく。

 

 

2位 仮面ライダーダブル

3位 仮面ライダークウガ

4位 仮面ライダー555

5位 仮面ライダーカブト

6位 仮面ライダーオーズ

7位 仮面ライダー龍騎

7位 仮面ライダーエグゼイド

9位 仮面ライダードライブ

10位 仮面ライダーディケイド

10位 仮面ライダービルド

12位 仮面ライダーアギト

13位 仮面ライダー剣

13位 仮面ライダーウィザード

13位 仮面ライダー鎧武

16位 仮面ライダーキバ

16位 仮面ライダーフォーゼ

 

 

こうして、残ったのは僕とゴーストさんだけになった。

 

 

「さあ、一位はどっちかなー?」

 

 

ゴーストさんは気まずそうに笑っていた。

申し訳ないが、全ての人間が理解していた。

僕としてもそうだった。悪いとは思うが、負ける理由が見つからなかった。

事実なんの事は無く電王が一位である。

 

当然だ。

どう考えても電王が一番人気である。そしてどう考えても……。

僕は首を振った。すぐに皆がおめでとうと言ってくれた。

 

 

「かぁー! やっぱ電王は強いなぁ!」

 

「女性も投票してるからね」

 

 

みんないろいろ言ってくれる。

まあこういうランキングは別にたいしたものじゃないし(事実300人以下だ)、それが全てと言うことでは決してない。

 

とは言え、やはり一位を取るのはファンとして鼻が高いものである。

嬉しい。優越感が気持ちよい。いや、まあ当然か。電王が一番面白いのだ。

頭のおかしい人は、電王の面白さが理解できないようだが、それはその人が可哀想なだけで、電王は一番面白いのだ。

 

ちょっと嫌らしい感じになるので言わなかったが、ジオウ放送記念で現在youtubeじゃ各ライダーの一話と二話が放送されているが、そこでも電王はぶっちぎりで一位である。

何か申し訳ないわ。ごめんなさいね面白すぎて。ああ、なんか敗北を知りたい……。

 

でも考えてみれば当然じゃないですか?

たびたび仮面ライダーを取り上げた番組が地上波で放送されたりするが、やはり電王がピックアップされる時間は長い。スタッフも分かっているんだよ。電王が最も一般受けすると言うことが。

おっと、もちろん僕は思うだけで何も言わない。

こんなこと言うとまた皆の闇を刺激してしまうからだ。

 

ただ何と言うか、残酷なランキングだとは思う。

別にトップ3とか、10位までで良かったじゃないか。

なんだってこんな……

 

 

「えーん、最下位ですよー」

 

 

ゴーストさんは笑いながらそう言った。

 

 

「私は面白いと思うのになー」

 

 

僕は心が痛くなった。

口ではそう言っているが、ゴーストさんは絶対に納得していないはずだ。

なぜか? そんなもの決まってる。もはや想像すること自体が失礼だ。

 

 

「まあ確かにゴーストってどう考えてもつまらんからなぁ」

 

 

こらこらこら! 誰だ今のは! 自虐になんて乗らなくていい! 間に受けるなよ!

いいか、よく聞けよコミュ障野郎! 自虐ネタっつうのはな! 本当に自虐で言ってるヤツなんざ二割くらいなんだよ。だいたいは「え? そんな事ないよ~」的な返しを待ってるんだよ。

 

私デブなんですよ~。え、マジじゃん。こんな話しで誰が得をするよ!

コイツゥ、そんなこと欠片も思ってねぇクセにィ、なんて事を思いながら否定してあげるのが、優しさじゃねぇか? オォン!?

 

 

「あれ本当に何なんでしょうね。何かスタッフの間であったんですかね」

 

「脚本の人が特撮未経験だったらしいですよ」

 

 

こ、これはまさか……。

 

 

「youtubeの動画配信でもゴーストが最下位だったらしいじゃないですか。流石に草」

 

 

く、草を生やし始めやがった。

分かる。僕には分かる。彼らにはスイッチが入ってしまったのだ。

見よ、クウガさんのあの燃え滾るようなギラついた視線を。

いやクウガさんだけではなく、龍騎さんやオーズさんも同じ目をしている。

 

分かっている。皆まで言わなくても分かっている。

この仁藤を彷彿とさせる把握能力。僕には分かっているのだ。

誰もが皆、このランキングの結果に納得していないのだ。

 

 

愛、ゆえに。

 

 

「まあどうせこんなランキング、本当に集計してるのかどうかも分からないですから、気にしない方がいいですよ」

 

 

ブレイドさんはゴーストさんを気にかける言葉を口にしていたが、実はそれはゴーストさんに言ったものではなく、ここにいる全員に向けられた言葉だと言うことを僕は理解していた。

つまりブレイドが13位なのは、こんなクソッたれな根も葉もないランキングが適当に書きやがっただけで、本当のライダーファンに問い掛ければ間違いなく3位、いやいや1位をとれるだけの作品であると言うことだ。

 

この時、僕の不安は確信へと至ることになる。

彼らは皆、ラブソルジャー。戦うつもりなのだ。

となるとやはりまず生贄にされるのは――。

 

 

「でもやっぱり熱量が違うって言うのかな。ゴーストさんには申し訳ないけど、やっぱり、うん、ゴーストって一番つまらないよ……、うん」

 

 

龍騎さんは血走った目をしていた。

 

 

「まぁでも役者さんはいいと思いますよ。ンフーッ」

 

 

出た。役者を褒める。

これは一見すれば良い擁護の言葉に聞けるが、僕はかなり『ずるい』言葉だと思う。

そもそもライダーにおいて役者さんが圧倒的に足を引っ張っている作品など存在しない。

たしかに演技が未経験の人もいるので、最初は拙いところもあるかもしれないが、人間やはり一年頑張れば成長するものである。それが特撮の楽しみの一つでもあり、彼らは今後の仕事につなげる為に必死に頑張っている。

 

俳優さんとは、そもそも演じて夢を与えたり、お金を貰ったりする立派な職業なのである。

ライダーの仕事ももちろん大切かもしれないが、よほどの人でなければ今後も続けていきたいと思っている筈だ。

 

ライダーから始まり朝ドラ、あるいはサスペンスで経験をつけて、そこから狙うは全国放送のゴールデンタイム。

事務所の力が強ければ主演映画とか。テレビが合っていないならお客さんの反応がダイレクトに伝わる舞台で自分を表現していきたい。良い作品に関わっていきたいと思っている筈だ。

 

この様にアクターさんは今後の人生を賭けて撮影に取り組んでいる。

中にはいろいろ運が悪くてダメになった人もいるだろうが、やはり皆何かしらの信念は抱えている筈だ。

 

なので俳優さんが素晴らしいのは当たり前である。

たとえクソ演技だの棒だのと言われようが。たとえゴリ押しだと後ろ指を差されようが。それでもやっぱり俳優さんは頑張って演じてくれている筈だ。

 

そういう人たちが素晴らしいのは当たり前である。

そんな当たり前の事を、いろいろ言いましたけど、でも私は一応擁護もしているんですよ。

などと言う理由で使うのはずるいと思うのだ。

言ってしまえば、『なんじゃらほいなこのクソ絵画は。何が書いてあるか分かったもんじゃないペッペッ! だけれどもあれだね、絵の具は良いのを使っているね』みたいな感じである。

 

 

「まあキミ言いたいことは分かるよ。うん、ゴーストはコンセプトもキャラクターもブレブレだったからね。うん、やはりクウガのような重厚な物語と比べると無理もないと言うか……」

 

「マコト兄ちゃんとアラン様は多分裏でおセックスをしているのでしょうけど、坊主がいらなかったわね。やっぱり子供向けとは言えどあまりにも寒いギャグを連発されるのはどうなの? 子供だって飽き飽きしているでしょうに」

 

「龍騎のパクリですよねアレ」

 

「まあまあ新米脚本家に新米プロデューサーならあんなもんでしょ。むしろ折れずに続けられた方がマシなんじゃないですか?」

 

「偉人が全員同じ声っていくらなんでも酷すぎませんか? もうスタッフも適当に作ってたでしょ。挿入歌もないし。初めから低予算で行くつもりだったとか?」

 

「それ以上言うなーッッ」

 

 

気を遣ってくれたのか、エグゼイドさんが18話のエンディングのモノマネを一人で始めたが、誰も聞いていなかったし、滑っていた。

 

