前線小話   作:文系グダグダ

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「そういえば、指揮官さんは本来は口数が少ないんですね。

 AR小隊の補佐役の時は指導でかなり喋っていたと思うんですけど」

 

 ある昼下がり、M4A1は指揮官にコーヒーを淹れていた時に零れた言葉である。

 

「そうだな」

 

 指揮官は肯定で返す。

 AR小隊によって救出された指揮官は、彼女たちが所属する16Labの長であるペルシカリアの計らいにより治療及びリハビリテーションを実施していた。

 体調の快復を条件にAR小隊を指導するための補助要員として随伴することを要請されていた。

 

 今でこそのんびりと業務に携わるだけではあるが、目覚めた当初は自身の能力を売り込まざるを得ない状況であり、それこそ何ふり構わなかったのであまり慣れない事でもやっていたというのが真実なのだが……

 目の前のM4A1も当初と比べたら随分とこちらに対する態度は柔らかくなってきたものだと指揮官は思った。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「これより、この小隊の補佐役として配属されることになりました。

 名目上は指揮官ではありますが、よろしくお願い致します」

 

 特殊な戦術人形だけの隊に入る引け目を感じさせず、だからといって偉そうな態度をとるわけでもない。

 出撃まで待機していたAR小隊用の天幕に入ってくるなり、堂々と彼は名乗りあげた。

 

 AR小隊の救援を成功させ、ペルシカリアからの信用を勝ち取ったらしい彼。

 M4A1は事前に彼女から聞いており、『彼なら必ずM4達の役に立つはず』や、『彼の戦闘能力から学ぶべきこともある』とベタベタに褒められていたのを思い出した。

 

「お疲れ様です、私がAR小隊長のM4A1よ。よろしくお願いします」

 

 不審な様子を隠さないAR-15とM4SOPMODは訝しむ様子で指揮官とM4A1の握手する様子を見ていた。

 

「あの時の奴か! この前は世話になったが、一人で敵陣に突っ込まないようにお願いするぜ」

 

 握手が終わると、指揮官とM4A1の間に割って入るようにM16A1は指揮官に言葉を投げかける。その言葉にはわずかながらの棘があり、言外に『お前は信用できない』と言っているも同然の言葉であった。

 

 あのペルシカが人間の評価をあんなにも嬉しそうに言う様子はM4A1は一度も見たことがなかった。なので、正直なところM4A1は指揮官のことは半信半疑であった。

 

 それは他の小隊も同じようで、みな怪訝な表情を浮かべていた。

 

「了解しました。肝に銘じさせておきます」

 

 M16A1の皮肉もどこ吹く風か、まるで通じていないように素知らぬ顔で受け流す指揮官。

 その余裕ぶった態度がM4A1には少し気に入らなかった。

 

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

「隊長、周辺の偵察は完了しました。敵の配置図、編成をデータリンクさせておきます。

 奇襲による先制攻撃のプランも既に用意しております」

 

「そうですか、随分と早いですね」

 

 偵察から帰ってきた指揮官は随伴していたSOPMODとAR-15の2人と軽くやり取りをした後、M4A1にそう報告をした。

 

「確認及びご検討を願います。自分は歩哨として付近を見て回ってきますので」

 

 送られてきたデータには指揮官の宣言通り、敵の配置図や編成の他に各種地形や遮蔽物のデータ等事細かに入力されていた。配置図には付近の敵の指揮系統を担っていると思われる部隊や、火力の要となる部隊も記されていた。

 去っていく指揮官と入れ替わりにSOPMODとAR-15がM4に駆け寄ってきた。その様子はどこか落ち着きのなく、気分が高揚としてた様子であった。

 

「凄いよM4! あの人、私がまだ鉄血部隊を見つけていなかったのにもう見つけたんだよ!」

 

「本当なの? AR-15?」

 

「ええ、事実よ。数も正確に言い当ててました。

 データリンクの情報も確認してます。十分に信用できるわ」

 

「M16姉さんはどう思います?」

 

 M4達と同じく、データリンクの情報に目を通しているM16A1はしばらく考えた後に答える。

 

