前線小話   作:文系グダグダ

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「動くものは何でも撃て。責任は私が持つ」

 

 散弾銃を持った指揮官の号令と共に、404小隊は集落内に突入し、前進する。

 市街地での戦闘は避けては通れない道である。いくら砲爆撃を加えてもすべてを終わらせることはできないことは歴史が証明している以上、歩兵による制圧は必要なことである。

 しかし、目の前の路地裏から、あるいは建物の窓枠から、それとも屋上から敵が攻撃を仕掛けてくるかがわからない。脅威は何処にでも潜んでおり、何時牙を剥くのかはわからない。

 

「前方、敵」

 

 416の声をと共に発砲音とわずかに聞こえる絶叫。

 実戦経験の豊富さに優れた指揮官と404小隊は敵を排除する事に抵抗はなく、引き金を引く基準は対象が生きてるか、死んでるかの二択だけであった。

 

「クリア」

 

 416の声を聞き指揮官は引き続き周囲の警戒を怠りつつ前進を続ける。

 街の大まかな地図は、徹底した砲爆撃のあとでは概略にしか過ぎない。細心の注意を払いながら進むしかなかった。

 

「指揮官、民兵と思われる集団発見。およそ20」

 

「散開!」

 

「榴弾、撃ちます」

 

 彼らの行動は早かった。

 敵部隊の集団を視認次第、二手に分かれて416と指揮官は榴弾と散弾を先手で撃ち込み、釘付けにする。

 ようやく、反撃に転じて正面から二人を攻撃しようとする民兵に対して側面に回り込んだ残りの3人が銃撃を加える。教本に載せても良いくらい、お手本のような十字砲火が瞬く間に民兵を皆殺しにした。

 

「下がっていろ」

 

 指揮官は奇跡的に全壊を免れた家屋に対して、鍵部分をドアブリーチング用の専用弾で破壊した後、焼夷手榴弾を投げ込む。

 焼けた匂いと悲鳴の後、窓枠から慌てて飛び出した住人に対してそのまま散弾を浴びせて絶命させる。

 

 同じく404小隊も同様にドアを蹴破り、閃光手榴弾や発煙手榴弾を投げ込んでから突入し、生存者を次々と排除していく。

 

 指揮官にとっての優先順位としては作戦目標の達成が最優先事項なのは明確ではあるが、次点ではできるだけ皆を五体満足で連れ帰ることでもある。

 完全に包囲していた網もその範囲を狭まりつつあり、無理をする必要はない。こうやってきっちりと一つ一つ潰していけば良いと考えていた。

 

 ルーチンワークをこなすような、家畜を屠殺するように黙々と続ける指揮官をみてUMP45は確信を持った。

 

(指揮官、やっぱりわたし、指揮官が欲しい!)

 

 今回の件に関しては実際は指揮官はここに来て屠殺作業に従事する必要はなかった。本来ならば戦闘妖精の使用許可を取り、十分な支援を行える妖精と物資を引き渡すだけでも良かったのだ。

 

 それを想定外の事態に備えるという名目で、柔軟に対応する事ができる指揮官をわざわざ現場に呼んだのだ。

 

(本当は指揮官は私達のような存在を本当に受け入れてくれるのか確かめたくて呼んじゃったけど、指揮官はこんな汚れた私達を見てもちゃんと受け入れてくれた)

 

 相談の連絡に対し、真摯に受け止め対策を確約し、無茶なお願いにもなんとか都合して応じてくれた。

 

(そして、作戦の発案でも404小隊の負担を軽くするように取り計らってくれた。

 なにより、グリフィンからの正式な命令書を持ってこさせて私達の名誉を守ろうとしてくれた)

 

 UMP45の求めたことに対して、指揮官は想像以上の答えを持ってきてくれた。今回の作戦に関しては指揮官が立案及び実行しており、UMP45はほんの少し修正を加えただけに過ぎない。指揮官が404小隊の事をここまで想ってくれたことにUMP45は広角をあげる。

 

(わたし、指揮官のこと……もっともっと知りたいな。

 貴方の本性はここの貴方なの? それとも基地の貴方? それとも助けに敵陣に深くに突っ込む時の貴方?

