一気にクライマックスに持っていくのでここから毎日更新します。
ご注意下さい。
あと、ここすき一文と合いの手含めた感想くれると嬉しいです(震え声)
「この子、指揮官に返すわ」
ある日の司令室にて、司令室に入ってきたMk23は自身の使っている銃を指揮官に差し出した。
「どうして急に?」
「だって、これってダーリンが
至極当然な理由ではあるが、指揮官はある疑問を抱く。
「銃器の変更による人格データの影響が考えられるのだが……?」
「烙印システムによる人格データの形成はもうすでに終わってるし、なんだったら人格データもAR小隊さんとこのペルシカって人が保全と管理を申し出てくれたの。『指揮官の部隊は戦術人形のいい研究資料になる』って」
指揮官が納得し、頷くのをみたMk23はそのまま話を続ける。
「それにこの銃は指揮官が使ったほうが良いと思うの。貴方は私の……いいえ、この銃の本当の姿を知っているはずだから」
Mk23の言葉に指揮官は
そして、Mk23の言ったことも真実である。彼女の持っているその銃は見た目はMk23ではあるが、材質は量産とは比べ物にならないほどに高価で、より優秀なもので作られている。それは、一般的な.45ACP弾を用いるには役不足であり、本来は同じ.45ACP弾のサイズでより強力、より凶悪な弾薬を使ってこそ真価を発揮する。
「
指揮官はMk23がそう考えた一因を述べると、彼女は肯定した。
「うん。でもダーリンのことはぼんやりと覚えているぐらいだし、ダーリンは過去を語りたがらないから根掘り葉掘り聞かないわ」
「了解した。私自身に関しても配慮、感謝する」
指揮官はMk23からその名を冠する銃を受け取る。長い時を経てもなお、使い込んだ銃器の感触はもはや昨日まで触っていた物のようであった。
「指揮官、危険な役割を担うのがお仕事だからこんなこと言っても仕方ないと思うんだけど……
二度とその銃は手放さないでね? その銃がある限り、私と指揮官は繋がっているからね?」
指揮官の記憶を――とりわけ若い頃の記憶を垣間見たMk23の直感となれば、指揮官は無下にするわけには行かなかった。
「……ねえ、指揮官」
Mk23が司令室から去っていた中、今日の副官を務めるグリズリーがふと、話しかけた。その声色は少しばかりの冷淡さを感じさせる。
「私達、結構長い付き合いよね」
「そうだな」
グリズリーとは基地開設当初からの付き合いで、戦術人形としては最古参だろう。
「でも私達、指揮官のこと何も知らないよね」
淡々と述べるグリズリーではあったが、その声色の節々には震えがあった。
「言えない事に関しては謝罪する」
「ごめんね、こんなこと言って。指揮官にも話せない訳があるんだろうけど、やっぱり一人だけ事情をかけらでも知っている子がいるのって、正直妬けるの」
そう言うと、グリズリーは書類を置いて指揮官の椅子の隣に行き、立ったまま指揮官の顔を覗き込む。
グリズリーのその目は堅い意志を持っているようで、下手な小細工や誤魔化しもしないが、こちらの小細工や誤魔化しも通じないと言わせるような力強さを持っていた。
「Mk23からおぼろげでも聞いてもいいけど、私達はそんなずるいことをしたいとは思わないし、Mk23も協力しないだろうし。
でも……みんな、指揮官が話してくれるのを待ってるから。指揮官がどんな人間だろう受け入れる覚悟はあるから」
「私達?」
指揮官の疑問の声にグリズリーは快く答える。
「そ、ここの基地のみんなよ。Mk23も含めてね。
まさか指揮官が愛用してた銃が戦術人形になったんだよ? みんな心をかき乱される気持ちで過ごしてたんだから。
グリズリーはそう言ったが、彼女自身も最古参であるがゆえに、長い時間指揮官とは連れ添ったという自覚はあった。
そんな中、指揮官の人生において、長年連れ添った半身とも言える存在であるMk23が来てしまっては、彼女自身も気が気でなかった。
だからこそ、指揮官がグリフィンに正式に入社し、基地に配属された時から副官として、仲間として誰よりも長く共に過ごしたという自負を指揮官のはじめの部下としての矜持と指揮官を支える最後の砦としての自負を守る為に行動を起こしたのだ。