しかし……、やはり始まってしまったか。ゴーストディスの流れが。

いや、や! 僕らは皆、SNSを嗜んでいる人たちだ。

いきなりだが、『嫌なら見るな』と言う言葉がある。僕はその言葉は正しいと思っているが、ツイッターだとそれは難しい。どうしても話題が目に入ってしまうものであり、それが多数の意見だった場合は尚更だ。

 

実を言うと、こういう流れは予想していた。

だから不安だったのだ。これは別にライダー間にだけ言えた話ではない。

たまに最終回がクソだとか、スタッフのゴタゴタとか、カップリングに納得していなかったり。

などなど、こうした理由で、どんな作品であっても、しばしば炎上はするし、つまらなさ過ぎてニコニコのアンケートではクソみたいな結果になるし。長々とネタにされたりする。

 

僕は正直何も知らないのでコメントのしようがないが、アークファイブだとかは遊戯王を知らない僕の耳にも入ってきた。あとはテイルズも真の仲間がどうのこうのと炎上していた。

今、例に挙げたのは仮面ライダーとは関係のない作品である。

にも関わらず、全く関係ない僕の耳にまで届いてくるのだから、やはりそれは、それだけ大きな話題であると言うことだ。

 

このように、僕らは仮面ライダーゴーストが人気がないと言うことを知った。

いや、もちろんネットと言うのは、些細なコミュニティでしかない。

しかしそれでも明らかに騒がしい声が聞こえてくるのは分かってしまう。

 

僕はハッキリ言って仮面ライダーを見るとき、そこまで深く考えないで見ている。

むしろストーリーはそれほど重要じゃない。ライダーがカッコよく戦ってくれれば僕はそれでオールオッケーなのだ。

しかし中にはガチ勢、クウガさんのように目が肥えた方が見ると、どうにもゴーストと言う作品は引っかかるものがあるらしい。

ましてや今、彼らは殺気立っている。

 

 

「ねえどう思いますか13位さん。じゃなかった、鎧武さん」

 

 

龍騎さんが放り込んできた。見よ、鎧武さんの血走った目を。

 

 

「やだなぁ冗談ですよ。怒らないで! フシーッッ」

 

 

自分の推しライダーがランキングで一位ではない場合、まずはマウントを取れる下位を潰そうとする。ゴーストディスもおそらくこのような背景があるのではないか。

僕は最近そう思うようになってきた。

 

ましてや周りの声と言うのは絶大だ。

たとえそれがノイジーマイノリティであったとしても、『言霊』というものがあるように、僕らは声で人を殺すことができる。

 

事実、僕もゴーストは相当ヤバイと思ってしまっている。

これがSNSの罠のようなもので、マイナスな意見ばかりを摂取していると、本当にマイナスイメージがついてしまうのだ。

正直、ゴーストでいろいろ言われている事は、他のライダーにも当てはまっている所がある。

しかし何事も数は大事である。マイナスエネルギーの波に揉まれれば、それだけ負は膨らんでしまうというものだ。

 

仮面ライダーの感想を綴っているブロガーさんの中で、僕は二人ばかり特に好きな人がいて、サイトをお気に入り登録しているのだか、どちらの方もゴーストには難色を示していた。

 

 

『俺はずっと仮面ライダーを見てきた。その上で胸を張って言える、ゴーストはクソ』

 

『自分に嘘はつきたくないので言いますが、ゴーストは良い所もたくさんありますが、確実に歴代シリーズの中で一番面白くないです』

 

 

……この世界には好感度から来る発言力というものがある。

たとえば一般人がツイッターで『●●プリン食べました。おいしかった』と、自撮りでも添えて書き込めば『あっそ。え? って言うかめっちゃホクロ多くない?』なんて事になるかもしれないが。

好感度の高い有名人が同じ事を書き込めば、『え? 本当ですか! じゃあ僕も今度食べてみようかな!』と、なる。

 

僕は初めてゴースト見たとき、別に何も考えていなかった。

しかしこの僕が好きなブロガーさん達がゴーストはつまらないというので、僕はゴーストがつまらなくなってきている。

 

 

「……いや、でも放送終わってから考えてみると、ゴーストも全然面白かったですよ。一週一週あけてみちゃうとアレかもしれないですけど、一気に見ると本当に面白いですよ。悪意のある解釈ではどうとでも悪く見えちゃいますけど、タケル殿がいろんな人に触れてヒーローになっていく様子とか、アランとフミ婆の交流とか、Vシネマのスペクターは見ましたか? 挿入歌は無かったですけど、その分BGMがとても素晴らしくて、特にシンスペクターの戦闘なんかはとても面白かったと思います……」

 

 

だが僕はあえて擁護に回った。

ゴーストさんは確かに僕を見て、微笑んでくれた。

好感度稼ぎと言われればそれまでだが、僕はたとえゴーストさんが男だったとしても同じ事を発言していただろう。

 

シリーズファンの集い、中には荒れる作品もある。

問題はそれが好きな人が目の前に現れた時である。

仮面ライダーに言えた話しじゃない。たとえこれテイルズオフ会であっても、遊戯王オフ会であっても、荒れた作品のファンは必ず存在している。

 

この世界において、100%アンチしかいない作品など存在しない。

たとえ監督が降板されてマイナス評価ばかりが動画についたとしても、それでもやっぱり楽しみにしている人はいる筈だ。

 

そうした人たちが、自分が好きな作品を悪く言われるのは悲しいことだ。

 

人の心は繊細である。

うんこですね。くそですね。ごみですね。

ああでもこれらはあくまでも僕と、その周りにいるちょっとした人たちの意見なので気にしないでくださいね。へへへ。

なんて言われて納得できると思うか? いやできるわけがない。

 

先ほども言ったが、僕はその点に関してはブレブレである。

ネットでデータを摂取しているうちに、自分がフワフワになっていく。

だがそれでも一つ分かる事があるとすれば、僕は可能性を否定したくなかった。

叩かれている作品が好きな人を否定してたくなかった。

 

 

「まあ、そうですね。ゴーストもネットでは過剰に叩かれているけど、実際見てみたら面白いですよね……」

 

 

良かった。みんな分かってくれたみたいだ。

ゴーストさんは僕の背中に触れてくれた。

視線が合った。笑ってくれた。

 

 

「でもネットが荒れたと言う意味では――」

 

 

おい、おい待て。おいやめろ。

 

 

「ビルドも結構――」

 

 

よせーッッッ!!

 

 

「酷かったですよね?」

 

 

僕は甘かった。

このディスの流れは、新たなディスを生んでしまう事になる。

切り出したのは誰だ。見ていなかったが、おそらく声からして鎧武さんか、おそらくブレイドさんだろう。

 

 

「そうかしら? 戦兎と万丈はなかなか――」

 

 

オーズさんが何かを語り始めたが、皆は無視した。

 

 

「ビルドなんて本当に酷かった。ゴリラモンドはどこに行ったのか。ましてやファイアーヘッジボッグなんてそれぞれ別の攻撃を順番に使っているだけじゃないか。ベストマッチの意味がないと言うのはただ販促に従って嫌々やっているようにしか思えない。事実フォームチェンジを活かして勝った敵がどれだけいたのかね。後から強化フォームが出てきて終わりじゃないか。ここなんだよ私が嫌なのは。結局玩具を売るために無理やりやっているだけじゃないか。平成一期のような慎ましいフォームチェンジとは違って意地汚い銭ゲバのような戦闘だったよ」

 

 

止まらない止まらない。おそろしいのは他にも賛同者が続々と現れることである。

 

 

「最強フォームもゴミみたいな扱いでしたからね。爽快感なんてあったものじゃない。あれはダメだ。ヒーロー物としては失格ですよ。仮面ライダーはエンターテイメントなんだからそこを無視したら終わりだと思います」

 

「す、ストーリー面でも一期の真似事みたいなものでしたからね。しゅ、主人公もラブアンドピースとか可笑しな事をほざいておきながら中途半端にウジウジして、それを万丈が励ます。こ、こ、これを何回繰り返したのやら。やはりバディものはダブルこそが頂点であり、所詮は真似事ですよ。あ、あ、ああと天才物理学者って設定必要でしたか? やった事ってアイテム作りだけですよね。これじゃあ黎斗と同じじゃないですか。それに何度も掌の上で転がされてむしろッ、ば、ばかですよね。あーあ、また翔太郎のような主人公が見たいなぁ」

 

「っていうかビルドって龍騎のパクリですよね」

 

「キャラクターの死も薄いですよね。無駄死にばかりってうか。その点響鬼はいいですよ。あの人、あー、なんつったけな。ケツ出して死ぬんだから」

 

