ここすき一文と合いの手含めた感想くれると嬉しいです(震え声)
グリフィン本社への出頭命令を受け、指揮官が案内された先はグリフィン&クルーガー社の最重要区画と言っても差し支えない社長室であった。
指揮官は特に気負う様子もなく、慣れた手付きで秘書に会釈しながらセキュリティを解除してもらい、部屋に入る。
「よくきた。まあ、そこに座るといい」
初老ながらもその躰は衰えを感じさせない兵士の肉体を感じさせ、それに相応しい強面とは裏腹に親しみすら感じさせるに十分な魅力をもつであろう気さくな笑みを浮かべながら、グリフィン&クルーガー社社長その人が指揮官を迎え入れた。
「用件は何でしょうか?」
クルーガー氏の好意を無為にするのも失礼に値してしまうと考えた故に、指揮官は社長に深く一礼してから席に着き、自身を呼び出した用事を尋ねる。
「この間のカウンターテロに対するバックアップ業務は素晴らしい物だった。改めて礼を言う。
君が来てくれてから、テロ対応はもちろん、産業スパイの摘発や他企業の不正行為の粉砕によって我が社の損失は大きく避けられているよ」
「……本題に入りましょう。クルーガー社長。
あまり長居してしまうと、お互いに執務に差し支えが出ましょう」
本当に助かっているから、ある意味本心で謝辞を述べているだろうと指揮官は推測しているが、当人にとっては報酬代わりにこちらの要求や融通をある程度聞き入れてもらっているので、何も繰り返し謝意を述べられても困るだけであった。
「ふむ、確かに君の指摘も一理ある。
君には部隊を率いて別地区に飛んでもらおうと思う」
クルーガーは地図を広げるとある地区を指差す。
「……増援及び脆弱性の調査。
あるいはその地区に何かしらの問題があるのであれば、発見した時点で私の手で何らかの処置を施せ……と?」
クルーガーはその意図で問題ないと語るように深く頷いた。
「そうだ。報告で上がってくる情報を見るに、中々苦戦を強いられているらしい。
この戦線に楔を打ち込む為に404小隊とAR小隊を送るが、我が社の輸送能力に限りがある故、それだけの少数精鋭になってしまうがやってくれるか?」
「了解しました。やってみましょう」
クルーガー社長と指揮官の間で大筋合意がとれ、あとは細やかな調整と現地に飛ぶ必要がある為に、少し会話をした後、指揮官は一礼して、社長室を出たのであった。
■ ■ ■
現場に到着し現地部隊と打ち合わせを行った後に、南西の前線基地に割り振られた指揮官達ではあったが、ここでの滞在2日目にして、鉄血部隊の姿を拝む機会が訪れていた。
地区外である西側から迫りくる敵を迎撃、監視するために設けられた北南に並んだ4つの前線基地。
そのうちの最も南側に位置する基地を守る役割を与えられた指揮官は、ドローンから送られてきた映像を注視していた。
――そこには現地部隊の情報解析時の予測とは遥かに超える規模と質の鉄血部隊が押し寄せてくる光景であった。
この地区の現地部隊と北側で激しくぶつかっていると聞く部隊は、まさにここの主力部隊をそこへ引き付ける為の陽動作戦用の部隊だろうと指揮官は予測していた。
真の狙いは、手薄になった南側の前線の、更に奥に位置する開発途中の工業地帯。
――やはり、兵站の破壊が目的だ。
鉱物資源が採れるエリアで工業地帯として開発しつつあったこの地区は戦闘時、この付近一帯の消費に使う弾薬の生産や集積を執り行えるエリアだ。
中にいるのは抵抗力をさほど持たない補給科のスタッフと人形、そしてそこで雇用されている一般市民のみ。そこに鉄血人形が襲いかかれば、工場設備ごと制圧するのは造作もないことだろう。
そうなると困るのは他の守備部隊である。
戦闘の生命線とも言える弾薬の補給が途絶えてしまってはもう手も足も出ない。あとは、日に日に士気と活力を削がれていく防衛線に攻勢をかけ続けて、効率良く包囲殲滅していくだけで、粗方制圧した後に中枢司令部に王手をかけるのみだ。
