前線小話   作:文系グダグダ

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「はぁーい、指揮官~。私よ」

 

 とある集落を一望できる位置に陣取った404小隊は後方で待機している指揮官に連絡をとっていた。

 UMP45は専用の連絡機械で指揮官とコンタクトを取り、UMP9は双眼鏡やドローンで監視活動を、416は簡易キャンプとして陣取ったこの場を維持するため歩哨に立ち、G11は寝袋にくるまって仮眠をとっていた。

 

「ええ、ええ。私達は大丈夫。心配してくれてありがとね。

 それでね指揮官、お願いがあるんだけど手伝ってもらえないかしら?」

 

「うん、対象はクロ。迅速な即時抹殺が必要よ。

 けどダミーを展開して包囲しても逃げられちゃうかも?

 この間の指揮官の掃討作戦で少なくはなったけど、鉄血の人形がいないとは限らないし……

 指揮官、なにかいい案はないかしら?」

 

 ――UMP45と電話越しだが指揮官とのやりとりが幾らか繰り返された後

 

「そんなにしてくれるの?うれしぃ、ありがとね指揮かぁーん」

 

 指揮官との連絡機械をシャットダウンさせるUMP45。

 だが、妹であるUMP9は見ていた。指揮官と話す時だけは45姉の声色が柔らかく、口角を上げながら話をする様子を、そしてそれが無意識的に現れていることも。

 UMP45がここまで人を気に入るのも珍しいが、UMP9はそれなりに理由があると感じていた。

 

 汚れ仕事部隊や疫病神とも言われる404小隊をできる範囲で厚遇する懐の深さだけでは404小隊全ての好感を得ることはありえない。

 罠にかかり孤立した404小隊を見捨てずに駆けつけたり、ジャミング装置で遠隔で指揮を取ることができない地域に突っ込んだ404小隊を支援しに直接前線で指揮を取り戦闘に参加する。

 足を引っ張らず、404小隊と背中合わせに戦うことのできる特異な人間だからこそ興味が湧き、そして戦いを重ねる内に惹かれていった。UMP9も当然、その1人であると自覚している。

 

「あら?いらっしゃい、指揮官」

 

 暫くの後、指揮官が合流すると作戦会議が始まる。

 

「で、作戦の首尾はどうなるのかしら?」

 

 おおよそ事態を把握しているUMP姉妹と指揮官はともかく、歩哨に立っていた416と仮眠していたG11は詳しい内容は知らない。

 

「ああ、まずは集落一帯を砲爆撃に晒し抵抗力を落とす。

 これは比較的大きな建物やコンクリートの建物の破壊に務める」

 

 地図上に書かれている建物にばつ印をつけながら指揮官は話を続ける。

 

「そして次に白燐弾及びナパームで集落の周囲を中心に引き続き砲爆撃を行う」

 

 地図上に書かれた集落をムの字上に描いた。四方を囲むのではなく、敢えて逃げ道を作ることである程度相手の行動をコントロールしようという思惑であった。

 

「そしてキルゾーンを構築次第、抵抗勢力を殲滅、さらなる砲爆撃を加えた後、そのまま集落に乗り込み、残党勢力の掃討を行いつつ、対象の確認を行う」

 

 ムの字に展開する敵記号にばつ印をつけて、そのまま集落の建物一つ一つにばつ印を加えていく。

 

「UMP45と相談したのだが、これで良いだろうか?」

 

 一通り説明を終えた指揮官は416とG11に是非を問いた。

 

「ええ完璧よ。あとは私達が仕留めてみせる」

 

「やりすぎで怖い……でもいいよ」

 

 UMP9は満足そうに目を細めて指揮官を見つめる45姉をみる。

 UMP姉妹はじめ404小隊はこの指揮官から感じる匂いが多種多様にあることに気づいていた。そして、いま醸し出してる匂いのそれはUMP姉妹、ひいては404小隊にとってとても心地よいものであった。

 

 この指揮官の時折見せる、どんな人形よりも人形らしく、一切の無駄を省き、完璧な合理性を秘めた殺人マシーンのそれにも404小隊達は大なり小なり魅了されていたと言えよう。

 

 各種支援要請を取り次いだ後、集落をドローンによる監視網と、ダミー人形部隊による簡易的な包囲態勢を敷いた後に指揮官と404小隊は予め設定されたキルゾーンで待ち構えた。

 

「最終確認を行う。各種チェック」

 

 指揮官の号令に対して、各員それぞれが答える。

 

「UMP45指揮モジュール問題なし」

 

「UMP9ドローン制御問題なし」

 

「416、G11共に各種武装の問題なし」

 

「あ、言われた。G11、眠気なし」

 

「了解した。作戦行動を開始する。

 【各種支援を要請する。グスタフ、グスタフ、グスタフ】」

 

 指揮官が妖精達に支援要請を出してそのまま通信を切ると、この集落で一番大きい建物である教会の鐘塔が爆発し、崩れ去った。

 次に、兵舎、見張り台、戦場後から拾って直したであろう軽車両に砲弾やロケット、爆弾が降り注ぐ。

 