「ローグのTシャツネタで笑っているのって本当に害悪ファンですよね。ああいうギャグが仮面ライダーを悪くしていくのがどうして気づかないでしょう」

 

 

も、もうダメだ。僕はいたたまれない気持ちになる。

 

 

「間違いなく仮面ライダーブランドに泥を塗った作品ですよ。ダーッハハハハ!!」

 

 

耐えられない。僕はチラリとビルドさんを見た。

彼はテーブルの隅で一人静かに泣いていた……。

 

 

「何泣いてんだよアイツ、キメェな」

 

 

ファイズさんは海老天の衣を必死に剥がしていた。

しかし彼もまたココにいる存在。飛んで来る攻撃からは逃げられない。

 

 

「んー、でも僕ぅ、人が死んで喜ぶファンとかあんまり過ぎじゃないんですよ。キャラが死んだからシリアスだとか騒いでる大友を見ると、うんざりするって言うかぁ。まあそういう奴らがよく出してくるのがファイズだったりするんですけどぉ、ファイズさんはその点どう思いますかぁ?」

 

「は、はぁ、まあそうですね」

 

 

ファイズさんは海老をムシャムシャ食べながら汗を浮かべている。

攻撃を適当に受け流し、チラリと僕を見た。

 

 

「いやしかし、いよいよヤバい流れになってきたな。面白いからいいけど」

 

「よ、よくないですよ。ゴーストさんも本当にごめんなさい」

 

「やだな。どうして電王さんが謝るんですか。大丈夫ですよ、私だってSNSやってるんですから、自分の推しがどういう評価なのかくらい知ってますって。でもそれでも私は胸を張ってゴーストが好きって言えるからここにいるんです」

 

 

なんて立派な人なんだ。僕は自分がちっぽけに見えた。

ファイズさんだって挑発とも取れる言葉をサラリと受け流していた。

彼には確固たるアイデンティティがあるのだろう。自分はファイズが好き、それがどんな言葉を受けても揺らがない自信があるのだ。

 

 

「それに私、ちょっとクウガさん達が羨ましいんです」

 

「え?」

 

 

ゴーストさんは少し微笑みながら、言い合っている大人達を見る。

なるほど確かにその笑顔は軽蔑や侮蔑のそれではない。

 

 

「だってあんなになるまで見てきたって事でしょ。好きだって事でしょ。それで言い合ったり他者を攻撃したり、それって多分とっても良くない事だと思うけど、なんだか私にはちょっと素敵なことに思えるの」

 

「………」

 

 

よく分からないが、よく分かるような気もした。

 

 

「いやー、それにしてもブレイドがこの順位は納得できないなー。鎧武とかウィザードみたいな中身のない作品に勝つのは、まあ当然として、クウガには勝てるでしょー。あんなもん思い出補正だけの作品ですよー……」

 

「いやぁ、妥当でしょう。ブレイドって序盤が酷いから、つまらないと思った人がみんな切ったから最終回を見た人が面白いと言うのは当然であって、狭い世界で自分が面白いと勘違いしているだけの作品ですよぉ」

 

 

火花が散る。

その時、僕は龍騎さんが怒りに震えているのを見つけた。

もうブルブルガクガクと震えている。手に持ったビールがジョッキから大量に零れ落ちていた。

 

なんでも龍騎さんは小説サイトで仮面ライダーの二次創作を書いているらしい。

ひとたび更新すればそれはもう人が集まるバズらせ作家さんだったのだ!

しかし鎧武さんは原理主義者らしく(僕にはよく分からない単語である)、クロスオーバーとかマジでクソ。カップリングを崩すとかマジでキチ●イ。二次創作がクソと罵り始めた。

 

 

「そもそも龍騎ってそんなにたいした作品じゃないですよ。キャラクター全員ウザイし。信者だけが盛り上がってる典型的な作品だと思います」

 

 

それが龍騎さんの魂に火をつけたのか。

所詮エロゲ畑の何たらかんたらがライダーに入ってきたことで歴史が汚されたなどなど、もはや隠すことなく言葉で殴り合っている。

 

仮面ライダーを汚すな。

怒号が聞こえてきた。汚すとはそもそも何だ。僕にはまだ分からない。

 

しかし二次創作か……。僕は成程と思った。

何度も言うように、今はSNSが普及した社会である。

ツイッターではイラストや漫画が大量に投稿され、小説サイトでも仮面ライダーのお話を書いている人はいる。

 

いや、もっと噛み砕けば、ネットで盛り上がる人と言えばいいのか。

そうした人たちにとって、仮面ライダーの放送終了とは終わりであって終わりではない。

果てしなく続くライダーロードに新たな街灯が加わったようなものだ。

その先を妄想する人、架空のコラボを妄想する人。生まれ出たキャラクターは電子の世界で永遠を生きる。

 

とは言え、作品をしっかり『個』として見ている人はそうじゃない。

あくまでも1年間の中でどれだけ輝いてくれるのかを見ている。

そういう人たちはある意味、真剣に作品に向き合っているのかもしれない。

良いか悪いかはともかくとして、『二次創作』と言う、ある意味とても便利な『逃げ道』を嫌うのだ。

 

 

「でもあれですねぇ。カブトが5位って言う時点でこのランキングに信憑性がないって言っているようなものだよなー」

 

「浅はかな。カブトはもはやカブトと言う存在へ昇華している。あの粗さもまた一つのカブトなのだ。だが他の作品はそこへ至れなかった。だからこそカブトよりも下なのだ。分かるな。叩かれている作品は所詮、カブトになれなかった作品なのだよ」

 

 

ビリビリは加速していく。

流石にヤバイと思ったのか、ゴーストさんはお酌ついでになだめに向かった。

 

 

「いやぁ、まいっちゃたね。なんか変な感じになってて」

 

 

入れ替わりでウィザードさんが梅酒を片手にコチラに避難してきた。

まあ無理もない。あんな闇が蠢く空間にいれば精神がおかしくなる事は必須である。

 

 

「まさかこんな事になるとは……、オフパコ狙いで来たのに女の子も全然いないし」

 

 

なにとんでもない事を言ってんだコイツは。

しかし話しに聞けば、彼はJボーイズコンテンストに今度出る事が決定したらしい。

これは雑誌社が主催するミスコンのようなもので、ここでグランプリを取った人が仮面ライダーに出演する流れが最近できている。

と言うことはウィザードさんが次の仮面ライダーになるかもしれないのだ。

あとでサインを貰っておこう

 

「最近の特撮ファンって美人が多いって聞いたからさ、とりあえず通に見えるように適当に選んだウィザードは猛勉強したってのに……」

 

 

ブツブツ言いながらポテトを齧っている。

な、なんて不純な動機でライダーを見ているんだこの人は。

しかしまあ理由はどうであれ、ウィザードの知識は確かに詳しかったし、良いと言えば良いのか……。

 

 

「女三人しかいないっすもんね。しかも一人が既婚者――ッて、やべぇ、四人だった。オーズさん女だって忘れてた」

 

「いい、いい。三人でいいよ。あのブスは女じゃないって」

 

 

ファイズさんとウィザードさんは青ざめながら、討論しているオーズさんを見ていた。

僕は無言である。絶対に賛成はしないぞう。

 

 

「あ、でも安心してね電王さん。俺ゴーストさんには全然興味ないから」

 

「え? な、なんで僕に……」

 

「またまたぁ、さっきからチラチラ見てるじゃない。ねえファイズさんも気づいてるでしょ」

 

「それはもう」

 

「う、うぅ」

 

 

しかしウィザードさんがゴーストさんに興味がないのは幸いだった。そこは素直に認めよう。

 

 

「でも大丈夫? あの娘メイクとメガネでごまかしてるけど、よく見ればまあまあブスだよ?」

 

「それは俺も思った」

 

 

うるせぇ!

確かに彼女はよく見ればそれほどだが、絶対にブスじゃない。愛嬌のある顔なんだ!

ここだけは譲れねぇ! そもそもブスブス言うなよ! 僕は容姿をいじるのは嫌いなんだ!

 

 

「おっぱいも全然ないし。あと絶対あの娘メンヘラだよ」

 

「それは俺も思った」

 

 

うるせぇ!

確かに彼女は深夜に月の画像をアップして『消えたい。死にたいじゃなくて消えたい』みたいな事をツイートしそうだが、それはあくまでも僕の矮小な想像力により導き出された浅はかな偏見であり――!

