前線小話   作:文系グダグダ

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「ボス~、作戦は無事に完了したぜー……っと」

 

 ある昼下がり、トンプソンが司令室にはいるとそこには同僚の人形であるスプリングフィールドがそこに居た。

 

「よう、スプリングフィールドじゃねぇか。指揮官は何処か知ってるかい?」

 

 そこでトンプソンは香ばしい香りに気づく。

 部屋の隅にはコポコポとコーヒーメーカーが音を立てて、匂いが部屋の中に立ち込めていた。

 

「指揮官なら、そこで寝てますよ」

 

 スプリングフィールドが指差す先にはソファにて仰向けに寝ている指揮官がいた。

 

「おやまぁ、器用にシューティンググラス掛けたまま寝ちゃって……

 人間ってのは大変だねぇ……」

 

「ペルシカさんやヘリアンさんからも、しばらくはあまり身体に負担がかかる行動は止められてますからね。

 なにぶん、長期の冷凍睡眠(コールドスリープ)からの復旧は史上類も見ない事だとか」

 

 二人は指揮官の様子をまじまじと見る。

 見た目は至って普通の成人男性、だが体付きは筋肉質でよく鍛え込まれていることがわかる。

 それはアスリートのようなものではなく、兵士に適した無駄のない身体であった。

 

「発見者である16LabのAR小隊とのデータと、グリフィンの入社テストの成績から鑑みるに軍人であることには間違いはないのですが……

 なにぶん、本人が所属に関しては黙秘していますし、資料も大戦や救助時の施設が完全に破壊されて資料も焼失してしまったのでわかりませんしね」

 

 スプリングフィールドは軽くため息をつく。

 経緯が経緯だけにこの指揮官の個人情報は無いに等しく、仮に指揮官自身が語ったとしてもそれを信じられるかといった感じだ。

 やはり、1人の人形としては指揮官は有能であって欲しいという希望はある。そのために入社テストや模擬戦でのデータで指揮官を推し量っているのだ。

 

「まあ、ボスの個人情報はいいさ。それになんとなくだが……こいつはデキる奴だと思うぜ」

 

 指揮官が寝ているのならと作戦報告書をデスクに置いたトンプソンはスプリングフィールドに対してそう断言した。

 

「どうしてです?」

 

「入社テストや模擬戦でのデータも中々悪くないが……

 いざって時に戦場で頼りになるのは、こういう静かな奴って相場が決まっているもんだろ?」

 

 銃器のアクササリーとしてついているAC4サイレンサーを小突きながらトンプソンはそう言ったのだった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 指揮官が目を覚まし、デスクに目をやると副官用のデスクで書類整理を行っていたスプリングフィールドが立ち上がりこちらに寄ってきた。

 

「おはようございます、指揮官。

 コーヒーを温めておいたのでいかがですか?」

 

「ああ、いただくよ」

 

 部屋の隅あるコーヒーメーカーへと歩いていくスプリングフィールドを尻目にデスクに向かおうとして、ソファから立ち上がろうとしたその時、後ろから何者かの両腕が指揮官の首におぶさるようにかかる。

 

「ボースー、帰ってきたぜ。

 ほら、報告書。ちゃんと読んでくれよな」

 

 トンプソンはそう言って指揮官に作戦報告書を渡し、指揮官の頭を軽く撫でくりまわす。

 彼女のこういうフランクな態度に、指揮官は特に言及も特段の反応も見せることはなかった。別に嫌がる素振りも見せることもなく、お礼を言う。そして作戦報告書を受け取るとそのまま立ち上がり、デスクについた。

 

「そんじゃま、このソファは私が貰っておくぜ」

 

 空いたソファにトンプソンが後ろからひょいと乗り出し、そのまま仰向けになってお昼寝の体勢となる。

 そして、デスクにコーヒーの入ったマグカップを置くと、指揮官の右隣にスプリングフィールドは侍った。

 

「指揮官、おかわりをご所望でしたら、何なりと言ってください」

 

 指揮官はコクンと頷くと、コーヒーを二口ばかり口にして、書類の精査と決済を始めた。

 まだ発足されて間もない基地ではあるが、このご時世では何処も人手が不足しており、作戦や後方支援活動もフル稼働となっている。

 幸いにも指揮官は戦前ではあるがそれなりの教育課程を修了した事もあって、スキル的にはこれらを処理するのには問題はなかった。

 