 被害を受けているのは潜んでいたテロリスト達だけではない。

 

 とある家族は聞いた事の無い轟音に自宅で怯えつつ、屋根に直撃し飛び込んできた砲弾の爆発によって全滅した。

 路地裏に隠れていた花売りの少女が爆風によって切り刻まれ、同じく近くにいた浮浪者も飛び出した破片で強打し絶命する。

 たまたま居合わせてしまい、悲鳴を上げて必死に荷車を引きつつ避難中だった行商人が、彼の命より大切な商売道具や商品ごと粉砕される。

 近隣住民が集まった教会の建屋がとうとう直撃を受け、そこにいた十世帯が全員致命傷を負い、かろうじて重傷を負った数人の大人と子供が、立ち込める粉塵に咳き込む事すらできずに死を待つ。

 なんとか事態を把握し統制を保った難民たちが避難中の区画に数発の砲弾が落ち、爆発とそれによる破片でその時そこにいた数十人余りを全滅させる。

 

 民家という民家が軒並み叩き潰され、商店が燃え上がり、急ごしらえの公共設備が砕かれ、粗末な軍事施設が崩壊する。

 

 逃げ惑う人々の頭上に爆装した空爆妖精が現れ、開けた場所や無傷の建造物めがけてナパーム弾を投下していき、炭人形を作り上げていく。

 崩れた建物に白燐弾が入り込み、簡易シェルターにいた人々を焼き殺し、窒息死させる。

 周囲に展開した部隊に追随している砲撃妖精が迫撃砲を次々と放ち、十分な殺傷能力を持った砲弾を降らせていく。 十二分に弾薬を満載した砲撃妖精と火箭妖精は、初撃で打撃を加えた後も休むことなく砲弾とロケットを撃ち込み続けた。

 

 無秩序に見えて、彼らの攻撃は作戦通り計画的に行われた。

 

 そして、彼らにとっては大変に不運な事に、グリフィンは決して対地攻撃能力に特化した組織ではないが、砲爆撃で無防備な集落を破壊しつくすには十分な火力を持っていた。

 

「前方に避難民と思われる集団! 数およそ20!」

 

 ムの字に形成されたナパームと白燐の壁から逃げるように、這い出た人間が指揮官と404小隊めがけて殺到する。

 

敵だ(・・)。撃て」

 

 416に対して指揮官は即座に応答する。

 

 吹き上がる銃火、湧き上がる悲鳴。

 

 ――これでいい。

 

 指揮官は404小隊の戦闘能力と士気の高さに安堵した。

 本来であれば民間人への攻撃は重大な戦争犯罪である。

 だが、この街へ攻撃を行う指揮官及び404小隊たちには、民間人に対する無差別攻撃が正式に書類で命令されている。

 

 その理由は、ただ一つ。

 

 あるテロリストグループが、正規軍やグリフィン、他PMCの情報を鉄血の人形共へ伝えたからである。

 本来ならば、この周辺は鉄血の勢力圏内ぎりぎりのところではあるが、彼らは人類を売り渡すことによって、仮初の平和を掴んでいた。

 そして、平穏な土地に流れ着いた難民がそこで定住しはじめ、彼らはその安い労働力を用いて、違法な銃器や麻薬などの栽培を始めた。

 

 第三次世界大戦という未曾有の被害に晒された人類たちは、2000年以上に渡って積み上げられた科学技術やテクノロジーを復活させ、それを用いて文明再建、そして復興していかなければならない。

 

 しかし集落に居た彼らは人類の生活圏が縮小しあらゆる脅威に晒されながらも抵抗を続ける中、自分達のやっている事が何を招くのかを予測できなければいけなかった。

 あらゆる武力を用いてでも、どんな犠牲を払おうとも、人類の生存圏を確立しなければならなかった人類は、自分たちのアドバンテージや生存圏を守るためになんでもするのだ。

 

 例えて言うなら、必要があるのであれば、結果的に罪の無い一般市民を、女子供だろうが容赦なく虐殺し、市街地を破壊し尽くすような事を。

 

 そのような状況において、指揮官は幸運だった。

 昔から現在まで、常に第一線でありとあらゆる状況下での戦闘をこなし続けており、彼も404小隊も、目の前の敵と定義された者に対して攻撃する事に抵抗感も罪悪感を持っていない。

 

 ――それが見るからに非武装の、明らかに戦意が無い避難中の女子供であったとしても。

 

 ありとあらゆる実戦経験を積んでいたことで戦闘能力に磨きがかかり、精神が摩耗し、どのような命令であろうとも、できるだけ効率的に実行できる。

 

 ――おおよそ指揮官は人間としては不幸かもしれないが、少なくともこのような戦争を行う軍人としては大変に幸運だった。

 