 それとも……別にあるのかな?)

 

 防毒面、いわゆるガスマスク呼ばれる物を取り付けた指揮官は擲弾発射器(M79)を用いて重要拠点と思われる建物にガス弾を撃ち込んでいく。

 

「416、G11、UMP9が掃射を終えた後に私とUMP45が突入する。誤射には注意すること」

 

「私が行きます。指揮官。

 貴方の背中は私が絶対に守るわ」

 

 416がいの一番に抗議の声を挙げる。

 

「室内戦であれば短機関銃の方が適切だ。

 それに、お前たちには現れるかもしれない増援を叩いて貰う必要がある。416、G11お前たちが要だ。

 UMP9もドローンの監視で忙しい。お前たち3人が此処に残るんだ」

 

「……わかったわ。そこまで言われたのならやりましょう。

 UMP45、指揮官の背中は頼んだわよ。指揮官に何かあればタダじゃ置かないから」

 

「当たり前じゃない。いこっ、指揮官」

 

 モクモクと開口部から催涙ガスが出ていき、建物内部からは悲鳴のような声が聞こえる中、朗らかに会話する。

 一通りの掃射を終えた後、指揮官は背後にUMP45を侍らせ、散弾銃を手にドアを蹴破り突入した。

 

「1名発見」

 

 催涙ガスにやられて敵兵が激しく咳き込みつつ、よろめきながら目の前に現れる。

 指揮官は短く宣告し、引き金を引く。

 

「1名無力化」

 

 マズルフラッシュの後、敵は床に投げ出されそれきり動かない。

 

「2名発見」

 

 命乞いをする敵兵に対して、UMP45は45口径を額と胸に撃ち込んだ。

 

「2名無力化」

 

(指揮官と二人……指揮官と二人……)

 

 指揮官の背中を守りつつ、ガスマスクで表情が見えないことをいいことにUMP45はニヤケが止まらない。室内戦であれば同じ短機関銃(SMG)としてUMP9がいるが、指揮官が自分(UMP45)を選んでくれたことに対して高揚が止まらない。もちろん他の404小隊にさとられないように取り繕ったが今は誰も見ていない分、思う存分に 顔をほころばすことができていた。

 

(ちょっと血なまぐさいけど、これもデートってことでいいよね?)

 

 大きさを感じさせる指揮官の背中に熱い視線を送りつつ、UMP45は制圧作業を続けた。

 建物の制圧は順調に進んでいき、おおまかはこちらの勢力下となった。

 

 指揮官は思案する。それにしても対象はどこに隠れているのだろうかと。

 この建物で発見できなければ、それこそ虱潰しに死体を探さなくてはならない。

 遺体の発見ぐらいであればグリフィンの一般部隊でも十二分ではあるもの、遥々基地から出張ってきた身としては、見つけておきたいと思うのも事実。

 

「指揮官~、どうする? 対象は死んだってことで残りの建物は全部爆破でもしちゃう?」

 

「……死体が見つからないのはあまりよろしくはない。

 死体がない以上は、何処かに隠れているはずだが……」

 

 ふと指揮官は大きな本棚を見つける。本来は様々な本が収められていたと思われるが銃弾で引き裂かれみるも無残な姿になっていた。

 が、本棚自体は特に大きな損傷どころか穴一つ空いてない。そして近くの床には引きずった後が見られる。

 

「なるほど、隠し地下室か。45、少し手を貸してくれ」

 

 UMP45と協力して本棚を動かすと、予想通り地下への階段が現れた。しかし、すぐに様子がおかしいと判断する。

 

「指揮官、これって」

 

「粉塵をばらまいているな」

 

