前線小話   作:文系グダグダ

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これでおしまい

お疲れ様でした


エピローグ

 

 指揮官の基地内に敷設された宿舎の一角にはAR小隊専用の部屋があった。

 鉄血の攻勢を凌ぎ切り、犠牲を払いながらも防衛に成功したAR小隊ではあったが、指揮官死亡による引き継ぎは迅速に行わなければならなかった。

 指揮官から戦術教導を受けることが目的であったAR小隊達がこの基地にいる意義もなく、16Labに戻るために荷物整理を行っていた。

 

「あれ? 手紙?

 こんなのあったっけ……」

 

 失意に打ちひしがれながらも、AR小隊隊長としての責務を全うしなければならないと指揮官に叱責されそうな気持ちだけでM4A1は表向き平常を保っていた。

 そんな中、見かけない手紙がデスクから出てくる。

 

「M4A1へ……」

 

 吸い寄せられるようにして封を切り、手紙を広げるとそこには……

 

「もし、これを読んでいるということは。私はおそらくはMIAになったのだろう。

 ペルシカリアとの契約は自らの死亡によって解消となるが、個人的な要望により最後にAR小隊隊長に対して文書を書き記す事とする。」

 

 手紙の書き出しからM4A1は間違いなく、あの指揮官がしたためた物だと確信した。

 そして、初めて会った時期のM4A1自身のことを隊長と読んでいた懐かしいフレーズを文章の中からでも感じ取った事に、親しみと嬉しさをM4A1は感じていた。

 

「今現在の隊長の気持ちがどうなのかは正直な所わからない。うっとおしい古い人間がいなくなってせいせいしたかもしれない、自分や仲間の身代わりになる都合の良い存在が消えて焦っているかもしれない。哀悼の意を込めてもらっても構わないが、残念ながらそれで作戦行動や戦闘指揮に支障をきたすようでは私は失望せざるを得ない」

 

 そんなことはしない!、と否定の言葉を言いたかったものの、後の言葉に釘を差される形で喉奥に引っ込めながら手紙を読み進める。

 

「契約を満了する内容を満たせないまま、戦闘指揮及び各種専門技能の教導を終えることに関して謝罪したい。

 なので、テキストスタイルによる自主学習で申し訳無いが最後の指導を隊長に対して履行する事にした」

 

「最後の……指導?」

 

 死んでも尚、クソ真面目さが抜けない指揮官の文字に自然と口角を上げるM4A1であったが、指導という言葉に不審を抱く。

 

「まずこのようなことになってしまった説明としては、今回の事態に関しては契約で記された事実であり、それを承知で契約を結んでいる故に、隊長が気に病む必要はない。

 ただ、どうしても気に病むのであれば自分に課せられた役割を全うすることが当面の私の望みである。そのために私が雇われたのだから」

 

「まず、前置きとしてかつて隊長は私に完全に指揮権を委ねたいと尋ねた事があった事をおぼえているだろうか?

 何故にと問うと君は「私が指揮を取ればAR小隊は誰一人として欠けることはないだろう」と答えたと記憶している」

 

(指揮官、そんな事も覚えていてくれていたのですね……)

 

 細かい部分まで指揮官は自分を見てくれていたという事実に、しかしもうそんな人もこの世にはいないという現実にM4A1は涙腺が緩み、胸が苦しくなってくる。

 しかし、次の指揮官の書かれた文章をみて、M4A1は呆然とした。

 

「あの問いかけからAR小隊の隊員を失うこと、あるいは復帰不能な程重度の損傷に陥った場合における、小隊長の精神的苦痛や動揺からAR小隊の全滅というリスクを危惧しておいる。

 また戦闘技能や知識の充足による傲りからAR小隊に欠員がおきた場合のリスクに対して備える必要があったこと明記しておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分達は死なないと傲っていないか? 出会いと別れというこの世の摂理から自分達は外れた存在だと信じているのではないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んでも尚、容赦のない言葉にM4A1の胸は貫かれた。まるで見透かされたのように、根源の望みとそれを否定する言葉を投げかけられ、咄嗟に反論しようとするもまるで言葉が出てこない。

 

 

 

「だが、現実は違う。現に私の戦死という事実が反証として存在している。

 私自らの死を持って、自分達の世界の中にいる存在は不死ではない……という現実を突き付け、隊長自身たる君に問いかける事こそが最後の指導である」

 

 

 

「かつて私に望みを託して死んでいった者たちがいた。私を生かしたいと願いを託して生を全うしていった者たちもいた。私はその現実を直視したからこそ、今まで過酷な戦場であっても生き延び、当時不治の病魔に対しても生き延びる事ができた」

 

 

 

「だからこそ私の死を最大限利用させてもらう。

 善や悪というものの尺度に、戦闘とはそのいづれかに当てはめることはできない。

 必要とされる課せられた役割を必要なだけ行う。自分ができることをする。そうすれば自分も仲間も危険に晒すことはない」

 

 

「以上で指導を終了とする。契約を果たせず申し訳無い」

 

 

 

 

 絶句、という言葉は今のM4A1に当てはめることができるだろう。

 ここまで抜け目なく見透かされては彼女は何も言うことができなかった。

 もっとも、言えたとしてもこの言葉を放った本人はこの世にはいなかったが……

 

「指揮官……」

 

 指揮官の文字を一字一句再び読み込む。ここで悲観にくれては指揮官に今度こそ失望される……とM4A1は感じた。

 ならば、その教え通りに受け入れ、自分の中で納得させるしかないと彼女は考えた。指揮官は自身の死をもってM4A1に伝えたのだ。指揮官を慕うM4A1はこの言葉と機会を棒に振りたくはなかった。

