前線小話   作:文系グダグダ

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「指揮官さん! わたくしは不満ですわ!」

 

 指揮官の司令室に直談判しにやってきたのは鉄十字をあしらった帽子が似合う少女。Kar98k(カラビーナ)であった。

 本来、哨戒任務の報告書を提出にやってきた彼女ではあるが、今では頬を膨らませて机をばしばしと両手で叩きながら、めいいっぱいの不満を指揮官に対して曝け出している。

 

「要件はなんだ?」

 

「もっとわたくしを使ってください!」

 

 どうやら、出撃の少なさに不満を覚えているようだと指揮官は察した。だが、事務業務で手が空かない現状、指揮官はカラビーナを黙殺し、RF(ライフル型人形)部隊に関する報告書を読み込む。

 この様子を見かねた本日の副官であるグリズリーは小声で指揮官に「なんとかしてよ」と耳打ちする。

 

「……出撃は十二分に行っているはずだが?」

 

 副官にそう言われてしまっては仕方がないと感じたのか、指揮官は重い口を開いた。

 現状、戦術人形の頭数は十二分に揃っており、次の段階である戦力の質の向上に重きをおいている。

 しかしながら当基地周辺は既に鉄血から制圧済みであり、前線は別の場所に移っている現状においては戦闘も少ない。それがカラビーナの不満の根本的な原因だろう。

 

「哨戒部隊同士の偶発的な小競り合い等では物足りないです! 私の存分に力を振るうのはもっと油と硝煙にまみれるような戦場でこそ振るわれるべきですわ!」

 

 ――ああ、戦功を欲するわけか

 

 指揮官は目の前のカラビーナをじいと見据えた。

 この戦術人形というものはますます人間と変わりないと指揮官は思う。今まさに血気はやって功を焦るカラビーナの様は昔持った部下のようでますます人形という存在に微笑ましさと親しみを感じていた。

 

「ならば、具体的にはどこに配置転換をしたい?」

 

 指揮官の放った言葉にカラビーナは表情をたちまち明るいものにさせる。指揮官の隣にいるグリズリーはその様子を注視している。

 

「なら! わたくしは支援部隊を志望いたしますわ!」

 

 カラビーナの返答に指揮官はなるほどと頷いた。

 支援部隊とは、他の基地の指揮官の要請により派遣される部隊のことである。この部隊が救援にたいしていかほどの貢献を及ぼすかで指揮官の評判が決まる。

 また、状況や要請する指揮官によっては状況のすこぶる悪い戦線に投入されることもある以上、生半可な部隊では務まらず、故に練度の高い部隊が必要である。

 

 カラビーナが志望するにはまさしくおあつらむきの配置となっていた。

 

「確かにカラビーナにふさわしいな」

 

「でしたら! わたくしを支援部隊に」

 

 カラビーナの言葉を遮るように指揮官は告げる。

 

「ところでダミーリンクできる数はいくつだ?」

 

「3体ですわ! 侮らないでくださります?」

 

「なら配置転換は許可できない。ダミーリンクは戦術人形が指揮統制できる最大数の4体でなければならない。

 支援部隊の性質上、練度が不十分な者を配置するということは、業務を著しく害すると同時に、戦線を崩壊させる一因になり、大きな損失を生む可能性がある。

 それを把握していて尚、希望するというのであればそういった意図を含んでいると判断する」

 

 無機質な指揮官の声色はカラビーナの要望を切り捨て、カラビーナ自身のその発言の意味を丁寧に説明する。

 

「スプリングフィールドやリー・エンフィールド、モシン・ナガンは最大数のダミーリンクを指揮統制できる。故に対装甲兵部隊用の支援部隊として起用している。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 カラビーナが抗議の声を挙げた理由はおおかた指揮官には予測できていた。指揮官が前述していたライフル型人形達は言わば、カラビーナとは同世代の銃器。しかしながら、人形としての練度……すなわち戦闘データの蓄積と最適化はカラビーナが1つ劣ってしまっている状態である。原因は他の人形に比べて、カラビーナがこの基地に供給された時期が一足遅いものであったからだ。

 

 故に、カラビーナ自身に焦りが生じていたのだ。

 

 そして、哨戒任務の報告に指揮官の元に向かった際に、指揮官が読み込んでいた書類の一部であった支援部隊として送り出すライフル部隊の選定についての項目で、同世代の銃器が名を連ねていたことで、カラビーナの焦りが顕在化して今に至ったのだ。

 

「……ぐす。わたくしは……優秀な、ライフルですわ……

 こんなことは……このようなことは、決して……」

 

 どうすることもできない現実に打ちのめされたのかやがてカラビーナは顔を赤らめ、肩を小刻みに震わせながら今にも涙がこみ上げてきそうな表情を浮かべ始めた。

 副官のグリズリーはまだ状況を見極めようとしている。もし、収拾がつかないようになるか、基地全体の不利益になりかねないことになるのであれば、グリズリーは止めねばならない。

 

「現在、当基地の戦力を精査しているが、ライフル型人形の平均練度が全体と比べて低い事がわかっている」

 

 半ば脅しも込めてのやや誇張した理由をカラビーナに叩きつけたものの、これ以上は恐怖を煽ると判断して指揮官は話題を切り替える。落とし所があった様子にグリズリーも内心で胸をなでおろした。

 

「そこで、シミュレーション上ではあるが、ライフル型人形を対象とした戦闘プログラムの最適化を目的とした(経験特訓の)上級訓練を行う」

 

 ――戦術人形は練度の可視化により、戦力の平準化が容易である。

 

 指揮官の戦術人形に対する運用に関しての率直な所感はこれに尽きる。

 何せ指揮統制できるダミーリンクの数と、戦闘プログラムの最適化がそのまま練度として可視化でき、比較ができるのだ。また人間と比べてもコンディションによる能率の変化は少なく、戦力値としてカウントする際の過大および過小評価の可能性が低くなる。また、人形同士の相性も険悪だからと言って、著しい程の悪影響は無い。

 

 これが人間であれば調子の良し悪しによる判断から、命令を出す上司を含めた、配置する所の人間関係まで把握しなければいけない。そうしなければ、思わぬアクシデントや背信行為によって大きな損失を生み出しかねないからだ。

 

 ――よって指揮官にとって今回のカラビーナの直談判は人間の兵隊のそれを比べてとても可愛いものであった。

 

 指揮官の意図を察したであろう、カラビーナは一転して明るい表情を浮かべる。

 

「無論、カラビーナも例外なく参加してもらう」

 

「まあ!」

 

 感情モジュールが搭載された人形も秋の空はあるらしい……と、表情が変わるカラビーナに対して指揮官はそんな感想を抱いた。

 

「編成と指示は追って通達する。

 当基地で運用する戦術人形の数が増えた以上、次の段階である部隊の質の維持が目下の目標である

 ……やってくれるな?」

 

「ええ、貴方の為に尽力すると誓ったのですから。当然ですわ」

 

 カラビーナは満足気に答えると宿舎に戻る。

 

「それじゃあ指揮官さん。いつも言っておりますが……貴方ならわたくしの部屋に遊びにいらしてもいいのよ?」

 

 カラビーナは去り際にそう言うと、指揮官に手を振って司令室を後にした。

 




前々からこの人形出してと言われていたので初投稿です
スプリングフィールド達との比較としては正確には同世代じゃないと思うけどまあいいや
本来はこれおおよそ3000文字前後を目標にしてあるのでこれが本来の分量なんだな

どぎついの多いから暫く箸休め的に寸劇メインで書くか、うん
自分の作った指揮官より他所の指揮官のほうが魅力的に見える不思議
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