 もし、なにかわからないことがあれば……

 

「スプリングフィールド、聞きたいことがあるのだが……」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 自分の副官に聞けばよいのである。

 人間と違って人形は忘れることはない。細かい規定や規約、書類のナンバリングなどのただ単に暗記するだけや、ルールをまとめた書類を読むよりも、彼女達が一字一句違えず知っているのだから、こんなにも事務作業が楽なことはない、と指揮官は感じた。

 

「助かった、感謝する」

 

 冷めないうちにとちびちびと飲んでいるコーヒーも残りが少ないらしい。

 指揮官はぐいと一気に飲み干す。

 

「どういたしまして、コーヒーのおかわり、入れてきますね」

 

「量は半分でいい。

 それと、砂糖を少し入れて欲しい」

 

 残りの書類の量から、コーヒーを丸々一杯分は飲めないと思った指揮官はそんな追加注文を彼女に言った。

 指揮官が望む少しの量を把握している程には、指揮官とスプリングフィールドはそれなりに交友を持っていた。

 

「はい、わかりました」

 

 指揮官からマグカップを受け取ったスプリングフィールドがコーヒーメーカーに着いたその時である。

 バタンと扉が開かれ、WA2000が司令室に入ってきた。

 

「指揮官! あんたが通達した出撃準備、終わったわ」

 

 そう言って、出撃の為の最終書類で出撃指令書を指揮官に差し出した。

 

「最近支給された16Labのスコープ、あれは使えるか?」

 

「バッチリよ」

 

「Mk211徹甲榴弾の特性はつかめたか?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

「他の部隊員の様子は? 変わったことは?」

 

「全然、問題ないわ。

 グリズリーの部隊も早く鉄血共をぶっ飛ばしたいって位よ」

 

「了解した。今回の出撃を承諾しよう。

 ……重々承知だが、戦略・戦術情報コンソールで大局的な判断は出来るが、何かあればすぐに連絡をいれろ。

 私が対応する。」

 

「わかったわ。じゃ、行ってくるわね」

 

 指揮官はWA2000が差し出した指令書を認め、決済した。

 それを見たWA2000はそのまま司令室から出ようとする。

 

「……WA2000」

 

「ん? なによ指揮官」

 

 出撃のために踵を返し部屋に出ようとするWA2000を指揮官は引き止める。

 

「……期待している」

 

 どういう言葉をかけてやっていいか逡巡した後の言葉に、一瞬だけ理解の遅れた彼女ではあったが、意味を理解したのだろう。瞬く間に顔を赤らめた。

 

「ッ!? とっ、当然よ! 大戦果を期待してなさい!」

 

 そう言って部屋をでたWA2000は勢いよくドアを閉めた。バタン!という大きな音がする中、指揮官はこれでよかったものかと人差し指で頬を掻く。

 

「ボス、もうちょい素直に言ったらどうなんだ?

 例えば、『無事に帰ってこい』とか、『怪我するなよ』とかよ」

 

 隅のソファで寛いでいた副官のトンプソンが葉巻に火を点けて指揮官に指摘した。

 彼女自身は指揮官からこういった言葉を投げかけられれば、とても心地よく聞こえるだろう。

 

「それだと、WA2000の能力を疑う解釈になる」

 

「ふうん、エリート様は面倒臭いねぇ」

 

 とは言うものの、トンプソン自身は指揮官のあの言葉は大正解に近いとは感じていた。

 自分の指揮官(ボス)の力量は大いに満足させる物ではあったが、やはり欲望としてはより高みに登って欲しいという気持ちがあった。

 それ故にこうやって指揮官を値踏みするかのような物言いをおこなったのだ。

 

「しかし、ウチの指揮官様は腕っぷしもさることながら人心掌握もデキるときた! わたしゃ有能な指揮官に恵まれてるね!」

 

「指揮官、どうぞ。追加のコーヒーです」

 

 うんうん、とわざとらしく頷くトンプソン。指揮官の邪魔にならないように発言を控えていたスプリングフィールドはそそくさと追加のコーヒーを差し出す。

 受け取ったコーヒーを一口含むと指揮官はコンソールを睨みつける様に見つめながら、引き続き黙々と業務に取り掛かるのであった……

 

 

 

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