打ち合わせ時にこれまでの経緯を把握した指揮官は、現地の指揮官に注意と防衛の為の部隊を割くように……少なくとも強固な陣地だけでも敷設するように進言したが、戦術よりも世渡りを重視している人物らしく、「何を世迷い言を、北にいるのは相手主力に違いない。これを撃破すれば敵の攻勢の意思も挫けるはずだ」と聞く耳を持たない様子であった。
どうにも目の前の侵犯された部分の奪還に躍起になっているらしく、防衛に成功しても1ヘクタールも土地を取られてしまえば人事評価の減点対象になることを恐れての判断であった。
――馬鹿め、何の為に私がクルーガー社長直々の命により派遣されてきたと思っている。
指揮官は内心で大きく毒づいた。クルーガー社長はそうした現場からの報告から敵の戦略を予測し、対処しきれない弱将率いる部隊を救援して、大局的には損失額を抑える為に指揮官が派遣されてきたのだ。
だがしかし、現場の上級指揮官がこれでは余所者の指揮官が部隊を動かせる筈も無い。
指揮官の憂慮も虚しく、結果的にはものの見事にこの基地は敵の奇襲を自らの急所にもろに浴びる羽目に遭っていた。
ここへ来たとき、あるいはクルーガー社長自らからこの話を聞かされる段階から薄々指揮官は思ってはいた事ではあったが、この任務で鉄血人形から猛攻を受ける戦線を守るというのは。
「手に余るな……」
前線基地の司令室の窓から外の景色を眺めるのを止めた指揮官は目頭を指で摘み軽く押さえる。
せめて時間的余裕がもう少しあれば、奇襲なり火消し役となって相手を信用させ、総指揮官から多少の権限を得てから劣勢になりつつある戦線を押し返す事も出来るのだが……
そうしようにも、何せ状況は既に敵の手の中だ。クルーガー氏が話を持ちかけた時点では、まだ猶予はあっただろうが、今回は運悪く敵は相当に有能で、気合の入り方がまるで違う。
――理由をつけてあの地区の
あるいはこの前線基地の指揮権を強奪しても逆に事態を混乱に導くだけだろう。時期が遅すぎたのだ。指揮官の考えとしては正直な所、正攻法では手詰まりだと感じるほか無い。
その時、司令室の扉が勢い良く開かれ、UMP45が入ってくる。そのあとに続いてM4A1も入ってきた。
「指揮官も見たでしょ? あの攻勢。あれ、どうする?」
「指揮官さん、援護するなら急がないといけません! このままじゃ……」
「もう間に合わない。ここはもう終わりだろう」
冷静に言い切った指揮官の言葉にUMP45とM4A1はごくりと息を飲んだ。
今回の鉄血人形の攻勢はこれまで相手にしていた相手部隊のどれよりも勝手が違う事をしっかり理解しているようだ。
結論を出した以上、この場も安全ではなくなった。
少なくとも、碌な準備も整えてない中で砲火を交えていい相手では決してない。
仮に援護や中枢司令部の最終防衛ラインの援軍に向かえば、この地区の僅かな寿命と引き換えに指揮官の所有する部隊の被害が壊滅レベルまで増える程度だ。AR小隊と404小隊に欠員を出させるにはあまりにも割に合わない。
「M4A1、UMP45。これより我々はこの基地を放棄して最寄りのヘリの着陸ポイントを確保。そのまま滑走路のある地区の中枢司令部まで戻り、輸送機で撤退する。
至急、メンバーを招集して出立の準備を」
相手の進軍スピードを考慮すれば、このまま静観してはヘリに乗る時間もなく指揮官達の逃げ場は失われる。
この戦線の戦術人形達が持ちこたえている内に、一刻早くこの地区から撤退しなければならない。
十分にも満たない時間で撤退の準備を終えると、指揮官達は任された前線基地を置いてヘリの離着陸ができるポイントを目指し出発した。
■ ■ ■
「ヘリが着たわ!」
高地を確保し、通信で連絡を入れてから少しの時が経ち、予定通り迎えのヘリが来た。
2小隊と指揮官を乗せるには十分なサイズのヘリコプターは発炎筒の光を確認すると、慣れた様子でスムーズに着陸する。
「AR小隊と404小隊はすぐに乗り込め。君たちを無事に連れ帰ることも私の仕事の内だ」
後部のハッチがすぐに開き、AR小隊と404小隊のメンバーはすぐに乗り込んだ。
「指揮官! はやく!」
「指揮官、全員もう乗り込みましたよ!?」
AR小隊に続いて、404小隊の全員がヘリに乗り込む中、指揮官の足取りが重く、鈍い。