「済まない」
「指揮官は悪くないよ。そんなこと誰も予測できなかったし」
指揮官の謝罪を遮るようにグリズリーが応えた。
「指揮官が色々無茶するのは私達の為って知ってるし、現にいろんな子達は指揮官には助けてもらって感謝してるわ。
だから、たまにはこうやって指揮官を助けさせてよ」
グリズリーはそう言うと、満足したのか資料の束を段ボール箱に詰めて手に持った。
「だから指揮官は何も心配しなくていいよ。
この話はここでお終い! それじゃあこの荷物、届けておくね」
そう言うとグリズリーは司令室を出た。
それと入れ違いになる形で、今度はM4A1が司令室に入ってくる。
「指揮官さん」
「どうした?」
「指揮官が愛用されていた銃に適応した戦術人形のお話、本当ですか?」
――またか。
M4A1から放たれた言葉に対して指揮官は内心独りごちた。
「指揮官から色んな事を教わりましたし、色々助けて貰いました」
M4A1は指揮官に詰め寄り続けざまに言う。
「でも、私は何一つ指揮官の事を知りません! 素性も名前ですらも!」
「言いたいことはわかる。だが、出自は今言うわけにはいかない。
それに因んで、関係しそうな情報も出すわけにはいかない」
指揮官はM4A1に対して一歩も譲らぬ姿勢でそう言った。
素性に関しては信じてもらえるかどうかという問題もあったものの、万が一事実と認められた場合において、指揮官の取り巻く状況が大きく変化してしまう可能性を孕んでいた。
如何に指揮官の能力が高くても、結局はただの一個人にすぎない。
能力に過信して軽率な行動を取った結果、自身の破滅に行き着くことは指揮官もよく知っていた。
しかし、いくら命の恩人とは言え少しばかり相手には接近を許し過ぎたと指揮官は己のミスを自覚した。これ以上AR小隊に……少なくとも目の前のM4A1には要らぬ期待と親愛を抱かせる前に、ここで適度に引き離しておく必要があるだろう。
「……仕方ない」
歯をむき出しにして、怒りと不安の表情を見せるM4A1に対して、指揮官は浅く息を吸い、吐き出した。
「M4A1。いえ、隊長。今現在、貴女の期待に応える事は出来ない。
残念ながら、私にも都合というものがある」
「なんですか……ならどうすれば教えてくれるのですか? 指揮官!」
「どうもしなくても良い。私は今現在においては自身の素性は明かす気はない」
明確な拒否を受けて、見る見る内にM4A1の視線が……指揮官から見える彼女の双瞳が段々と縋りつくような物に変わっていく。指揮官としても、できればこうはなりたくなかったものの、人間関係ならぬ、人形関係において大きく拗れてしまった場合の事を思うと、胃が痛くなってくる。
「素性は明かせませんが、指揮・戦闘・統治能力の内で少なくとも2つは貴女が私を超える程に……いえ、比肩できる程になったのならば……
その時は一生、いやこの命を以ってしても、私の過去だろうが、貴女の補佐であろうが片腕でだろうが何でだろうが、謹んでお受けします。
それまでの差がそのまま、今のM4A1と私の距離と思ってくださって結構です。
」
絶句、今のM4A1を表すにはちょうど良い言葉だろう。
「な……っ!」
指揮官としては紛れもなく本心であった。少なくとも自分一人に注目されるよりは数人の中の一人として見られた方が総合的なリスクは少ないからだ。
指揮官は言い放ってしまった身としてはまるで他人事のように、無茶苦茶な事を言ったと思った。
M4A1は余程ショックだったのだろう。目に涙を溜めて、感情を処理しきれないのか部屋を飛び出していった。
指揮官は深く深呼吸をする。
我ながら結構な小心者っぷりであると指揮官は思った。しかし仕方ないと精神の安寧を図るために自己正当化を行う。
――生きる上での面倒事などと言う物は、ほどほど程度にあればそれで良いのだ。
「今日は災難だったわね? しきかぁん」
追い打ちと言わんばかりにドアから現れたのはUMP45であった。
「……聞いていたか」
「そう身構えなくてもいいわよ。誰にだって教えたくないものはあるでしょ?」
そう言うと指揮官の隣に寄り添った。
「私にだってあるけど、指揮官は根掘り葉掘り聞かないでしょ?