「このデータが本当に有用なら、戦いを有利に進ませられる。配置を見ても鉄血共の考えそうなことだし、理にかなっている。

 指揮官は信用できないが、私はこのデータを信じてみようと思う」

 

 興奮の収まらぬ2人を他所に、M4A1はM16A1の意見を決定打に奇襲による先制攻撃を採用した。

 その後、合流した指揮官の手引きするままに行動を起こすと、鉄血部隊の大勢は見事その通りの数と規模であり、奇襲によってその要となる兵力を喪失し、指揮系統が混乱。そのまま潰走させることに成功した。

 最初はしきりにM4A1とM16A1はその情報を疑いながら警戒を怠らなかったが、実際にはほぼ完璧に情報と合っていた鉄血部隊を目の当たりにして、指揮官の横で銃器を構えながら驚く。

 

 M4A1は戦闘からの帰還後、何故わかったのか指揮官に聞いてみたところ。

 

「経験だ」

 

「でも、正確な数までは難しいのでは?」

 

「現在の状況で敵がこの場所を攻めるに適した人数や、装備からある程度は判断できる。

 索敵に行ったのは実際にその判断が正しかったか、どれぐらいのズレがあったのかを確かめる為の答え合わせのようなもので、殆ど流れ作業のようなものだ」

 

 指揮官はそう答えると、最後にこう付け足した。

 

 ――隊長もその内、わかるようになるだろう、と。

 

  M4A1に対して、指揮官は別段どうということないという風に説明した。その後、彼女は『それじゃSOPMODⅡやAR-15より早く敵を発見出来たのもそうなのか』と、無意識に続けた質問に対して指揮官はこう答えた。

 

「その理由に関しては経験や慣れも必要だが、目には少し自信がある」

 

 M4A1は丁寧な態度をとる指揮官は言外に『お前の隊はまだまだ未熟だと』その目が語っているような気がしてたまらなかった。

 その後、ある作戦でAR小隊を支援するはずの担当区域の人間が鉄血部隊との急襲で戦闘中行方不明になった。

 その為急遽、指揮モジュールを持つM4A1が残存するグリフィンの部隊を指揮することになってしまった。

 少し前に、指揮統率の件で指揮官に注意されたM4A1は、意趣返しも含めて半ば吹っ掛けるつもりで指揮権を指揮官に委ねて見せた。

 

 結果は、ダミーリンクこそ被害はあったものの、M4A1の目の前で1体の損失を出さずに鉄血部隊を殲滅してみせた。

 

 グリフィンの人形達に指示を出すのはM4A1がやっていたので、その功績はAR小隊以外誰も知らないだろう。

 

 しかし、指揮官の傍にいたAR小隊にはわかった。

 

 敵の攻勢に対する捌き方、部隊の陣形の崩し方とそのタイミング。人形達の動きは見違えるほどに変わり、M4A1はこのとき初めて指揮モジュールによる連携という戦術の本質を理解した。

 

「この人は、本当に強いんだ……」

 

 掃討戦を終えて、グリフィンに戦闘終了後の報告として通信を入れて話している指揮官を横目に見ながらM4A1は呟いた。

 

 もしも体裁を保つ為に命令通りにM4A1を経由しての戦闘指揮ではなく、直接指揮を行えば、おそらくもっと早く、そして損失額も少なくこの戦いを済ませることができたであろう。

 そう確信を得たM4A1は、指揮官に次回の作戦行動では最初から指揮を執って貰おうと考え、本来は余所者である彼に頼るという恥からくるプライドをどうにか引っ込めて持ちかけてみた。

 

 ――指揮官の力を借りることができれば、M16姉さんもAR-15もM4SOPMODⅡも……AR小隊を誰一人たりとも失うなんて事は無いはず!