そのことに対して、UMP45とM4A1ははやく乗り込むことを促した。
「45、M4A1。私はここに残る。
やらなければならないことがある」
そう言うと彼女達と向かい合ってた指揮官は踵を返した。
「「指揮官(さん)!?」」
手詰まりとは言ったが、この攻勢を頓挫させる方法は無いわけではなかった。
それはいくつかあるであろうヤツらの物資集積所を焼き払うことだ。
これほどの規模の部隊を動かすのならばそれ相応の量の物資があるはずであり、それを過不足無く供給するための補給線を構築している。物資の流れは言わば管理された川のようなもの、どこかにせき止め、流れを変えるための調整弁があるはずである。
その調整弁の役割を担うのが、物資集積所だ。
もしも、これに異常が起これば、そこより下流は必然的に機能不全に陥り、やがて壊死する。
これを遂行するには前線を抜けて後方へ浸透、破壊工作に取り掛かる性質上、監視網に引っかからない少数精鋭が必要不可欠である。
相手もそのリスクを踏まえて戦術人形やドローンに対して極めて巧妙に隠されており、グリフィンの人形部隊はおろか、AR小隊、404小隊クラスの戦力がオフラインにしてくぐり抜けたとしても見つけるのは容易ではない。
そして、ひとつでも物資集積所を破壊すれば鉄血はすぐに警戒網を張り巡らせるだろう。包囲網が敷かれる前に一つや二つの物資集積所を焼き払って帰還する程度では焼け石に水だ。
彼らの攻勢が頓挫するほどの膨大な物資を破壊したとしても、その時には味方も撤退し、完全に敵の影響下、かつ包囲される事を意味する。それは紛れもなく文字通り全滅、全損の末路を辿る事を意味する。
「でもこの状況はダメ! 貴方も言ってたでしょ! もう詰みよ!
乗って! 生きていれば反撃だって復讐だってできるわ!」
UMP45はヘリから飛び降り、腕を伸ばす。彼女は指揮官の手をとり、離すまいと握りしめて是が非でもヘリに乗り込ませようと彼女は指揮官を引っ張った。
それは彼女の必死さが指揮官にも伝わって来るほどに鬼気迫るものを感じられた。
「指揮官……そんな、嘘でしょ……」
M4A1も遅れて指揮官に詰め寄る。
「指揮官さん、そんなバカな冗談やめてください。
私達は一旦撤退して体勢を立て直してから反撃を試みましょうよ!」
「戦場はあくまでも戦場だ。なにもかも教えたとおりにやれば良いものでもない」
「なんで……」
M4A1は項垂れて指揮官の胸に倒れこむ。
確かに、ここで一旦撤退し戦力の再編や防衛設備等の態勢を整える事ができれば、敵の伸び切った攻勢終末点に対しての防御とそこからを起点に反撃はできるだろう。
だが、ここは戦場である。必ずしも敵が攻勢終末点を迎える保証は無い。この地区の隣は都市部のある地区しかなく、万が一都市部に至る防衛線が突破されてしまえば、その損害は未曾有の領域になる。
そもそも戦力の再編は元々の部隊の頭数がいなければ成立もしないし、都市部に被害が及んだとなれば、防衛設備や物資の調達もこの地区の大敗を機会に出資者や政府・軍関係者がグリフィンを見限って切り捨てればそれも叶うはずもない。
だからこそ、ここで反撃の布石を残しておかないといけないのだ。
「だけど! 指揮官の鼓動と脈、なんでこんなに乱れているの!?」
手を握られた時に即座に払いのけるべきだと指揮官は己のミスを自覚した。
こういう人間にはできない細やかな挙動を戦術人形に気取られる事に関しては、指揮官は個人的に人形を好きになれない理由の一つなのかもしれない。
すぐに指揮官は手を振り払ったが、バイザー越しながらも渋い表情を浮かべていた事がUMP45とM4A1には明白にわかった。
何事も落ち着き払っていた指揮官が表情を崩していた事実は、ますます二人の決断が常識的には正しい事を意味している。
「やせ我慢は指揮官の必須技能だ」
「柄にもない冗談はやめて!」「指揮官!」
UMP45とM4A1はもう耐えられなかった。
絹を裂くように声帯ユニットから絞り出された二人の音声は、ヘリの中にいた他の404小隊にも聞こえたらしく、ドアから顔をのぞかせている。
「何してるの! 45! 指揮官!