だから、私も指揮官の事は聞かない。わかりやすいよね~」
UMP45は指揮官の片手を取り、両手で包む。
「私達戦術人形は少なくとも指揮官に対して信頼を抱いてるわ。だからより深く、より多くの事を知りたいって思うの、それを忘れないで」
普段はおどけた口調であるUMP45は、戦闘時でも見せない位にいつになく真剣な声色でそう言った。
しばらくの間、指揮官とUMP45は互いに目を合わせる。
彼女自身も、細かい事を長々と言うつもりはなく、ただこれだけを伝えるつもりであったし、指揮官もその言葉を聞いて、紛れもなく本心だと感じた。そして、指揮官と真剣な表情で互いに見つめ合う事で、今まで得てきた信頼と親愛を感じ取り、確かめていた。
「じゃ、話す時は仲間はずれにしないでよね? 指揮官♪」
やがていつもの口調に戻り、手を振って去っていくUMP45を見送った指揮官は、司令室の端に佇むM4A1を見る。流石に失礼だと感じたのか、すぐさま戻ってきたようであった。
「M4?」
「あ、あ……すみません。なんでもないです」
特に怒っていないと示すために、穏やか口調で指揮官が語りかけるが、M4A1は青い顔して、気まずそうにUMP45に続く形で司令室から出ていったのであった……。
■ ■ ■
M4A1は指揮官が正式にグリフィンに入社し、AR小隊が指揮官の基地に駐留することが確定した時のことを思い出していた。
「さて、正式に辞令で一時の間ではあるが、AR小隊が私の指揮下に入ることとなった。
それに伴い、正式にM4A1、君に戦闘指揮に関して教育・指導を行うようにと業務命令が来た。
正式な命令が来るまでの間、あらかじめ私が作った本を渡そう。復習や反芻、私がいない時の自習用に活用すると良い」
指揮官の私室にはM4A1と指揮官の2人がいた。
最低限の私物に加えて、簡素なテーブルとありあわせの小さいソファでつくった勉強机と、壁にそのまま投影させる用のプロジェクターを備えたこの空間で、指揮官はM4A1に本を渡す。それはみるからに市販品ではなく、指揮官自ら製本したものであった。
「ずっと話し続けるには私の舌が乾ききってしまう故に紅茶と茶菓子を用意するが、要るかね?」
「え……えっと、じゃあ、いただきます」
「名目上は上官と部下ではあるが、あまり気にしなくてもいい。無理に喋りを変える必要もない。これまで通りで構わない。
紅茶に関しては、私の好みで淹れさせてもらう事を勘弁願いたい」
ソファにちょこんとすわって、しどろもどろな口調のM4A1に対して、指揮官はそう言うと二人分のティーセットを用意していった。
個人的に調達した茶葉を棚から選び、両方のカップに熱い紅茶を注ぎ、お茶請けの皿にはスプリングフィールドが焼いてくれたクッキーを添えて、M4A1とは向かい側のソファに腰掛けて、話を始める。
「ペルシカリアから伝えられた目標としては、私は君に戦闘面での教育も含まれる。
しかし特に戦術面、戦闘指揮に関して私の保有する知識を以って基礎から叩き込み、大規模作戦や重要な局面においても私と同レベルの指揮官に育て上げろと言われている」
「指揮官と同じ……レベルに?」
それを聞いたM4A1の目の輝きようは指揮官にも見て取れるほどにわかりやすいものであった。かつて仲間を失わせないために、指揮官に自分を含めてAR小隊の指揮権限を渡そうとしたことのある彼女の望みとしては、最上だろうと思われた。
「まあ、私の古い知識がどこまで通用するのか確約はできかねないが、そういう依頼なのでな。
ともあれ、手始めに基礎的な知識を獲得してもらうのが目下の方針だ。……そこまで身を固くしなくても良い。
まだ、戦闘が始まったわけでも、ましては陣中に居るわけでもないぞ」
高揚するのもつかの間で、M4A1は緊張で固くなっている所を指揮官に指摘される。
彼女は緊張を解す為に目の前の指揮官が淹れたティーカップを大事な物を持つかのように両手で掴み、口をつけた。
程よい温度と渋みが喉を潤し、香りがM4A1を落ち着かせる。
「当面としては、16Labにいた時と変わらずつきっきりで居るつもりだ。安心して欲しい。
だから、他の部隊や指揮官との打ち合わせ中に君が落ち着かずに考えを回すのも、夜に眠れないくらい目を冴え渡らすのも、まだまだ早いって事だ」
「あっ、その……。それなら、は、はいっ!
