前線小話   作:文系グダグダ

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「指揮官ー♪ 今夜は私の部屋、空いてるわよ?」

 

「済まないが、遠慮させてもらう」

 

 しなだれかかる黒髪長身の美女を押しのけて指揮官はDSR-50をスルーし基地内を歩き回る。

 

「邪魔をしないでくれないか」

 

「もう、そうやっていつもつれないわね?」

 

 基地内を動き回る指揮官に秘書と言わんばかりに真横についてまわる。

 彼女は少し前に鉄血装甲部隊から孤立してしまったところを指揮官に拾われており、本来はグリフィンの別の部隊に配属される予定であったが、本人の希望によって当基地に配属されていた。

 

「申し訳無いとは思っている」

 

「一緒に居たいのにこれじゃあままならないわね?」

 

 司令室に入る指揮官に続いて、DSR-50も入っていく。今日の副官はスプリングフィールドのようで、指揮官の決済の必要な書類の振り分けを行っていた。

 

「指揮官、たった今書類の振り分けが終わりました。必要な書類は机に置いておきますわね」

 

「ああ、助かる」

 

 スプリングフィールドは立ち上がると、指揮官の決済が必要な書類の束を指揮官の机に置くとそのままコーヒーメーカーの元へ向かう。

 

「DSRさんもいかがですか?」

 

 明らかに指揮官目当てでついてきただけとわかるDSR-50に対しても、スプリングフィールドは分け隔てない態度でコーヒーを勧める。

 てっきり嫌味の一言でも言うのかと思っていた彼女は面食らう。

 

「ええ、いただくわ」

 

 手持ち無沙汰になった彼女はソファに座ると、スプリングフィールドからコーヒーカップを貰う。

 そして、コーヒーをすすりながら粛々と執務を始めた指揮官をじいと見つめた。

 

(ふうん、副官なら指揮官の側にいられるわね……)

 

 DSR-50は指揮官に助けられて以来、指揮官のことが気になって仕方がなかった。スリルと実力を感じたい彼女にとって人の身でありながらも、鉄血の装甲人形部隊や機械部隊ともやりあえ、それでいても指揮能力を損なわない実力は彼女にとってとても興味深く、もしかしたらDSR-50自身を満足させてくれる人かもしれないと思っていた。

 

(前線に出てくるから内政には疎いと思ってたけど、他の人形の話を聞いても全然そんなこともないし。

 こんな人、もう二度と出会えないかもしれない……)

 

 DSR-50はふうとため息を吐きながら、思案するのであった。

 

 

 

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   ■   ■   ■ 

 

 

 

 

「しっかしまあ、ここまでデキる男だとは思わなかった」

 

 ウイスキーを呷り、トンプソンがボソリとつぶやいた。

 基地内の戦術人形専用の宿舎の中に建てられたカフェバーでは多くの人形達が喫食していた。

 今現在は管理人役の戦術人形が雑務で出払っており、皆持ち込みの飲食物で楽しんでいる。

 

「まあ、人形使いの酷い肥溜めみたいなとこもありますから。ソコと比べちゃここは天国みたいなモンですよ」

 

 トンプソンとテーブルを挟んでイングラムが瓶ビールの小瓶を傾けながら、自身が目を通していた書類の束をテーブルに投げ出した。

 書類の内容は指揮官の行動に関する記録であり、業務上は勿論のこと休暇中の指揮官の行動も把握できるだけ記録してある。要は、指揮官の立ち振舞いの評価であった。

 

「業務内や基地内ならともかく、プライベートや基地の外なら本性は出るだろと思ったんだが……」

 

「まったく尻尾を出しませんでしたね」

 

「品行方正で模範的、それでもって統治能力と戦闘指揮能力も十分。

 気持ち悪い位に非の打ち所がないとくりゃあ、何も文句は言えねぇなぁ」

 

 トンプソン達は当初、指揮官に対して完全に信用はしておらず隙があれば弱みを握ろうとしたのであるが……

 結果はこの通り、何も尻尾を出さないままであった。

 

「案外、クソ真面目だったって線じゃないです? トンプソン。

 後任と指揮の引き継ぎ先までガチガチに設定して、権力にも興味がない素振りを見せられたら、お手上げですよ」

 