揉めてる暇があるならさっさと乗って!」
「M4! 指揮官! もう時間がないぞ! 早く!」
HK416とM16A1が顔を出して文句をつける中、UMP45は自身の銃を指揮官に向けた。
「なら約束して! 帰ってきて!
貴方にはまだ生きて一緒に戦いたいの! 隣りにいて欲しいの!」
M4A1も涙に濡れた顔を上げると指揮官に向かって叫ぶ。
「そうですよ! 指揮官! ちゃんと生きて帰ってくるって約束して!
私はまだ未熟で貴方からすべてを学んでない! 私達には貴方が必要なんです!」
指揮官は一瞬だけ逡巡した後、二人を連れてヘリコプターに乗り込もうとする。
M4A1とUMP45は心の底から安堵した表情を浮かべ、一部始終を見ていたM16A1と416も同様の表情を浮かべた。
そして、ヘリコプターのハッチに差し掛かった瞬間、指揮官は二人を突き飛ばして、強引にヘリコプターの中に押し込んだ。
「約束はしない」
虚を衝かれ、前のめりにヘリコプター内で倒れ込もうとするM4A1とUMP45をそれぞれM16A1とHK416が受け止める。
「「指揮官!!」」
呆気にとられ、声すら出ないM4A1とUMP45を代弁するかのように、M16A1とHK416の悲鳴にも近い声を背中に浴びながら、指揮官は高地を離れたのであった……
■ ■ ■
既に敵に制圧されボロボロとなっていた前線基地から役に立ちそうな物と足である偵察用のバイクを強奪した指揮官は瞬く間に物資集積所を襲撃し、制圧していった。
指揮官は設置した爆薬の起爆スイッチを押す。起爆装置が無事に起動し爆発音と共に弾薬庫ががらがらと瓦礫に埋もれる。これでこの方面の物資集積所は粗方潰しきった。
このおかげで鉄血部隊はまともに弾薬を補給することは叶わず、足踏みすることになるだろうし、これをカバーするためにそれぞれ別の戦線から弾薬やそれを運び出す人員を割く羽目になり、結果的に攻勢に動員される人員を削ることになるだろう。
――だが、これだけではまだ押し切られる。もっと決定的な何かが必要だ。
指揮官は戦闘後の装備の状態チェックをしながら、弾薬庫と併設した通信施設で通信設備とバイザーを同期させ、特殊なモードに切り替える。
通信によるデータのやり取りを可視化する機能だ。
バイザーに投影させた衛星写真の上にデータのやり取りを示す黄色い粒子が飛び交う中、特にその量が濃い部分があった。
「恐らく、そこが中枢司令部か」
そうつぶやいた時、バイザーの映像に乱れが生じた。
少しの間だけ砂嵐のように黄色い粒子がバイザーいっぱいに満たされた後、すぐに元に戻った。
――やはりまだ試作段階……ということか……
これだけ大暴れをした指揮官は今はもう完全に鉄血人形部隊にその存在を把握されている。
少なくともこの場にいれば1時間もしない内に完全に包囲されるだろうと感じていた。
――退くか、進むか……
「中枢司令部らしき物がある以上、強襲するか」
迷いはなかった。退くにしても結局は最前線に近くになるに連れて鉄血人形の密度も高くなる。そうなると必然的に接敵の可能性も高くなるし、なにより数に物を言わせられる。
手持ちの武器や弾薬量では相手の戦線を背後から襲いかかっても大局的にはなんの影響も及ぼさない。
ならばこのまま潜伏し続けて、こちらの捜索に精々戦力を割いて負担を強いさせようというわけである。
幸いにも相手は急激な電撃戦を展開しているらしく、一通り制圧したら補給線を維持する最低限の戦力だけを残してすべてを攻勢に注ぎ込んでいるようで、接敵の可能性は最前線に比べて遥かに少ない。
だからこそ指揮官が生き延び続けて、相手の目の上のたんこぶとして存在することで最前線の負担を軽減できるのだ。
だが、それはあくまでも時間稼ぎにしかならない。この盤面をひっくり返すには鉄血の中枢司令部を叩き、指揮系統に重大な損傷を負わせなければならない。
最前線に大局的に影響しなくとも、少なくとも小規模な部隊を殺し尽くすには有り余るほどには弾薬を保有しているのでなおさらであった。
「引き受けた以上、できることをやるまでだ」
レバーを引いて対物ライフルのチャンバーに弾丸を送り込むと指揮官はデータの通信量が膨大だと示した方角を向いた。