 

 

「でもドライブさんマジで綺麗じゃないですか」

 

 

ファイズさんの言葉に僕とウィザードさんは同時に頷いた。

 

 

「でもさっきちょっと話したら彼氏の画像見せられてさぁ」

 

「おいなんだよクソ!」

 

 

ファイズさんは食べかけの芋天をお皿にたたきつけた。

 

 

「しかもその彼氏、ちょっとやんちゃそうだったんだよね。ほら、俺も一応将来あるし、なるべくトラブルは避けたいって言うか。でもヤリたいっていうか。ワガママな愚息が最期の希望を求めているんだよ。あとあの娘かわいいけどさ、食べる時めっちゃクチャクチャやってるでしょ? あれちょっとキツイよね」

 

「わかりみ」

 

 

今もドライブさんは周りの喧騒を気にせずに料理をムシャムシャクチャクチャ頂いている。

確かにちょっと気になるな。

でも逆に少しエロ――。

 

 

「でもまあいいんじゃない。この会話をツイートするよりはさ」

 

 

それは僕も思った。

しかしランキングにしても、なんて残酷な事をするんだ。

仮面ライダーのつまらないや、キャラクター批判は、アニメよりも重いと思ってる。

彼らは絵じゃない。役者さんがいて、その人の家族なんかが当然いたりする。

 

悪役の人はリアルでも子供に嫌われてしまうし、その人の子供は幼稚園でいじめられたりするかもしれない。幻想と現実の上、曖昧なラインを彼らは移動している。つまらない作品に出てしまえば後々の俳優人生に関わってしまう。

 

なんだかとても面倒な世界だった。

僕はふとアギトさんを見た。彼は何も喋らずお茶を飲んでいた。

彼は先ほどから何も喋っていない。そういう所がアギトと言う作品を強調しているような気がした。

 

しかしここでこの騒がしい闇を消し去る存在が現れる。

子供である。キッズである。宴会場に小さな男の子が入ってきたのだ。

 

 

「ダメじゃない。入ってきたら!」

 

 

相当ビックリしたのだろう。キバさんの声が裏返った。

男の子はキバさんとディケイドさんの方へ走っていく。ははあ、お二人にはもう子供がいたのか。

しかし、はて……? 彼は今までどこにいたのだろう。

きっと多分親戚か友人にでも預けて同じ店にいたに違いない。僕はそう納得することにした。

 

そしてこれが面白いもので、チビちゃんが来た瞬間、まるで風船から空気がぬけたようにラブソルジャー達が押し黙っていく。

流石に彼らも自らの行いが褒められたものではないと言うことを知っているらしい。

子供の前では控えることができるのだ。社会不適合者ではないのだ。

 

 

「キミも仮面ライダー好きなの?」

 

「うん! 好き!!」

 

 

ゴーストさんが話しかけると、男の子は笑顔を返した。

父と母の影響からか。ディケイドとキバが好きなようだ。

いい英才教育ではないか。僕も将来子供ができたら電王を見せよう。

 

それにしても気のせいだろうか。

ゴーストさんと男の子は楽しくおしゃべりをしているのに、なぜかキバさんと、ディケイドさんの表情は暗い。

むしろ青ざめて、気分が悪そうだ。

子供がいると皆遠慮すると思っているのだろうか?

 

 

「今度一緒に見ようね」

 

「うん!」

 

 

ゴーストさんが微笑ましい約束を交わしたとき、キバさんは目に涙を浮かべて立ち上がった。

 

 

「逃げて!!」

 

 

シン……、と、場が静まり返った。

当然だ。かなり大きな声だった。みんなビクっと肩を震わせたし。

 

 

「サキ……!」

 

 

ディケイドさんはキバさんの事をそう呼んだ。

きっとそれがキバさんの本名なのだろう。ついつい本名が出る。

それだけ焦っていると言うことなのか。

しかし何故? うぅん。

 

 

「だってもう! こんなのやっぱり間違ってる!!」

 

「それは俺も分かってるさ! でもこうしなければ――!!」

 

 

よく分からないが二人は喧嘩を始めてしまった。

い、一体どうしたと言うのか。僕らは訳が分からずに、ただ沈黙する事しかできなかった。

そうしている内に、男の子が急に倒れてしまった。まるでそれは電池が切れたように。

 

 

「え? え? え!?」

 

 

ゴーストさんが戸惑っている。

救急車を呼ぶべきか? 僕も肝を冷やしたが、そこでまた宴会場に人影が。

真っ白なスーツに身を包んだ。僕らにはまあ『お馴染み』の容姿であった。

 

 

「財団――ッ、エックス……!」

 

 

ダブルさんが呟く。

確かに現れた男の人は財団Xのコスプレをしていた。

 

 

「いかにも。私の名前はウルゴバ。またの名を――」

 

 

男の人が……、化け物になった。

 

 

「モグラロイドだ。諸君、まずは一つ」

 

 

化け物はチェーンソーの刃みたいな腕を振り上げ、思い切り振り下ろした。

 

 

「これは夢などではない」

 

 

するとテーブルが真っ二つになった。料理もお皿もぱっくり割れた。

それはとても冗談とかドッキリとか嘘じゃなくて、僕らは悲鳴をあげて後ろへ下がっていった。

 

 

「二つ目。貴様らは偉大なる実験に選ばれたモルモットだ。光栄に思うがいい」

 

 

僕も悲鳴をあげていた。みんなで後ろに集まった。

その中で化け物は、小さなロボットみたいな玩具を見せつける。

 

 

「これはメガリバースマシンを小型化したものだ。七次元の扉を開くためには、素質を持った人間がコアになる必要があるが、我々財団の科学力は不可能を可能にし、何の才能もない人間で機動させる事に成功した」

 

 

メガリバースマシンとはなんだったか。確か、あれは、えっと……

 

 

「だがまだ正確な数が算出できていない。やはりエネルギーの個体差はあるのか、今回のケースでは初の使用実験を兼ねている。キミ達には期待したいところだ」

 

 

これは嘘なのか。それとも真実なのか。

僕らはただ呼吸を荒くするだけで、何も喋ることはできなかった。

だが一つ気づくことがあるならば、ディケイドさんと、キバさんは事情を知っていると言うことだ。そして大変ありがたい事に、化け物さんから全てを話してくれた。

 

 

「君たちがキバと呼んでいた女はサキ。ディケイドと呼んでいたのはレンと言う名前だ」

 

 

キバさんはディケイドさんの子供を身篭ったのだが、残念ながら流産してしまい、生んであげる事ができなかったらしい。

そこからもう一度子供を作ろうと思ったが、なかなか上手くいかず、やっとの思いで授かったのが、そこで寝ているシュウと言う男の子らしい。

しかし、シュウくんは交通事故で亡くなってしまった。

ん? 亡くなってしまった???

 

 

「では何故、その死んだ人間がココにいるのか。それがメガリバースマシンの力と言うものなのだよ」

 

 

僕は思い出した。

メガリバースマシンとは、簡単に言えば現世とあの世を入れ替える機械だ。

つまり死んだ者が蘇り、生きている者が死ぬ。

 

 

「私は実験にこの世界を選んだのだ。諸君らはこれより、メガリバースマシンのコアとなって頂く」

 

「つ、つまり――?」

 

「死んでもらうと言うことだ。生命エネルギーを死なない程度マシンへ移動し、その後、結果を確かめるため効果の範囲内に入ってもらう。うまくいけば、キミ達は死亡し、シュウくんは生き返る」

 

 

そこで僕は気づいた。

シュウくんは本当に電池が切れたのだ。

今……、彼は死体であった。どうやら事前に実験としてキバさんとディケイドさんの生命エネルギーでマシンを動かしたみたいだ。そうしたらば死んだはずのシュウ君は生き返った。

でも少ししかエネルギーが無かったから、結果としては失敗だ。またすぐに死んでしまった。

 

 

「申し訳ないが、貴様らに拒否権はない。だが何も気にすることはない。そうだろ? 貴様らはつまらない人生から逃げだす事ができて、尚且つ子供の命を救えるのだ」

 

 

怪物は笑っていた。

よく分からないが、どうやら僕達はこれから死んでしまうらしい。

そんなバカな……。なんで、こんな。

 

 

「うあぁぁぁあぁああ」

 

 

そこで叫び声が聞こえた。

皆ほどほどに叫んでいたが、クウガさんは特に酷かった。

 

 

「お、お願いだ! 私は助けてくれ! なんでもする!」

 

 