「後任がここに来りゃ1時間もしない内に上位者権限を書き換えられるまでシステム化されちゃあねぇ……

 ここまで調べてもボロが出なきゃあしょうがねぇなぁ」

 

 イングラムから述べられた結論にトンプソンも頷かざるを得ない。イングラムは新しい小瓶ビールを冷蔵庫から取り出すと、蓋を開けて呷る。

 

「それに、私は今の指揮官は好きですよ。居心地いいですし、刺激もあるし」

 

 イングラムの言葉にトンプソンは同意を示す。

 あの指揮官は戦術人形が十二分に実力を発揮できるように心を砕いているのは誰の目にも明らかであったし、その働きに対してこの施設のような、人形に対する報酬も惜しみなく支払うだけの寛大さも持ち合わせている事もわかっていた。

 

「……まあ、あたしらでボスをより良い男にしてみるってのも、悪くねぇわな」

 

 トンプソンの懸念材料としては指揮官の人柄はこの時代の人間にしては優しすぎる(・・・・・)事だろうと睨んでいる。恐らくはあれが指揮官の時代ではごくごく普通のビジネススタイルなのだろうが、戦術人形にはその優しさはあまりにも甘美で魅力的であった。

 現に、トンプソンの知る限りで指揮官に好意を持っている人形はいくらか目星がついていた。

 

――ありゃあ、女難の相が見えるかもな……

 

「私も一枚噛ませて貰えないかしら、トンプソン?」

 

「なんだぁ? お前、DSRか」

 

 トンプソンの気掛かりを他所に唐突にコトリとワイングラスがテーブルにおかれた。

 トンプソンとイングラムの間にDSR-50が割って入ってきたのだ。

 

「指揮官にはイイオトコにそだってほしいのはわかるんだけど」

 

「ただ静観するだけだなんて簡単よ。

 ……そう、それなりの課題を与えてやるべきよ」

 

 彼女の言った意味をトンプソンは理解していた。

 ある日を境に、DSR-50は副官業務をよく引き受けるようになり、指揮官に部下の人形達の前で基地の不備や職員の起こした問題などを積極的に進言しては、対応を指揮官に問いかけていた。

 

「そうやって潰したら元も子もないだろ?」

 

「潰れたら……所詮その程度ではなくて」

 

「……実務能力に支障をきたすようなら、容赦しねぇぞ」

 

 DSR-50の言葉に理解と納得を感じつつも、トンプソンは口角が引き攣る感覚を感じた。

 どうやら自分もまた、あの指揮官には無意識的に相当入れ込んでいるらしいとトンプソンは感じた。

 

「ふふっ、肝に銘じておくわ。お互い頑張りましょう?

 指揮官はここで止まっていい人じゃないのはわかるでしょう?」

 

 それに……と、続いた後にトンプソンの耳元でDSR-50は宣言した。

 

「誰も取りに行かないのなら、私が取りに行ってもいいわよね?」

 

 そう言うと、DSR-50は残りのワインを呷り、バーから出ていった。

 狙うは当然、指揮官の私室だ。アルコールで勇気付けたという体で指揮官にアタックをかけに行くつもりだ。

 

 DSR-50はアルコールに火照る身体を自覚しながら、消灯中の通路を突き進んでいく。

 角を曲がるとすぐに指揮官の私室に着こうとする時、スプリングフィールドが壁に寄りかかっていた。まるで、元々誰かを待っていたかのように。

 

「すみませんが、ここを通すわけにはいきません」

 

 スプリングフィールドは自身の脇を通り抜けようとしたDSR-50の肩を掴んだ。

 

「へえ、どういうわけ? ()ざりたいの?」

 

「指揮官はそういう事は望んでおりませんので」

 

 DSRは掴んだ腕を握り、口角を上げた。

 

「エリート人形の私に貴女が叶うとでも?」

 

 DSR-50は対物ライフルに分類される銃器である。一般的には伏射や二脚による据え付けで射撃を行う物であり、それ故に大型で重量は重く、従って扱う人形にも相応のスペックが求められる。