 そうしないと、今度こそAR小隊の皆を危険に晒し、取り返しがつかないことになるだろうから……

 

 決壊しそうな涙腺を意思で食い止めながら深く咀嚼する中、手紙の下部に折込があることに気づく。

 指揮官の性格的になにか意味があるものだと思い、M4A1は折込をひらいた。

 

 

 

「ここより先は完全な私情である。不要ならば読まずに破棄しても構わない」

 

 その一文とさらなる折込があった。M4A1は躊躇なく指揮官の但し書きを無視して折込を開いた。

 

「M4A1、君より少しだけ生きてきた私のささやかな咎めと忠告を許して欲しい。

 咎めとしては課せられた役割が望まざる物であったとしても、信じがたい事実が起きたとしても、現実にたらればは通用しない。

 しかし、たとえ運命から逃げられなくても、噛みつき抗うことはできる。生き延び続ける事こそ、宿命と現実に対してのあてつけだと忠告しておく」

 

 M4A1は指揮官がどのような歴史を歩んできた人間かはついぞ知ることはなかった。

 だが、この文章は紛れもなく指揮官が自身の半生を糧にはじきだした答えなのだと理解した。

 

「最期にどのような形であれ、生き抜いてくれることを祈る。M4A1とAR小隊隊員達に幸運のあらん事を」

 

 耐えられなくなったM4A1は膝を付き、両手で顔を覆った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前線小話:終

 

    ■    ■    ■




   












 










   





















「お前の最期はこんなに呆気ないとはな、いまだに信じられん」

 グリフィンの赤い制服に身を包んだヘリアントスが横たわり安置されている指揮官を見つめてつぶやく。
 その覇気も心なしか薄く、落胆の度合いが見て取れるほどに彼女は落ち込んでいた。

「どんな兵士でもいつかはこんな日が来ると理解していたし、こうなる事も覚悟していたけどね。こんなにあっさり早く来ちゃうなんてね……

「彼は実に忠実に任務を果たした。グリフィンの戦闘被害は規模に反して明らかに異常なほど少ないのがその証左だ」

「彼の戦闘データは大変興味深く、貴重で……AR小隊の戦闘技能のさらなる飛躍も期待できたけど、仕方ないわね」

 I.O.P.のロゴの入った白衣を羽織った女性であるペルシカリアはヘリアントスの横に立ち、そう呟いた。

「AR小隊の様子はどうだ? 使い物になるとならないではこの後の行動に関して話が大きく違ってくる」

「メンタルにはダメージはあるが、調整でなんとかなる範囲よ。
 もっとも、これを超えるダメージはAR小隊内に欠員が出るレベルでしょうね。
 ……それくらい、信頼はされてたのね」

「なら問題はない。彼の基地の人形達もかなりショックを受けている者も居るが、敵討ちと言って早まる者も居ないし、後任の指揮官に対しても忠実に従ってくれている。統制はしっかり行き届いているようだ」

 引き継ぎに関しての話も程々に、ヘリアントスとペルシカリア双方は目を伏せて横たわる指揮官に深く黙祷する。付き合いは短い間だが、さまざま要処において確実に職務をこなした指揮官に対してはヘリアントスもペルシカリアも共に礼意を持って最期の別れを告げた。
 その最中に霊安室のドアが開かれ、入ってきたのは意外な人物であった。

「クルーガーさん。会議の方は」

「問題ない。出資者と軍関係者とは話はある程度目処はつけてある。
 短い間とはいえ、世話になった身だ。一個人として最期に……な」

 そう行ってクルーガーは霊安室に安置されている指揮官を覆うシーツをめくる。指揮官は死亡当時の戦闘服のまま、指揮官は仰向けに安置されていた。
 その身と衣服は綺麗にされてはいるが、彼らが事前に読み込んだ報告書の通り、その左胸は心臓を綺麗に射貫したであろう1発の銃創が彼の死という現実を3人に突き付ける。
 指揮官は最前線に身をおくことが多かったが、元軍人のクルーガーからすれば、崩壊液にも汚染されることもなくこのような綺麗な形で死を迎えるということはむしろ幸運であったと思いつつも、黙祷を捧げた。

 ――そして黙祷を終えたクルーガーの視界下部ギリギリに何かがピクリと蠢いた。

 霊安室にも虫が湧くのかと思ったクルーガーは見下げるものの、なにも見受けられない。

 ――クルーガーの目の前で指揮官の親指がぴくんと蠢いた

「っ!……これは、一体」

 現役を退いたとはいえ、それを見逃すほどクルーガーの目は耄碌していなかった。
 部下と協力者の手前、飛び出す声を必死に抑えてクルーガーが彼の片腕の手首を持ち上げ、凝視する。

 間違いなく冷たくなった手だ、しかし筋肉の痙攣は確実に起こっている。

 ――ドクン

「指揮官、お前……!?」

 二人に隠しきれない驚愕を現したクルーガーは指揮官の顔をじいと見た。

 ――ドクン……ドクン

「クルーガーさん!?」

 ヘリアントスの驚愕と両手をクチで抑え言葉が出ないペルシカリアだが、クルーガーはそんな二人を無視して指揮官の顔を凝視し続ける。

 ――ドクン……ドクン、ドクン

「ま、まさか」「う、嘘……」

 ヘリアントスとペルシカリアの二人もクルーガーの意図を汲み取り、指揮官に駆け寄って顔をじいと見た。

 ――そして指揮官は





























重 く 閉 ざ し た は ず の 瞼 を 開 い た の で あ っ た……









第一部【覚醒(warm up)】fin







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