クウガさんは化け物の腰にしがみついて命乞いを始めた。

 

 

「く、靴を舐めればいいのか? よしきた!」

 

 

クウガさんは舌を出したが、化け物は彼を振り払った。

 

 

「醜いものだな。見るに耐えない」

 

 

が、しかし、どうやらクウガさんの行動はディケイドさんの良心を刺激したらしい。

ディケイドさんは雄たけびをあげて化け物の腰に掴みかかっていった。

釣られるようにしてキバさんも加勢する。

 

 

「やめたまえ。クライアントを傷つけるのは私の趣味ではない」

 

 

化け物は動きを止めた。

そこをチャンスと見たのか、何人かは宴会場を飛び出していく。

 

 

「フム。面倒な事は避けたい」

 

 

化け物は腕を振ってディケイドさんとキバさんを簡単に投げ飛ばした。

簡単に投げ飛ばせたのは、力がそれほど入っていないからだ。

 

 

「自分に嘘をつくのはやめたまえ。貴様らが望んだ世界だろうが」

 

 

ディケイドさん達は否定しなかった。

気づけば多くの人たちが宴会場から逃げ出していた。

ゴーストさんやファイズさんはまだココにいた。僕はと言うと、逃げたかったが、恐怖で足がすくんだのが原因だ。

 

 

「底辺な連中が生を望むか。理解ができないな」

 

 

化け物は壁にもたれかかると、僕らを一瞥する。

ポツリポツリと教えてくれた。ディケイドさんが選んだファンはただのファンじゃない。

歪んでいる人達だ。メガリバースマシンを起動する事に抵抗を示さない連中を選んだのだと言う。

 

 

「そうだろ。ゴーストさんだったかな?」

 

「………」

 

「貴様のSNSを見たが、あれは酷いな。嘘のエピソードばかりだ。妄想を現像のように話す事になんの意味がある」

 

「……ッ」

 

「あぁ、いや、分かっているさ。お前は現実に絶望している。だから深夜に下らないポエムを発信しているのだろう?」

 

 

ゴーストさんは悔しげに俯いていた。

 

 

「お前もだフォーゼ。惨めだな弱者の人生と言うのは。まさか如月弦太朗に憧れた男が学校で虐げられているとは、笑える話だよ」

 

 

フォーゼさんはブルブル震えていた。

 

 

「だが何の価値もないお前の人生。その最期が子供を助けて終わるのならば、それは意味のあることだ」

 

 

化け物は次にファイズさんを見た。

 

 

「小型化したメガリバースマシンは、その効果も小規模の範囲内にしか現れないが、しかしそれでもお前の初恋の相手は蘇るようにしてある」

 

「……!!」

 

「まあ尤も、以前のようにお前に振り向くことはないだろうが、それでも死んだままよりはマシだ」

 

 

化け物は気だるげに首を回して。

 

 

「お前」

 

 

僕を指し示した。

 

 

「ぼ、僕ですか?」

 

「ああ。貴様だ。住所を渡すから逃げたヤツを連れ戻せ。この近くにある潰れたパチンコ屋で待っている。もしできなかったら……、そうだな、私は疲れた。お前ら全員を殺して次の世界に行くとしよう」

 

 

 

 

 

 

一番近いのがクウガさんの家だったので、僕はクウガさんの家に向かった。

僕はその間、ずっと考えていた。まだフワフワしたような感覚だが、僕はどこか冷静だった。それは多分、彼らも同じだったと思う。

 

居酒屋の店員さんや、他のお客さんは皆気絶していた。

僕はずっと考えた。それにディケイドさんが教えてくれた。

みんなは確かに生きていても満足していない人達だったと言う。

だから選んだのだし、逃げた今もどうしていいか分からないはずだ。

 

でも僕は違うらしい。

事実、僕は死にたくなかった。死ぬ理由もなかった。

巻き込まれるのはゴメンだ。正直、勝手にやってほしかった。

 

だからディケイドさんは僕を選んでくれたのだ。

どうやらメガリバースマシンは僕ら用にチューニングしているらしく、19人全員が揃わないといけないらしい。

だから僕を選んでくれたのだ。僕は死ぬのが嫌だった。そういう人がいれば、計画はダメになると分かっていたのだ。

 

つまりディケイドさん達は子供を助けたい一方で、計画が失敗する事を望んでいた。

僕が逃げて、マシンが起動できなくなる事を望んでいた。

もちろんそんな事は望んじゃいない。同じだ。面倒な生き物である僕達は。

 

それにしても、なんだか全てが遠くなる錯覚に陥る。

視覚も、嗅覚も、聴覚も、肌に感じるものも全てが遠のいていく感覚だった。

こんな事は初めてだ。ノスタルジックでいて、どこか恐怖が混じったような、かつてない感覚。

現実と妄想が重なり合い、世界が剥離していく感覚。

 

僕はずっと考えていた。いろいろな事だ。

いろいろな事はいろいろな事であり、ましてやそれは言葉にはできない想いなので、説明はできない。

 

だが僕はそれでもやはり、いろいろ考えていた。

考えるというよりは――、脳に張り付いていた。

次の世界と化け物は言う。それはつまり、そういうことなのだろうか。

 

そこで僕は公園のベンチでクウガさんがうな垂れているのを見つけた。

彼は僕を見つけると、今までの事が夢であったのではないかと聞いてきた。それはもちろん分かることなのだが、残念ながらこれは現実である。夢ではないし、ましてやドッキリではない。僕はもう一度確かに化け物が存在していて、僕らを狙っていて、戻らなければ皆が殺されてしまうかもしれない可能性を説いた。

 

するとクウガさんは震え、真っ青になって唸っていた。

帰らなければならない。帰りたい。彼はそう言ってフラフラと歩いていった。

付いて行ってもいいですか。僕が問うと、クウガさんはダメとは言わなかったので、そのまま歩いていった。到着したのは、なかなか味のある一軒家であった。

 

クウガさんが家に入ると奥さんが出迎えてくれた。

彼女は呆れたように笑った。僕らはまだベルトをつけたままだったのだ。

その関係で僕を連れて帰ったと思ったのだろう。奥さんは僕にお茶を出してくれた。僕はおいしくそれを頂いた。その時に見つけた。仏壇があった。

 

 

「驚いた。まさか……、あんな」

 

 

僕はクウガさんの部屋に招かれた。

クウガのフィギュアがおいてあり、DVDボックスがおいてあった。

聞いてもいないのに、彼は語り始めた。

クウガさんの奥さんも身篭った子供を流してしまったらしい。

同じ境遇。だから選ばれたのだろうか?

 

 

「プレッシャーをかけすぎたのかもしれない……。あの時は、浮かれていて、頭がおかしくなっていた」

 

 

事実、彼の行動は奇行だったのかもしれない。

子供が生まれる事が楽しみで、先にいろいろ集めてしまった。ベビーカーや、ガラガラ、おしゃぶりに、ベッドの上で回るよく分からない玩具。

 

 

「そんなつもりはなかったんだ。ただ、子供一緒に遊ぶのが楽しみだっただけで……」

 

 

男の子は仮面ライダーが好きになる筈だから、全く知らないと父親として情けない。

だから事前に勉強した。そこでクウガが好きになった。一緒に見る予定だった。

自慢げに知識を語って、それで息子に尊敬されれば優越感も満たされる。

 

 

「だが、ダメだった」

 

 

クウガさんの声が震えていた。奥さんはクウガさんに泣いて謝ったらしい。

愚かな話だとクウガさんはうな垂れた。あの時、なんと声をかけていいか分からなかったらしい。とりあえずそこから新しい子を作ろうと頑張ったらしいが、どんな事をしても身篭る事はなかった。もっといろいろ探せば方法はあったのかもしれないが、二人は疲れてしまったので、もう子供は諦めたらしい。

 

 

「そもそも現代日本は子供を作ったほうが良いという風潮があるが、私に言わせてみればあれこそが化石化した考えだ。女性にお茶くみをさせる事くらいバカな考えなんだ」

 

 

とは言え、それは本心だったのか。今でも分からない。

隣の葡萄は果たして……。

 

 

「ベビー用品を処分している時の妻の表情は、今でも忘れる事が出来ない」

 

 

二人暮らしも悪くはないが、一度ペットを飼おうと提案した時がある。

犬でもいい、猫でもいい、少しは奥さんの心を癒してくれる存在を提案したが、断られたと言う。

 

 

「なぜか分かるか?」

 

「すいません、僕には想像も……」

 