 

 自身の未熟さと指揮官との力量差を客観視して冷静に考えてみれば、その方が合理的ではあるとM4A1は判断した。

 

「……ここは誰の隊ですか?」

 

 感情を込めるわけでもなく、指揮官はそう言い放った。

 しかし、M4A1を見つめるその目は冷たく、はっきりと物語っていた。

 

 

 ――馬鹿が。

 

 

 直接口にしたわけでもないが、そういう風に言われた用に感じられた指揮官の視線にM4A1はまるで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。

 

 ――叱られた、AR小隊以外に、人間に、初めて……。

 

「……前言撤回します。

 余所者の貴方にはAR小隊は任せられないわ」

 

 本来の指揮官に任された仕事としてはM4A1を筆頭にAR小隊の戦闘指揮能力を向上させるための指導であり、AR小隊の隊長になるわけではない。

 

「そうだな」

 

 頭を冷やしてそう言い放ったM4A1を見つめる指揮官の視線は先程までとは打って変わって、温かいものに変わった。

 

 ――そうだ。ならば私を使うと良い。小娘。契約の続く限り、せいぜい面倒を見てやろう。

 

 彼女は指揮官のその視線からにそう言われた気がした。

 その後、M4A1は指揮官に近づこうと努力した。

 

「指揮官さん指揮官さん、この場合はどう味方を動かせば良いんでしょう?」

 

「味方を助けたい気持ちはわかるが加勢するのではなく、十字砲火を意識しなさい」

 

「指揮官さん指揮官さん、この間の人質救出任務はどうでした?」

 

「迅速な作戦行動だったが、人質の拘束が甘い。敵の偽装工作や寝返る場合もある。

 人質は味方ではない事を考えるべきだ」

 

「指揮官さん指揮官さんっ! い、今の訓練プログラム見てくれましたか!!

 昔に比べてこんなに能率が上がるなんて……っ!」

 

「ああ、ちゃんと見ている。だが無闇にはしゃいでは……落ち込むな、きちんと見ている。上出来だ」

 

「指揮官さん指揮官さん指揮官さぁんっ!!」

 

「外なら兎も角、ここは16Lab内だ。静かにしなさい」

 

 もっと、頑張らないと。M4A1は自分を奮い立たせる。

 

 ――強く、畏怖の念を起こさせるようなあの人。

 

 そんな指揮官に近づく為に。

 

 M4A1のその思いが強くなったのはある作戦のことであった。

 AR小隊単独での作戦行動を終えて基地に帰還する際、最寄りの飛行場との距離の関係上山岳地帯で一夜を過ごすことになった。

 その日の不寝番はM4A1であり、他のAR小隊のメンバーは眠っている。

 

「隊長、後は私が見張り役を引き受けよう。先に休むといい」

 

 ふと、背後から音もなく暗闇の向こうから指揮官が歩いてきた。

 まるで、暗闇と一体となったような雰囲気にM4A1は疲労から来た幻覚か鉄血のウイルスプログラムの仕業かと思った程である。

 

「指揮官、ごめんなさい。助かりました」

 

 心から感謝を込めて、M4A1は頭を下げる。他のAR小隊のメンバーの手前、強がって平気なふりをしていたが、今回の作戦行動での激しい戦闘や行軍に加えて、帰りは険しい山道を抜けざるを得ず、AR小隊一行は疲労のピークに達しようとしていた。

 

「でも、指揮官さんは……」

 

 見上げた先にいる指揮官は、ちょうど影になってて表情が伺えない。しかしその立ち姿はまるで疲労を感じさせない物であった。

 

 この指揮官は、M4A1は他のAR小隊なんかよりもずっと働いているはずなのにと彼女は今回の作戦行動を思い起こした。

 戦闘時はAR小隊の援護射撃や、側面に回っての強襲、敵をひきつけて十字砲火に晒させるための陽動や、敵の火点や増援を潰すための攻撃など多彩な役割を引き受けており、他の作戦行動中にも見張りや偵察などを行っていたりと指揮官には気力体力共に底が無いのではと思うほどであった。

 

「お構いなく、ゆっくり休むと良い」

 

 事実、待ち伏せ時には読み通り敵の側面をまんまと頂いていたり、偵察になどの行動に出た際には、本当に敵を発見したりすることが殆どで、1体2体との遭遇戦に至った場合はその場で返り討ちにするというのもよくあることであった。

 

 M4A1は眠りにつく前に一人淡々と見張りをこなしている指揮官の様子を見て思う。

 

 ――これも、また慣れの一言で片付けられるのだろうか?