 相手は余程こっちに来てほしくないのか粉状の物を巻き上げいるらしい。小麦粉か、それとも在庫の麻薬か。

 ガスマスクをかぶっているおかげでなんともないが、少し厄介なこととなったと指揮官は思った。

 

「……退避後にダミー人形を用いて焼夷手榴弾を投げ込む。それで誘爆しなければ済まないが突入する」

 

 厄介ではあるが、考えがないわけではない。敵が粉塵爆発を狙っているのなら、その意図を利用してやれば良い。建物自体は頑丈なので即倒壊や崩落といった可能性は低そうだ。だが着火役の者には申し訳が立たないが、必要最小限の犠牲と割り切るほかはないと指揮官は決断を下した。

 

「で、誰が着火役をやるのかしら?」

 

 指揮官とUMP45が建物から退避し、現時点の状況とこれからの行動を説明し終えた時の416の言葉であった。

 

 ――404小隊の間に沈黙が走る。

 

「あたし嫌だよ。爆発なんて」

 

 G11が真っ先に拒否を表明した。

 

「私も嫌よ。ARは様々状況に対応しないといけないの。ダミーを失ったら戦闘能力に支障が出るわ」

 

「あ、それ言いたかったのに……」

 

「そもそもG11アンタ仕事した?」

 

 416がG11に詰め寄る。G11はビクリと背筋を伸ばし冷や汗をかいてそうな表情を浮かべていた。

 

「キャンプの設営から、周辺の歩哨、配給の調理、指揮官が持ってきてくれた物資の運び込み。全部私がやったわよね?

 アンタも寝てばかりいてないで、偶には役に立ってみせなさい」

 

「ううう、だからってコラテラルダメージ前提はやだよぉ」

 

 ――ダミーとはいえ、死んでこいと言われればこんなものか。

 

 グズり始めたG11をあやそうと、そしてダミー人形による至近距離での確実な着火から、不確実だが焼夷弾を用いた擲弾発射器による建屋外からの着火に切り替えようと指揮官は考えたときであった。

 

「なら私がやるよ!」

 

 あとはUMP45と9の二人だが、ビシッと手を上げたのはUMP9であった。

 

「……無理はしなくてもいいんだぞ?」

 

「大丈夫! ダミーだし!」

 

 UMP9は自身のダミー人形の背中を押しながら指揮官にさしだす。流石にダミー人形とはいえ、大切な姉であるUMP45を犠牲に差し出したくはなかった。

 

「でも、ワガママ言ってもいいかな、指揮官?」

 

「構わん」

 

 指揮官がそう言うと、UMP9は背後からダミー人形の両肩を持つと、ずいと互いの頬を合わせた。

 

「例え演算能力と自律性が著しく劣っても私は私。

 指揮官は愛情表現とか苦手そうだけど、今生の別れくらいはこの子に愛情を注いであげて」

 

「具体的には?」

 

 UMP9はダミー人形の背中を強く押した、慣性に乗ったダミーは前のめりに倒れようとするが目の前の指揮官が受け止める。

 

「うーんと抱きしめてあげて!、それでもってうんと撫でてあげて!」

 

(指揮官は機械じゃなくて人間なんだ。私は人の心ってわからないけど、指揮官は普通じゃないってことはわかる。だから少しでも癒やしてあげなきゃ……)

 

 指揮官のあの無機質で冷たい、この世の物とは思えないような視線。一体どんな経験や修羅場をくぐってきたのか、UMP9には知りようがなかった。しかし、人間のあるべき姿でないことぐらいはわかっていた。

だからせめて、自分の手が届く時は指揮官を癒やしてあげなきゃとUMP9はなにか使命感のようなものが芽生え始めていた。

 

 本体にそう言われてしまったのなら、断る理由もなく、指揮官はUMP9のダミー人形をしっかりと抱きしめ、後頭部をゆっくりと撫でる。

 

(いいなぁ……わたしもやって欲しい……)

 

 UMP45はUMP9の純心さや献身さに羨望を感じた。

 