 一方、スプリングフィールドは対人がメインの銃器を運用する目的の人形であり、DSRと比べるとパワー関係の出力にはどうしても差異が生まれてしまう。

 故に両者が力比べをした場合、DSR-50が勝つのは道理であるのだが……

 

「……試して見ますか?」

 

 DSRとスプリングフィールドのにらみ合いはしばらく続く。両者ともに譲る気はなさそうだ。

 

「……やめておくわ。

 貴女、本気になったらカタログスペック以上の力を発揮しそうだもの」

 

 ひりついた空気感の中、先に折れたのはDSRの方だった。

 彼女はスプリングフィールドを握っていた手を離すとそのまま踵を返した。

 

「賢明な判断、ありがとうございます。私も、このような理由で損害額を計上してしまっては、指揮官に立つ瀬がありませんから」

 

 掴まれた服の皺をただしながらスプリングフィールドはDSRを見据える。

 

「でも私は貴女のようにいい子ちゃんでいればいつか可愛がってもらえるなんて楽観論は持ってないわ」

 

「いいえ。私はあの人の期待に沿えるように振る舞ってるだけです」

 

 DSR-50の言葉にぴしゃりと返すスプリングフィールド。お互いの眼光は未だに鋭く、場の空気の温度は寒く、重いままだ。

 スプリングフィールドの眼光は鋭くDSRの背中に突き刺さっている。DSR自身もこの状況でスプリングフィールドに背中を向けることに対して抵抗感があったが、自身の弱みを見せないために敢えて余裕のあるように振る舞う。

 

「やっと見つけた私の指揮官。そう簡単に諦めたくないわ。

 貴女も私と同じ気持ちよね? なにせ私の行動を先読みできたのだから」

 

 スプリングフィールドは奥歯を噛みしめる。悔しいが、DSR-50の言っていた事は正解である。

 そうでなければ彼女が夜這いに来るなどとは予想しないだろう。

 

 司令室で働く指揮官や、普段の指揮官を見つめているDSR-50の眼――憂いと熱の籠もった視線でいつも指揮官を見つめ、自分の思うようにいかない様子に悲しみ半分嬉しさ半分の籠もったため息を時折していれば……自分と同じ同類(・・)の行動なら気づかない筈はなかった。

 

「ええ、そうですね。ですから私達、案外仲良く慣れるかもしれませんね?」

 

 スプリングフィールドの皮肉とも嫌味とも受け取れる言葉を聞いたDSR-50は微笑みながら、踵を返して自室へと戻るのであった。

 

 

 

   ■    ■    ■

 

 

 

「今日の副官はDSR-50か」

 

「ええ、お手伝いさせてもらうわ」

 

 ここ最近の副官業務はDSR-50がいることが多いと指揮官は思った。

 IOPの新造されたエリート戦術人形(☆5)達を載せた輸送部隊が鉄血部隊に補足、襲撃された際の救援及び生きているコアの回収任務に駆り出された際に助け出した人形達の一人ではあったが、まさか自分の基地にくるとは思っていなかった。

 

 ――多少の記憶や戦闘経験の欠落(ロールバック)があろうと身体は換えが効き、バックアップで人格も保存される人形にとって見捨てられない事はここまで信用を得るのが容易なのか。

 

 指揮官としては人形も人間も関係なく同じ宮仕えであり、ちょっとした窮地に陥った時に換えが効くからと一々使い捨てにされては、モチベーションと忠誠に欠け効率的な組織運営に支障をきたす。

 指揮官の思想は別として、前述の任務に関してはグリフィンの上層部もいたずらな消耗は避けたいという意図からの下達ではあった。

 

 指揮官の向かいに来たDSR-50は、ふと書類を机の片隅に置くとそのまま持たれかけた。バランスをとるために片手は机に添えて。もう片方の手はそっと指揮官の頬をなでた。

 

「?」

 

「いきなりでごめんなさい。どうしてもあの時のお礼がしたいの。

 指揮官、これは私個人の思い」

 

 そう言うとDSR-50は指揮官のシューターグラスを外して机においた。

 司令室の扉にはロックがかかっており、近くには人形も居なさそうだ。どうやら、今まで機会を伺っていたらしいと指揮官は判断した。

 