 

 少なくとも、並の人間ではたどり着けない物だと彼女は思う。もし、こんな人が今も昔もこの世の中に溢れていたとするならば、戦術人形なんて物は不要になるのだから。

 

「……そういえば、わたしもなれるって言ってたよね」

 

 この人の……指揮官の立つ領域に、自分も踏み入れることが出来る。

 最早、疑いようの無い程に優秀で身近にいる存在。

 

 ――嬉しい、早くそうなりたいなぁ。

 

 今では厭味ったらしく聞こえた指揮官の言葉が、素直に自分の中に入ってくる。

 

 M4A1は確実に指揮官に惹かれていた。

 

「おやすみなさい……」

 

 いつか対等に肩を並べられる日が早く来ることを願って、M4A1は静かに眠りの中へ堕ちていった。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「え……なん、ですって?」

 

 指揮官から聞いた言葉が信じられなくてM4A1は声をだすことはおろか、呼吸すら忘れて呆然としていた。

 

「16Labとの、ペルシカリアとの契約期間が満了を迎えましたので、ここを去ろうかと

 ……籍と身分は発行していただいたので、今後は手頃なPMCに厄介になる予」「しない」

 

 M4A1の反応が悪く、指揮官は引き続きその後の身の振り方を口にしようとするのを彼女は反射的に遮った。

 

「……隊長?」

 

「……少し待ってて下さい。確認しますので」

 

 珍しく怪訝な表情を浮かべる指揮官から手渡された契約書を半ばひったくるように手に取り、懐にしまい込むと、M4A1はペルシカの元へと向かった。

 

 ――指揮官が、私の傍から離れる?

 

「……認めないから」

 

 M4A1は焦りの中でも冷静さを保つためにいつもの出撃装備に身を固め、愛銃を携帯して、16labの研究員や警備員がぎょっとするような表情を浮かべていてもまるでお構いなしにペルシカの研究室へとノックをせずに入っていった。

 

「やあ、M4。まるで今から直談判でも始めそうな顔をしているな」

 

 いつもと様相が異なる、切羽詰ったM4につかつかと詰め寄られても、平然とコーヒーのようなものを啜っている彼女とM4A1は向き合う。

 

「ペルシカ! 契約の件、継続するように取り計らって下さい! 彼は私の指揮官です!」

 

「へえ、いつの間にそんなに入れ込んだの? はじめは渋々って感じだったのに」

 

 詳しく聞くと、AR小隊から救出後、ペルシカの懇意によりここでリハビリをして体を再調整して、その間に籍を身分を提供する代わりに、戦闘能力と指揮能力をペルシカの為に使うという契約をしていた。特に指揮能力に関して指揮モジュールの習熟も兼ねてM4A1には特に力を入れて励んで貰うようにと……

 

 はじめはM4A1から紡ぎ出された言葉に驚きの表情をも見せるも、すぐに興味深い視線でM4A1をみるペルシカリア。

 

「指揮はまだ指揮官の足元にも及ばない! 彼みたいに偵察や指揮! 細やかな戦術、戦略眼を持つなんてもっと遠い!

 彼から学んでないものはまだたくさんあるのに……どうして彼を手放したりするんですか!?」

 

 焦りと想定外のことに苛立ちを感じながらも、必死に説得を続けるM4A1。

 ペルシカはコクコクと頷きながら、指揮官に薦めるPMCとしてグリフィンに入社するように話をつけておく事でM4A1に意見に同意を示した。

 

「滅多にない我が子のワガママだ。できるだけのことをやってみよう」

 

 満足気に頷きながら、作業を始めたペルシカリアを尻目に、M4A1は研究室を去って自分の部屋へと戻る。

 指揮官が居なくなるまで、まだ日数はある。今日は指揮官を驚かせてしまったが、彼はきっと明日には何食わぬ顔で自分の前に現れるだろうとM4A1は確信を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうここを去るなんてことは無いから大丈夫ですよ、指揮官。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大 好 き だ か ら 

 ず っ と 傍 に 居 て ね

 

 

 




おかしい、小生はベクターを書こうと思ったのにM4A1を書いてた……(池沼)
404小隊のやべーやつが隊長だしAR小隊のやべーやつも隊長にしなきゃ(使命感)
忠犬は忠犬でもSOPMODのお姉さんだしまあ、多少はね?

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