「苦労をかける」

 

 UMP9のダミー人形は顎を指揮官の肩に載せ、安らかに眼を瞑っていた。

 

 そこから先の展開としてはあっけないものであった。

 焼夷手榴弾を用いた粉塵爆発の誘発は成功し、地下から出てきたであろう煙が排気口から立ち上り始めた。

 爆発音はするもの、延焼などはなく再度突入は可能と思われる。しかし、崩落といった可能性はあるのでできるだけ迅速に動く必要があった。

 

「閃光手榴弾!」

 

 UMP9が投げ込み、指揮官とUMP45が突入。背後は416とG11で警戒と守りを固める。

 やけくその粉塵爆発も利用された状態ではテロリストもその殆どが死んだか、今死に絶えようとしているかのどちらかであった。

 

「ねぇ、暇だから寝てもいい?」

 

「私達は他の背中を守らないといけないのよ。

 もし寝たら、アンタだけおいて帰るから」

 

 程よい緊張感と冗談を言い合える環境。404小隊の士気が高いことを伺わせる。

 

「指揮官、後はこれだね」

 

 地階の制圧も残すは目の前の防爆ドアとなり、作戦も詰めの段階に入ろうとしていた。

 

「どうする? 爆薬で吹き飛ばす? ドア自体には罠はなさそうだけど……」

 

 UMP45とあれこれ話している間、後方で待機しているG11、416とは別にUMP9は防爆ドアをペタペタと触っていた。

 

「指揮官! これ開いてるよ」

 

「何だと」

 

 404小隊と指揮官に緊張が走った。

 

「中には入らないほうが良さそうだ」

 

 指揮官の決断は早かった。

 

「けど、中身を見ないとどうにもならないよ?」

 

 UMP45が抗議の声を挙げる。

 

「こいつがある」

 

 指揮官が取り出したのはぐるぐると巻かれたケーブルの束。その先端にはカメラが取り付けられていた。

 

「スネークカメラね。準備がよろしいことで」

 

 UMP45はもう散々体験した指揮官の用意周到さに感服し、そしてその臆病さに呆れる。指揮官は気にすることなく手慣れた速度でカメラを展開させる。

 

「もう一度確認するがドア自体には罠はないな?」

 

「ええ、ナインと一緒に調べたけど、問題ないわ」

 

「了解した」

 

 防爆ドアを僅かに開け、隙間にスネークカメラを通す。厚い防爆ドアを抜けた先が端末に映像として送られた。

 

「対象を発見。胸と頭部に鉄血製武器らしき弾痕を確認、対象の死亡を確認。腐敗していることから今死んだわけではなさそうだ」

 

 結末はあっけないもので、どうやら既に用済みとして鉄血に消されていたらしい。

 大方、こいつだけ下手に頭が良かったのか現状のまずさに気がつき、そのまま寝返ろうとした所をズドン、と言う所だろう。

 

 その時、防爆ドアが自らの意思を持ったかのように自分から閉まった。スネークカメラも挟まれ、切断されてしまい。これ以上の映像は取れなくなってしまった。

 

「あちゃー、そのまま直接確認したら閉じ込められて飢餓まっしぐらってわけね」

 

「うわ悪趣味、こんな手の混んだことぜったいハイエンドモデルが絡んでるよ……」

 

 渋い顔でUMP45が呟き、G11は嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「指揮官、映像は大丈夫なの?」

 

「保存済みだ。問題はない」

 

 UMP9にデータを見せる指揮官。

 

「これで作戦は終わりね、早い所帰りましょ」

 

「うう、疲れた。ご飯食べて寝よ……」

 

「最寄りの飛行場に迎えをよこしてある。最寄りのセーフハウスがあるならそこまで送ろう」

 

 そう言った指揮官の両腕をUMP姉妹がギュッと抱きしめた。

 

「しきかぁーん、何言ってるのよ」

 

「私達の家は貴方の基地だよ。指揮官!」

 




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