「死ぬのを見るのが辛いらしい。ペットは人間よりも先に死ぬ。妻はこれ以上、失う事に耐えられなかったんだ」

 

 

クウガさんはブルブル震えていた。

だから死ぬわけにはいかなかった。メガリバースマシンを使えばクウガさんは死ぬ。

小型化しているメガリバースマシンの効果は小規模だ。

どうやら僕たち19人の命で蘇ることができるのはシュウくんと、ファイズさんが好きだった女の人らしい。

 

 

「妻を一人にはできない……!」

 

「………」

 

 

僕は何も言わなかった。と言うよりも、何を言っていいのかサッパリだ。

だからとりあえず、違う話題を口にする。

 

 

「クウガだけは捨てなかったんですね」

 

「………」

 

 

クウガさんは泣き始めた。静かに涙を落としていた。

 

 

「息子は死んだが、仮面ライダーは生きている。もしかしたらある日、息子が蘇るかもしれない」

 

 

よく、音楽を聞いて泣く人がいる。

それは音楽の歌詞に自分の人生をリンクさせたり、あるいはその音楽を聞いた時の自分を思い出して泣いているのだ。

それと近いものがあるのではないか。

 

 

「クウガを視る事を止めたら、仮面ライダーを視るのを止めたら、もう息子は帰ってこない」

 

 

どうやら彼は、相当頭が残念な人らしい。

大人になった今でも死者が蘇ると思っていたらしい。

あの日、あの時、予習の意味を込めてクウガを見ていた時の期待や喜び、溢れる未来予想図の情熱を忘れなければ、いつか神様が息子を返してくれると思っていたらしい。

 

だからクウガさんはクウガが一番でなければならなかった。

クウガは彼の息子さんが一番好きになる仮面ライダーの予定だったから。

故に、クウガを少しでも否定するものがあれば、命を懸けてでも戦わなければならなかった。

たとえ周りに嫌われようとも、たとえ愚かな行為とどこかで知りながらも。それでも彼は戦わなければならなかったのだ。

 

 

「子供と一緒に、見るはずだった。バカな話だ。蘇るんじゃないかと思っていた。だから一番かっこいいライダーを最初に見て欲しかった……」

 

 

おじさんがライダーベルトを巻いてうずくまり、メソメソと泣いている姿は酷く無様だった。

僕はもうお茶を頂いていたので、帰る事にした。

 

 

 

 

 

大いなる悟りがあった。

だがまだ至れない。しかし僕はもう雲に包まれた答えの前にいた。

しかしまだ見えない。家に帰った僕は、自室へ向かう。

 

 

「意外と早かったわね。もう終わったの?」

 

「うん」

 

「ベルト巻いて帰ってきたの? 周りにヤバイ人だと思われるわよ」

 

「うん。父さんは?」

 

「アンタが居酒屋行くっていうから、俺も行くって。多分まだまだ帰ってこないぞあれは」

 

「ふーん」

 

 

僕は自分の部屋に戻ると、押入れの中を至急ゴソゴソと漁り始めた。

取り出したるは、大人向けのデンオウベルトではなく、放送当事に買ったものだ。

 

 

「………」

 

 

クウガさんは良く分からない。

仮面ライダーを見るのにとても深い理由があったようだが、そんなのはただ疲れるだけだ。

他の人達だってそうだ。頭がおかしいのではないか? エンターテイメントなんて頭をからっぽにして、ただ楽しそうだから見て、楽しかったで終わればいい。

それをなぜかグチグチ理由をつけなければならないなんて、面倒な人達だなぁ。

 

 

「………」

 

 

嫌な感覚だった。これは不愉快な感覚だった。

僕はどうにも目の奥が熱くなる感覚が苦手だった。

 

 

「………」

 

 

いつからか、僕は気づいていた。

僕らはもう、仮面ライダーを視ることはできない。

僕らはもう、仮面ライダーを愛する事はできない。

ジオウの冒頭で、錆び付いたような石像になっている歴代ライダー達が並んでいたが、まさにあの様な光景なのだ。

 

 

あの日、僕らが輝いた瞳で見つめたものはもう――……。

 

 

「僕は何が好きだったんだろう?」

 

 

少し考えてみたが、分からない。何も理解できない。

分かる事があるのなら、僕の元にはモモタロスが来てくれなかったと言う事だ。

困った時にウラタロスは助けてくれなかったし、辛い時にキンタロスは励ましてくれなかった。

もちろん、リュウタロスの声なんて聞こえるはずもない。

ジークは僕の青い鳥だったのだろうか。はたまた……。

 

 

「僕達は……、惰性で愛していただけなんだろうか」

 

 

バカだなぁと思った。

なぜなら僕は既に知っていたからだ。

僕には、僕らには、大いなる悟りがあった。

きっとクウガさんも、それが分かっているからうな垂れていたんだ。

僕はそれを知っているから彼の家から出て行ったのだ。

 

それはもちろんクウガさんや僕だけじゃない。

逃げていったほかの人達も同じだ。きっともう彼らは分かっている。

大切な疑問の答えは出ないかもしれないが、もっと大きな悟りを感じていたはずだ。

 

 

「どういう事ですか! 話が違うじゃないですか! コンテストに出られないって何で!? はぁ!? アイツはだって……ッッ、ああ、はいはい! そういう事か! 結局最初から仕組まれてたって訳だ!」

 

 

僕は知らなかったが、ウィザードさんはその時、怒っていた。

 

 

「ねえ何で! 一生一緒にいるって行ったじゃん! なのに何で他の女がッッ!!」

 

 

ドライブさんは頬を殴られ、激しく悲しんでいた。

 

 

「ッッッ!!」

 

 

カブトさんが帰ってくると親が死んでいたらしい。

これらは一例にしか過ぎず、他の人達も同じだ。それはもちろん僕も。

僕らには大いなる悟りがあった。何を愛したのかはサッパリだし、僕らの心の行方も、僕には理解できない。

 

しかし唯一、分かる事があるのならばそれは……。

どうしようもないヤツらが、どうしようもなく愛したと妄想したものだ。

 

どうして電王を選んだのか。

どうして電王ベルトを見つめて瞳を震わせているのか。

どうして僕が電王さんとしてあの居酒屋に入っていったのか。

それは僕が電王だったからだ。

 

 

「ぁぁぁあぁあぁあっぁあぁ」

 

 

情けない声と共に、僕の目から涙が零れ落ちていく。

 

 

「お母さんに買って貰ったデンオウベルト……!!」

 

 

僕はそちらの方を腰に巻きつけると、家を飛び出した。

奇しくもその時、クウガさんは妻の目を真っ直ぐに見てこう言った。「行って来ます」と。

 

 

僕は走った。僕らは走った。

 

 

父よ、母よ。どうか、バカな息子をお許しください。

母を抱きしめず、父に感謝の言葉を述べずに、僕は今、高校生にもなって玩具を腰に巻きつけ全速力で走っている。

しかし僕は今、このベルトを本当に巻く資格があるのです。

それが、あなた達の息子が憧れた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたな。まさか全員戻ってくるとは! いや素晴らしい!」

 

 

僕には大いなる悟りがあった。

 

 

「ん!? ンンッ!? な、なんだ!?!?」

 

 

僕らには大いなる悟りがあった。

 

 

「ば、バカな! それは玩具では無かったのかッッ!?!!?」

 

 

ビルドさんの数式が僕らの作戦を皆に伝えてくれる。

あの時、両親に買って貰ったデンオウベルトを見たとき、僕は全てを思い出した。

 

僕はあの時、紛れも無く仮面ライダー電王だったんだ。

 

そして今、僕はそのベルトを身に着けている。

だから今、僕は仮面ライダーなのだ。それはきっと他の人達も同じはずだ。

だから僕達は変身できたのだし、今こうしてあのモグラロイドに向かっていく。

 

 

僕は今、仮面ライダー電王だ。

 

 

仮面ライダーがどうして救いを求める子供の手を振り払えるのだろうか。

そしたら、どうして過去の僕を否定できるのだろうか。

どうか今一度、ジオウのOP映像を目に焼き付けて欲しい。錆び付いていた銅像が剥がれ落ち、輝き溢れる戦士が見えた時、僕はライダーになれる。

 

 

「ウアァァアアア!!」

 

 

モグラロイドの攻撃が僕達を簡単になぎ倒し、みんなの鎧が剥がれ落ちていく。

迫るエネルギーが見えた。ダブルさんが守ってくれた。カブトさんが守ってくれた。

龍騎さんと鎧武さんが協力してモグラロイドにしがみついていた。

オーズさんが守ってくれた。他の人達も守ってくれた。どうやら彼らは、僕の想像以上に良い大人だったらしい。

 