 そして残酷な事だが、些細なレベルであっても現体制に抵抗する術や知識を持つ人々は、これ以上取り返しがつかない前に抹殺しなければならない。

 これを防ぐことが出来なければ、今後の人類の活動に悪い影響が生じ、ひいては人類文明が滅びる遠因になりかねないからである。

 ある意味で、そこまで発想が及ばなかったことは、この集落の人たちにとっては幸運だったかもしれない。

 自分達の責任で、遠くにいるであろう自分の親しい人々全員が、どこまでも追いかけられて殺されなければならなくなった事実を理解する事は、余りにも辛すぎる。

 

「最後の砲爆撃だ」

 

「ここ以外で逃げ出してる人間は居ないよ指揮官」

 

「そうか、ナイン。そのまま続けてくれ」

 

 UMP9はそのままドローンの制御に集中し、そして他の404小隊は確実に命を奪うために倒れて残り少ない命を燃やしながら蠢いている人々にきっちり鉛弾を撃ち込んでいく。

 

 指揮官は双眼鏡を構えなおす。

 今の彼には、自分の指示が現実世界に与える影響を目視する必要があるからだ。

 

 一つ石造りの建物が倒壊し、また別の建物が直撃を受けて破裂している。今ので何人死んだのか。そして、これから何人死ぬかと思案する。この段階で1人でも多く殺しておかないと、あとで自分達が苦労するのは自明の理であるからだ。

 また大きな建物が榴弾の直撃を受けて炸裂した。形状からして、屋内に人がいたとすれば20人はいただろう。

 最優先事項である鉄血のハイエンドモデルを保護・修理し今のような関係を結んだという対象がいたとしたら、瓦礫に埋まっていない事を祈るばかりだと指揮官は思った。

 

 他人事のように指揮官が思案を巡らせてる間にも攻撃は継続されている。

 砲撃妖精と火箭妖精、空爆妖精による支援攻撃のフルコースは実に効果的であった。

 

「ねえ、指揮官」

 

 双眼鏡を構えている中、隣にいるUMP9が話しかける。

 

「どうした?」

 

「指揮官は怖くないの?」

 

 双眼鏡から離れてUMP9の顔を見る。いつも明るく豊かな表情をしている彼女にしては珍し、く目尻を下げて不安げな表情を浮かべていた。

 

「私達は同胞を撃つのを防ぐ為のプロトコルを外されているわ。

……でも、指揮官はなんで怖くないの? なんでいつもみたいに平然と仕事ができるの?」

 

 どうもUMP9に心配されているらしい。と、指揮官は感じた。

 指揮官は双眼鏡を構え直すと、こうつぶやいた。

 

「……初めて明確な意思をもって能動的に人間を撃った時、それによって生じた驚きや衝撃を数字に換算するなら100としよう。私も初めはそうだった。

 もちろん、うろたえるわけにもいかない。自身に与えられた仕事である指揮や戦闘行為はきちんと行っていた」

 

 UMP9の生唾を飲み込む音が聞こえる。

 

「次は半分の50に、その次は25に」

 

 指揮官はそこで噤んだ。これで終わりだと言わんばかりに双眼鏡を構え直すと、砲爆撃と焼け死に、逃げ惑う住民が次々に虐殺されていく経過を観察している。

 

「……指揮官、その次は」

 

 UMP9は指揮官の言葉に茫然とするが、やがてその言葉の意味を理解したらしい。しかし、UMP9は最後まで言わなかった指揮官に対して興味本位なのか、聞かなくてはいけない義務感に駆られたのか、おずおずと尋ねた。

 それを聞いた指揮官は双眼鏡から目を話すと、ゆっくりと首を動かしてUMP9を見据えた。

 

「その次?」

 

 UMP9は指揮官の眼を見て、得も言われぬ不安と寒気に襲われた。彼女自身は理解していなかったが、このときのUMP9はおおよそ生物に備わるような本能的な恐怖を感じていた。

 指揮官は404小隊に合流してからずっと、別段表情も立ち振舞も、声色も何もかもがいつもと変わらないと言うのに……

 UMP9は体が震えてるのを自覚した。肩や膝、手に持っているドローン用の端末はふるふると震えている。

 

――おかしい、この人は普通の人間だ。

 

 UMP9はメンタルモデルからしきりに発せられる危険信号を必死に理性と思考で押さえつける。

 

――だが今、指揮官のその身にまとう雰囲気が明らかに普通の物ではない。

 

「もう感じない。そこまでくれば、もう大丈夫だ」

 

 とんとんとUMP9の肩を叩き、指揮官は続ける。

 現実に引き戻されたUMP9の体の震えは収まり、先程のおぞましい雰囲気はなくなっていた。

 

「善や悪というものの尺度に、戦闘とはそのいづれかに当てはめることはできないと気がつく。

 必要な行動を必要なだけ行う。自分ができることをする。そうすれば自分も仲間も危険に晒すことはない」

 

 それだけ言うと、指揮官はM1897(トレンチガン)を構えた。

 

「砲爆撃は終了した。これから突入し、残りを掃討する」

 

 




後半へ続く

某氏も言っていたのですが、感想を貰えますと実質中の人の執筆力のガソリンになるので感想が欲しいです(欲張り)
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