「私は君の能力を買って副官に選んだ。

 君はすぐに問題点や懸念材料を見つけてくれるし、臆さずに進言してもくれる」

 

 いつもならやんわりと断りの文句を言っていた指揮官ではあるが、この日は様子が違っていた。

 

「たとえそれが私を試すような内容であってもだ。

 ここでの業務は君の想定以上にあらゆる物や金、そして命を取り扱っている。君が手で押さえつけているその紙一枚の判断次第では簡単に吹き飛ぶものだ」

 

 指揮官はDSR-50が紙を押さえている手を取り上げ、目線を合わせてずいと近い距離から相見る

 

「私的な時間で規定に触れない程度であるならば干渉はしない。……だが職務よりも私用を優先させるなら今すぐここから立ち去って貰いたい」

 

 両眼は見開かれ、指揮官の瞳はDSR-50の視線と相対するように微動だに動かず、瞳孔が開く様まで彼女の手にとるようにわかった。

 

 ――指揮官に見つめられているだけで侮蔑と嫌悪、そして失望の意思が伝わってくることに対してDSR-50にはどんな言葉よりも深く感じられてしまったのであった……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「あの……DSRさん? そろそろやめたほうが」

 

 カフェバーの管理人であるスプリングフィールドはカウンターテーブルの対面にいるDSR-50にそう言うも、彼女は返事と言わんばかりに盛大にお酒を呷った。

 

「指揮官はとても思慮深い御方です、なにも今回のことで貴女には失望なんてしていないと思いますよ?」

 

「……それは、先駆者としての忠告?」

 

 指揮官に咎められた後、「誰にだって間違いや距離感を測りそこねる事はある。君にはこれからもこの基地で私や他の人形達を支えて欲しい。気まずいようなら、副官業務は取りやめても構わない」とよくわからないフォローをされた。そこで完全に自分の空回りだと気づいてしまったDSR-50は今まで保ってきた余裕をなくしていた。

 

「まあ、ご想像にお任せしておきます……」

 

 アルコールで顔を赤くしたDSR-50と彼女と視線を合わせない様に軽く赤面したスプリングフィールドはグラスを磨き始める。

 そんな中、新たな人形がDSR-50の隣りに座った。

 

「よう景気の良い顔してんな。どうやら、試されたのはそっちの方だったみたいだな」

 

「……なによ? 笑いに来たの?」

 

 グラスを握ってる方とは反対の腕でカウンター上にのの字を書きながら。DSR-50は言った。

 

「いやあ、わるいわるい。嫌味のつもりじゃあ……なかったんだ」

 

 そう言うと、持ち込んできたのかウイスキーの瓶をごとりとおいた。

 大仰なデザインのボトルの割には中身の酒は少ししか減っておらず、どうやらトンプソン秘蔵の物らしい事が見て取れる。

 

「お仲間の歓迎さ」

 

 予想外のトンプソンの一言にDSR-50は目を丸くするが、そのままトンプソンは続ける。

 

「安心しな、あんたに何も起こらないってことは指揮官はもう許してるし気にもとめてねぇってことだ。

 それにこれ以上はあたしらがあんたにちょっかいなんてかけようものなら、指揮官は容赦しないだろうしな」

 

 グラスと氷を用意していたスプリングフィールドに対してトンプソンは「スプリングフィールド、あんたも飲みなよ」と、言うと彼女はニッコリと自分の分も追加で用意した。

 

「歓迎するぜ、DSR-50」

 

「よろしくおねがいしますね、DSR-50」

 

「ええ、改めてよろしく」

 

 グラスをコツンをぶつけて、3人はウイスキーを呷ったのであった。

 

 

 




これは小生の性癖なんですけど、性に奔放だったり、自分の躰が淫靡で大多数の男なら簡単に手のひらで自由自在に転がせられる魔性持ちの娘が、意中の人を落とすために普段の手段を取らずに真剣さ真面目さを出して本気で落としにかかろうとするムーブが大好きなんですよね(ニッコリ)

DSR-50の挿絵を さめさん @same_so_lovelyに描いていただきました。ほんとこのDSR-50いいなぁ、いいなぁ……



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時間が経つの早すぎぃ・・・!

久しぶりなので感想いただけると幸いです
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