 

「離せ! 自分のしている事が分かっているのか!」

 

 

ディケイドさんとキバさんは、モグラロイドに殴りかかっていた。

皆が倒れていく中、僕は走る。バイクはないが、心にはあった。

僕は必死に魂のアクセルグリップを捻った。

 

 

「バカ共が!!」

 

 

モグラロイドはディケイドさんたちを吹き飛ばし、僕に切りかかった。

ダメだ、避けられない。そう思った時、フォーゼさんが守ってくれた。

 

 

「ぎゃぁぁあああ!」

 

 

悲鳴だった。フォーゼさんの鎧が剥がれ落ち。

けれども生身になっても彼はモグラロイドに掴みかかっていく。

攻撃されて血が出ていた。けれども彼は食い下がった。

 

 

「もういいから!」

 

 

僕がそう言ってもフォーゼさんは諦めなかった。

どうしてそこまでして? 僕が叫ぶと、フォーゼさんはなぜか笑っていた。

それがモグラロイドは不愉快だったのか。フォーゼさんを叩いた。フォーゼさんは血を流し、歯がボロボロと零れ落ちていた。しかしそれでも笑っていた。

ああ、可哀想に。頭がおかしくなってしまったんだ。そう思ったが、それは少し違っていた。

 

 

「貴方は、ぼくをッ誘ってくれた! そんなのッッ、は、はッ、はじめてだったから……!!」

 

 

そうか……。僕のやった事は、間違いでは無かったのだな。

仮面ライダーを好きと言うのは、実に下らないことだ。「私ィ、実は結構まつ毛が長いんですよぉ」みたいな会話の内容と同じくらい、それは下らないことだ。

 

だから僕らの意味も、僕らの価値も、それは全て僕らだけのモノだ。

眩い世界が見たくて、僕らはテレビの電源をつけた。

ライダーと共に生きた。だから、僕がライダーを好きなった意味も、今日のこの日の為だったのかもしれない。

 

 

「ガァアアア!!」

 

 

雄たけびをあげて、ファイズさんがアクセルフォームでモグラロイドをぶっ飛ばした。

 

 

「今だ! 電王ッッ!!」

 

 

そうか、今なのか。僕はそう思った。

するとモモタロスが見えた。僕のモモタロスだ。僕だけのモモタロスだ。

君は一体、何で出来ているのだろうか。

僕はその時、何を愛する事が出来るのだろうか。

 

 

「!?!??!?!」

 

 

デンライナーが僕らを連れて飛んでいく。

それはまるで銀河鉄道だ。僕らはジョバンニなのか、それともカムパネルラなのか。

いずれにせよ二人はコールサックで答えを出した。求めていたものとは違うかもしれないが、僕らはいずれゴールにたどり着く。

 

僕らは過去の時間にやってきた。

そしてキバさんが生み出したキャッスルドランに突っ込んだ。

これは全て計算どおりだった。ここで世界は切り離される。

ディケイドの破壊の力が、キャッスルドランを独立した惑星へ昇華させる。

 

この世界の人口は少ない。

なぜならばキャッスルドランの中が全てだからだ。人間は僕らと19人と、モグラロイドだけ。

後は死体のシュウくんがデンライナーに積まれている。

 

 

「調子に乗るなよ人間共!!」

 

 

怒られた。ファイズさんがやられてしまった。

気づけば皆、虫の息だった。残っているのは僕と震えているゴーストさんだけだった。

ゴーストさんは消えたかったらしい。女の子は悪口ばかりらしい。

でも男の子だって案外そんなものだよ。

 

だから別に、そういうのは気にしなくても良かったんだよ。

 

ああ、そんなの都合のいい台詞だね。

ごめんね。キミも僕ももうすぐ死ぬけど、でもそれでも僕はキミを守るよ。

それくらいしかもう、僕に出来ることはないから。

でも情けない話。僕は喧嘩が弱い。だからすぐに負けてしまった。

電王が崩れていく。せっかく買って貰ったデンオウベルトがバラバラになってしまった。

 

モモタロスが帰っていく。

いかないで! 僕は叫んだけど、モモタロスは手を振って帰っていってしまった。

それは正しいことなのだろうか。でも僕は嫌だった。でもモモタロスは帰ってしまった。

そういうものだ。そういうものか。

違う。僕は嫌だった。だから――、僕は……。

 

 

「違うだろ」

 

 

モモタロスは背中を向けたまま僕に言った。

 

 

「俺は背中を押してやるだけだ。最後まで俺に甘えるのは止めろ」

 

 

じゃあ一体、僕はどうすれば……。

 

 

「お前の怒りはお前のものだ。お前のやりたい事はお前のものだ。お前の感情は電王の感情じゃない。お前だけの感情だ。良太郎だってそうした。電王はもう終わったんだ。お前はもう子供のお前じゃない。お前が巻いたデンオウベルトは親に買って貰ったものだ。お前はきっと心のどこかで俺達の存在を信じてた。でもそれは昔のお前であって、今のお前じゃない」

 

 

そうか、僕は悟ってしまった。だからモモタロスは手を振って消えていったのだ。

もう仮面ライダーが好きだった昔の僕は死んでしまったのだな。

幼稚園児の僕の視界は、もう僕のものではない。

 

 

でもその時、僕は確かにシュウくんを見た。震えるゴーストさんを見た。

 

 

シュウくんには、僕がかつて見たものと同じ物を見て欲しかった。

僕はもう二度とそれを見ることはできない。ゴーストさんに仮面ライダーが好きと言って、見せた笑顔を、僕はもう永遠に浮かべることはできない。

昔の僕の感情を、僕は再現しようとしていたけれど、それはもう一生不可能なことだ。

過去の感情を嘘で欺いてきたつもりだけど、それはやはり無駄なことだ。

 

彼にとっての仮面ライダーは未来であり、僕にとっての仮面ライダーは過去だった。

錆び付いていくのは当然だったのか。

 

でもだからこそ僕はシュウくんを救いたいのだ。

彼には未来の世界に飛び込んで欲しい。どうか電王を見て面白いと思って欲しい。

そしてあわよくば、やはり僕は、ゴーストさんと付き合いたかった。

その全てを満たす力が、ただ一つだけある。

そうだ。今、この狭い世界。僕を救えるのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーだけだ。

 

 

『ジオウドライバー』

 

 

手に、硬い感触があった。

使い方はご存知のはずなので、僕はそれを腰に巻きついた。

 

 

『ジ・オウ』

 

 

時計の針が動く。

チクタクと音を立てる。

僕はその時、確かに時間の波を捕まえた。

 

 

「変身ッ!」

 

 

僕の刻が動き出す。

全てがクライマックスだった。

 

 

『カメン・ライダー!』『ZI-O』

 

 

どうやらモグラロイドは驚いて言葉を失っているようだった。

僕もそうだ。しかし体は動いている。

 

 

「これっ! 使ってください!!」

 

 

ゴーストさんは、ゴーストライドウォッチを投げた。

僕はゴーストアーマーを身に纏うと、プカプカ空中を浮いてモグラロイドに迫っていった。

 

 

「なぜだ! 一体なぜお前がジオウに――ッ!」

 

 

その時、モグラロイドも何かを察したようだった。

 

 

「そう、か。なるほど……、見事だ!!」

 

 

僕はモグラロイドを掴み、動きを止めた。

その隙にディケイドさんとキバさんが最期の力を振り絞って、モグラロイドが身に着けていたメガリバースマシンを作動させた。

 

本当は彼らが使う予定だったので、操作方法は覚えていたらしい。

モグラロイドは範囲外に逃げるつもりの予定だったが、もうこの隔離された世界に逃げ場なんてない。せっかくなので、彼にも生命エネルギーを提供してもらおう。

 

 

「ねえ!!」

 

 

ゴーストさんが叫んだ。

 

 

「貴方のッ、本当の名前! 教えて!!」

 

 

僕は名前を叫んだ。

しかしなぜか、それは僕の本当の名前ではなかった。

なぜだろう? 僕は彼女に嘘を言うつもりは無かったのに……。

一方でモグラロイドは諦めたのか、笑っていた。

よく分からないが、僕の名前を聞いて全てを諦めたらしい。

 

 

「見事。見事だ! やはり人間ッ、虫けら並みの――」

 

 