ご指導ご鞭撻、よろしくおねがいします! 指揮官!」
昔の恥ずかしい思い出を掘り起こされたM4A1は顔を赤面させるが、その言葉に安心したらしい。
彼女はティーカップを置くと、背筋をビシッと伸ばして威勢良く返事をしたのであった。
ふとM4A1は過去の思い出から我に返る。
指揮官が何も悪意があってやっているわけではないとはわかっていた。他の理由なんてひとつも無いこともM4A1にはわかっていた。だからこそアレほどまでに激しく詰め寄ってしまったのは、今まで真摯にM4A1に向けて付き合ってくれた指揮官に対して、とても失礼な行いであった。
――貴女が私を超える器に……いえ、比肩できるほどになったのならば……
――それまでの差がそのまま、今のM4A1と私の距離と思ってくださって結構です。
指揮官の言葉が電脳内に反響する。
何も理由がなく指揮官はこんな事を言う人ではないのはM4A1にもわかっていた。そうでないと言えないのだとM4A1は理解していた。
だが、かつて強い憧れと羨望で彩られた距離は、追いつくには絶望的とも言えるものに変わっていた。
「とりあえず謝らなくちゃ……次にあんなことしたら、失望されるかも」
冷えた頭で逃げるようにそう考えながら、飛び出していった司令室に戻ろうとする。
ドアを開けた先には指揮官とUMP45がいた。二人は話をしており、指揮官の表情や感情はわからないものの、UMP45から親愛と信頼を向けた感情を指揮官に惜しみなく送っているのがM4A1にはわかった。
『あーあ、もう見てられないわね~』
指揮官と話しながらデータリンクの通信でUMP45がM4A1に語りかける。
『UMP45?』
『そ、指揮官に聞かれたら両方困るでしょ?』
『わたしは貴女みたいに指揮官を困らせたりしないわ。指揮官が目を掛けている手前、今回は助けてあげる。』
指揮官を捕まえるには鎖は多いほうが良い。UMP45はそれを承知でM4A1のフォローに回った。
だが、釘は刺さないわけにはいかない。UMP45は怒りの感情データを乗せてM4A1に叩きつける。
『指揮官をこれ以上困らせたら、許さないから』
「M4?」
UMP45を見送った指揮官はM4A1を見つける。
「あ、あ……すみません。なんでもないです」
M4A1は指揮官の目を見て上手く話せないまま。宿舎内のAR小隊の部屋に逃げ出してしまっていた。
(あ、あ……だめ、嫌われちゃう。ああああああああ)
ベッドに倒れ込みM4A1は自己嫌悪に陥る。ありもしない妄想が、指揮官に見捨てられるという想像を、同じ指揮官を慕っているUMP45に呆れられるという想像を引き立てる。
残った理性を必死で集め、頭をブルブル振ってM4A1は思考を切り替えようとする。
――でも。
M4A1はうつむいて、壁をじっと見つめる。
――あれも、それも、みんな。今まで指揮官さんがしてきたことの全ては……
あくまで
そこに親愛はあるのだろうか? 頼まれた仕事だから義務的に、事務的に……そこまでにとどまっているのでは無いだろうかと思いを馳せ、M4A1は寂しさを感じる。
(何で……? 考える度に目の前がぼやけてくるし……
不安で胸が苦しいです。……切ないです。寂しいです……)
未知だった多くの感情の高ぶり。その正体が、たった今M4A1にはわかってしまった。
「指揮官、さん……」
泣きそうな声で、M4A1は呟く。
テーブルの上に置いてあったリング製本された一冊の本を引っ張り出し、そっと胸に抱きかかえる。
それは、指揮官がM4A1に与えた戦術指揮や戦闘行為に関する座学の本。指揮官にとっては一般知識の範囲であり、覚えていることを単に本としてまとめただけのものであったが、M4A1にとっては、これを読み込むだけで戦闘能率が上がり、指揮戦闘効率や損耗率も抑えられてしまう秘術の魔法書であった。
それとも、育て甲斐のある奴と、可愛がってくれますか? ただの仕事で目を掛けているだけなのに、しっぽを振ってバカなやつ、間抜けな奴とお思いなのでしょうか?
それでもわたしに構ってくれるのなら構いません。たとえどんなことだろうと、喜んで覚えてみせます。習得し、習熟してみせます。親愛なる、指揮官さんの為に……
「しきかんさぁん……」
でも……。
あれほど指揮官と一緒にいたのに、肩を並べていたのに、背中を預けあったというのに、わたしには……あなたの心が見えません。
教えて下さい。
こんなとき、