申し訳ないが、最期まで聞いてあげる事はできなかった。

それよりも早くメガリバースマシンが働き、僕らの命は消え去った。

 

ディケイドさんが死んだ事で分断されていた世界が戻る。

世界には修復力があるようで、二つに分かれた世界は、吸い寄せられるように融合して元に戻った。

死ねば力は、存在は消えてしまう。

 

だからシュウくんは、パチンコ屋で目を覚ました。

お客さんたちはびっくりしたはずだ。フィーバー中にごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19人の人間が行方不明になった事件は、それなりに話題になった。

多くの人が悲しんだし、クウガさんの奥さんは泣いていた。

でも彼女はそれでも、一つだけ希望を見ていた。

 

 

「夫はずっと過去に縛られていました。でもあの時、最後に行って来ますと言った時、彼は確かに先のほうを見ていました。私はそれが嬉しかった。何かが夫を変えたのだと思っています。彼は確かに意味のある事をしに行ったのだと思います。だから私は、彼を待ち続けます」

 

 

日曜日のインタビューだった。

テレビでは、仮面ライダーが放送されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「僕らのしたことは正しかったのかな」

 

「んー、どうだろ?」

 

 

僕が何故クウガさんの奥さんのインタビュー内容を知っていたかと言うと、それは見ていたからである。仮面ライダーのありがたい所は、ゴーストと言う作品において、死後の世界が確立されたことだ。

 

僕とゴーストさんはプカプカ浮遊しながらデートをしていた。

まあとは言え、いつまでもコチラにはいられないらしいので、もうすぐ僕らはもっと上のほうに行かなければならない。

 

 

「向こうにゲームとか漫画ってあるのかな」

 

「わかんない。でも私がいるからいいでしょ?」

 

 

無事に付き合えたことは嬉しいのだが、やはりゴーストさんはメルヘンでメンヘラな女の子だった。

 

 

「一生、永遠に、いつまでも一緒にいようね……」

 

 

文字通りの意味だった。

 

 

「離れないでね。ずっと傍にいてね。裏切らないでね。もしも見捨てられたら、わたし、たぶん、貴方を呪い殺すかも……」

 

(もう死んでるけど……)

 

 

先に上へ行ったファイズさんはゲロ吐きそうと言っていたが、僕としては初めての彼女だったので全く気にならなかった。ゴーストさんはやはり可愛いのだ。だからオールオッケーだった。

 

 

「………」

 

 

しかしなぜ僕はジオウに変身できたのだろう。

そして記憶が確かならば、ジオウドライバーではなく、ジクウドライバーだったような気がするんだが……。

 

 

「!」

 

 

その時、僕は大いなる可能性に気づいてしまった。

そうか、なんと言う事だ……。

たとえばヒーロー……、そう、そうだ。例えばウルトラマンは個人だ。

でもライダーはそうじゃない。

 

 

では、もしかしたら僕が、この僕こそが――……。

 

 

僕は思わず身震いした。全身に鳥肌が立った。

この仮説が正しければ、それは恐るべき答えになる。

戦慄の中、僕は振り返った。空から世界が見渡せた。

随分狭い世界だった。

 

 

「いや……、そうか」

 

 

僕はフッと笑みを浮かべた。

そしてゴーストさんの手を引いて空へ昇っていった。

曙光の中へ、僕らは一足お先に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメンライダー02 次王への曙光     END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合わなかったな」

 

「……ええ」

 

「なぜあの子供の記憶を消した」

 

「……なんとなく」

 

 

公園のベンチに座っていた剣崎は、ため息をついてサングラスを外した。

隣に座っていた渡はずっと遠くの空を見つめている。黒い服を着ている剣崎、白い服を着ている渡。 二人の間に、炎が迸った。

 

 

「ケルビム……!」

 

 

天使が舞い降りた。

 

 

「ごきげんよう」

 

「なにか用ですか?」

 

「ジオウが生まれてしまったね。大丈夫かな、君たちの苦労も増える」

 

 

ケルビムは渡達の背後を見つめる。虚空にジオウを見ているらしい。

 

 

「皮肉が効いてる。仮面ライダーらしくないと言う意見が積み重なり、一目で仮面ライダーだと分かる姿が生まれた」

 

「後輩ながら凄まじいデザインだとは思ってる」

 

「だが問題はそこではない。ディケイドの誕生と同じく、これより世界創造が加速するのではないか。私はそれを危惧しているのだ」

 

「………」

 

「ただでさえ一人足りない」

 

「津上のヤツはもともと放浪癖があるからな」

 

 

しかし事の重大さは理解している。

渡は目を閉じ、静かに言った。

 

 

「我々は、ゴールデンサークルを破壊します」

 

「……成る程、それも一つの答えか」

 

 

ケルビムは炎となり、消え去った。

渡はため息をつくと、隣のベンチを睨みつけた。

 

 

「と言うことですので」

 

「………」

 

 

そこには門矢士と、常磐ソウゴが座っていた。

 

 

「世界は増え続ける」

 

「ああ」

 

「我々はそれを止めなければならない」

 

「だろうな」

 

「でなければ世界は終わる」

 

「嫌だな」

 

 

適当な士の返事に、渡のイライラメーターが急激に上昇する。

居心地が悪い。剣崎は大きく、そしてわざとらしく喉を鳴らした。

 

 

「分かっているのかディケイド! ジオウ、お前もだ!」

 

「ああ。だいたい分かった。なあ?」

 

「うん、分かってる気がする」

 

 

キレそう。

渡の顔に大量の青筋が浮かんでいた。

 

 

「まあ落ち着け紅。常磐(コイツ)の物語はまだ始まったばかりだ。応援してやるのが先輩の役目じゃないのか?」

 

「……本音を言えば、貴方を含めて、ジオウは消しておきたいんですがね」

 

 

渡の言葉を受けて剣崎が立ち上がった。

士はうんざりしたような表情を浮かべると、ソウゴを連れてさっさとオーロラの中に消えていった。

 

 

「お前はあの二人みたいな王様には絶対になるなよ!」

 

「え! あの人達王様なの!? 戻してよ! 話が聞きたいんだ」

 

「やめとけ! 消し炭にされるぞ!」

 

 

士は後ろにソウゴを乗せて、マシンディケイダーを走らせていた。

 

 

「でもどうしてあの人達、あんなに怒ってたんだろう……」

 

「俺達の存在は起爆剤だ。他者の心を動かし、中にはダメにしてしまう。なによりも世界にとって、それは……」

 

「大丈夫。おれは最高最善の魔王になるから。まあ()てて」

 

「だといいが」

 

 

士は曙光を睨みつける。

 

 

「いいか? これからお前は様々な神に祝福され、様々な神に呪われる」

 

 

多くの神々の魂に火をつけるだろう。

しかしそれがどう転ぶかは分からない。その炎が身体を突き動かすエネルギーになる者もいれば、その炎に焼き殺される者もいる。

既に多くの青い鳥が鳴き声をあげて飛び立った。

怒りが迸り、喜びが乱舞し、悲しみと笑みが交差する。

 

 

「中にはお前を否定する為に一年ほど張り付いてくるヤツもいるぞ。気をつけろよ。お前の王の器が試される」

 

「なんかちょっと面倒だね」

 

「だろ? でもそれが――……!」

 

 

仮面ライダーなんだ。

そして、マシンディケイダーは光の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 




ジオウが盛り上がろうとしている中、申し訳ありません、このような萎えさせてしまう内容で(^U^)

ただランキングが発表されて多くの人は「おおー」くらいで終わるものを、中には真剣に考えている人を見かけました。
我々は途方も無い物語の中を生きる故に、多くのザワザワとした感情に苛まれます。
ライダーファンが故に味わう、この言いようも無い不安感を、どうか少しでも感じていただけたら幸いでございます(´・ω・)


あと本編では否定してますが、僕はげんとくんのTシャツネタが大好きです。
あとクソダサファッションもメチャクチャ好きです。一人で流しそうめんしてる所は声出して笑いました。
しかしツイッターや掲示板を見ていると、ああ言うのが苦手な人もいるみたいですね。
ここがまあ、良くも悪くも面白いところだと思います。

あとジオウOPの絆(ひかり)が、『痛み』に空耳するのが面白いと思いますぞ!



あとこれは他作品も読んでくれてる人向けなんですが、なぜジクウドライバーじゃなくてジオウドライバーだったのかは、また別の機会に触れたいと思います。
ただそこまで重要な理由ではないです、「ほーん」くらいなので、全然期待しないでください(´・ω・)b




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